鳥居一豊の「良作×良品

大画面3Dで満喫する「トランスフォーマー」完結編

-「42ZP3」で味わう密度の高い3D映像のリアリティ


【トランスフォーマー/
ダークサイド・ムーン】
トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン 3Dスーパーセット(4枚組)
発売日:2012年2月17日
価格:5,985円
品番:PPCM-131428

 この連載を始めるに当たって、今まで以上に良作のネタを探してテレビをチェックし、映画館にも足を運ぶようになった。感触の良い作品はすでにいろいろとあるが、BD版の発売はもう少し先になるので、しばしお待ちを。

 待たされるという意味では、今回取り上げる「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」にも待たされた。というのも、2D版は年末には発売されていたのに、3D版を収録した「3Dスーパーセット」の発売が2月まで延期されたためだ。

 おかげで、あらゆる動画配信サービスをチェックして、「Apple TV」で2D版を、「スカパー! HD」では3D(サイド・バイ・サイド方式)で視聴してしまった。なんでそんなに好きなんだと、突っ込みを入れられそうだが、ロボット物が大好きなんだから仕方がない。日本のアニメではすっかり見られなくなってしまった、ロボット(知的生命体ではあるが)と人類の心の交流を臆面もなく描くストレートな物語も大好きだ。映画好きの方々の間では評判が悪く、制作陣もかなりそのことを気にしていた第2作(「トランスフォーマー/リベンジ」)だって好きだ。

 待ちに待って、劇場で見て以来初めてのフルHD 3Dで本作を見たわけだが、改めて本作は3Dで見ないと価値がないと実感した。熱中度がまるで違う。余談だが、昨年アナログ放送終了直前に友人宅が薄型テレビとBDレコーダを導入したが、当然のように3D対応機は選ばなかった。ところが、彼の好きな映画が3D版を含むボックスセットのみで発売されてしまった。我が家に呼んで3D視聴を体験してもらったのだが、本編が始まって数十秒で、彼は自分の選択を激しく悔いていた。3Dと言ってもあまり魅力を感じない人もいるだろうが、見たい作品が3Dで登場すると3Dテレビの必要性がいきなり生じる。そして、いざ見られる環境が整ってしまえば、それ以外の数々の良作に出会うチャンスにもなり、ますます3Dの魅力の虜になるはず。本作はそんなきっかけに十分なりうる良作だ。


REGZA 42ZP3

 良作の方は準備万端なのだが、困ったことに2月は新製品が間に合わず、製品選びには難儀した。いろいろと検討した結果、東芝の42ZP3を選ぶことにした。ZP3シリーズは、昨年春に発売され大きな話題となったZP2シリーズ(僕も26型を購入した)の大画面バージョンと言えるもので、42型(実売価格13万円前後)、37型(同10万円前後)の2モデルで構成されている。偏光フィルター方式の3Dメガネを使う「シアターグラス3D」に対応し、「レグザエンジンCEVO」による超解像技術も最新の「レゾリューションプラス7」を搭載している。

 ZP2シリーズのインパクトが大きかったことと、テレビ需要が冷え込んだ昨年末のリリースだったこともあり、あまり大きく取り上げることができず、少し残念に感じていたモデルだ。

 新機能としては、カラーテクスチャー復元が加わっており、高彩度のテクスチャーをより鮮明に再現できる機能を持つ。このほか、同社のレグザサーバー「DBR-M190/M180」とのHDMI接続時では、双方の「レグザエンジンCEVO」が連携し、それぞれが最適な動作を受け持つ「レグザコンビネーション高画質」も追加されている。



■ 大画面でも「シアターグラス3D」方式のメリットはかなり大きい

 僕は自宅の3D鑑賞では「26ZP2」を使っており、小さめの画面にギュッと詰まった密度の高い映像で3Dを楽しんでいる。取材などで大画面での3Dを見ると、立体感が弱いと感じるほどで、小画面3Dの吸い込まれるような没入感は大画面3Dとはひと味違う魅力があると感じている。

付属する3Dメガネ「FPT-P200(J)」。追加購入しても価格は2,500円とリーズナブル

 そして、「シアターグラス3D」は、左右の映像を横一列ごとに交互に同時表示するため、タテ方向の解像度が半減する。これは26型ではまったく気にならないものだが、42型というサイズになるとさすがに差を感じるのではないかという不安もあった。さらに言えば、「26ZP2」は3D視聴時の上下の視野角制限がシビアで、これが大画面になると、さらに視野角が厳しくなるのではないかという心配もあった。

 僕がすでに「シアターグラス3D」を常用していることもあって、今回の取材は「42ZP3」にはかなり過酷なものになりそうだ。しかも、作品が「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」となれば、こちらにまったく妥協するつもりはない。

 まずは設置し、3D表示の具合を確認してみる。「42ZP3」にも、「3D設定」に「3D視聴位置チェック」があり、視聴位置からの角度によってクロストークが発生していないかを確認できるようになっている。しかも、スタンドはZG2シリーズなどと同じなのだが、ディスプレイとの接続部分にチルト機構が追加されており、視聴位置に合わせてチルト角を微調整できるようになっている。画面位置が高かったり、低すぎる場合は、チルト角を合わせることでクロストークの少ない最適な映像が見られるようになるわけだ。

 ところが、「26ZP2」ではかなりシビアな調整が必要だったチルト角は、「42ZP3」ではほとんど必要がなかった。これについては、昨年の発表時にも気になっていて、理由を聞かせてもらったのだが、3D表示での視野角制限の問題は左右の映像を分離するための偏光パネルが原因で、26型でフルHDだと画素列の幅が極小になってしまい視野角への影響が出てしまったという。これがフルHDの42型となると画素自体が大きくなるため、視野角の影響も緩和されるのだそうだ。

 チェック用の3D映像を見ても、クロストークはほぼ問題ないレベルになっており、頭の位置をちょっと下げたり、上げたりしてみてもクロストークが増えるようなことはなかった。姿勢の変化に対する柔軟性は、アクティブシャッター方式の3Dテレビとほとんど差はないと言える(ベッドで寝そべりながら見るのは当然無理)。チルト機構はテレビをラックなどを使わずに床に置くような使い方のときに対応するもので、一般的なラックの上に載せた設置ではほとんど必要なかった。

「42ZP3」のスタンドは、ZG2シリーズやZ3シリーズと同様のアルミダイキャスト製のスタンドになった。三日月のようなフォルムは優雅で飽きの来ない形状だ機能設定にある「3D設定」メニュー。いずれも最初に設定を済ませてしまえば、後から変更する必要はあまりない。3D視聴位置のチェックも本機では特に必要なかった

 続いて、左右の映像を同時表示するために、画素列のすき間が見えてしまう点を確認。これは、我が家の設置スペースの関係上、視聴距離が1m強とかなりの近接視聴になってしまったため、さすがに画素列のすき間が気になるかと思ったからだ。実際には、よほど視力の優れた人でもなければ、1m以上の距離があれば影響はないとわかった。もちろん、視聴距離を適正(画面の高さの3倍程度)にすれば問題のないものだ。

 付属の3Dメガネは、「26ZP2」と同じものでアクティブ式のように液晶シャッターを開閉する機構が不要なため、軽量で安価。すでに使い慣れたこともあり、視力矯正用メガネに重ねて装着しても違和感はほとんどない。

 実はここで、本題の「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」は後回しにして、主に3Dゲームをさんざんプレイしてしまったのだが、さきほどは小画面3Dの魅力を語っておきながら、素直に「やっぱり画面が大きいっていいなぁ」と感じた。自分が吸い込まれるような感じというよりは、映像が面で迫ってくる感じになり、3D映像の感じ方にはずいぶんと違いがあった。多少に気になったのは、倍速表示機能を持つため、「26ZP2」の低遅延に比べると、シビアなリズムゲームでわずかに気になる程度の遅延を感じた。ゲーム用ディスプレイとしての「26ZP2」の優位性はさすがに揺るがない。

 なお、映像入力に関してはHDMI入力は4系統と十分な装備で、D端子入力なども一通り備えるが、ビデオ入力は専用端子で、付属の変換ケーブルを使って接続することになる。ビデオ入力端子は重要度が低くなっているので、薄型化の追求と合わせて仕方のない部分とも言える。

「42ZP3」のサイドビュー。ディスプレイ部は奥行き33mmとかなり薄型になっている。接続端子やB-CASカードスロットも側面から下面にかけてぎっしりと配置される左側面の端子部の拡大図。上からB-CASカードスロット、D端子、SDメモリースロットがある。黄色の端子はビデオ入力用の専用端子だ

■ 画質調整のポイントは、黒の締まりと暗部の階調性のバランス

 では、いよいよ、「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」の視聴に向けて画質調整を行なう。

 「42ZP3」は光沢パネルを使っているので、明るい環境の視聴でも暗部で視聴している自分が映り込みやすい。また、3D視聴では視力矯正用のメガネと3Dメガネを重ねて使っていることもあり、メガネ側でも外光の映り込みが目障りになる。ということで、個人的に3D映像は部屋を真っ暗にして視聴することがベストという結論に達している。

 そこで問題になるのが、液晶テレビの黒浮きだ。本機は、サイドLEDバックライトを上下8×左右2の16分割でLEDの照度を独立制御するエリア駆動も行なえるため、一般的な明るさの環境では十分にコントラスト感のある映像が得られる。しかし、さすがに真っ暗に近い環境にすると最暗部の黒浮きが少々気になる。しかし、黒を締めると暗部の階調が潰れがちになるという二律背反に悩まされる。

 本機の場合は、LEDバックライトの部分駆動を行なう「LEDエリアコントロール」、バックライト、黒レベル、質感リアライザーの暗部をいろいろと組み合わせながら調整し、きちんと暗部を再現でき黒の締まりも不満のないレベルに追い込むことができた。

 後は、例によってテストチャートで色合いと色の濃さを最適に調整している。このほかの調整項目としては、フィルムモードは、動画補完を行なわない「フィルム」にLEDバックライトのスキャニングが加わる「クリアフィルム」を使用。当然ながら、原画解像度は1,920×1,080ドット、プログレッシブ処理は24p処理、ノイズリダクションはすべてオフとしたBD映画ソフト向けの設定を行なっている。新機能である「カラーテクスチャー」については後述するが、「水平垂直補正」を選択している。

画質調整の選択画面。ここでは映像メニューの選択のほか、主な画質調整機能のオン/オフの選択が行なえるようになっている。真っ暗な環境なので映像メニューは「映画プロ」を使用基本的な映像調整画面。基本的には色の濃さと色合いをテストチャートで調整したもの。「シャープネス」は珍しく「00」。オーバーシュート皆無の素直な輪郭は、一般的なテレビでは珍しい
詳細調整のメニュー画面。明部と暗部のコントラスト感の調整のため、「質感リアライザー」を手動で調整している。エッジ補正などは初期設定と同じ「オート」としている従来は「ダイナミックガンマ」と呼ばれていた「質感リアライザー」の調整値。明部と暗部を独立して調整できるようになった。モードはこのほか、ベーシック、コンサートがある

■ 密度の高いディテール描写が3D映像のリアリティを何倍にも高める

 「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」の本編を映してみた第一印象は、実に緻密なディテール感だ。冒頭でオプティマス・プライムが回想するサイバトロン星の滅亡シーンは、機械生命体の星の金属感たっぷりの質感が精密に再現される。正直なところ、26型で見る映像の密度感に比べると、大画面では拡大されたぶん緻密さが薄れるのではないかと思っていたが、密度感はまったく変わらず、そのまま拡大された印象だ。26型では視認できなかったディテールまでしっかりと描かれていたのだろう。ここは素直に大画面の方が良いと思わずにいられない。

 オプティマス・プライムの回想は、そのまま米ソの宇宙開発競争の歴史に移行する。低解像度のリアル映像や、新撮ではあるが粒子感を追加したり、わざとモノクロ映像にしたりすることで、まるでドキュメント作品のように演出している。そうした真実味あふれる映像で月への到達を実現した宇宙開発の歴史を振り返っていく。ここでとんでもない真っ赤な嘘をつく。それがSF映画の常套手段であるわけだが、ドキュメントタッチの映像と最新CG技術によるリアルな月(日本の観測衛星「かぐや」のデータを利用したという)の再現などによる映像の説得力で、荒唐無稽としか言いようがない嘘を不思議なくらいスムーズに受け入れてしまう。

「レゾリューションプラス」の設定値。初期設定値は「ゲイン調整:03」、「補正レベル:オート」。解像感は高めつつ、ノイズ感の増大を抑えた

 このとんでもない大嘘つき映画を支えるのは、徹底したリアリズムだ!!

 そう実感した僕は、解像度の高い映像を思う存分に引き出すことが最重要と考え、「レゾリューションプラス」の設定を調整した。まず、ゲイン調整をもっとも細かい部分まで復元しようとする「5」にしてみる。補正レベル「オート」のままだと、さすがにフィルムグレインのざらつきが目立つので、補正レベルは「オート」から「中」へ補正量を抑え、最終的にはゲイン調整も「4」として、ノイジーなザラつきをなくし、なおかつディテール感を存分に引き出せる映像とした。

 米ソが競って月への到達を目指したのは、敗北したオートボット軍団の最後の希望を乗せた宇宙船が月の裏側に墜落したことが契機だった。この大きな嘘はどんどん大風呂敷を広げ、ついにはチェルノブイリ原発事故の原因までオートボットたちのせいにしてしまう(誤った使い方をしたのは人類だが)。その過去のオートボット軍団の痕跡を調査するために、オプティマス・プライムがチェルノブイリを訪れるが、今回初のお披露目となる大型の貨車を搭載しての登場には胸が熱くなった。しかも、貨車は各種の重火器や大型剣、楯などを備えたアームド・ベースに変形し、なおかつ合体すると飛行ユニットになるという代物。人気のあるオプティマス・プライムのバトルもますますスケールアップすることを予感させる。お約束っぽくなってきた巨大メカは、今回はミミズのような大型ドリルメカで、地中から地上と縦横無尽に暴れ回ってくれる。

 一方、主人公のサムは、大学を卒業した後も職が決まらずに就活を続けているという始末。そのわりにちゃっかり新しい恋人との同棲生活をスタートしている。とはいえ、職が決まらないのは過去作でFBIに逮捕された経歴なども原因のようだし、彼自身もオートボットと共に人類を守るために働きたいという思いもあるようだ。

 ここで、ほんのわずか、スタートレックのファーストシーズンの一場面がサムの部屋のテレビに映っているが、わりと重要な伏線になっている。本作のキー・キャラクターであるセンチネル・プライムの声を当てた俳優がレナード・ニモイであることに気付けば明白だが、本編途中でそこに気付く人は相当なトレッキーだと思う。僕はエンドロールのキャストを見てやっと気付いた。今回のシナリオはサムの両親によるおちゃらけたギャグシーンも最小にし、謎やイベントがつぎつぎと起こる密度の高いものに仕上がっているが、細かい部分でのお遊びもいろいろと仕込まれている。

フル武装状態のオプティマス・プライム。アクションシーンはさらに迫力を増し、迫力のある音響と合わせて身体を震わせる後半のクライマックスで、恋人と共にシカゴの街を駆け抜けるサム。表情豊かでテンションの高い彼の活躍も大きな見どころ
(C)2011 PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved. HASBRO, TRANSFORMERS and all related characters are trademarks of Hasbro.(C)2011 Hasbro. All Rights Reserved. TM, R & Copyright (C)2011 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

カラーテクスチャーの詳細を設定をする「復元モード」。これは「オート」のままでも十分に高い効果を発揮するが、今回は常時水平/垂直方向の画素を参照して色ディテールを復元する「水平垂直補正」を選んだ

 物語半ばになると、ディセプティコンの大きな陰謀に翻弄されるオートボット軍団が各地でアクションを展開していく。真っ赤なフェラーリに擬態するディーノをはじめ、カラフルなロボットたちが活躍する。ここで威力を発揮したのが、「42ZP3」の「カラーテクスチャー」。前述した通り、彩度の高い色でのディテールを復元し、鮮やかな色とディテール感を両立する機能だ。オートボット軍団は、ロボットに変形した後も擬態した車の意匠を残しており、赤や黄色といったカラーリングがキャラ立てにも貢献しているが、鮮やかな色でありながら、汚しやキズなどのディテールも多く描き込まれている。この再現がそれまでの視聴とは明らかに違った。「42ZP3」でディテール感が飛躍的に増えたと感じたのは、この色ディテールの豊かさが大きな役割を果たしているだろう。

 このため、オートボットたちのカッコ良さもさらに際立つ。サムの親友であるバンブルビーは、中間形態とも言うべき、車のままで武装だけを露出した状態を披露し、メカ好きにはたまらない活躍を見せる。NASCARベースの派手な色彩のレースカーが重武装で暴れ回るレッカーズも魅力たっぷりで、カラフルな彼らの活躍を堪能したいなら、色乗りと色ディテールをじっくりと追い込みたいところだ。

 ディセプティコンの陰謀にはまった人類は、ついに彼らの圧倒的な力になす術もなく制圧されてしまう。ここからがクライマックスで、要塞化したシカゴの街を舞台に、人類とオートボット軍団の反撃がスタートする。大きな見せ場である傾いたビル内での逃走や、戦火で崩れた街並みなどが、極めてリアルで、大げさな言い方をすれば実際の戦場を見ているような緊迫感がある。

 これは3D映像による臨場感が大きい。3D化に関しては、ジェームズ・キャメロンからの提案を受けてマイケル・ベイがテストし、全編の3D撮影を決めたとインタビューで語っている。使用しているカメラも「アバター」で使用したものの最新版を使っているようだ。実際には、シーンに合わせて後処理の3D変換も組み合わされているようで、それを知った後では「ここは後処理かな?」と思うシーンもいくつかあるが、そう思って見ても疑わしいレベルを脱しないほど、3D撮影と3D変換の違和感も少ない。なによりも3D映像の見え方が実にスムーズで肉眼視に近いものになっている。

 いかにもな映像が飛び出すような描写こそ少ないが、ごちゃごちゃにメカが詰め込まれて、人型を成しているように見えるディセプティコンが、かなり精密にギアや歯車といった機械部品で構成されていることが3Dだとよくわかる。複雑に組み立てられたメカのパーツごとの奥行きや3次元的な構成が3Dだとよくわかるのだ。日本の変形メカとはまったく異なる発想で生まれたオートボットたちだが(影響は受けているらしい)、ここまで精巧に組み上げられたものを見せつけられると、文句のつけようがない。巨大ミミズメカが崩れかかったビルに巻き付き、締め上げるようにビルを倒壊させる場面などは、メカの重厚な立体感やビルから降り注ぐ瓦礫やほこり、机や書類の束が実にきめ細かく画面の手前や奥に散らばっていく。ここのシーンは3Dでないとまったく物足りないと感じるだろう。

 4Kテレビも登場した今では、3Dの立体感は作り物感が強く、むしろ超高解像度の4K映像の方が自然な立体感があるという意見があるし、筆者も同様の印象を持っている。しかし、本作の3D映像は強調された立体臭さが感じられず、その場の広さ感を含めてその場に立っている感覚を感じる。3Dもここまで到達した、という感激もあるし、車からロボットに変形するメカが大活躍するという、作り物だらけの映画で、ここまでの説得力やリアリティーを感じることに改めて驚く。

リアルな戦場となったシカゴの街の1シーン。サムとバンブルビーの息のあった活躍もファンにはたまらない
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 これを支えているのが、「42ZP3」の超解像技術などによる密度の高いディテール表現だと思う。3Dは映像への集中度が増すと言われるが、よく見えてしまうだけに本来は見せたくない雑な部分にも気付きやすい。ディテールが甘いと、かえって3Dの嘘くささばかりが目立ってしまうことになるだろう。それが本機だとまったく気にならない。また、瓦礫の間をくぐったりする場面では、人間とCGで作られた瓦礫の重なりの距離感が実に明瞭で、自分が後に続いて瓦礫の下をくぐっているように感じる。メイキングを見ると、CG映画でありながら、可能な限りCGを使わないように(恐ろしいほどの手間とコストを使って)撮影したと紹介されているが、出来上がった映像はそれを納得するリアリティーだ。この圧倒的な情報量が見応えのある映像の秘密だし、それをどこまで引き出せるかが、薄型テレビの実力の見せどころだ。

 「トランスフォーマー」シリーズは、個人的な分類で言えば「1回見れば十分」の娯楽作のはずなのだが、気がつけばかなりヘビーなファンになってしまっている。見直すほどに、CGの進化やサムに代表される俳優達の成長、そして作り手達が次々にトライしている新しい試みに驚かされる。デジタル技術の熟成と3D映像の急速な発達など、映画作りの手法がどんどん変わっていて、そういった側面から見直してみても、いろいろな発見があった。

 なお、3D映画だけに限らないが、今回は特にサラウンド再生が不可欠と実感した。動画配信のステレオ音声では臨場感が物足りなかったし、オートボットたちの重厚な足音はサブウーファーを使わないと表現できない。そのため、薄型テレビの内蔵スピーカーでは実力が足りない。3Dの前後の空間の広がりを考えても、サラウンドは欠かせないものと言える。本作をつまらなかったと言っている人がいたら、「3Dで見た?」、「サラウンドで聴いた?」と聞き返してみよう。やや辛口で申し訳ないが、両方とも欠けているいればその意見に耳を傾ける必要はない。本作の美味しいところを半分の半分くらいしか味わえていないはずだから。



■ 3Dは現在進行形で発展中。その過程を見逃すな

 3Dテレビを買っても、3D映像を楽しむ機会は少なく、コストを考えるともったいないという意見はあるだろうが、3Dで制作されたものは3Dで見るのが正しいし、単純にストーリーがわかればよいというならば、BDを買う必要すらない。

 しかも、数は少ないけれども、3Dの良作はどんどん増えてきているし、大きな話題である「スターウォーズ」の3D版公開も間近に迫っている。3D映像は進化の過程にあり、この見たままに近い自然な臨場感をうまく活かせば、SFでもファンタジーでもない、普通のドラマだって3D化する価値があるとさえ感じる(すべての映像が3Dになる必要はないけれども)。

 今回「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」を見て、3D版を手に入れて良かったと思うし、待たされただけの収穫もたくさんあった。3Dに興味はあるけど……、という人はぜひとも何らかの方法で本作を通して3Dで見てみてほしい。きっとその背中を力強く押してくれるはずだ。

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3Dスーパーセット(4枚組)
REGZA 37ZP3
*Amazonのページで42型が
選択可能です


(2012年 2月 23日)


= 鳥居一豊 = 1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダーからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。現在は、アパートの6畳間に50型のプラズマテレビと5.1chシステムを構築。仕事を超えて趣味の映画やアニメを鑑賞している。BDレコーダは常時2台稼動しており、週に40~60本程度の番組を録画。映画、アニメともにSF/ファンタジー系が大好物。最近はハイビジョン収録による高精細なドキュメント作品も愛好する。ゲームも大好きで3Dゲームのために3Dテレビを追加購入したほど。

[Reported by 鳥居一豊]