小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1209回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

恐るべき高コスパの秘密。「HAYLOU S40」を聴く

HAYLOU S40

重要視されるコスパ

ヘッドフォン・イヤフォンの世界では、ハイブランドやハイエンド製品のみに人気が集中するわけではない。昨今では「コスパ」重視の傾向も評価され始め、1万円以下の価格帯もかなり活況となっている。

こうした低価格商品は、「この値段の割には」という評価が付きものだが、中にはとんでもない掘り出し物も混じっているので、油断ならないところである。

今回はそうした高コスパ&掘り出し物のヘッドフォン、「HAYLOU S40」をご紹介する。現在Amazonでは参考価格7,989円で販売されており、時折タイムセールにも登場している。最初はサンプルをお送りいただいたに過ぎなかったが、その低価格と音の良さの落差に驚き、メーカーに直接お話を伺うことにした。

S40のレビューは昨年後半頃からネットにはポツポツ上がっていたが、HAYLOUというブランド自体の情報はほとんど明らかになっていなかった。今回はそんなHAYLOUの出自とともに、S40のサウンドについて言及してみたい。

新進気鋭のブランド、HAYLOUとは

HAYLOU(ハイロー)は中国広東省東莞市に拠点を構える猎声电子科技有限公司(Liesheng Electronics)のオーディオブランドとして、2017年に設立された。名前の由来は、「Hello(こんにちは)」であるという。

猎声电子は「Xiaomi エコシステム」の初期メンバーかつ主要サプライヤーであった。Xiaomiは元々はスマートフォンメーカーだが、IoT全般の商品展開に舵を切り、家電・スマートホーム機器・パーソナルモビリティ製品などを拡充した。これは当然Xiaomi自身による設計・製造だけで賄いきれるわけではなく、Xiaomiが投資・提携する他企業からの製品群も含まれる。

こうした外郭企業の製品も単一のXiaomiのアプリから制御できるようにした一連の連携システムが、「Xiaomi エコシステム」というわけだ。猎声电子はその中でもBluetoothヘッドフォンやスマートバンドなどの開発・製造を担当していた。

そうした中で、自社のブランドとして高コスパのスマートスポーツ製品を展開するため、HAYLOUを立ち上げたというわけだ。こうした経緯もあり、Xiaomiから独立したメーカー/ブランドと誤解される節もあるが、実際には最初から別会社である。昨今はこうした誤解を避けるため、Xiaomiブランドとの直接的な連携を弱めているという。

HAYLOUの製品にヘッドフォン、ワイヤレスイヤフォン、骨伝導イヤフォン、スマートウォッチなどがあるが、日本国内へは今のところオーディオ製品しか展開していない。2022年よりロア・インターナショナルと公式代理店契約を締結し、骨伝導イヤフォン「Haylou PureFree」およびオープンイヤーイヤフォン「PurFree Buds」で日本市場に参入した。

筆者も当時、クラウドファンディングされていたPurFree Budsを試用したことがあるが、当時注目されていた耳を塞がないオープンイヤー型で、装着感がよく工夫されていた。

この代理店契約は2025年3月で一旦終了し、日本市場戦略を見直して同年9月に今回の「HAYLOU S40 」ヘッドフォンで再参入した。つまり代理店経由ではなく、HAYLOUが直接日本市場に再参入ということになる。製品はAmazonのみの限定発売で、家電量販店での取り扱いはないという。

現在は日本語で専門的な取材対応できる担当者がいないということで、おそらく先方でAIを利用しての日本語テキストでの取材を行なったが、コミュニケーションには全く問題なかった。今後こうした形で中国メーカーの日本市場直接参入は増えるものと思われる。

価格以上の質感、「HAYLOU S40」

では日本再参入となったHAYLOU S40を見てみよう。

現在1万円以下のオーバーヘッド型ヘッドフォンの主力は有線接続で、ワイヤレス製品は全体の3〜4割程度である。そんな中でS40は、ワイヤード/ワイヤレス両対応となっている。対応コーデックはSBC、AAC、LDACで、Bluetooth 6.0対応と、なかなかの高スペックだ。

日本再参入の第一弾、HAYLOU S40

ドライバは40mmと20mmのチタンコーティングデュアルドライバ。周波数特性はスペックにないが、ワイヤードとワイヤレスでハイレゾ認証を受けている。ただしワイヤードはUSB-C経由のアナログライン接続なので、ハイレゾで聴けるかどうかは再生機側のスペックに依存する。加えて空間オーディオにも対応、ノイズキャンセリングも搭載している。

楕円形のエンクロージャ
同軸デュアルドライバを搭載

ボタン類は右側に集中しており、一番下から電源、ボリューム、ノイズキャンセリング切り替えボタンとなっている。タッチセンサーも右側にあり、エンクロージャの中央部を2回タップすると再生・停止の切り替えとなる。またセンサーを手のひらで覆うと、ノイズキャンセリングがOFFとなり、再生音が小音量になる。一時的に外音を聞きたい時に便利な機能だ。

ボタン類やタッチセンサーは右側のみ

イヤーパッドは厚さ1.5cmとかなり肉厚で、あたりも柔らかい。ヘッドバンド部のクッションも同様で、フィット感は良好だ。1日装着しても特に不快感はない。イヤーパッドは取り外しは可能なように設計されているが、市販品に取り替えられるような互換性はない。メーカーからも交換品の提供はないので、今のところ交換はできないと考えておくべきだろう。

かなり厚みのあるイヤーパッド
バンド部のクッションも当たりが柔らかい

バッテリーはNCなしで90時間、NCありでも60時間だ。また10分充電5時間再生の高速充電機能も備えている。

専用アプリでEQの設定もできるが、とりあえずEQは使わず素の状態で聴いてみた。接続はLDAC、再生機はGoogle Pixel 10 Pro XLで、Amazon Musicで試聴する。

いつものようにドナルド・フェイゲン「Morph the Cat」から聴いていくが、特徴的なベースラインの沈み込みも、十分深いところから立ち上がってくる。ただちょっと音域によっては、前に出過ぎてブーミーになるところもある。

高音のシンバルの伸びも綺麗で、雑味がない。このあたりはチタンコーティングドライバの特徴だろう。音抜け、解像感という点では、やはり昨今のハイエンドイヤフォン・ヘッドフォンに軍配が上がるところだが、音圧もよく出ており、密度感のある音だ。すっきりした楽曲もいいが、どちらかというとスタジアムロック的な迫力重視の楽曲の方がより楽しめる。

8,000円以下のヘッドフォンでLDAC対応、しかも装着感もよく、これだけちゃんとした音が出せる秘密はどこにあるのか、メーカーに質問してみた。

まずハードウェア設計、音響チューニング、ソフトウェアアルゴリズムが完全自社開発で、音質と機能のバランスを最適化していること。またモジュール化設計を採用し、生産工程もモジュール単位で行なうことで重複作業や無駄を削減し、製造コストを低減している。

さらに長期的に信頼できるサプライヤーと協力し、量産・生産最適化によりコストを抑えつつ、高品質な素材・部品を確保しているということであった。

またこの価格でLDAC対応できた理由についても聞いてみた。これには低価格でも性能が安定したチップを採用し、自社でソフトウェアデコードアルゴリズムを最適化することで、安定してLDACがサポートできるようになったこと。

また、ハードウェアの音響システムをLDACの仕様に合わせ込むことで、余計なハードウェアコストを削減したということであった。

優秀なノイキャン、一部細かいところに難あり

ノイズキャンセリングは、OFF、外音取り込み、ANC、アダプティブANCの4モードがある。ANCはキャンセリングレベルが自分で決められるが、アダプティブANCはそれを自動で調整するという違いがある。

ノイズキャンセリング設定は4つ

ノイズキャンセリングはそれほど強力に効くというわけではなく、中低域のノイズを中心に消し込む感じだ。また風切り音対策機能もある。これをONにすると確かに風切り音はカットされるが、ノイズキャンセリングは相対的に弱くなる。

HAYLOU S40、アクティブノイズキャンセリングのテスト

マイクは5つが内蔵で、着脱式のブームマイクが1つ付属する。内蔵マイクのうち1つは通話用で、ノイズキャンセリング用は4つだろうと思われる。音声通話もテストしてみたが、通信状態が悪く、結構ぶつ切りになる。ワイヤードで接続して、ゲームやオンライン会議で使うといった用途が無難だろう。

内蔵の通話用マイクは右側。同軸端子にブームマイクを接続できる
付属のブームマイク
屋外のワイヤレス接続では通信状態が良くない

本機は独自の空間オーディオ機能を搭載している。これはLDACとは排他仕様になっているので、どちらかを選ぶ必要がある。

独自アルゴリズムの空間オーディオを搭載

空間オーディオは、Dolby Atmosや360RA(360 Reality Audio)に対応しているわけではなく、独自のアルゴリズムを搭載する。音像を頭部に固定するスタティックと、ジャイロセンサーを使って方向を固定するダイナミックの2タイプがある。

ただどちらもONにすると、ステレオセパレーションがグッと狭くなり、モノラルっぽいがなんとなく広がっているという、独特のアルゴリズムになっている。映画など動画コンテンツの時には面白いだろうが、音楽鑑賞にはあまり向いていない。

EQはLDACでも動作する。いくつかプリセットが用意されているほか、ユーザーが自分で10バンドのEQを設定することもできる。ただこの実装も独特だ。

EQも搭載

まずEQをONにすると、フルフラットの状態でも音圧が2倍ぐらいに上昇する。この現象について問い合わせてみたが、「自社カスタム EQ モードでフラット設定の場合、フィルターによる増幅・周波数抑制がないため、音圧上昇は正常な現象です」という回答であった。

これは要するに、「デフォルト」でも何らかのフィルターがかかっており、それでゲイン調整と周波数特性をある程度調整しているということだろう。EQをカスタムに切り替えると「デフォルト」のフィルターが外れるので、その分音圧が上がるということのようだ。

EQをフルフラットにした状態では、EQ OFFの状態に比べて低音が多少出過ぎで、中音域に少しクセがある。これがハードウェアだけの音ということだろう。それに比べるとプリセットのフィルターはよく調整されており、解像感をしっかり感じさせる音となっている。

またEQの操作についても独特だ。グラフィックイコライザー方式になっているが、各周波数のスライダーを上下してもその場では音が変わらず、チェックマークをタップして名前を付けて初めて結果が反映されるという作りになっている。これはさすがに使いづらい。これをメーカー側に伝えたところ、「ユーザー体験改善の観点から、今後のアップデートで対応を検討しています」という回答をいただいたので、これはそのうち改善されるかもしれない。

EQは設定したのち保存しないと効果が反映されない

総論

HAYLOU S40は、8,000円以下のヘッドフォンとしては珍しくLDAC&ハイレゾ対応、デフォルト状態での音質も良好だ。ハードウェアとしての質感も高く、装着感もいいので、長く使えるヘッドフォンだろう。

一方独自にソフトウェアで提供されている機能に関しては、課題が多いように感じた。特に独自の空間オーディオアルゴリズムはあまり有効ではなく、ほとんどの人はLDACでの接続を選ぶだろう。

またマイク通話に関しては、通信状態が安定しなかったのが残念だ。LDACとAACと両方でテストしてみたが、結果は変わらなかった。元々遅延もあるので、ワイヤレスでの利用ではなく、ワイヤードでの利用を想定しておいた方がいいだろう。

ノイズキャンセリングはそれほど強くないが、音質に影響を与えることもなく、音楽を再生してしまえばかなりマスキングされるので、日常的な利用には十分だろう。

機能は色々あるが、シンプルにデフォルトが一番いい音である。普段使いできてこの価格なら、満足度は高いだろう。職場にヘッドフォンをもう一個置いておきたいとか、出張の予備にスーツケースに放り込んでおきたいといったセカンドニーズにもちょうどいい。ハイエンドではないが十分。これがS40の立ち位置だろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。