鳥居一豊の「良作×良品

「クリス・ボッティ・イン・ボストン」でAVアンプの音質を問う

歌うように奏でるトランペットの音色を「AVR-3313」で


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クリス・ボッティ・
イン・ボストン

 今回の良作は「クリス・ボッティ・イン・ボストン」。クリス・ボッティは、現在のジャズ/フュージョン界で人気のトランペット奏者で、卓越したテクニックに加えて、端正な顔立ちもあり、日本でも多くのファンがいる。本作は2008年にボストン・シンフォニーホールで行なわれたライブを収録したBDソフトで、発売は2009年。映画作品と違って、音楽ソフトはあまり発売したばかりのソフトにこだわっていないものの、見るべき人はすでに見ているであろう人気ソフトで、新鮮味は少ない。

 それでも、今回この作品を取り上げたのは、本作が実は輸入盤であることが大きな理由のひとつ。BDソフトはDVDソフトと違って、北米版が日本版と同じリージョンAなので、少なくとも日本向けのBD再生機器でも再生ができる。しかし、映画の場合、輸入盤には日本語吹き替え音声はないし、日本語字幕が入っている作品も決して多くはない。英語力に自信があるならば問題ないが、多くの人におすすめしにくいので、映画では輸入盤を使わないようにしている。だが、音楽ソフトの場合なら、吹き替え音声がそもそも存在しないし、字幕がある必要もない。映画と比べれば比較的おすすめしやすいのだ(しかも、本作はリージョンABC対応で、リージョンによる互換性の問題もほとんどない)。

 このソフトが日本のamazon.co.jpで普通に音楽ソフトのリストに並んでおり、「あっ、ようやく日本版が出たのか! こりゃ良品決定だ」と、普通に購入し、その後で輸入盤であることに気付いたという始末。ちょっと恥ずかしい失敗ではあるが、日本語のサイトで普通に購入できるならば、それだけ購入もしやすいだろうと思うし、なによりこのライブの演奏があまりに素晴らしいので、そのまま取り上げることに決めた。

 日本で発売されるBDソフトのほとんどは映画とアニメで、音楽ソフトは国内アーチストはそこそこ出るようになったが、海外アーチストになるとかなり寂しい状況だ。特にジャズやクラシックとなるとほとんど見あたらない。本作も日本版を探してみたのだが、発売されているのはBDよりも収録曲数の少ないCD版のみ。輸入盤CDならライブ映像を収録したDVDがセットになったものもあるのに、この差はいったいなんだろう。メーカーとしては利益の出るタイトルでないと発売しにくいのだろうが、BDの普及、ハイビジョンで楽しむサラウンド再生環境の普及などのため、ひとがんばりして欲しいように感じる。特に、本作の発売メーカーであるSony Music Entertainmentならばなおさらだ。


■音楽鑑賞を楽しみたい人にとって、AVアンプはアリなのか?

AVR-3313の正面。オーソドックスな顔つきだが、ヘアライン仕上げのフロントパネルはフォルムもシンプルでサイズの割には威圧感も少ない

 そして、良品はデノンのAVR-3313を選んだ。価格は157,250円、実売では13万円弱で、国内の主要なAVアンプのラインナップの中では中~上級にあたるモデルと言える。今やAVアンプは、BDで採用されたロスレス音声フォーマットへの対応も完了し、最新トレンドであるネットワークオーディオ再生についても、MP3やWMA、AAC、FLACといった主要なフォーマットに対応、96kHz/24bit、またはそれ以上のハイサンプリング音源に対応するモデルも増えているなど、機能的にはかなり充実してきている。しかも、それは実売で5万円ほどのエントリークラスでも同様なのだ。

 現在、いわゆるプリメインアンプと呼ばれる製品は、どのメーカーでもラインナップは極端に少ない。アンプを買い換えようと思うと、もう選択肢がAVアンプしかないと言ってもいい状況なのだが、ステレオ再生だけで十分という人に5.1chや7.1chパワーアンプを内蔵したAVアンプは大げさに感じるだろうし、オーディオに詳しい人であれば、仮に同じ価格だとすれば2chアンプの方が5.1/7.1chアンプよりも音が良いはずだと考えるだろう。機能的にはお買い得だが、AVアンプはアンプ本来の役割である音質についてはどうしても不利になる。

 そこで、デノンのAVR-3313に注目した。本機は、高機能化ばかりに突き進んできたAVアンプの流れの中で、見過ごされがちになっていた音質を最優先した意欲的なモデル。開発メンバーには、同社のピュア・オーディオ製品に関わってきたメンバーが数多く参加し、回路設計をはじめとするあらゆる部分で音質優先のチューニングを行なったという。


上面を見たところ。手前側には安全対策のため、樹脂製のカバーが取り付けられている。直下にあるヒートシンクの熱でボディが熱くなりすぎないようにするもの側面から見たところ。放熱口の奥に各種基板がぎっしり詰まっているのが見える。各回路の基板の配置や電源の取り方など、随所にピュア・オーディオ機器の考えを採り入れ、手間をかけた作りになっている

 これはちょっと期待できそうだと思っていたので、この機会にじっくりと実力を試してみることにした。肝心なのは、音の実力だ。選択したソフトがBDソフトで、音声も96kHz/24bitの7.1chサラウンドだから、ステレオアンプと比べて音質の差がどうかというより、映画ではなく音楽鑑賞をしっかりと堪能できる実力があるのかを厳しくチェックしたい。

 映画の音は、きちんと再現するならば音質におけるさまざまな要素が求められるが、人気の高いアクション映画の場合、迫力ある爆発音やドーンと迫るエネルギー感が出ていれば、エントリーモデルでも案外満足できてしまう。エントリーモデルの場合、価格的な制約もあってどうしてもそうした映画的な音が優先になり、音楽をニュアンス豊かに再現したいとなると不満を感じやすい。そういう、音楽を楽しむための音作りが、実売13万円ほどのAVR-3313でどこまでできるかは、音楽ソフトが好きなAVファンには気になるところだろう。


■ずっしりと重く、頑丈な筐体。反面、接続や操作はフレンドリー

 視聴用にお借りした取材機が届き次第、開梱を始める。手持ちのAVアンプであるパイオニアSC-LX83を引っ張り出し、配線などを行なった。重量は12kgとそれなりの重量で、筐体の作りがしっかりとしていることもあり、中身の詰まった凝縮感のある重さだ。薄型軽量を良しとする風潮とはまったく逆行するが、この手応えのある重さは良いオーディオ製品ならではのものだ。

 接続のための端子はすっきりと見やすい。AVアンプの背面を見慣れていない人にとっては、背面の端子はまだまだ多いと思う人もいるだろうが、このところ、AVアンプの端子はずいぶんと整理されてきており、配線もしやすくなってきている。スピーカー端子は、11ch分もあって逆に増えてきているが、本機はバナナプラグ対応の端子となっており、配線もしやすい。

 ここでピックアップしておきたいのが、HDMI端子の横に装備されている「Denon Link HD」端子。従来の「Denon Link」はEthernet(RJ-45)と互換性のあるケーブルを使ってAVアンプと再生機器のマスタークロックを同期させて伝送ジッターの低減を行なっていたが、「Denon Link HD」では同軸デジタルと同じRCA端子となった。「Denon Link HD」に対応したBDプレーヤーなどとのHDMI接続時にジッターの少ない伝送を実現できるもの。現在のところまだ対応したプレーヤー機器が登場していないため、今回は試せなかったが、デジタル伝送で重要なポイントになるジッター低減のための機能だけに、注目しておきたい新機能だ。

AVR-3313の背面部。上段にHDMIやデジタル音声入力とネットワーク端子があり、中段に映像入出力、中段から下段にかけてアナログ入出力がある。スピーカー出力は11.1ch分用意される「Denon Link HD」の拡大図。左端に見えている同軸デジタル音声入力とは、同じRCA規格の端子でも使用パーツが異なる。よりグレードの高い金メッキ端子となっている
リモコン。主要な入力ソースのダイレクト選択をはじめ、あらかじめ設定した入力ソースや各種設定を4つまで呼び出せるクイックセレクトボタンなど、利便性の高いボタンを数多く装備。逆に細かな操作はGUIにまかせ、十字キー主体の操作で行えるようになり、ボタン数を削減した

 接続を一通り済ませた後は設定だ。操作メニューはオーバーレイ表示のGUIとなっており、操作はわかりやすい。初めてAVアンプを使う場合でも、「セットアップアシスタント」機能があり、ステップ・バイ・ステップで各種の設定を行なうことができるので安心。AVアンプは接続するスピーカーが増え、ネットワーク機能なども追加されたことで、さまざまな設定が必要になってきているが、そうした複雑な設定も比較的容易にこなせるように配慮されている。各社ともこうした部分には力を注いでいるが、本機は画面を見ながら操作できることもあって、非常にわかりやすかった。

 そして、リモコンもボタン数を削減した新デザインとなっていて、よりストレスなく使えるようになっている。AVアンプのリモコンは接続した機器やテレビの操作も行なえるようにさまざまな機能が盛り込まれる傾向にあったが、そのために使いにくくなっていた。その点にきちんと対応したのは比較的購入しやすい価格帯のモデルでは大事なことだ。

 操作系では、このほかにiPhone/iPadなどで使える「新Denon Remote App」に対応。デザインを一新し、より操作しやすくなっている。スマートフォンのタッチ操作は快適で、自ら発光するディスプレイは部屋を暗くしてAV鑑賞をする人にとっても便利。より快適に使いたい人にはありがたい機能だろう。



■歌うように奏でるデリケートなトランペットの音色をしなやかに再現した

 現在のAVアンプは自動音場補正機能があり、スピーカーの距離やレベル補正は自動で行える。本機も「AUDYSSEY MultiEQ XT」を備えており、画面のガイドに従って一通り測定を済ませてしまえば、部屋の環境に合わせた最適なサラウンド再生のための準備が整ったことになる。

 さらにこだわる場合は、左右のスピーカーの間隔がずれている場合、物理的にスピーカーを動かして測定結果と物理的なスピーカーの距離が一致するまで微調整を行なうといい。部屋の環境で左右を同じ距離で置けない場合はともかく、少なくとも見た目は左右のスピーカー位置が揃っているならば、自動音場補正のついでにスピーカー位置の微調整もしておくことをお勧めする。こういった細かい積み重ねが実は結構音に効くのだ。

 そして、「AUDYSSEY MultiEQ XT」の場合は、イコライザーによる周波数特性の補正にいくつかのタイプがあったので、それも聴き比べてみた。メニューでは標準的な「AUDYSSEY」のほか、フロント2本スピーカーはイコライザー補正を行わない「Byp. L/R」、すべてのスピーカーの周波数特性をフラットにする「FLAT」、9バンドのイコライザーを自分で調整するフルマニュアルの「Graphic」、すべてのスピーカーのイコライザー補正をしない「オフ」がある。

 それらを聴き比べた結果、今回は「AUDYSSEY」を選んだ。音色的にもっとも良いバランスで、チャンネル間のつながりなども良好だったため。「Byp. L/R」はサラウンドスピーカーが視聴位置の真後ろにある自宅の環境のクセが出て、サラウンドの音が変に目立ってしまったし、良好な音響の部屋で、かつスピーカー設置をきちんとしていれば理想である「Flat」はもっともクセがなく、すっきりとした音の再現になったが、ややドライで素っ気ない音色になってしまい、面白みがなくなってしまった。原音忠実再生を至上とすると、こうした電気的な補正はネガティブなものと捉えられがちだが、実際の住環境の音響特性を考えると、メリットがデメリットを上回ることも少なくない。教科書的に「Flat」を選ぶのではなく、実際に自分の耳で確かめて選択するのが正しい使いこなしだ。

 このほか、日中に十分な音量で再生しているため、小音量時の迫力不足を補う「Audyssey Dynamic EQ」などはすべてOFFとしている。

 では、いよいよ「クリス・ボッティ・イン・ボストン」の開演だ。シンフォニーホールはシューボックス(靴箱)型のコンサートホールで、左右と後ろの壁には2階席、3階席もある。会場は満員だ。ステージには、奥にボストン・ポップス・オーケストラがおり、その手前にピアノやドラムやウッドベースといった楽器が並んでいる。

 ビリー・チャイルズの弾くピアノの伴奏が始まるとと、まさに歌うような音色でクリス・ボッティのトランペットが「アベ・マリア」を奏でる。まず、この音色でステージに引き込まれてしまう。ニュアンスたっぷりのデリケートな音色で、朗々と鳴る音色がステージに広々と響き渡る。まず感心したのが、空間の広がりや奥行きの再現の豊かさだ。楽団とピアノの配置、ステージ最前列のトランペットの前後感がよく出るため、音の重なりによる厚みがしっかりと出てくる。

 トランペットの音色もナチュラルで演奏のデリケートさをよく伝える丁寧な再現だ。スティングとのかけあいが楽しい「セブン・デイズ」でわかるのは筆者の英語力でもきちんと歌詞が聴き取れるクリアな再現。中域の情報量がしっかりと出ていて、スティングの歌唱もクリス・ボッティの演奏も豊かな表現力がたっぷりと味わえる。これはかなり満足度の高い音だ。

 自身も大きな影響を受けたというマイルス・デイヴィスの曲である「フラメンコ・スケッチ」では、ミュート・トランペットで演奏したが、やや詰まったような高域にアクセントのある音色をきちんと鳴らし分けた。こうした音色の再現性はかなりの実力だ。次々に演奏を聴いていくと、ウッドベースの胴鳴り感がやや細身にも感じた。しかし、ベースの音階は明瞭でパワー感もしっかりしている。本作を聴くうえではちょうどいいバランスだ。

 それにしても、スティングをはじめとして、ジョシュ・グルーベン、キャスリーン・マクフィーとゲストのボーカル陣がとても豪華だ。それだけに、個性豊かな歌声に合わせて、微妙にトランペットの音色に変化をつけているクリス・ボッティの巧みさが際立つ。あるときは引いてボーカルを盛り上げ、ときにソロとして歌声以上の魅力ある声を響かせる。こういうところに気付かせてくれる機器だと、オーディオ再生がとても楽しくなる。


■ 映画のシーンが蘇る。郷愁を誘うトランペットが幸せな涙を呼ぶ

 そして、いよいよ僕が本作で一番気に入った「シネマ・パラディーソ」が始まる。ピアノのイントロから、ヨーヨー・マのチェロによるメインのメロディーが流れると、「ニュー・シネマ・パラダイス」の場面が蘇った。チェロの甘くせつない響きは実に色っぽく、トランペットは郷愁を誘う哀愁のある音色、二人が交互にメロディーを演奏していく様子を見ていると、思わず目頭が熱くなってしまった。演奏の素晴らしさもあるが、感情をダイレクトに伝えるような生々しい演奏が、映画の場面を思い出させたと思う。「ニュー・シネマ・パラダイス」が大好きという人は、ぜひともこの名演奏を聴いて欲しい。もしも涙が出なかったら、オーディオ機器のグレードアップを検討しよう。

 ピアノのビリー・チャイルズや、ベースのロバート・ホースト、ドラムスのビリー・キルソンなど、メインメンバーもさすがのものだが、ゲスト陣は本当に豪華。ルチア・ミカレリィのエロティックと言いたくなるヴァイオリンもゾクゾクとさせられた。ヴァイオリンという楽器の音色をしっかりと再現するし、S/Nの良さや解像感といった客観的な感想ではなく、ひとつひとつの音色がしっかりと立っている。少なくとも、音楽を楽しむうえではかかせない、こういう艶のある表現はこのクラスのAVアンプでは求められなかったものだ。

 そして、スティーブン・タイラーの「クライング」にも感激した。どちらかという上品で質の高い演奏が続いていたので、スティーブン・タイラーがどう自分の個性を出すのかと楽しみだったが、バラード調の曲とはいえ、特徴的な歌声もそのままにグルーブ感あふれるステージになっており、期待通りの演奏になっていた。その後の「インディアン・サマー」も凄い。ビリー・キルソンの熱気とスピード感たっぷりのドラムに痺れる。ドラムの力強い響きも十分だし、呆れるほどのスピードで、しかもバシッと叩くシンバルのキレの良さもしっかりと出る。とても満足度の高いステージだ。

 このライブはトータルで160分もあり、普通の映画1本よりも長いのだが、何度見ても「アベ・マリア」を聴いたとたんに引き込まれ、最後まで一気に見てしまう。全曲を収録したCDがあるならば欲しいとも思うのだが、映像と音が一体になったライブ作品というだけでなく、携帯プレーヤーに入れてヘッドフォンで聴いても、全曲を一気に聴いてしまうことはないだろう。ヘッドフォンで音だけを聴くにしても、しっかりしたプレーヤーとヘッドフォンでじっくり聴き込む必要があると思う。見終わった後の満足感は、まさに良作を良品で楽しんだときにだけ感じる至福と言えるものだ。


■ステレオ再生の実力も問題なし。映画の迫力ももちろん十分だ。

 最後に、ステレオ再生の実力を試すため、HDMI接続のまま、音声をリニアPCM 2chに切り替えて再生してみた。ただし、本作の7.1ch音声はドルビーTrueHDの24bit/96kHzだが、リニアPCMの方は16bit/48kHzとなる。チャンネル数以上にこの差があって、音質はかなり違った。高域のエッジが立った表現になり、やや音が硬めに感じる。本機のしなやかできめの細かい再現を満喫するならば、7.1ch音声の方が合っていると思う。

 続いて、デジタル音声とアナログ音声接続を試してみる。やはり音質傾向は同様だが、わずかな差ではあるが同軸デジタル接続の方が音の厚みがあり、低音のふくよかさが出ていると感じた。アナログ音声はデジタル処理をキャンセルする「ピュアオーディオモード」で聴いたが、情報量の不足を感じることもなく、なめらかな再現になっていた。最近は、価格の安いモデルになるほど、メインの接続端子であるHDMI接続の音質を優先した作りになることが多いが、AVR-3313は、デジタル/アナログ音声接続の実力もきちんと作り込まれていた。これならば、CDプレーヤーやネットワークプレーヤーとの組み合わせた、ステレオ再生も十分満足できるだろう。

 なお、本機の低音は量感を膨らませすぎることもなく、音階もしっかりとわかる引き締まった再現で、音楽には良いがアクション映画ではちょっと迫力不足になるような気もしたので、アクション映画をいくつか試してみた。確かに、爆発音などの身体を揺さぶるようなパワー感はやや控えめになるが、迫力不足というほどではない。むしろ、爆発音のドカンとくるアタック感とそのあと轟音が空間に響いていく様子がよく出て、臨場感のある再現だと感じた。また、中域の充実のためダイアローグが明瞭でドラマチックなシーンのセリフにも力がある。セパレーションがよく空間が緻密に再現されるきめ細かさと合わせて、映画の満足度も十分だ。


■ ソフトの不足は輸入盤で補える。音楽鑑賞のためのAVアンプ選択はアリだ!

 正直なところ、実売13万円のAVアンプとタカをくくっていたこともあり、予想を裏切る表現力の豊かさに圧倒されてしまった。冷静な気分で再確認してみれば、音色の表現やニュアンスは豊かなものの、より上級なアンプが備える音の厚みや実体感など、多少差を感じる部分もある。それは、上級モデルとの価格差を考えれば仕方のないものだ。冒頭で述べたように、AVアンプの主要な機能はエントリーでも上級モデルでも大きな差はなく、差が付くのはアンプ本来の役目である音の良さになっている。

 僕はAV用のシステムとオーディオ用のシステムをそれぞれ別に揃えるようなことはできないので、アンプはAVアンプを使っている。だから、映画も音楽も不満のないレベルに楽しむならば、選択肢は100万円近い最上級機や現行モデルならば30万円前後の上級機しかないと思い込んでいた。それが、およそ半額以下のミドルクラスでも満足できる製品が出てきたわかったのは、大きな発見だ。

 ましてや、今回の「クリス・ボッティ・イン・ロンドン」のように、サラウンド収録された音楽ソフトも輸入盤も含めればかなりのタイトルが揃っている。サラウンド作品は当然サラウンドで聴いた方が良いし、AVアンプならばそうしたソフトも楽しめるようになる。AVR-3313の音楽再生の実力は、その意味でも注目に値する。パワフルにドカンドカンとスピーカーを鳴らせばいい映画用のAVアンプという時代はもう終わった。映画も音楽もしっかりと再現できるのが、これからのAVアンプだ。身近な価格とまでは言えないものの、オーディオ製品としては手の届く価格帯で映画も音楽も楽しめるようになった。AVアンプを食わず嫌いしてきた人にこそ、本機の音は一聴の価値があると思う。


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(2012年 7月 26日)


= 鳥居一豊 = 1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダーからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。現在は、アパートの6畳間に50型のプラズマテレビと5.1chシステムを構築。仕事を超えて趣味の映画やアニメを鑑賞している。BDレコーダは常時2台稼動しており、週に40~60本程度の番組を録画。映画、アニメともにSF/ファンタジー系が大好物。最近はハイビジョン収録による高精細なドキュメント作品も愛好する。ゲームも大好きで3Dゲームのために3Dテレビを追加購入したほど。

[Reported by 鳥居一豊]