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UUUMディレクターが語る音声収録・編集のコツ。ゼンハイザーマイクは「後処理が楽」

UUUMのプロダクションユニット クリエイティブグループ ディレクター、髙木涼平氏

ゼンハイザージャパンは7月10日、1チャンネル構成のワイヤレスマイクシステム「Profile Wireless 1-Channel Set」発表に合わせ、YouTuberのHIKAKINなどが所属するUUUMのプロダクションユニット クリエイティブグループ ディレクター、髙木涼平氏を招いたトークイベントを開催し、SEIKINの映像編集なども手掛ける高木氏が音声編集のテクニックを紹介した。

高木氏は地元の工業専門学校卒業後、アーティストプロデューサーを目指して上京。音楽・エンタメ系の専門学校に入学し、ここでボイストレーニングやレコーディング、動画編集などを学び、2017年にコンテンツ・イベント制作会社に入社。その翌年にUUUMに入社した経歴を持つ。

UUUMでは、クリエイターの編集を請け負うグループに配属され、入社1年目から同社を代表する動画クリエイターのひとりであるSEIKINの動画編集を担当するように。その後、現在のクリエイティブグループに異動し、タイアップ動画を中心に専属クリエイターやインフルエンサーの撮影・編集・ディレクションを担当。音楽や音声に関する知見を活かして、ボーカルレコーディング、ミキシング、整音なども行なっている。

音とマイクは「光やレンズに置き換えると想像しやすい」

トークセッションQ&Aの様子

トークセッションには、メディア関係者のほか、YouTuberなど映像制作にかかわっている人々も参加しており、撮影時のマイキングや音声編集の方法に関するQ&Aが行なわれた。セッションには高木氏に加え、ゼンハイザージャパンのプロオーディオ セールスダイレクター、山本和聖氏も参加した。

「据え置きマイク(ガンマイク)とワイヤレスマイクの使い分け」について尋ねられると、高木氏は「周波数レンジで言うと、ガンマイクのほうがしっかり録れている、よりナチュラルな音ですね。それに対してワイヤレスピンマイクは結構レンジが狭い印象があります」とコメント。

「ただ、ガンマイクは狙っている方向の音をかなり拾ってしまうので、セッティングが難しい。ワイヤレスピンマイクはセッティングが比較的簡単で、声をしっかり拾ってくれます」

ゼンハイザーのワイヤレスマイク「Profile Wireless」シリーズのマイク

「マイクの指向性や角度はかなり重要で、例えば被写体の正面からガンマイクを向けると、その後ろのガヤなどのノイズも拾ってしまいます。なので、テレビの音声さんのように上の方から角度をつけて狙うことで、人の声だけを取ることができます。ピンマイクは近くの音はしっかり拾ってくれますが、少し離れると結構音が小さくなるので、両方使ってミックスする感じですね」

「またピンマイクは取り付ける服の素材などにも影響されます。緩い感じの服装だと、胸元にピンマイクを着けると重さでたるんで、マイクが外側を向いてしまうことがあります。なので、取り付けは本当にしっかり固定できるように調整する必要があります」

ゼンハイザーの山本氏も「通常、ピンマイクは無指向性なので胸元に着けていれば、演者が横を向いても、上を向いても、ある程度音を拾ってくれます。そのかわり、声以外の音も拾ってしまうんです」と付け加える。

「一方で指向性のあるマイクは集音角度が限られるので、(意図しない音を拾う)リスクを除去できますが、当然リスクもあります。例えば演者さんが少し横を向いたり、上を向いたりすると、すぐに指向角度から外れてしまうことになる」

「なので、騒音が多い場所でのマイキングは、そういった指向性のあるマイクを使いつつ、演者も横を向くときは首だけでなく体ごと横に向くとか、そういった演出が必要になります」

マイクをどう設置するかという“マイキング”については、高木氏も日々研究しているといい、「現場で1度ヘッドフォンを着けて、実際に音を収録しながら『ここから録るのがい良いんじゃないかな』と考えてみると、結構冷静に判断できます」と語った。

「音は見えないのでイメージが付きづらいですが、光やレンズに置き換えると想像しやすいかなと思います。音源が光源で、それを捉えるマイクがレンズ。無指向性のマイクは360度カメラで、ちょっと指向性があるマイクは広角レンズといった具合に想像すると、イメージで音を捉えやすいかなと思います」

また「ワイヤレスマイクは音がこもるような感じがする」という質問に対し、高木氏は「本当に後処理が大事」だと回答した。

「ワイヤレスマイクだと、高い方の周波数が抑えられたような音になるので、そこを少し持ち上げるだけでも自然な音質になっていきます。ただ、(収録した)場所だったりで、響きが変わったりするので、映像素材に合わせた調整は必要ですが、ひとつ必ず調整しているポイントとしては、イコライザーで高音域を調整してみることですね」

続いて「編集時のボリューム調整はどうしているか?」という質問には、「いろいろな環境で聴くことを、すごく意識しています」と高木氏。

「例えばイヤフォンを着けて編集していると、僕が主にやっているYouTube動画の場合、BGMの音量が大きく聴こえます。そこでBGMの音量を小さくすると、例えばスピーカーだったり、テレビで観る場合に『意外とボリューム小さいのかな』と感じたりして、ギャップがあります」

「なので、イヤフォンでずっと編集している場合はスピーカーに切り替えて音をチェックしてみたり、本当にいろいろな環境で調整することで答えが出てくるかなと思います」

ちなみに高木氏は、編集作業のヘッドフォンにはゼンハイザーのプロ向け開放型モデル「HD490 PRO」を愛用しているとのこと。「学生時代からずっと密閉型ヘッドフォンを使っていて、開放型の音の自然さ、レンジの広さなども魅力だなと思っていろいろと探していたんですが、試聴を繰り返していくと、メーカーごとの色やキャラクターが強い音だなと感じることが度々ありました」と高木氏。

「そういったヘッドフォンは苦手なので、理想のヘッドフォンを探すのに難儀していた際、Inter BEEのゼンハイザーブースでHD490 PROを試聴できました。編集時、僕はモニタースピーカーをメインにして作業することが多いんですが、そのスピーカーのフラットな音質に、一番近いサウンドに感じられました」

「そのフラットさというか、良い意味でキャラクターがないところがHD490 PROを選ぶポイントになりましたね」

イベント会場には高木氏が実際に使っている編集機材としてゼンハイザー「HD490 PRO」とノイマンのオーディオインターフェース「MT 48」も展示された

ゼンハイザーワイヤレスマイクは「最初から音が“できあがっている”」

「Profile Wireless」

トークセッションでは、高木氏がSEIKINとともに会場を訪れた2024年のInter BEEで、ゼンハイザーのワイヤレスマイクシステム「Profile Wireless」を知り、動画撮影などに活用していることも明かされた。特に撮影・編集・公開を短時間で済ませなくてはいけないコンテンツの場合、Profile Wirelessを使う恩恵は大きいという。

その代表例として、高木氏は2025年6月6日にSeikinTVで公開された動画「Nintendo Switch 2 マリオカート ワールド セット当選!!!ヒカキン、マスオとガチバトル!」を挙げた。

高木氏が撮影・編集協力したSEIKINのNintendo Switch 2開封動画。SEIKINの胸元にはゼンハイザー「Profile Wireless」が装着されている

高木氏は「この動画は(Nintendo Switch 2の発売日である)6月5日に撮影して6日、正確には5日の深夜に公開しました。Nintendo Switch 2が発売されたことが話題になっているうちに動画を公開する必要がありましたが、SEIKIN自身も音質にはかなりこだわりがあるクリエイターなので、スピード感は持ちつつも、音質にはこだわりたいという要望があったんです」と振り返る。

「この動画よりも前から、案件などでProfile Wirelessは使っていましたが、後処理が楽なんです。ほかのワイヤレスピンマイクと比べると、最初から音が“できあがっていて”本当に多少の微調整のみで編集が済むので、スピード感を持って編集しやすかったですね」

「僕とSEIKINで共同で撮影・編集したものだと、まず映像の編集を終わらせてから音声の編集をするのですが、この動画のようにだいたい40分の映像だと、(通常は)おそらくその半分、10分~20分くらいは音声編集にかかっていると思います」

「僕がマイクの特性を把握しているのもありますが、Profile Wirelessを使うと、ほぼ1/3から1/4くらい、だいたい5分程度の編集時間で『もうこれでOKだね』という音質に調整できます。音はこだわりすぎると終わりが見えなくなるので、ある程度のことで止める必要がありますが、Profile Wirelessでは処理を掛ける前から『これで全然良いんじゃないかな』というレベルの音になっています」

また高木氏は、ラベリアマイク接続部のスクリューロックや誤操作しにくいように一段くぼんで配置されている録音ボタンなど、Profile Wirelessの使いやすさにも言及。「実際に使う人のことを考えたプロダクトデザインで、他社の製品と比べても、かなり使いやすいですし、安心感が全然違います」と、Profile Wirelessの魅力を語った。

「Profile Wireless 1-Channel Set」。マイク部(右)には外部マイクを固定するスクリューロックを備えるほか、側面の録音ボタンはくぼんでいて誤操作しにくいようになっている