鳥居一豊の「良作×良品」

極小アンプが大型スピーカーを鳴らす。Olasonic「NANO-A1」

ハイレゾ音源で「ガルパン」サントラを味わい尽くす

ガールズ&パンツァー オリジナル・サウンド・トラック

 今回聴く良作は、「ガールズ&パンツァー オリジナル・サウンド・トラック」のハイレゾ(24bit/48kHz)版。アニメ作品のサントラを組み合わせることに異論のある人もいるかもしれないが、ハイレゾ音楽配信サイト「e-onkyo music」で昨年末の発売以来、ランキング1位を取り続けている人気の作品であり、もともとこの連載ではなるべく多くの人が楽しめるものを選びたいと思っているので、自信を持って決めた。もちろん、楽曲の良さ、録音の良さも素晴らしい。私見を言えば、アニメのサントラの新しい可能性を拓いたと言っていいくらいだ。

 まずは軽く作品について紹介しておこう。「ガールズ&パンツァー」は昨年テレビ放送された作品で、全6巻からなるBD&DVDが発売中。今春にはOVAのイベント上映、完全新作の劇場版も公開予定と高い人気を誇っている。物語は戦車を使った武道「戦車道」が女子のたしなみとされる世界で、可愛らしい女子高生たちがさまざまな戦車を操り、激しい戦車戦を繰り広げるというもの。今風の美少女+メカ物の一種ではあるが、戦車および戦車戦はかなり本格的な作りになっており、ミリタリーマニアさえ驚かされるほどの出来。BD版では「センシャラウンド」と銘打った2.1ch音声が収録され、戦車の重低音を迫力たっぷりに再現したことでも話題となった。映像だけでなく、音にもこだわっているという、キャラクターの絵柄からはちょっと予想できないガチな作品なのだ。

 音にもこだわった作品というからには、音楽にもこだわりがたっぷりで、戦車といえば軍楽隊というわけで、ブラスバンドを主体とした曲が多用され、聴き応えも十分。ブラスバンドは、主に金管楽器と打楽器で構成される楽団で、日本では吹奏楽と混同されるむきもあるが、言ってしまえば軍楽隊のほか、高校野球などの応援団に帯同する楽団、街のイベントなどのパレードで行進しながら演奏を行なう楽団などのことを指すと考えていい。ホール演奏が主体のオーケストラ(交響楽団)に比べると、親しみやすい楽団であり演奏と言えるだろう。

小型ながら質の高い「NANOCOMPO」で大型スピーカーを鳴らす

NANO-A1。電源ボタンとアンプ動作を示すインジケータのみと、顔付きはシンプル

 組み合わせる良品は、オラソニックの「NANOCOMPO」シリーズのパワーアンプ「NANO-A1」(実売価格64,800円)。他の製品と同様に、およそCDジャケット3枚分のコンパクトなボディで、56W+56W(4Ω)出力のアンプ回路を内蔵している。

 特徴は、大型のキャパシターに電気を貯め込むことで、小型サイズながらも大出力を実現できる独自のSCDS方式を採用したこと。これは、オラソニックの卵形スピーカーやNANO-UA1などでも採用される技術だが、NANO-A1はパワーアンプということで、その規模も大きい。使用されるコンデンサーは合計13本にも及んでいる。

NANO-A1のアンプ回路基板。横倒しになった大きなコンデンサが合計13本も使われている姿は圧巻。増幅段がきちんと左右対称になっている回路設計も見事。

 また、パワーアンプに使うデジタルアンプは、TI製の「TPA3118」を使用。1.2MHzの高速スイッチングで駆動する最新モデルをいち早く採用したという。

 ボリュームなどコントロール系を持たないパワーアンプのため、外観はシンプル。主な操作も電源オン/オフしかない。背面にはライン入力(L/R)とスピーカー出力も2系統備わっている。本機は1台でステレオ駆動が可能なモデルだが、背面のスイッチの切り替えでバイアンプ駆動やモノラル駆動も行える。スペック上の出力はステレオ駆動とバイアンプ/モノラル駆動ともに56W+56W(4Ω)で変わらないが、実際の再生音は大きく変わる。

片手で持てるコンパクトサイズのパワーアンプ「NANO-A1」
背面の端子。ライン入力と2系統のスピーカー出力を持つ。
底面は、樹脂系のインシュレーターを備えた四角い脚部が備わっている
背面にあるスイッチの切り替えでステレオ/バイアンプ/モノラル駆動を切り替えできる
小型ながら、バナナプラグ対応の金メッキスピーカー端子を採用。太めのスピーカーケーブルも用意に接続できる
ライン入力には、バイアンプ/モノラル駆動時に使用するショートピンも付属している

 NANOCOMPOシリーズを俯瞰してみると、USB DAC内蔵プリメインアンプの「NANO UA1」をはじめ、CDトランスポート(D/A変換部を持たず、デジタル信号を出力するプレーヤー)のNANO-CD1、ヘッドホンアンプ内蔵USB DACのNANO-D1が揃い。後は好みのスピーカーを組み合わせるだけというラインアップが完成した。

 最小単位で楽しむならば、PCとNANO-UA1。スピーカーと組み合わせでハイレゾを含む音楽を楽しめるし、CDを聴くならNANO-CD1を組み合わせればいい。再生がヘッドホン主体ならばNANO-D1を追加すればいい。

 もっとも大規模な組み合わせとなるのが、NANO-CD1とNANO-D1、NANO-A1の組み合わせでスピーカーを鳴らすというものになる。大規模といっても、ボディサイズがコンパクトなので、3台ないし4台が一般的なフルサイズ用のオーディオラックの棚にセットできてしまう。まさにミニマムサイズの本格的コンポーネントだ。

NANO-CD1とNANO-D1、2台のNANO-A1を組み合わせた状態。デザインが揃っているので、見た目の収まりも良い
NANOCOMPOを3台、4台平積みしたところ。ちょっとした単品コンポの風格だが、これでもサイズはコンパクト
3台なら片手でも持ち上げられてしまうコンパクトさだ
ノートPCと組み合わせた状態。タテ置き、ヨコ置きができるので、スペースに合わせて自由なレイアウトが可能

NANOCOMPOシリーズで、高品位なコンパクトシステムを構築

 今回は、オラソニックに無理をお願いして、NANO-CD1、NANO-D1、そしてNANO-A1を2台お借りさせていただいた。手持ちの大型スピーカーB&W「MATRIX S3」を鳴らすことが目的のため、モノラル駆動も試してみたかったからだ。さっそく梱包を解いて設置と接続を行ったが、サイズがコンパクトなので非常に楽だ。

 興味深かったのは、付属するACアダプタのサイズの違い。NANO-A1のものはサイズが大型で、着脱式の3ピンの電源ケーブルを組み合わせるタイプとなっている。パワーアンプということで、電源周りの充実が図られている。

 さらに本体とACアダプターの接続端子には、高級オーディオ機器でも採用例があるスイス製のLEMOコネクタを採用。接続部にロックピンが備わるなど、安定した着脱ができる信頼性の高い端子だ。こうしたパーツの採用をみても、NANO-A1がかなり電源周りにこだわった作りになっていることがわかる。

NANO-A1に付属するACアダプタ。サイズはやや大きめで、電源コードも交換可能な着脱式となっている
NANO-D1に付属するACアダプタとのサイズ比較。長さが2倍近く長くなっている
本体との接続部に使われるLEMOコネクタ。確実な着脱が可能で、誤って電源コードが抜けてしまわないように配慮されている
本体と接続したところ。グラ付きもなくしっかりと接続できた。接続端子の造りもよく、見た目の満足度も高い

 実際の再生システムとしては、NANO-CD1とNANO-D1は同軸デジタルケーブルで接続、NANO-D1のライン出力をRCAケーブルでNANO-A1に接続している。試聴ではこのほかに手持ちのノートPCをUSB接続し、ハイレゾ音源の再生はPCで行なった。

 スピーカーケーブルの長さの都合で、2台のNANO-A1は床にオーディオボードを敷いてその上に置き、NANO-CD1、NANO-D1、ノートPCをラックに置いている。フルサイズのオーディオ機器が入ったラックに置いてみると、改めてそのサイズのコンパクトさがわかる。

 こうした使い方は少々異例なのかもしれないが、フルサイズのコンポでこうしたセパレートシステムを構築すると、ラックも増設しなければならないし、かなり大げさな印象になる。僕個人は、例えそれなりのスペースのある専用のオーディオルームでも、こうしたコンパクトな機器をうまく組み合わせるほうが現代的なオーディオの楽しみ方だと思う。過度に大げさにせず、シンプルですっきりとしたシステムとするのが理想なのだ。

 さっそく試聴といきたいところだが、例によって音を出してみたら、低音不足の非力な音にがっかり。これはそれなりのオーディオ機器ならば当たり前の話。特にNANO-A1は大型キャパシターを多数使用しているので、それぞれのキャパシターに十分な通電を行なうことが重要。試しに1日中適当に音楽を流し、一晩ずっと電源オンのまま通電させておくと不足していた低音もかなりしっかりと出るようになってきた。

 年末年始の期間を利用して長めにお借りしたこともあり、そのまま自分のシステムのように音楽だけでなく映画などの再生などに使いつづけ、1週間ほど経過して本来の実力が出るようになったのを確認したうえで、本格的な試聴取材を行っている。

映像が頭に浮かび上がってくる。これぞハイレゾの威力!

 いよいよ試聴だ。「ガールズ&パンツァー オリジナル・サウンド・トラック」はハイレゾ音源とは言うものの、24bit/48kHz収録で、いわゆる96kHzや192kHz収録のようなハイサンプリング録音ではない。ただし、そうしたスペックを気にしていては肝心なものを見失う。24bit/48kHzというスペックよりも、スタジオで収録されたそのままの音が手元にあるということを喜びたい。

 なお、NANO-D1は入力されたデジタル信号をすべて24bit/192kHzにアップサンプリングした後でアナログ変換を行なう設計になっている。音質的な変化はもちろんあるが、192kHz品質になるというよりは、サンプリング変換によるジッター除去などの効果が大きいだろう。PCで使用する再生プレーヤーによってはサンプリング変換を行なう機能や変換ソフトもあるが、そうした加工は一切行なわず、「作り手がスタジオで聴いていた音」をそのまま再生する方向で聴いている。

ヘッドホンアンプ内蔵USB DAC「NANO-D1」。ドライバー不要のUSB 96kHzと、専用ドライバを使うUSB 192kHzを併用できる点がユニーク。ボリュームを備えるので、デジタル入力専用プリアンプとしても使える
NANO-D1の背面。入力は同軸/光デジタル入力とUSB端子を備える。ライン出力はRCA端子。左側のスイッチはヘッドホン出力用のインピーダンス切り替え

 さっそく1曲目の「戦車行進曲!パンツァーフォー!」を聴く。トランペットやホルンといった金管楽器の雄壮なメロディーと、スネアドラムの刻むリズムが小気味良い。劇中でも要所で使われるメインテーマと言える曲で、一番馴染みのあるものだ。「やっぱり戦車にはマーチ(行進曲)が似合うよね」と、それほど重度のミリタリーマニアではないものの、アニメや特撮、戦争映画でも定番と言える戦車とマーチの組み合わせには、思わず顔がほころぶ。

 ちなみにCD版の作曲者の浜口史郎のインタビューによれば、録音ではブラスバンドに近い音を目指して、金管楽器を増やした編成としているそうだ。通常のオーケストラでは使わないユーフォニウムを2本追加したほか、曲によってはトランペットに代えてコルネットを使ったという。コルネットはちょっと小さなトランペットで、英国式ブラスバンドで使われる金管楽器だ。さらには、軽快にリズムを刻むスネアドラムも3人で叩いているなど、ブラスバンドというか軍楽隊の演奏に近いサウンドを目指したこだわりは立派だ。

 そうした作り手の工夫が、きちんと音にも現れているというのが第一印象。屋外のステージでブラスバンドの演奏を聴いているような、スカっと音が広がって行く音場感で、とても見晴らしがいい。楽器の音色も鮮明で繊細で丁寧な再現と言える。このあたりはオラソニックのNANOCOMPOシリーズの美点と言えるが、NANO-A1はそれに加えて低音感もタイトでありがながらしっかりとした量感も備え、雄大さやスケール感もしっかりと感じられる。

 B&W MATRIX S3というスピーカーは、僕が20年前に編集者だった当時のリファレンススピーカーのひとつで、個人的な愛着もある物だが、30cm口径のウーファーが重く、馬力のあるアンプでないと低音が出ない、いわゆる「鳴らしにくいスピーカー」でもある(現行の800Dシリーズはウーファーの軽量化やネットワーク回路の進化でかなり鳴らしやすくなっているという)。そんなスピーカーを、NANO-A1がしっかりと鳴らしたことには正直驚いた。昨年完成した専用の防音ルームということもあり、再生音量はかなり大きいのだが、パワー負けして保護回路が働いてしまうようなこともなく(以前、NANO-UA1で同じことをしたときには、保護回路が働き音が出なくなったので、音量を絞って再生した経験がある)、いつも聴いている音量でしっかりと再生できた。

 これら序盤の曲で、ステレオ/バイアンプ/モノラルの駆動による音の違いを確認してみた。結論から言うと、低音のパワー感とそれによる演奏のスケール感が大きく違ってくる。ステレオ接続は、十分な音量(一般的な家屋では隣人に怒鳴り込まれるレベルの音量)で聴くと低音がタイトになり、量感が不足しがちに感じる。中高音の解像感が高いので、すっきりとした爽やかな音となり、これはこれで気持ち良く楽しめるのだが、ブラスバンドの心を高揚させるような気持ちの盛り上がりがやや大人しくなってしまう。

 バイアンプ駆動は、NANO-A1を2台使い、2系統のスピーカー出力をスピーカーの低域側と高域側にそれぞれに接続する駆動方式。パワーアンプが2台となることもあり、駆動力に余裕が出てくるため、低音の伸びや量感がかなり増す。音楽のスケールが一気に増大し、楽器の音色の力強さも増してくる。繊細できめ細かいという音調は変わらないが、力強さが増すことで、音の立ち上がりの良さ、特にスネアドラムのリズムのキレ味が増してくる。

 モノラル駆動は、NANO-A1を2台使うのは同じだが、今後は2系統のパワーアンプ出力で、1系統のスピーカーのプラスとマイナスの信号を増幅するもの。パワー的にもっとも余裕のある駆動方式のためか、低音の力感がさらに増す。どっしりと安定感のあるサウンドと、レスポンスの良さが両立して、編成の大きな演奏を聴いている満足感が高まる。反面、相対的に中高音域の繊細さやみずみずしい音色の輝きがやや後退した感はあるが、これは好みの差だろう。大型スピーカーをしっかりと鳴らしきるならば、モノラル接続がいいし、中小型のスピーカーならば低音域のアンプ負荷もそれほど大きくはないので、中高域の美しさが際立つバイアンプ駆動を選ぶといいだろう。ここでは、駆動方式はモノラルとして、以後の試聴も続けた。

 楽曲はブラスバンドに近い編成の曲ばかりでなく、ドラマ部分に使われる曲はポップな曲調のものなども数多い。14曲目の旧日本軍のマーチ風メロディーの「生徒会、悲壮な決意とともに進みます!」のようなメロディーもアニメのサントラとしては意外な選曲だが、生徒会メンバーのキャラクターとはマッチしていて聴いていて楽しい。

 また、20曲目の「アウトレットでお買い物します!」などはシンセサイザーによる電子音も多用した曲だが、ベースの低音がかなり低い音域まで伸びていることに気付く。こんな低音は大型スピーカーでないと出ないレベルのものだが、それらがしっかりと出てくることで、軽快さだけでなく音楽としての質の高さがよく感じられ、テレビアニメの曲とは思えなくなる。タイトル通りの軽いイメージで決して重要度の高い曲というわけではないのだが、そんな曲でも手を抜かずに真面目に作っていることがわかる。

 NANOCOMPOの高解像度でひとつひとつの音を丁寧に描き出す音は、ハイレゾ音源に最適だし、ユーザーの多いヘッドホンでの音楽鑑賞とも相性がよい。NANO-A1を使ったスピーカーでの再生も、ヘッドホンで聴くような解像度の高さがそのまま部屋全体に広がる印象で、再生音量的な理由もあるが「スピーカーの音はヘッドホンのように細かい音が聴き取りにくい」と感じる人にもマッチするだろう。

 もうひとつのNANO-A1の美点は、解像度は高いものの決してカリカリの音ではなく、耳当たりはしなやかで聴き心地がよく、低音もタイトではあるが量感も十分に豊かで感触が柔らかい。だから、長時間聴いていても耳が疲れるようなことはない。ヘッドホン主体で音楽を聴いている人が、スピーカー再生にステップアップするような場合、NANO-A1を使ったシステムはかなりオススメできると思う。

いよいよ戦車道全国大会が始まる

 日常的なシーンのための曲が一段落すると、27曲目の「開会式です!」から、戦車道全国大会のための曲が続く。要は戦車戦で使われる楽曲で、曲も緊迫の度合いを増していく。31曲目「息を殺して待ちぶせします!」などは、弦楽器なども加えた楽曲で曲だけを聴けばまさに戦争映画の音楽そのもの。スネアドラムの効果的な連打音が緊張感を高めるし、3人がドラムを叩いていることもあって、音に厚みがある。緊迫した楽曲が数曲続くが、作品のカラーもあって、過度にシリアスにならないように注意したという曲づくりもあるが、音の厚みや勢いの良い音の出方のおかげもあり、死を予感させる悲壮さではなく、むしろ戦線へと向かう勇ましさが強く感じられる。

 このあたりの戦車戦シーンばかりではないが、曲を聴いているだけで場面が思い浮かぶ。これは良いサントラの大きな魅力だと思う。BDソフトなどで本編そのものを見る方がお手軽な時代だが、映像と音がセットになったBDソフトは見る場所を選ぶ。音だけならば、それこそ通勤中の電車の中でも作品を楽しめる。

 これが、ハイレゾ品質になると想起される映像もより鮮明になるというか、劇中での緊迫した様子やそのときの戦いの様子までありありと思い出される。正直なところ、サントラを聴いてここまで映像や見ていた当時の感想が鮮やかに浮かんだことはなかった。これぞハイレゾ品質の良さだろう。良い音は想像力も刺激するし、ダイレクトに感情が揺り動かされることを実感できる。ウォークマンなどハイレゾに対応した携帯プレーヤーも増えてきたので、興味のある人はぜひとも37曲目「戦車道アンセムです!」を屋外で聴いてみてほしい。必ずあのシーンの映像が蘇るはずだ。

 48kHz録音とはいえ、24bit収録になるとここまで生々しく感じられることにも驚いた。量子化ビット数が増えると、音の大きさの違いをより細かく再現でき、16bitでは聴き取れない、ごく小さな音まで再現できる理屈だが、実際の音を聴くと低音の解像感や伸びの良さが大きく違う印象の方が強い。

 低音というと、ドシンドシンと響く映画的なものを想像されがちだが、音楽における低音は実音だけでなく音色の響きの深さにも大きく影響しており、なくても譜面通りの音は聴き取れるが、あると生音らしさというかリアリティーが格段に増す。そんな大太鼓の深い響きや、ホルンのような低音の出る金管楽器の朗々とした鳴り方が実に生々しく感じられるようになる。NANO-A1のリアルな音楽を感じさせる低音も、サントラで鮮やかに作品の場面が蘇った理由のひとつだろう。

個性豊かな対戦高校のテーマ曲がこれまた楽しい!

 ディスク2枚目の1曲目からは、主人公が所属する県立大洗女子学園の応援歌をはじめ、全国大会に出場する対戦校のテーマ曲が続く。これらの曲はイギリスやアメリカ、ロシア、ドイツなど国を象徴する楽曲をアレンジしたもの。2曲目の「リパブリック賛歌」といって、曲を思い出せる人は少ないと思うが、ヨドバシカメラのCMソングでも使われていた曲といえばすぐにメロディーが出てくるだろう。お国柄もよく出ているし、実際の対戦校のメンバーのキャラクターともマッチしている。曲は監督の水島努が指定したものだそうだが、この監督は他の作品でもそう思うが実に音楽の使い方が上手い。

 NANO-A1は、そんな個性豊かなマーチの数々をしっかりと個性を描き分けて再生してくれた。俊敏でしなやかな音の出方をするため、曲調やテンポの変化が明瞭に再現されるため、曲の持つムードや雰囲気がストレートに感じられる。だから、表現される音が実に多彩でバラエティ豊かなのだ。先ほどの緊迫した戦車戦シーンの曲では重厚でテンションの高い再現をするし、各対戦校のマーチは明るく元気たっぷりに鳴る。オーディオ機器の音の解説でよく使われる「演奏者や作り手の意図が感じられる音」というもののひとつと言えるだろう。

44.1kHz/16bitのCD盤との音の違いはどのくらいあるかチェック

 続いては、NANO-CD1を使い、CD盤を再生してみた。NANO-CD1は読み取ったリニアPCM信号をそのまま出力するだけでなく、88.1kHzや96kHzにアップサンプリング出力することも可能だが、ここでは変換はせずに44.1kHzのままの出力としている。

 16bit/44.1kHzと24bit/48kHzでどのくらい音が違うのかは気になる人も少なくないだろう。自分の耳では聴き分けられないのでは? と不安に感じている人もいると思うが、その点は安心してほしい、一聴瞭然だ。

NANO-CD1の外観。ディスクはスロットローディングとなっており、電源スイッチのほか、基本操作用のボタンが並ぶ。ディスプレイは小さめだが、トラック番号の表示やディスクローディングなどの動作表示をアニメーション表示できる
NANO-CD1の背面図。出力端子は同軸/光デジタルとなっている。アップサンプリング出力にも対応しており、背面の端子で96/88.1/44.1kHzを選択できる!!

 まず、驚くほど低音がない。信号としての低音は出ているのだがまったく力感がない。低音が鳴っている雰囲気だけという感じで、音が軽薄になる。

 あまりの違いに心配になり、他のディスクも聴いて確認したが、NANO-CD1が低音が出ないというわけではなく、ガルパンのサントラのCDが低音感の乏しい音になっているようだ。マスタリングの過程で(おそらくは低音の出ない携帯プレーヤーや小型スピーカーでの再生用に)バランスを調整しているのかもしれないが、ずいぶんと印象は変わってしまう。可愛らしく元気なサウンドと言えなくもないが、ここまで書いてきたようなハイレゾ盤の本物感、「可愛い女の子のアニメだけれどやってることは大まじめだぜ」という作り手の意識の高さはどこへ? という感じだ。

 例えばディスク1の20曲目のシンセベースの低音はかなり伸びが足りず、狭い場所に押し込まれているような窮屈さがある。低音がタイトになりすぎ、音が硬い印象だ。細かい音色や音数は出ているので、カチっとした粒立ちの良さはあるものの、生真面目になりすぎて曲の持つ楽しさが薄れてしまう。

 また、ディスク1の24曲目「私、決めます!」は、グロッケン(鉄琴)でメロディを奏でるしっとりとした曲で、グロッケン特有の長く続く余韻の響きが次々に音が重なることでハーモニーを産みだしていく様子が聴き所なのだが、その余韻の響きは美しいものの、低音が抜けてしまい、やや音が軽い。音色の響きはよいが鉄の板を叩いている感じ、音の芯がないので、ともするとシンセで位相をいじったフワフワした音色にも聞こえてしまう。ハイレゾ版と比べるとあまりに差が大きくて驚いた。

 NANO-CD1の解像感の高さや繊細な描写のおかげもあり、ブラスバンド風のマーチなどの雄壮なメロディーはきちんと楽しめる。ハイレゾ版で感じた「アニメのサントラがこんなに良い録音で制作されていたとは!!」という驚きに満ちた感激はなく、良くも悪くも普通のサントラだ。

 2枚目のディスクに収録された主題歌や挿入歌(「あんこう音頭」が思った以上に本格的な民謡の歌唱で、歌の上手さにも歌詞のおかしさにも感心した)があるが、こちらも声はくっきりと明るく、ニュアンスもしっかりと感じられる。良くも悪くもCDの16bit/44.1kHの音の個性である、輪郭が鋭く立ち、メリハリは効いている良さはあり、主題歌などはCDの方が聴き慣れた音だと感じるし、好ましいという人もいるだろう。不満だったのは、ステレオイメージに奥行きがなく、ちょっと平面的になる点だけ。ハイレゾでは伴奏をバックにボーカルが一歩前に出てくるイメージなのだが、CDだとすべてヨコ一列に並んでいるイメージで、ちょっと平板だ。

 おそらく、ハイレゾ版が良すぎるのだろう。CD盤を楽しく聴いている人には本当に申し訳ないが、スタジオクオリティとこれまで僕らが手に入れて楽しんでいたCDとはこれほどに差があるのかと、ちょっとショックを覚えてしまった。

 CDは厳格に16bit/44.1Hzと規定されているので、今後も大きな音質向上は期待できない。現在の録音現場では24bit録音は当たり前で、ハイレゾ普及もあって24bit/96kHzなどのハイサンプリング/ハイビット録音も増えてくると言われている。そうなると、スタジオ品質の差は増えてくる。これからの新譜はCDではなく、ハイレゾ音楽データ購入が基本になるのかなと、時代の移り変わりをはっきりと感じた。

 ただ、CDにはブックレットが付くし、CD-ROMという保存に適した媒体もあるのでお金を払った価値を見いだしやすい。特にブックレットは音楽配信でもセットで欲しい気がするので、ぜひともPDFデータで添付するなどの配慮に期待したい。

AVアンプの外部パワーアンプとしても使ってみた!

 最後に、ステレオ再生だけでなく、手持ちのAVアンプと組み合わせ、外部パワーアンプとして使ってみた。スピーカーとの接続は、ステレオ再生と同じくモノラル駆動。要するにNANO-A1のライン入力に、AVアンプのプリアウト出力を接続して使ってみたわけだ。実は、これは僕個人が一番気になっていた部分。AVアンプにもプリアンプとパワーアンプを独立させたセパレートアンプがあるが、映像信号や音声信号、ハイレゾにも対応するネットワーク機能などさまざまな信号が混在するAVアンプと、純粋の音楽信号を増幅するパワーアンプを独立させる音質のグレードアップは、コストこそかかるがよく知られる高音質化の定番テクニックでもある。

 ただし、一般的なパワーアンプはみなフルサイズなので、部屋に置くコンポの数が増える。フロント2chだけなら1台で済むが、7.1chとか9.1chをすべてセパレートするとなると、アンプの数が3台、4台と増え、足の踏み場もなくなる。その点、NANO-A1ならばサイズが小さいので数が増えても影響は少ない。すべてをモノラルとして9台揃えたとしても、フルサイズのコンポ4台置くのに比べれば、設置スペースは小さく済む。

 実際に映画、それも重低音がたっぷりのアクション映画を見てみたが、肝心の低音もしっかりと出るし、AVアンプだけで聴いていたよりも細かな音の情報量が増え、サラウンド空間の広がりがより広く深くなるなど、グレードアップの効果は十分に得られた。一般的なリビングでのサラウンド再生など、それほど大音量で楽しむわけではないならば、NANO-A1をAVアンプの外部パワーアンプとして組み合わせるのは良いアイデアと言えそうだ。

 個人的には、映画特有の量感たっぷりの低音感がやや物足りないなど、大音量再生をするとさすがに絶対的なパワー感が不足しがちになると感じたが、さすがに欲張りすぎる気もするし、パワーを欲張って精細かつ丁寧な音という美点が失われるのも困るので悩ましいところだ。

 ちょっと思い立ち、出力パワー値では優るAVアンプのフロント出力を低域側に接続し、NANO-A1は高域側に接続するということも試してみたが、パワーアンプ自体の音色の傾向の違いによるチグハグ感はあるものの、絶対的なパワー感と繊細かつ情報量豊かな音の両立はできそうだ。AVアンプの音色との相性を考える必要があり、組み合わせの難易度は高まるが、面白い使い方とは言えそうだ。

 ちなみに、NANO-A1は紹介したホワイトのほか、マット調のシルキーブラックもある。同じタイミングでNANOCOMPOの全モデルもホワイトとブラックの2色展開となっている。黒い製品が多いAV機器との組み合わせではブラックを選ぶといいだろう。

NANOCOMPOのポテンシャルの高さを改めて実感。まさに「これからのオーディオの形」

 NANOCOMPOは、そのサイズ感からして、決しておおげさなコンポーネントの組み合わせではなく、ちょっとしたスペースで気軽に本格的な音質で音楽を楽しめる新しい提案だ。住宅事情や近隣への迷惑など、大音量再生が難しい昨今では、コンパクトで小音量でも高品質というのは大きな価値があると思う。

 NANO-A1の登場でコンポーネントとしてのラインアップも完成し、よりさまざまな使い方ができるようになったと言える。置き場所に困らないサイズでありながら、その気になれば大型スピーカーを組み合わせても十分に楽しめるというのは大きな価値があるだろう。

 これはシステムのグレードアップとしても面白い。NANO-UA1やNANO-CD1とNANO-D1の組み合わせで音楽を楽しんでいる人は多いだろうが、もしもその上を求めたいと思ったら、NANO-A1を追加して、それなりのスピーカーと組み合わせて再生してみるといい。NANOCOMPOの繊細で上質な音の世界がさらにスケールアップして楽しめる。これはきっと、NANOCOMPOを使っている人にはぴったりな上級システムと言える。

 そして、今後はハイレゾ音源がメインソースになっていくと思われるので、CDなどを収納する場所に困ることも減るだろう。かつてのオーディオは重厚長大が良しとされ、恐竜的に進化し、ユーザーが離れてしまった。しかし、デジタル技術の熟成やスタジオの音をそのまま楽しめるハイレゾ配信という新しい波が、オーディオの世界にダウンサイジングという新しい価値を生み出した。こんなに小さなシステムで、こんなに良い音で楽しめる時代は、今までになかった。こうしたコンパクトなコンポーネントはNANOCOMPOばかりではないが、これらが新しい時代のオーディオ機器の標準になっていくのは間違いないと思う。今後の展開もますます楽しみだ。

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NANO-A1
(パワーアンプ)
NANO-D1
USB DAC/プリアンプ

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。