鳥居一豊の「良作×良品」

国産高級BDプレーヤー復活! 「BDP-LX58」の実力に驚く

「トランセンデンス」の巧みな音場設計

 今回は良作を選ぶのにちょっと悩んだ。というのは「Dolby Atmos(ドルビーアトモス)」のため。国内でも数こそ少ないながらもドルビーアトモス対応のソフトが発売されはじめているが、我が家の試聴システムが対応していないため、試聴盤として使うことにためらいがあったためだ。

 そう言っておきながら、結局「トランセンデンス」に決めた。人工知能をテーマとしたSF作品で、そこにジョニー・デップが扮する天才数学者の意識をアップロードするという筋書き。「ドルビーアトモス」対応で、しかもMGVC(マスターグレード・ビデオ・コーディング:通常は24bit記録であるBD規格を拡張し、最高36bit記録を行なう。パナソニック製のBDレコーダ、BDプレーヤーしか対応していない)ソフトである。

BDP-LX58

 そこに組み合わせるのは、パイオニアのBDP-LX58(実売価格95,000円)。国内では珍しくなった10万円クラスの高級BDプレーヤー。さらにハイエンドモデルとして、BDP-LX88(約27万円)も登場している。LD(レーザーディスク)の時代から高画質プレーヤーで数々の名機を生み出してきたパイオニアの渾身の力作だ。

 最上位のBDP-LX88も興味のある人は少なくないだろうが、ここではBDP-LX58を選んでいる。こちらも十分に高い値段だが、画質・音質の良いBDプレーヤーが欲しい人にとって、購入を検討できる価格帯だと思ったからだ。

重量&剛性感が高級機ならではの満足感を演出

 さっそく編集部から届いた機材を開梱したが、その重量は9.9kgと昨今のBDプレーヤーとは思えないほどに重い。ボディもがっしりと剛性感があり、上位機のBDP-LX88には及ばないとしても、価格帯を考えればかなり徹底的に作り込まれていることがわかる。

BDP-LX58の正面パネル。中央にディスクトレイとディスプレイがあり、左側に電源スイッチとUSB端子、右側に操作ボタンを配置している
側面部分は、3箇所を強固にネジ止めしている。1mm厚の鋼板を使ったトップカバーは十分な剛性を持っている
底面は、1.6mm厚の鋼板シャーシと3mm厚の鋼板レイヤードシャーシ構造となっている。黒塗りされた厚い鋼板は剛性の確保と低重心化に貢献している
整然とした動きのディスクトレイ。制振塗装のせいかディスクを置いたときの「カシャッ」という音も皆無。このあたりの感触は高級機そのもの

 感心するのが、ディスクを出し入れするときのトレイの動作音の少なさだ。そこそこの価格のディスクプレーヤーでも、「ガシャッ」とロックが外れて「ガーッ」とトレイが出てくる騒々しいものが多いが、BDP-LX58は動作音はごくわずかで「スーッ」とトレイが姿を現す。とても高級感のある振る舞いだ。

 なお、このドライブは上品なトレイのローディング機構だけでなく、剛性の高いトレイシャフトの採用や、トレイ部に制振塗装を施すなどの制振対策が行なわれている。また、鋼板ドライブベースにラバー素材を挟んで固定するフローティング構造で、ドライブメカを強固に、そして振動の影響を抑えてシャーシに固定している。また、収納されたトレイのフタとなるパネルは、閉じているときにはバネを介してトレイと分離し、トレイやメカニズム部の振動をフロントパネルに伝えない設計。気密性も高まるのでドライブメカの動作ノイズも外に漏らさず、かなり静粛性が高い。

 背面の端子は、2系統のHDMI出力端子をはじめ、光デジタル音声出力やアナログ音声出力がある。このあたりの装備は高級BDプレーヤーとして十分な内容。これに加えて、パイオニアオリジナルの音質調整用端子として「ZeroSignal」端子がある。まずは、自宅のプロジェクタとAVアンプにそれぞれHDMIケーブルを接続。このほかはネットワーク接続をした状態で使ってみることにした。

背面の入出力端子。アナログ音声出力、HDMI出力×2など、十分な装備となっている。電源ケーブルは着脱式となっている
付属する電源ケーブル。音質を重視した極太のケーブルとなっている
付属のリモコン。メニュー操作や再生操作だけでなく、HDMI出力の切り替えや出力解像度の変換といったボタンも備えた多機能タイプ。また、自照式なので暗い環境で使う場合にも重宝する

設定はシンプル

 電源を入れ、初期設定などを行なっていくことにする。ホームメニューはシンプルで、「Source」を選ぶとディスク再生やネットワーク/USBメモリー再生などが選択でき、「ウェブコンテンツ」を選ぶと、YouTubeやPicasaの視聴ができるようになっている。

 初期設定は、BDプレーヤーだけにそれほど細かく見ていくような項目はない。接続するテレビの設定などを一通り確認しておくだけでいい。

ホームメニューの画面。項目も少なく操作はシンプルだ
「Source」を選んだ状態。セットしたBDメディアの下には、ネットワーク上にあるサーバー機器が表示される
NASなどの音楽サーバーを選択すれば、保存された楽曲の再生が可能。DLNA対応でFLACやDSD(2.8MHz)などの再生にも対応する
ウェブコンテンツは、動画共有サービスの「YouTube」と、アップロードされた静止画を閲覧できる「Picasa」の2つ
本体設定の「音声出力」。デジタル出力の種別やダウンミックス時の音声出力などを組み合わせるAVアンプなどに合わせて選択する
HDMI設定では、ディスプレイやAVアンプなど、接続する機器に合わせて設定を行なう
HDMIモードは、2つのHDMIに映像・音声を同時出力する「デュアル」、映像と音を独立して伝送する「セパレート」、音質重視の「ピュアオーディオ」などがある

 設定は、一般的なBDプレーヤーが備えるものとほぼ同様で特別な機能などはない。高級機というと高機能も当然という最近のモデルとしては、かなりシンプルだ。ディスク再生時などに操作できる「Audio Parameter」も、オーディオ同期とオーディオディレイ(リップシンク)の調整だけで、特に高音質化のための機能は盛り込まれていない。

 とはいえ、決して手を抜いた作りというわけではなく、DACチップにはESS社の「SABRE32 Ultra DAC」(ES9011S)を搭載。電源部などを含めて上位機のエッセンスを継承し、妥協のない作りとなっている。余計な機能はいさぎよく省略して肝心の音質にしっかりとこだわっているのだろう。

「Audio Parameter」の画面。といっても、オーディオ同期やオーディオディレイの設定だけなので、一度設定すればめったに使うことはないだろう

 画質面については十分に高機能で、4K/60p(4:4:4)の伝送も可能なHDMI2.0フルスペック規格に対応。高画質回路「Precise Pixel Driver」による高画質化処理、超解像技術を盛り込んだ「4K Reference Converter」による4Kアップスケーリング機能を備える。

 画質調整機能としては、各種ノイズリダクションや明るさ、コントラストといった基本的な画質調整、超解像「S.Resolution」などが用意されている。これらは、いくつかのプリセットに加え、ユーザーが自由に設定値を残しておけるメモリーが3つあり、ソフトなどに合わせて切り替えできる。

 なお、これらの画質面での機能は上位機のBDP-LX88とほぼ同様で、回路的にもほぼ同じものとなっている。

「Video Parameter」のメニュー。Video Adjustでプリセットやメモリーした調整を切り替える。プログレッシブ再生の動き調整などのほか、ネット動画用のStream Smoother、フィルムライクな質感を表現するFilm Grainなどの機能もある
Video Adjustでのプリセット値の一部。プロジェクタ用(PJ)と薄型テレビ用(FPD)に大別され、それぞれ「Digital Cinema」、「Film Cinema」、「Live」がある。このほかソースダイレクトに近い「Reference」がある
PJ Film Cinema
FPD Film Cinema
Stream Smootherの調整画面。OnとOffの切り替えのみ。YouTubeなどのネット動画の視聴時にはOnとするとノイズの少ない見やすい映像になる
Film Grainの調整画面。写真は最大値の+8。最小値は0で合計9段階の設定が可能

天才数学者の意識を移植された人工知能は、人類を脅かす存在になるのか?

トランセンデンス
※ジャケットとは異なります

 一通りの準備が終わったところで、いよいよ上映といこう。「トランセンデンス」は、先に述べた通りドルビーアトモス対応のソフトだが、僕自身もドルビーアトモス対応システムでの視聴はしていない。今回もドルビーTrueHDによる通常の5.1ch再生で視聴を行なっている。

 ドルビーアトモス対応ソフトについて解説しておこう。ドルビーアトモスはドルビーTrueHDの上位互換なので、5.1chのサラウンド音声を選ぶ場合もアトモスを選べばいい。BDプレーヤー側もビットストリーム出力を選択しておけば、AVアンプ側には記録された信号を送るだけだ。つまり、BDプレーヤー自体は特にアトモスに対応した機器が必要になるわけではなく、ドルビーTrueHDに対応していれば、現有のBDプレーヤーがそのまま使える。BDソフトも、TrueHD版とドルビーアトモス版が併売されるような面倒なことにはならないので、ソフトを買い間違える心配はない(ただし、「ゼロ・グラビティ」など劇場版ではアトモスに対応し、アトモスの家庭向け規格が出来る前にBD化されたタイトルについてはこの限りではなく、実際ゼロ・グラビティのアトモス版が'15年2月に発売される)。

 ドルビーアトモスの信号をデコードするのはAVアンプだ。対応したAVアンプは、専用のデコーダーで接続されたスピーカーに合わせたレンダリングを行ないアトモス再生するが、非対応のAVアンプは従来通り5.1chまたは7.1chのチャンネルごとに信号を記録されたドルビーTrueHD音声をデコードすることになる。

 ドルビーアトモスでの視聴をしないのに、くどくどとアトモスの説明をしているのには理由がある。アトモスは基本的には天井に配置するトップスピーカーが複数追加されたもので、それにより自由度の高いサラウンド空間のデザインが可能になる。その最大の効果は、単純に雨が上から降ってくるというようなものではなく、フロントとサラウンドのスピーカーの間に浮かぶ音など、今までのサラウンドでは再現しにくかった音の定位を実現できるということだ。

 「トランセンデンス」は、そうした自由度の高いサラウンド音場を積極的に活用していることが5.1ch再生でもよくわかるのだ。

 冒頭のシーンは、天才数学者であるウィルと妻のエヴリンがかつて住んでいた家を、親友であるマックスが訪ねる場面で始まる。荒れ果てた庭に咲くひまわりを見ている場面に、ウィルが好んで聴いていたフォークソングのアナログレコードの再生が重なり、回想シーンへと切り替わる。

 そのフォークソングは、最初は後ろから静かに鳴り始める。以後もこの作品は今までのサラウンドの文法にはあまりない音の配置を多用するが、最初はかなり違和感がある。そして、そのフォークソングの演奏が後ろから次第に自分に近づいてくる。画面には回転するレコード盤の映像がフェードインしはじめ、レコード盤の映像に切り替わりが済むとフォークソングもいつの間にか前方に移動し終わっているという具合だ。

 この切り替わりが実にスムーズで、数年前の回想の場面にすっと入り込むことができる。この音響効果は実に巧みだ。ドルビーアトモスでの視聴ができないながらも、この作品を取り上げようと思った理由がこれ。サラウンドの音の演出が実にユニークで、しかもそれを5.1chでもしっかり感じられるのだ。

 音質面について、BDプレーヤー側での調整値はほとんどないが、使用するAVアンプが同じパイオニア製だったので、HDMI接続時にクロック同期をしながら信号を伝送するPQLSを使用している。ジッターの低減に効果のある機能だが、PQLSをオンにすると微小音の明瞭度が高まるほか、各チャンネルの音の分離もよくなるため、空間の再現性も向上する。さきほどのような後ろから前へのゆっくりとした音の移動なども実に定位感が優れている。

 天才数学者という、一般的にはちょっと変わった人柄と思われがちなウィルを演じるジョニー・デップの豊かな表情も見事だが、その声はクリアなだけでなく前に出てくるような実体感のある鳴り方だ。

 最初に結論を述べてしまうが、BDP-LX58の最大の魅力は音だ。これまでの10万円クラスのモデルでは期待できなかったような音が出る。細かい音まで丁寧に再現でき、サラウンド空間の広がりや音像の定位も明瞭という情報量の豊かな再現をする。そういうモデルは得てして、個々の音の強さや力強さが不足しがちになる。逆に音像はくっきりと力強いが、空間の広がりなどはやや物足りないということもある。

 BDP-LX58はこの相反する両方の要素を備えている。それが価格を超えた実力と言った意味だ。ウィルは招待された人工知能に関する講演会で講演を行なうが、そのホールの長い残響を伴う音の響き、会場にいる観衆のざわめきは実際のホールのサイズを感じさせる響きがあり、そこにウィルの言葉が力強く表れる。

 「人工知能は個々の人間の天才をたやすく凌駕する。加速度的に進化して人類を超越する」と、木訥な口調でありながら、たいていの人ならば反感を感じる内容の事柄を信念をもって伝える。抑えた口調ではあるが、そこには頑固と言えるほどの揺るがぬ意志がある。そんなニュアンスが濃厚に表現されるのだ。

 この映画の影響かはともかく、現実でもあのホーキング博士が人工知能について、まったく同様のことを(ウィルとは反対の意味で)警告をしたように、人類を超越する人工知能に得体の知れない恐怖感を覚える人は多いだろう。コンピューターが意志を持って人類を滅ぼそうとするSF作品は枚挙に暇がない。

 そんな人々の最右翼であるコンピュータやIT技術を排除しようとするテロ組織にウィルをはじめとする人工知能の研究者たちが一斉に襲撃され、命を落としてしまう。余命わずかとなったウィルを救いたいがために、妻のエヴリンは研究していた人口知能のコアプロセッサにウィルの意識をインストールすることを思いつき、それは成功する。

 人工知能として蘇ったウィルの意識が初めてネットワークに接続する場面も刺激的だ。日本のアニメではよくあるサイバースペース的な映像が展開し、その緻密なワイヤーフレームやバイナリデータが乱舞する映像に合わせて、最初は雑踏のさまざまな音やスマホでの会話などが前後左右に散りばめられ、そんな光と音の奔流の中を駆け抜けていく。この移動感と包囲感は見事としか言いようがない。音の配置が大胆かつ緻密で新鮮な驚きがある。S/N感が良く音が混濁しないので、膨大な音が一斉に鳴っても個々の音が埋もれてしまうようなことはない。ひとつひとつの音に厚みがあり実体感を持った鳴り方をするので、サイバースペース的であるながら感触がリアルなのだ。なかなかにこういう再現ができるBDプレーヤーはない。

丁寧に再現された緻密な4K映像で、人工知能の進化が描かれる

 音の良さが素晴らしいBDP-LX58だが、画質の実力も価格以上の出来だ。MGVCソフトではあるが、一般的なBDソフトと同じ24ビット出力しかできないハンデはあるものの、その差をあまり感じさせない豊かな映像が得られる。視聴では4Kアップスケール機能を使い4K/24p出力でプロジェクタに接続しているが、4K変換が実にスムーズで細部のざらつきが少なく、丁寧な再現だ。

 人工知能となったウィルは、自らの進化のために株で金を稼ぎ、その資金を使って郊外の廃れた町を拠点とし、地下に広大な施設を建設する。広大な土地に太陽電池による発電設備を整え、電力まで自前で確保する。遙か遠くまで太陽電池パネルが並ぶ荒野の場面も見通しがよく描かれるし、舞い散る砂塵の様子も実にきめ細かい。

 地下に移動すると、今度は最先端のハイテクが導入された清潔な空間が広がる。だが、エヴリンの住む空間は対照的に過度な灯りを抑えた落ち着いた空間だ。間接照明のみでかなり暗い。暗色が豊かなことも本機の特徴だ。暗い場面でも色が抜けないので、暖色の間接照明の柔らかい光の様子がきれいだし、エブリンの表情もきめ細かく描かれる。そんな空間のそこかしこに、生前の姿を模した人工知能のウィルの顔が表示される。透過スクリーンに現れるグラフィック画面のウィルは緻密だが平板。こんな質感の違いもしっかりと描き分けができている。

 この場面は音も特徴的だ。ウィルの声は室内のスピーカーから発せられるものだから、定位感は漠然としている。サラウンドでの再現としては、スクリーンにウィルの顔が映っているときは、一度空間全体に広がった声の残響がスクリーンの位置に残る感じでその所在を表現。聞こえ方はステレオ再生で逆相接続で音を聴いたときのような感じになる(サラウンドなのであまり気持ち悪くはならないが)。こういう音を使う演出も大胆だ。エヴリンの顔がアップになる場面では声の残響は視線の先(つまり、視聴位置の後ろ側)に残り、しかもエヴリンの後方には別のスクリーンにウィルの顔も映っている。SF好きな人ならば、この場面にはあこがれるはず。人工知能と人の生活が先進的ではあるが、冷たい感じはなく、実に心安らぐ空間として構築されている。

 これは、人工知能となったウィルの人間らしさを表すものでもある。基本的にウィルは優しい。もはや人類が超越した自分に追いつくことはできないと淡々と言うが、それは人類を下等に見ているわけではなく、ただ事実を述べているだけだ。

 だが、人間には恐ろしい速度で進化するウィルは、だんだんと人間的ではなくなってくる。たとえば、妻のエヴリンの身体的なデータを精密にモニターすることで感情や心の動きまで測ろうとして、拒否される。驚異的なナノマシンの力で怪我をした人間や先天的に身体に不自由がある人の障害を取り除き、さらにはナノマシンによって相互にネットワークで接続された新人類「ハイブリッド」を生み出していく。おそらくはその方が人類のためだと判断したのだろうが、その領域にもう人間はついていけない。

 ちなみに、BDP-LX58の画質調整もいろいろと試してみたが、最終的にはプリセットの「PJ Digital Cinema」に落ち着いた。

 基本的な画質調整はプロジェクタ側で行なっているので、「Detail」や「S.Resolution」でディテール感の塩梅を加減してみたが、自分なりに調整した結果、「PJ Digital Cinema」と大差のない画質になってしまった。よくできたプリセットなので基本的にこれらを使い分けるだけでほとんどの映画に対応できるはず。

Video AdjustでMemoryを選択した場合、調整を行うためのSettingsという項目が現れる。ここで画質調整を行なう
Memoryでの画質調整メニュー。4つのノイズリダクションのほか、Brightness(明るさ)、Contrast(コントラスト)、Hue(色合い)、Chroma Level(色合い)などの調整ができる
ディテール感を向上させる「Detal」は、0〜+8の9段階で調整が可能
超解像技術で解像感を高める「S.Resolution」は、0〜+3の4段階が選べる

人類を超越した人工知能に、人々が立ち向かう。その結末は悲しい。

 激しい銃撃などもいくつか見られるが、基本的にこの作品は「静か」だ。この静けさが表現できるかどうかも、BDプレーヤーの重要なポイントと言える。

 戦闘場面があまり派手にならないのは、人工知能のウィルに人類を攻撃する理由がなく、そのための備えもないから。ハイブリッドたちにしても、銃弾に倒れても即座にナノマシンが修復するため死なない。そう、戦いにならないのだ。自らを超える存在を怖れたあまり、すべてを壊してしまったのは人々だった……。

 もはやSFでの話ではなく、現実でも起こりえる数年先の事柄を実にリアルに描いたこの作品を、BDP-LX58は生き生きと美しく見せてくれた。冒頭でこの作品は取り上げた理由はあれこれ言っていたが、結局は自分がこの作品を大好きになってしまったのが一番の理由だと思う。良い作品ほど、良い映像と音で楽しみたい。本機はその気持ちに十分に応えてくれた。

 最後に、象徴的に使われるフォークソングが流れるスタッフロールで、2ch再生でアナログ音声も聴いてみた。スタッフロールでの音楽も非常に凝っていて、音場の広がりや立体的な音の配置などという点ではサラウンド音声の方が良いのだが、2ch再生で聴き比べると、アナログ音声出力がかなり優秀なことがわかる。

 情報量が豊かで細かい音まで丁寧に再現され、しかも音の厚みや力感が充実しているというのがHDMI接続でも感じた本機の音の良さだが、アナログ出力では音の厚みや充実感がさらに増す。強弱や音圧の大小の表現が豊かになるのでボーカルのニュアンスもさらにしっかりとするのだ。

 本機はBDプレーヤーといっても、CDやSACDの再生もできるユニバーサル仕様なので、2chの音楽再生用として使う人も多いだろう。特にステレオ再生時はアナログ接続の方が表現力が豊かで楽しい音になると感じた。

 さらに、ゼロシグナル端子も試してみた。これは、信号伝送そのものには直接関係しないもので、BDP-LX58のゼロシグナル端子と、AVアンプの使っていない端子を接続して使うというもの。これによって双方の機器の基準レベル(GND)が揃い、電位差が抑えられることでより正確な信号伝送が可能になるというものだ。

アナログ音声出力も高品位。HDMIとの音質傾向の違いにも着目
ZERO SIGNAL端子を装備

 こちらは、HDMI接続とアナログ接続ほどの明らかな変化はないが、ゼロシグナル端子を使った方が、音場の広がり感や余韻の響きがしっかりと出るように感じた。僕の環境ではあまり違いがわからなかったが、映像の効果も期待できるようだ。

画質と音を重視する人にとっては、オススメ度No.1のお買い得モデル

 BDプレーヤーは2〜3万円ほどの価格帯のものが機能的にも充実しており、それより高価な製品は発売されにくくなってきている。OPPOなど海外の高級BDプレーヤーに押され気味な状況だっただけに、画質・音質に徹底してこだわった製品が出て来たのは嬉しい限り。

 しかも、この音の良さはかなりのレベルにある。上には上があって、BDP-LX88の音はこれをさらに上回るレベルにあるのだが、価格が価格なのでお薦めしにくい。その点、本機は価格以上の画質と音質を実現している点でかなりお買い得と感じる。

 本作がその代表例だが、ドルビーアトモスによる自由度の高いサラウンド音場の再現は、映画の音作りにも影響を与えると思っている。つまり、映画のサラウンドはもっと面白くなるはず。また、ドルビーアトモスの音楽作品もきっと素晴らしいものになるという期待もある。音の良い作品がこれから続々と登場するというわけだ。画質や音質にこだわる人なら、そんな近い将来のために、BDP-LX58の購入を検討するともっと映画が好きになれるはずだ。

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BDP-LX58 トランセンデンス

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40〜60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。