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ゼンハイザー、音質重視派に向けたワイヤレスヘッドフォン「HDB 630」。付属ドングルでiPhoneもハイレゾ

「HDB 630」

Sonova Consumer Haering Japanは、ゼンハイザーブランドより、“オーディオファイル向け”を謳うワイヤレスヘッドフォン「HDB 630」を、10月21日に発売する。価格はオープンで、市場想定価格は95,700円前後。付属のUSB-Cドングルを使うことで、iPhoneなどでもハイレゾワイヤレス接続が可能。

「ワイヤレスの限界を解き放て」がスローガン。事前に行なわれた説明会では製品開発を担当したJohann Evanno氏のメッセージも紹介された

「ゼンハイザーにとって新たな領域」のモデルで、音質にこだわりつつ、ワイヤレスの便利さも兼ね備えた密閉型ヘッドフォン。担当者は「(ワイヤレスヘッドフォンの)MOMENTUM 4 Wirelessと有線ヘッドフォン『HD 600』シリーズを“いいとこ取り”したようなモデル」と説明する。

同社は有線からワイヤレスに移行する際、ワイヤレス化による音質の低下や接続の不安定さ、接続するデバイスごとに対応するコーデックが異なる点が障壁になっていると説明。

特に日本ではLDACなどに対応していないスマートフォンが主流なことから、「我々の調査によれば、ハイレゾコーデックに対応していて音楽を楽しめるベースマーケットは全体の16%程度」だという。

この問題を解決するために、HDB 630ではaptX Adaptiveに対応したUSB-Cドングル「BTD 700」を標準で同梱。これを組み合わせることで、iPhoneなどハイレゾコーデック非対応のデバイスでも、ハイレゾワイヤレスを楽しめる。これにより「市場規模が5倍の80%程度になり、“接続の壁”を超えていけると考えている」とした。

HDB 630はBluetooth 5.2準拠で、コーデックはSBC、AAC、aptX、aptX HD、aptX Adaptiveをサポート。またUSB-Cによる有線接続にも対応。その場合は最大96kHz/24bitのハイレゾ再生ができる。

「HD 600」シリーズの名前を冠しており、音質も追求。サウンドチューニングでは、低域をMOMENTUM 4 Wirelessより抑えつつ、開放型の有線ヘッドフォン「HD 650」よりも持ち上げることで、「現代のオーディオファイルのみなさまが好むようなカテゴリ」向けにチューニング。

高域は「(HD)600番代を踏襲している」とし、広がりがあり、クリアな高域を密閉型でも実現したという。

ドライバーは42mm径

ドライバーは42mm径のダイナミック型で、振動板自体はMOMENTUM 4 Wirelessと同一ながら、新開発のアコースティックシステムと組み合わせることで、さらなる高音質を追求した。

新デザインのダストカバー

具体的には、ユーザーの耳ともっとも近いダストカバーには新デザインを採用。より透明度を高めることで高域の伸びを改善した。

また振動板のマグネットホルダー背面にはアコースティックメッシュを追加。これは中高域~高域下部の影響を与える部分で、DSPによるアクティブチューニングとかけ合わさることで「ボーカルが生々しく、芳醇に聴こえるようになる」とのこと。

さらにマグネットホルダーとアコースティックメッシュを補完する形で、バックボリューム(ドライバー後方の空間)も最適化。空気の流れをスムーズに効率化することで低域がより締まりがありキレのあるものになるという。

またバックボリュームの仕上がりはバッテリー駆動時間にも影響。「空気の流れがスムーズにいかないと、パワーを余計に使ってバッテリーを消費する。ここの流れが適切になっていることで60時間の駆動時間を実現した」としている。

最後にイヤーカップも改良。しっかりとした空気の流れを作れるようにスペースを確保した。

これらの改良により、再生周波数帯域はUSB有線接続時で6Hz~40kHzを実現。アナログ、Bluetooth接続時の再生周波数帯域は6Hz~22kHz。

アクティブノイズキャンセリング(ANC)機能も搭載。音質とANC性能を両立するために、それぞれに特化したDSPチップを各1基搭載している。ANCは強力ながら、「音質優先で、音を邪魔しないギリギリの強さ」になっているとのこと。周囲の音を取り込めるトランスペアレントモードも搭載した。

駆動時間は非ハイレゾ接続+ANC ON時で最大60時間、ハイレゾ接続+ANC ON時でも最大45時間のロングバッテリーを実現。充電時間は約2時間で、10分の充電で約7時間動作すると。

またバッテリー自体も、1日10時間程度使用し、4日に1度充電する場合で、500回充電してもバッテリー最大容量低下を80%に抑えられる設計だといい、「1~2年でバッテリーが明らかにヘタってくることのない設計・実装になっている」とのこと。

新開発のパラメトリックEQを採用

さらに「もうひとつの魔法」として、HDB 630専用に新開発したパラメトリックEQ(イコライザー)も採用した。スマートフォン用アプリ「Smart Control」から利用できるもので、従来のEQよりも、さらに細かく、周波数ごとに精密なコントロールが可能。

帯域の上げ方/下げ方も裾野を広くなだらかにしたり、エッジを効かせて強調したりと、自分好みにカスタマイズできる。

またアプリでは、パラメトリックEQのA-Bテストも可能。チューニングする前のサウンドと、自分好みにカスタマイズしたサウンドを簡単に聴き比べられる。今後のアップデートでは、カスタマイズしたパラメトリックEQをQRコードでシェアできる機能も搭載される。

新開発のパラメトリックEQについて、ゼンハイザー担当者は「このレベルで提供できるブランドは、現状ないのではないかと思っています。もともとの製品の素性が良くないと、(EQで)どれだけいじっても音が変になってしまう。自信があるので、このEQで自分の音を突き詰めて欲しいです」とした。

クロスフィード機能も搭載
ゼンハイザーの真空管採用コンデンサ型ヘッドフォンシステム「HE 1」

さらにHDB 630では、クロスフィード機能も搭載。録音が古く、楽器やボーカルが極端に左右のどちらかに偏っている音源を聴きやすくバランス調整するもの。ゼンハイザーの真空管採用コンデンサ型ヘッドフォンシステム「HE 1」で採用していた機能を盛り込んだといい、「今までワイヤレスヘッドフォンでは聴きにくかった楽曲も移動時に楽しめる」とのこと。

筐体では、ヘッドバンドには日本製の合成皮革を採用したほか、イヤーカップやイヤーパッドにも日本製パーツを盛り込み、軽量設計と側圧を軽減した装着感を実現している。

重さは付属品、アクセサリーを除いて約311g。USB-Cドングルのほか、キャリーケース、USB-C充電ケーブル、長さ1.2mのオーディオケーブル(3.5mmステレオミニ)、航空機用アダプタが付属する。

付属のキャリーケース。USB-Cドングルやケーブルなどをまとめて収納できる
パッケージ

実機を聴いてみた

短時間ながら実機に触れてきた。装着感はかなり良好で、肉厚なイヤーパッドも相まって側圧はほとんど感じないが、頭にしっかりフィット。頭を揺するくらいではズレることもなかった。

iPhoneにUSB-Cドングルを接続したところ

iPhone 16 ProにUSB-Cドングルを接続、Apple Musicを音源に数曲試聴してみた。まず印象的だったのはボーカルのクッキリさ。「三浦大知/Horizon Dreamer」では、男性ボーカルらしい芯の太い歌声をしっかりと楽しめる。

低域はズシンと沈み込むような表現ではないが、スピード感が早く、ダンスナンバーであるHorizon Dreamerの魅力を引き立ててくれる。しっかりとタイトさもあるのでボーカルを邪魔することもなかった。

また「サカナクション/新宝島」では、サビのバックで流れている細かな楽器の音色やコーラスもしっかりと描写される解像力の高さも感じられた。

ANCは、静かな会議室でのチェックだったが、音楽を流していると周囲の人の話し声がほとんど聞こえない強さ。音楽が止まっていると、話の内容が推測できる程度には声が伝わってくる印象だった。

実売価格が95,700円前後とかなり高級な点がネックだが、9月末にはBowers&Wilkinsから「Px8 S2」が実売129,800円前後で登場しており、ゼンハイザーの参戦で、10万円前後の高級ワイヤレスヘッドフォン市場がさらに熱を帯びるかもしれない。