鳥居一豊の「良作×良品」

ソニー「CAS-1」で聴く、ハイレゾ「心が叫びたがってるんだ。」

コンパクトながら存在感あるクラスを超えた音

 今回の良作は、現在も公開中(執筆時点では10月下旬まで公開予定の劇場もある)の映画「心が叫びたがってるんだ。」のオリジナルサウンドトラック。「心が叫びたがってるんだ。」については、劇場には行かずBDの発売を待つつもりでいた。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(以下「あの花」)のTVシリーズで泣き、劇場版のBDで号泣し、最近放送された総集編でもまたしても涙腺が崩壊し、もうパブロフの犬状態の自分が「あの花」スタッフが再結集して制作した作品を見たら、ひとめもはばからずに目を真っ赤に腫らしてしまうかも。50に迫るおじさんが映画館で醜態をさらすわけにはいかないのだ。

「心が叫びたがってるんだ。」
(C) KOKOSAKE PROJECT

 だが、劇場公開中というタイミングでmoraからハイレゾ版の配信がスタートしている(4,400円:税込)ことを知って、状況が変わった。「心が叫びたがってるんだ。」のサントラを取り上げるのは今がベストのタイミング。ならば劇場へ行って本編を見ておかねばならない。まあ、泣いたら泣いたらでネタになる。そう自分を奮い立たせて映画館で見てきたわけだ。

 本作は劇場公開中でBDの発売もしばらく先という状況だから、本編の内容にはなるべく触れないつもりなのでご容赦を。あらすじとしては、とある事件をきっかけに言葉を話すことができなくなってしまった主人公の成瀬順とそのクラスメートたちが、地域交流のための催し「第45回 揚羽高等学校 地域ふれあい交流会」でミュージカルを上演するというもの。青春群像劇と銘打っており、多感な少年少女たちの苦悩や喜びをせつせつと描いていくわけだ。

 実はそういう物語だとはまったく知らなかったのだが、ミュージカルを題材とした映画のサントラというのは、オーディオ機器のレビューと絡めるには最適なもの。これは、幸運というより、音楽が重要な作品だからこそサントラもCDだけでなくハイレゾ版の配信をいちはやく行なうという英断だったわけで、ここまでお膳立てが整っていたら、ここで取り上げるのはもはや当然の流れと言えるだろう。

 ハイレゾが注目度を高めている現在、ハイレゾ再生に対応したオーディオ機器は数多く登場しているので、候補は山のようにある。いくつかの有力な製品から選んだのは、ソニーの「CAS-1」(実売価格86,000円/税込)。デスクトップで使えるBluetooth対応のコンパクトなオーディオシステムだ。

ソニー「CAS-1」

 Bluetooth対応で、スマホや携帯プレーヤーのほとんどとワイヤレス接続でつながり、気軽に音楽を楽しめる。ソニーの対応機器との組み合わせならばLDACコーデックを使うことでハイレゾ音源(最大96kHz/24bit)もBluetooth接続で楽しめる。しかも、PCとUSB接続すれば最大192kHz/24bit、DSD 2.8MHz(リニアPCM変換)対応のUSB DAC機能も備えている。

 Bluetoothスピーカーといえば、片手で気楽に持ち運べるようなコンパクトなサイズのものが人気で、ソニーもそうした製品を発売している。だが、CAS-1は家の中で使う据え置き型でスピーカーがセパレートしたコンポタイプの製品だ。

 こうした商品形態を選択したのは間違いなく音のためだろう。コンパクトな一体型スピーカーは省スペースでバッテリー内蔵型なら持ち運びも容易だし、家の中で使うとしても置き場所を選ばず配線がごちゃごちゃとすることもない。しかし、左右のスピーカーが比較的近距離になるためステレオ感が感じにくい。ステレオ録音ならではの左右の音の広がりをきちんと楽しむなら、スピーカーは左右に分かれている方が有利だ。というわけで、さっそく取材機をお借りして、自宅で試聴の準備を整えた。

見た目も機能もすっきりとシンプル

 さっそく開梱して、機器の設置と配線などの接続をする。製品はBluetoothとUSB接続(USB A/USB Bの2系統)に対応した本体とスピーカーが2つで構成されていて、どちらも高さが178mmで統一されている。

スピーカーと本体を並べたところ。スピーカーには鉄製のベースと真鍮製のスパイクが装着されるため、やや背が高い。デザインはシンプルそのもの

 取材用に借用したのはホワイトモデルだが、このほかにブラックモデルもある。本体部はブラック塗装だが、スピーカー部は黒に近いブラウンの突き板仕上げとなっている。見た目の雰囲気や質感はブラックの方が個人的には好ましいが、デスクトップで使うことを前提としたコンパクトなシステムなので、ブラックはちょっと机の上が重たい感じになるかも。このあたりは、実際に置く場所と合わせて選ぶといいだろう。

本体部。側面や天面には操作ボタンどころか継ぎ目なども目立たないようになっており、すっきりとしたデザイン
本体部の正面。上部に電源ボタン、入力切り替えボタンとインジケーターがあり、中央に大きなボリュームがある。下部にはUSB端子とヘッドフォン出力がある
本体部の背面。上部にヘッドフォン用のゲイン切り替え(HI/LOW)、Bluetoothのペアリングボタンがある。中央にはスピーカー端子がタテに並び、下部には電源ボタンとオートスタンバイ機能のスイッチ、PCと接続するUSB端子がある
NFCのマークは上面にある。目立たない配色となっているのはデザインを優先したためと思われる
NFCでBluetooth接続を行うときは、機器を上面に載せる感じでマークに近づける
本体部のACアダプター。コードの長さも十分にあるので、机の下など目立たない場所に置いておける

 ちょっと驚くのが、付属するアクセサリーの充実度と心配りだ。スピーカーの脚部には真鍮製のスパイクが接続されているが、このほかに高さが長いスパイク(大)が4つ付属している。これは前側のスパイクを交換することで斜め上を向かせた設置ができるようにするもので、机上に置いたときに机の板面で主に低音が反射してしまうのを避ける役割もある。

 さらに、鉄製のスピーカーベースが2枚用意されている。これは、強度や材質もさまざまなデスクトップに置いたときに、置き場所の影響を最小として十分なクオリティを確保するためのもの。付属のスピーカーケーブルも、机の上で使うことを前提に長すぎず短かすぎずの1.2mとし、見た目と音質の兼ね合いまで考慮したAWG♯18線材を採用したもので、折りグセがつかないようにゆる巻きとしている。

持ってみるとその重さに驚くスピーカーベースに設置した状態。右側がスパイク(大)に交換した状態で、約8度上に向くようになる
取り外したスパイク。長さが随分と違っていることがわかる
スチール製のスピーカーベース。裏面には5箇所にゴム製のクッションがあり、滑り止めと振動吸収の役割を果たす

 オーディオマニアであれば、こうしたアクセサリーを自前で用意して万全な設置をする。例えば、スピーカーケーブルも、別途購入するのが普通だし(切り売りのスピーカーケーブルなら長さも最適に合わせられる)、付属品を使う場合でも折りグセを丁寧に揉みほぐすかジップロックに入れて煮たりする(湯煎するとケーブルが柔らかくなり折りグセが直しやすい)のもマニアであれば厭わない。そうした面倒くさい準備をしない、あるいは知らない一般的なユーザーでも、同じような工夫/効果を買ってすぐの状態で得られるようにするための、心配りと考えたほうがいい。誰が使っても良い音で鳴らせる。これも徹底した音質へのこだわりだ。

スパイク(大)を設置した状態のアップ。スパイクは先端にゴム系のクッションが備わっており、直接置いても板面を傷つけることはなく、ケガの心配もない
折りグセがつかないようにゆる巻きとされたスピーカーケーブル。配線の末端ははんだで固定されており、先がバラバラになりにくく配慮されている

 音質へのこだわりという点では、製品内部も徹底したものになっている。アンプ回路としては、ハイレゾ対応のために広帯域化したフルデジタルアンプ「S-Master HX」だが、専用に設計されたものを使用する。このほか、Bluetoothや圧縮された音源もハイレゾに近い品質で再生する「DSEE HX」も備える。アンプ回路も左右対称設計で電源部も独立している。

 さらに、ヘッドフォンアンプも独立した基板で実装している。ソニーのポータブルヘッドフォンアンプ「PHA-2」と同じオペアンプ、DACチップを採用し、同等の実力を備えたものだ。スピーカーだけでなくヘッドフォンで聴く場合もより本格的な音で聴いてもらいたいという心意気が憎い。

2枚の基板を向かい合わせて配置

 これら2枚の基板は、本体部のボディ内部でそれぞれインナーシャーシに取り付けられ、対面するような状態で配置されている。またインナーシャーシは箱組で強固に組み立てられており、振動などの影響にも配慮している。しかも、スピーカーとヘッドフォンは同時再生できないように作られている。それぞれ使わない方の基板は電源をカットし、相互の影響が出ないように工夫しているわけだ。

 ソニーの高級コンポで開発されたデジタル技術なども惜しみなく投入されており、コンパクトでも本格的な音が楽しめることを追求しているモデルなのだ。

 スピーカーは、ハイレゾ対応の広帯域ユニットの採用だけでなく、エンクロージャーにもこだわっている。側面や天面、底面は9mm厚のバーチ合板、バッフル面と背板は12mmのMDF材を組み合わせて、強度を確保。内部の各所には共振を抑える補強も入っている。

スピーカーのサイズは、片手で持てるようなコンパクトさ。ユニットはウーファが60mm径、ツィータが14mm径だ

 バスレフポートも風切り音などのダクトノイズが耳に入らないように、ダクト内部の表面をざらっとしたテクスチャー処理を加え、開口部も大きく開いたフレア形状とするなど念入りに設計されている。これらは、デスクトップ上での近接した距離で聴くため、耳障りになる不要なノイズや歪み感の低減を徹底したものだ。スピーカーユニットも銅キャップや銅リングの装着で歪み対策を行なっている。

 付属するリモコンはシンプルなもので、BluetoothのペアリングやBluetooth再生時の楽曲操作ボタン、入力切り替えとボリュームなど、最小限のボタンを備えるのみ。機能自体もシンプルなので、実用上はまったく問題はない。ただし、圧縮音源などを高音質化する「DSEE HX」のオン/オフは操作できず、スマホ用アプリの「SongPal」を使う必要がある。

底面にあるバスレフポート。開口部が広がったフレア形状のポートは、前方に向けて角度がついている
カードサイズのリモコン

いよいよ再生。小型で精密、芯の通った存在感のある音

 試聴は我が家の視聴室で行なっているが、薄型テレビ用のラックにスピーカーを設置し、その手前にあるカーペットにじかに座って聴いた。いつものようなスピーカーとの距離が2mほどあるソファに座るのではなく、デスクトップで使うときの状態に近い近接した位置とした。ちなみにスピーカーの間隔は約1mで、スピーカーと視聴位置もそれぞれ1mとなる正三角形の位置関係としている。

スピーカーは薄型テレビ用の背の低いラックに設置。スピーカーの間に物を置きたくないので、本体部はラック内に収納した

 再生ソースは、自宅でオーディオ再生用として使っているPCとUSB接続し、「foobar2000」で再生している。「心が叫びたがってるんだ。」オリジナルサウンドトラックのハイレゾ版は、moraではFLAC 96kHz/24bitで配信されている。アニメソングやJ-POPはCD化を前提とした48kHz/16bitマスターということが少なくなかったが、96kHz/24bitで録音された音源が増えてきたのはうれしい。スペックがすべてではないが、より情報量が多くなるわけで、わざわざハイレゾ音源を購入したありがたみはある。

 ドライバのインストール作業は不要。Windowsが備える汎用ドライバかというとそうではなく、専用のドライバが自動でインストールされる。USB DAC機能がドライバのインストールをする手間なく使えるのは便利だ。こうしてじっくり使ってみると、さまざまな点でユーザーフレンドリーに作られていることがわかる。

 いよいよ再生開始。1曲目は「憧れのお城」。おしゃべり好きな幼少期に主人公が山の上にあるお城に憧れているという、本編のイントロで使われる曲。ちなみに物語の舞台は「あの花」と同じく秩父となっている。このお城は予想通りラブホテルで、主人公たちが高校生となった現在は廃墟となっているが、果たして実在するのだろうか? 実在するならば聖地巡礼をするかもしれない。

 さておき、この曲は、ミュージカル「80日間世界一周」の「Around The World」のメロディをモチーフとしたもので、それをピアノでやや切なさを感じさせるタッチで奏で、次にバイオリンが加わり編成もオーケストラとなって、童話の舞踏会の場面を思わせる曲になっている。ピアノやバイオリンの音は粒立ちの良い鮮明なものだが、残響がやや長めの録音でやや甘いタッチの曲になっている。

 こうしたサウンドデザインは、ちょっとおとぎ話的な要素を盛り込んだ物語に合わせたものだが、個々の音を粒立ちよく聴かせながら、微小なレベルの余韻まで美しく再現できないと、曲の持ち味や物語の雰囲気が伝わらない。このあたりはCAS-1はなかなかの実力を発揮した。まず、ピアノの低音部のゴーンと床を鳴らすような重い響きまでしっかりと再現できること。ブリブリと鳴るような低音ではないが、意外に低い音域まで力強くなるし、バイオリンの音色にも実体感がある。このあたりの低音域が不足すると、音が軽くなりすぎてしまい、曲のムードも軽薄になる。それでは、少年少女が抱える深刻な悩みや心の内に秘めた強い想いの気配が感じられない。その点では、かなりの表現力を持っていると感心した。

 物語の導入は主人公が言葉をしゃべれなくなるいきさつが語られることもあり、曲の雰囲気もやや重い。ストーリーもわりとシリアスなので、そうした曲調のものが多いが。そんな曲を聴いていくと、CAS-1が個々の音が明瞭で情報量の豊かな再現だとわかる。劇伴といってもBGM的に所在なくフワフワした再生にならず、音像にしっかりと実体感を感じさせる音色が、ぎゅっと凝縮されたような再現になる。

 一般的なスピーカーとの違いは、ステージの広がり感を含めてややコンパクトな聴こえ方になること。これは近接した位置で聴いていることも関係があるが、ちょっと離れると微小な響きの美しさが失われ、全体にぼんやりとした印象になる。サイズ的には一回り大きいくらいのミニコンポだと、音質的な実力は別としてもう少しステージ感が雄大になり、部屋中に音が響いている感じになる。

エンクロージャーの内部構造

 物語が動き出すきっかけとなる5曲目の「ふれあい交流会実行委員!?」では、パーカッションやベースが生き生きと鳴り、躍動感のある再現だ。音の立ち上がりがきれいで、澄んだ音になる。感触は柔らかいのに反応がいい。だから音がとても瑞々しい。これは、近接して聴くことを意識して歪みや音楽以外の不要な音を排除した音作りがよく感じられる部分だ。曲の多くはあまりドラマチックにせず、しっとりと心に染みこんでいくような落ち着いたものが多いが、そんな楽曲を雰囲気豊かに鳴らしてくれる。

 そして、劇場で本編を見ていたときもちょっと驚かされた曲が11曲目の「伝えたいこと」。ピアノによるしっとりとしたメロディーではじまり、中盤でストリングスが本格的に参加してぐっと盛り上がってくる。ここの音圧的なダイナミックな表現が実に見事だ。ボリュームを上げたように音圧レベルがぐっと高まってくる。こういうダイナミックレンジの広さは小型のオーディオシステムの泣き所で、ぐっと盛り上がる部分で音圧的なエネルギー感が追いつかず、非力さを露呈してしまいがちだ。しかし、CAS-1にはそんな非力さは感じさせず、盛り上がるべきところはぐっとエネルギー感が増す。こんなに底力のある再現ができるんだ! と、ちょっと驚かされた。音圧的なダイナミックさは、けっこうな大型スピーカーに近い振る舞いで、微小な音の再現性の鮮やかさと合わせて勢いのある音になる。これは、アンプの駆動力だけでなく、スピーカーの感度の高さや反応の良さもしっかりと磨き上げられていることがよくわかる部分だ。

 聴いているうちに、音の広がりやステージ感がややこじんまりとした印象はまったく感じなくなっていた。なんというか、雄大なスケールのステージが迫るのではなく、目の前の小さな世界に没入していくイメージだ。実際にスピーカーににじり寄って聴いてしまっているわけではないが、意識としてはそれに近い。絶対的なステージ感の大小ではなく、広がり感や音場感を豊かに感じられるのは、ヘッドフォンで聴いた印象にも近い気がする。

浮かび上がるようなボーカルの存在感は圧倒的!

 27曲目からはミュージカルで主人公たちが歌う歌曲が続く。当然、本編でもここが大きなクライマックスとなる。ミュージカルの歌曲はすべて本家が存在するもので、名作ミュージカルの有名な曲を借りて、物語に合わせた歌詞を付けていくというもの。「Swanee」(「27 あこがれの舞踏会」)とか、「アラベスク」(「30 word word word」)、「グリーンスリーブス」(「31 わたしの声」)など、有名なミュージカルのメロディを使った曲ばかりで、曲名を聞いてピンとこない人でも、不思議と曲を聴くとどこかで聴いたことのあるメロディばかりなのだ。

 素晴らしいのが、ミュージカルの登場人物たちの歌声だ。高校生たちが精一杯歌っている感じがよく出て、可愛らしい歌曲なのだが、CAS-1はそんな歌声を明瞭な定位と実体感あふれる再現で見事に再現した。「スピーカーの間に大好きなアーティストが出現しますよ」というのはソニーの説明会で使われた表現だが、まさにその通りの存在感だ。定位が明瞭でくっきりと浮かび上がるような再現と言えばそれまでだが、それに合わせて感度の高さや底力のあるエネルギーの出方があいまって、声にリアリティがある。

 「ドラマの途中で歌い出すとかありえない」とか、ミュージカルに対して違和感を感じている人は少なくないだろう。僕自身もその一人で、英語などならばあまり違和感は感じなくなったが、日本語吹き替えだと未だに違和感がある。そう感じている人ほど、劇場で本編を見てからサントラを聴いてみてほしい(できればCAS-1で)。違和感などなく、彼女たちが必死に伝えようとしている心の叫びがダイレクトに伝わってくるはずだ。

 作曲をしたクラムボンのミトも大満足の出来だという(相当に制作は苦労したそうだが)、33曲目の「心が叫びだす〜あなたの名前呼ぶよ」が本当に素晴らしい。これは、ミト曰く「クロス」という構成で、ポップスだとマッシュアップとも呼ばれる、2つの異なるメロディーを重ねて一つの歌曲に仕上げたもの。「心が叫びだす」がベートーベンのピアノソナタ第8番「悲愴」のメロディで、「あなたの名前呼ぶよ」が「オズの魔法使」の「Over The Rainbow」だ。2つのメロディーと歌詞が渾然一体となっているのは、曲を聴くだけでも見事だ。

 ふつうに聴いていると、2つの歌詞が入り交じって別の歌のような感じになるのもおそらくは狙い通りで、歌詞カードがないとそれぞれの歌詞を正確に追うのが難しい。だが、オーディオ的にはそれではダメで、それぞれの声がきちんと分離して再現される必要がある。CAS-1では、センターに定位するふたりのヒロインの歌声を粒立ちよく再現し、やがて登場人物全員が加わるが、それら登場人物がヒロインを囲むように、右に「心が叫びだす」のパート、左に「あなたの名前呼ぶよ」のパートが並ぶ。ただし、ミュージカルのカーテンコールのように舞台いっぱいに横並びになるのではなく、あくまでも登場人物たちは舞台中央に集まっているから定位はセンター中心となる。

 これは再現が難しい。CAS-1は個々の歌声が左右に別れて異なる歌曲を歌っている感じはあるが、大型スピーカーでもう少し左右の間隔が広い配置の方が、ステージの中心に集まって歌っている感じは出る。スピーカーの間隔が狭いというよりステージ感が緻密で凝縮された感じになるせいもあるだろう。

 ただし、歌詞カードを見ながら自分でそれぞれのパートを歌ってみると、面白いことに自分のパートのメロディではなく、別パートの歌声が耳に入ってくる。それぞれの歌声が混濁せずにきちんと再現されている証だ。この感じは、コーラスなどでそれぞれのパートに別れて合唱しているときの感覚にも近い。これらミュージカルの歌曲は、すべてインストゥルメンタルも収録されているので、歌に自信のある人はぜひともカラオケに挑戦してみてほしい。きっと彼らの心の叫びがより伝わるはずだ。

ボーカルだけでなく、さまざまなジャンルの曲もエネルギーたっぷりに

 ハイレゾ楽曲をBluetoothで聴いてしまうと、さすがに情報量の不足など落差を感じてしまう。しかし、元々の実力が高いためBluetoothでもなかなか聴き応えのある音が楽しめた。Apple Musicのような定額制音楽配信などならBluetoothで気軽に楽しむというのは十分にアリだ。

 それにしても、劇場公開のタイミングでハイレゾ版のサントラを楽しめたというのは、なかなか楽しい体験だった。劇場では泣かないことを強く意識しすぎたため、ストーリーも映像も音楽も素晴らしかったのに感情移入できなかったこともあって、自宅で聴いたハイレゾ版のサントラの方が泣けた。心おきなく号泣できるBDの発売が楽しみだ。

 CAS-1は、ボーカルの豊かな再現を大きな特徴としており、今回のようなミュージカルの歌曲も素晴らしい音で楽しめた。当然ながらボーカル曲でも満足度の高い音を楽しめる。さらに付け加えたいのは、音のダイナミックさやエネルギー感だ。これがあることで存在感のあるボーカルに命が宿ったような生き生きとした表情が出てくる。こうしたダイナミックさは、重厚なクラシックの大作や、テンションの高いジャズのセッションなどなどあらゆる曲も楽しめる。実力の高いヘッドフォンアンプを内蔵していることもあるし、ヘッドフォンで聴くのと遜色のない情報量豊かな音もあり、ヘッドフォン主体で音楽を聴いている人にもオススメしたい。ヘッドフォンとはひと味違う、目の前に音が現れるようなステージをぜひ体験してみてほしい。

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CAS-1

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40〜60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。