小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第793回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

変わり種イヤフォンをチェック! 話題のイヤカフ型「ambie」とパイオニア「RAYZ Plus」

オープンと遮音

 特に強化月間と言うわけではないが、2月に入ってから4週連続でオーディオ製品をお送りすることになる。それだけ最近は一皮剥けた、興味深い製品が数多く出てきたという事であろう。

左からパイオニアの「RAYZ Plus」、ambieの「ambie sound earcuffs」

 今回は2つの“変わり種イヤフォン”を使ってみる。1つは、耳を塞がない“イヤカフ型”をひっさげて登場したambieの「ambie sound earcuffs」だ。2月9日の発表、即日発売の新製品だが、なんと発売4日目にして初回生産分が完売。

 Amazon.co.jpや楽天といった大手ECストアでは販売していなかったようだが、現在は公式サイトでも在庫切れとなっている。次回入荷は3月上旬以降となるようだ。設立が今年1月11日という新進気鋭ベンチャーの第一弾としては、順風満帆の滑り出しと言っていいだろう。

 ちなみにこのambieは、ソニーのオーディオ関連製品を手掛けるソニービデオ&サウンドプロダクツ(ソニーV&S)と、ベンチャーキャピタルのWiLが共同出資で設立した会社だそうで、ソニーの音響技術を活用した製品を展開していくそうだ。そうした点でも注目が集まっている。

 もう1つは、パイオニアが2月15日に発表した、iPhoneのLightning端子に直接接続するノイズキャンセリングイヤフォン「RAYZ Plus」だ。Lightning端子を使うとiPhoneの充電ができなくなるが、ケーブルの途中に分岐の端子があり、使用中にもiPhoneの充電ができる世界初の製品だ。発売は3月下旬となっている。

 全く性格の異なる2モデルだが、両方とも入手することができたので、実際に試してみたい。

「イヤカフ」というアプローチ、ambie sound earcuffs

 「イヤカフ」というものをご存じだろうか。ピアスのような装飾品だが、これは耳に穴を空けるわけではなく、耳たぶに噛みつくという装着法なので、誰でも気軽にトライすることができる。話は脱線するが、「StarTrek DS9」でベイジョー人が耳に付けているのが、ピアスとイヤカフの組み合わせだ。

 ambie sound earcuffsは、音楽を聴くためのイヤフォンの装着方法にイヤカフ方式を採用した。筆者が記憶する限り、こういう装着方法は初めてではないかと思う。価格は5,500円で、6色のカラーバリエーションがある。今回はPop Skyをお借りしている。

イヤカフ型という新しい形

 ボディ表面はシリコンでできており、肌触りはよい。U字型になっているので、これを耳たぶに挟み込んで固定。このU字部分が拡がるわけではなく、その先の交換できる音導管の先端部分が柔らかくなっている。そこをいったん曲げて耳たぶを挟み込むわけだ。

ボディはU字型になっている
耳たぶの一番細い部分に挟み込む

 装着はそれほど難しくはないが、従来のイヤフォンのように片手で装着するのは難しいだろう。また耳たぶの一番細い部分に装着しないと、長時間の利用では耳たぶが痛くなる。いいところに付けられるよう、しばらく練習が必要だ。

 音導管は耳穴の中に挿入するのではなく、耳穴のふちにあてて、そこから耳に音を注ぎ込むといった感じである。この音導管は、交換用のスペアが付属する。

音道管の先端から音が出る
音道管は交換できる

 耳の中ではなく、耳の外で鳴るものとしては、今から10年前にソニーが開発した「PFR-V1」を思い出す。スピーカーユニットを耳のそばに固定すると言う方式で、低音のみをダクトを通して耳のそばまで持ってくるという方式であった。

 ambie sound earcuffsの場合は、外部の音との共存であるため、ダクトはそれほど耳穴には近くない。そのため低域はほとんど出ないが、PFR-V1で感じたような音の広がり感が強烈だ。頭内定位の問題も、ある程度解消できているように思える。加えて耳穴同士を結んだラインよりも、若干後ろ側で音が鳴っているように聴こえるのが斬新である。

 先日、友人間で話題になったのだが、料理しているときにイヤフォンで音楽を聴いていると、失敗することが多い。おそらく料理中は、焼き加減や煮加減、包丁の切れ具合といった情報を、聴覚から得ているからだろう。その点本製品では、調理中の音も問題なく聞こえてくるので、ながら聴きには丁度いい。

 音導管の解放部が外側を向いているため、音漏れは気になるところである。当然音漏れはするのだが、一般的に聞きやすい音量では、耳から5cmぐらい近づかないと、他の人から音漏れが聞こえない程度だ。

 そもそも音漏れを注意されるのは電車の中ぐらいだと思うが、この製品を使って電車内でがっつり音楽が聴けるほどの音量に上げる方が間違いである。通常の状況で通常の音量であれば、音漏れを指摘されることはまずないだろう。

 難点と言えば、使い始める時にイヤフォン部が盛大にケーブルに引っかかる事である。これはU字型をしているからしょうがないと言えばしょうがないのだが、なんらかのケースを用意した方がいいだろう。

小型軽量のノイキャン「RAYZ Plus」

 続いてパイオニアのRAYZ Plusを試してみよう。最新のLightning用チップであるLAM2(第2世代Lightning to Audio Module)を採用した、Lightning直結のイヤフォンである。

 LAMはLightninngからのデジタル信号をDAコンバートするといった機能を提供しているが、LAM2のポイントは、ノイズキャンセリング機能まで1つのモジュール内に統合したことだ。他社に先がけてRAYZがいち早くLAM2が採用できた理由は、この製品がLAM2の開発を担当したAvnera社との共同開発だからである。さらにその背景としては、オンキヨー&パイオニア株式会社の親会社であるオンキヨーが、2010年にAvnera社に出資しているからである。

 今回発表されたRAYZには2モデルある。Lightning直結するだけの標準モデルRAYZと、途中でLightningの分岐ができるRAYZ Plusだ。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は前者が12,000円前後、後者が16,000円前後となっている。今回はRAYZ Plusのほうをお借りしている。

Lightning端子直結のRAYZ Plus
左右のケーブル分岐の根元にコントローラがある

 ノイズキャンセリングイヤフォンとしては、色々画期的な部分がある。まず1つは、アクティブノイズキャンセリング機構を動かすための電源が不要になったことである。これは当然Lightning端子から電源が取れるからだ。

Lightning端子で直結する

 またコントローラー内部にあるLAM2チップがノイズキャンセリング機能を提供するので、別途キャンセリング演算のためのチップが不要になる。したがって、イヤフォンのハウジング自体も非常に小型だ。エンクロージャの表側にマイク穴があるものの、全体のサイズ的には普通のイヤフォンと変わりない。

エンクロージャ部は普通のイヤフォンサイズ

 さらにRAYZ Plusには途中にLightningの分岐コネクタが付いている。ここにモバイルバッテリなどを接続すれば、イヤフォンを使っている状態のままでiPhoneが充電できるわけだ。これまではBluetoothイヤフォンを使う以外に、音楽を聴きながら充電する方法がなかっただけに、画期的だと言えるだろう。

ケーブルの途中にLightning端子の分岐がある

 RAYZは、専用アプリを使用することで、ノイズキャンセリング効果を個人に合わせてキャリブレーションできる。操作は簡単で、RAYZを接続してアプリを立ち上げ、「キャリブレーション」をタップするだけだ。

 すると耳の装着具合をチェックし、最適化してくれる。今回は電車の中、喫茶店の中など、使用場所が変わるたびにキャリブレーションしてみたが、装着具合は必ずしも毎回同じではないせいか、都度補正した方がきちんと効果が得られるようだ。

専用アプリでキャリブレーション中の画面

 ただ、以前レビューしたソニーやBOSEの世界最高レベルを謳うヘッドフォンなどとは違い、ノイズキャンセリングの効きはそれほど強くない。喫茶店などでは周囲のノイズを抑える程度には効くが、電車の中のような大きな音に関しては、かなり周囲のノイズが入ってくる。

 これはおそらく、付属のイヤーチップが薄いので、そこから外の音が入ってくるのだろう。試しに手元にあったフォーム系のイヤーチップに交換したら、かなりノイズキャンセリングが効くようになった。

 ケーブルの途中にはリモコン部がある。このうち、一番大きな「スマートボタン」は、専用アプリを使って機能を割り当てることができる。割り当て可能な機能は最大3つで、ボタン1回押し、ボタン2回押し、長押しの3つの動作パターンがある。

スマートボタンに3つの機能を割り当てられる

 「HearThru」機能について説明しよう。これはノイズキャンセリングを効かせながら、積極的に周囲の声を聞くというモードで、電車のアナウンスや誰かに声をかけられたときなどに便利だ。単純にノイズキャンセリングOFFした状態では、声が漏れ聞こえる程度なのでくぐもって聞こえるが、HearThruでは比較的明瞭に聞こえるという違いがある。

 RAYZにはイヤフォンを外すと自動的に音楽再生を停止する機能もある。ただし片耳を外しただけではダメで、両耳を外す必要がある。聴き終わった時に自動で再生が止まるというニュアンスなのだろうが、ちょっと片耳だけ外して人の話を聞きたいといったニーズにはHearThruを使うということのようだ。ただHearThru使用時は音楽が止まるわけではないので、きちんとした受け答えが必要な場面ではそれほど使い勝手は良くない。

オートポーズ機能も搭載

 音質としては低音重視で、4kHz前後のボーカル帯域が奥に引っ込んでいる印象。バスドラのドッコンドッコン感を楽しみたい人には満足できるだろう。専用アプリで5バンドEQも使えるので、ある程度は好みの音質に変更可能だ。

5バンドEQも使える

 難点と言えるかどうか微妙だが、筆者の耳には一番大きいイヤーチップを付けても、ケーブルとコントローラ部の重さに引っぱられて、耳から抜けやすいように感じる。付属のものからコンプライなどフォーム系のイヤーチップに取り替えた方が、抜けやすさは減るようだ。

総論

 好評につき品切れとなったambie sound earcuffsは、従来にないサウンド体験ができ、価格的にもそれほど高くなく、さらにはカラーバリエーションもかわいい色が多い。人気爆発も頷ける製品である。

 低音がほとんど聞こえないので、BGM的な聴き方が推奨されているが、実際には低域がなくても成立する音楽は沢山ある。ギター1本とボーカルだけの曲や、けだるいボサノバ系など、ジャンル次第では違和感なく聴くことができる。いつでも音楽が欠かせないという人には、使い勝手がいい製品だろう。

 パイオニアのRAYZ Plusは、iPhoneに特化したという点では“誰にでも幅広く”というタイプの製品ではない。普通のイヤフォンからすればやや高額な部類に入るが、ノイズキャンセリング製品として見れば、だいたい平均価格ぐらいではないだろうか。

 電源も不要で、見た目としても普通のイヤフォンと変わらない。元々ノイズキャンセリング製品はヘッドフォンタイプが多いのだが、気軽に使えるイヤフォン型として、1つあってもいいだろう。iPhoneを充電しながら聴けるという点では、長時間の移動中でも使いやすい。

 また専用アプリからイヤフォンの挙動がコントロールできるため、今後のアップデートで機能が増えていく可能性もある。Bluetoothイヤフォン全盛の時代だが、ワイヤードのメリットを最大限に引き出した製品だと言えるだろう。

 今年は技術的にもアイデア的にも面白いオーディオ製品が沢山でてきて、退屈しない年になりそうだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。