“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
■ ようやく登場した動画対応機
映像クリエイターにとって、写真用のレンズ+フィルム並みの撮像面積で動画が撮れるというのは、写真系の人が想像する以上にインパクトのあるソリューションである。先月行なわれたNABでも、CANON「EOS 5D MarkII」をシネマ撮影セットにビルドアップするソリューションがいくつか展示されたことからも、その本気度が伺われる。
デジタル一眼で動画対応はいくつかあるが、残念なことに対応レンズでは絞りなどのコントロールが効かず、かなり成り行きまかせの映像になってしまう難点があった。もともとは写真機なので、開発陣にとっても動画性能を極めるのは、どうしても後手に回ってしまうことは仕方がないにしても、実に惜しい仕様が目立った。
記録フォーマットもAVCHDを採用するなど、同社のリソースを上手く使い切った設計となっているようだ。静止画のポテンシャルに付いては僚誌デジカメWatchにお任せするとして、AV Watchでは動画性能にフォーカスしたレビューをお送りする。
では早速その実力をテストしてみよう。
■ ボディはコンパクトだが……
GH1はG1と同じくコンフォート・ブラック、コンフォート・レッド、コンフォート・ゴールドの3色展開であるが、今回はコンフォート・ブラックをお借りしている。レンズはキットの「LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.」だ。
マイクロフォーサーズの特徴は、フォーサーズよりもさらにフランジバックを短くして、レンズおよびボディ設計の小型化が見込めることである。確かにGH1のボディはミラー構造もプリズムもないためコンパクトで、いわゆるネオ一眼相当のサイズに収まっている。
キットレンズは35mm判換算で28mm~280mm相当の光学10倍ズームレンズ。手ぶれ補正を内蔵し、スイッチはレンズ側にある。絞りは開放でワイド端F4.0、テレ端F5.8。ビデオレンズに比べれば1段程度暗いが、デジタル一眼のズームレンズとしては平均的である。なおフォーサーズ用のレンズも、マウントアダプタを使用すれば付けることができる。
撮像素子は4/3型Live MOSセンサーで、総画素数1,398万画素、有効画素数1,210万画素。アスペクト比を変えても画素数が変わらない「マルチアスペクト」対応で、静止画では新たに1:1、すなわち昔の二眼で使われていた6×6や、ROBOT STARの24×24ようなスクエアフォーマットでの撮影にも対応した。
動画は1,920×1,080ドットもしくは1,280×720ドットで、記録フォーマットはAVCHDとMotion JPEGの2つが使える。解像度とフレームレート、記録フォーマットの関係は以下のようになっている。
動画サンプル(HD解像度) | ||||||
記録フォーマット | 画質モード | 解像度 | ビットレート | フレームレート | 8GB | サンプル |
AVCHD | FHD | 1,920×1,080 | 17Mbps | 24P(60i記録) | 約1時間 | |
SH | 1,280×720 | 17Mbps | 60P | 約1時間 | ||
H | 13Mbps | 約1時間20分 | ||||
L | 9Mbps | 約1時間54分 | ||||
MotionJPEG | HD | 1,280×720 | 30Mbps (概算) | 30 | 約33分30秒 | |
WVGA | 848×480 | 17Mbps (概算) | 約1時間23分 | |||
VGA | 640×480 | 17Mbps (概算) | 約1時間27分 | |||
QVGA | 320×240 | 4Mbps (概算) | 約4時間1分 | |||
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
記録フォーマットに関して若干補足すると、1,920×1,080ドットで撮影する場合、撮像素子から出力されるのは24fpsで、これを2-3プルダウンして60iフォーマットに記録している。素直に24Pで記録しても良さそうなものだが、何らかの事情があるのだろう。またMotionJPEGでの連続動画記録は、ファイルサイズで2GBまでの制限がある。
音声はドルビーデジタル2ch記録だが、ビットレートは資料がない。MotionJPEGを解析したところ128kbpsであったことから、おそらくAVCHDでも同等の音質ではないかと思われる。
動画関連の機能だけ拾っていくと、マイクは本体上部にあるほか、別売りの専用ステレオマイク「DMW-MS1」(オープンプライス/店頭予想価格12,600円前後)を装着できる。本体左にマイク/シャッターリモコン兼用端子があり、そこにケーブルを接続する。ステレオ、モノラル収録が選択できるほか、マイク側にもWIND CUTがある。ただし外部マイクを付けると、内蔵フラッシュがポップアップできなくなる点は要注意だ。
本体上部にステレオマイク | 別売りの外部マイク「DMW-MS1」 | 外部マイクを装着したところ |
背面には動画記録用のボタンが別途設けられており、これを押すことでいつでも動画撮影が可能。またモードダイヤルには動画専用の「クリエイティブ動画モード」があり、マニュアル撮影が可能。このあたりはゆっくり後述しよう。
背面にある動画記録ボタン | モードダイヤル部。一眼にしてはシンプルな構成 |
■ 使い勝手のいい操作体系
AFはビデオカメラ並みに動作する |
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
AFの動作は、本体左肩にあるフォーカスモードダイヤルで設定する。静止画撮影時では、AFSがシャッターを半押ししたときのみ、AFCが常時追従となるが、動画撮影時はどちらのモードであっても常時追従となる。MFに設定すれば、マニュアルフォーカスとなる。
液晶モニタの表示は、静止画と動画どちらの画角を常用表示するかを選択することができる。静止画撮影も16:9にすればどちらも同じ画角になるのだが、静止画は4:3で、でも動画をメインで、という場合には、動画の画角を常用表示させたほうが現実的だ。
撮影時にとまどったのが、液晶モニタとビューファインダの自動切り替え機能である。ビューファインダ脇にセンサーが付いていて、物体が近づくと液晶モニタからビューファインダに自動的に切り替わるのだが、手や体が5cmほど近づいただけでも切り替わってしまうため、設定変更などしているときに急にモニタが消えたりする。動画撮影中に液晶モニタが消えたりするとエラいことになるので、自動切り替えはOFFにしておいたほうがいいだろう。
メニューの操作体系は、個人的にもLUMIXを長く使ってきたこともあって、かなり使いやすく感じた。例えばメニューに入っての設定変更では、メニューから出る時にBackボタンを使って離脱するタイプのものも少なくないが、LUMIXではMENUボタンの再押しでメニューから離脱できる。このため、「設定変更の決定~メニュー離脱」の一連の動作がMENUボタンの二度押しで済むため、スピーディな設定変更が可能だ。
フォーカスモードダイヤルが便利 | 動画撮影ではモニタの自動切り替えは「切」の方が無難 |
カメラはFIXだが、奥の森にGOPごとの画質変動が見られる |
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
画質としては、最高画質でも水面などを含む条件の厳しいカットでは、若干ざわついた感じの圧縮ノイズが見られる。もう少し高ビットレートで撮れればより良かっただろう。
しかし、一般的な絵柄では、被写界深度が浅く取れることもあって、しっとりした質感の画質となっている。レンズの特性なのか、全体的に高コントラストで発色が深いが、色調としてはニュートラルだ。欲を言えばもう一息背景がぼかせるとさらによかったが、これは単焦点レンズの楽しみとして取っておくことにしよう。
レンズ側の手ぶれ補正は、これだけワイド端が広いとかなり安定する。動画サンプルのシャボン玉のカットは手持ちだが、ほとんど三脚で取っているのと変わりない安定度だ。
屋外撮影サンプル | 屋内撮影サンプル |
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編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
■ 一線を越えた「クリエイティブ動画モード」
従来の一眼レフでは、動画撮影は成り行きでしか撮れなかったのだが、GH1では動画専用とも言える「クリエイティブ動画モード」があるため、一線を画している。このモードでは、プログラムモード、絞り優先、シャッタースピード優先、マニュアルの4通りから動作を選択できる。
マニュアルでは、グリップ部のダイヤルで絞りとシャッタースピードを別々に設定可能。簡易的な露出計が表示されるので、適正な露出の目安になる。またISO感度も100~1600の間で選択できる。絞り優先モードでは、ダイヤルで絞りとAEシフト量が設定できるほか、ISOは固定感度以外にAUTOも選択できるようになる。
正直ビデオカメラでも、昨今ではなかなかフルマニュアルでは撮らせてもらえなくなってしまったのだが、その小回りの効く撮影がデジタル一眼でできるようになると、ビデオカメラから一眼に乗り換える人も出てきそうだ。
また、クリエイティブ動画モードでは、シャッターボタンを押しても動画撮影となる。一眼に慣れている人は、背面の動画ボタンになかなか馴染めず、動画を撮るつもりでシャッターボタンを押してしまう人も多いが、このモードならそういう失敗も防げるだろう。ビデオに慣れた人でも、シャッター半押しでAFを効かせたあと、そのまま押し込んで動画が撮れるので、こちらのほうが効率的とも言える。
「クリエイティブ動画モード」は4通りの動作から選択できる | マニュアルモードでは絞りとシャッタースピードを別々に設定可能 | 絞り優先では、絞りとAEシフトが設定できる |
FILM MODEは動画でも使える |
単にニュートラルな色調だけではなく、積極的に狙った絵作りができる。今回はプリセットのみテストしたが、各色調それぞれにコントラスト、シャープネス、彩度、NRが調整できるため、絵作りの幅も広い。オリジナル設定は2つまで記憶可能だ。
フィルムモードのサンプル。順にスタンダード/ダイナミック/ネイチャー/スムーズ/ノスタルジック/バイブラント/スタンダードB&W/ダイナミックB&W/スムーズB&W
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編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
集音に関しては、外部マイクまで登場させたのは評価できるが、残念ながら集音状況をモニターするためのイヤホン端子が本体にないのは残念だ。またオーディオのレベル設定やレベルメーターもないため、ちゃんと録れていると信じて使うしかないところに若干の不安が残る。
外部マイクと内部マイクの集音を比較してみたが、音質的な差は少ないものの、内部マイクでは遠方の音までは拾うことができない。やはり外部マイクは使うだけの価値はありそうだ。
外部マイク使用時と内蔵マイク使用時の比較 | |
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
メニューの解像度は720pで出力される |
各クリップは、個別に選択して再生は可能だが、動画だけを連続撮影する機能はない。スライドショー再生機能を使えば、音楽付きで連続再生してくれるが、フルHD撮影した動画は720p出力になってしまう。基本的は720p撮影を前提としているのかもしれない。
■ 総論
ハイビジョン撮影可能なコンパクトデジタル一眼として、G1の動画対応機は注目を集めていたわけだが、実際に出てきた製品を見るとかなりユーザーの意見を反映した作りになっている。一番大きなところでは、やはりISO感度が固定できて、絞りがマニュアルで決められるところだろう。これまでの動画対応一眼レフでは、露出が自分でコントロールできないのが一番の不満だったわけだから、ここを踏み出した1歩は大きい。
AFに関しては、一眼でハイビジョンを撮りたいプロたちは、どちらかと言えば自動で勝手に動いてしまうよりも、マニュアルで決めさせてくれという指向が強いため、これまでも大きな不満はなかった。しかし一般の人や、一人で撮影するプロにとっては、少しでも撮影時の負担が減った方がいい。常時AFと顔認識も、高く評価される部分だろう。
レンズについてはまだマイクロフォーサーズ対応のレンズが少ないため、あまり比較対象がない。特に動画撮影用に静音化されたものは、まだキットレンズしかないため、今後のラインナップ拡充が待たれるところだ。
ただ最近はマウントアダプタの充実により、ほとんどのレンズが付けられるようになってきた。この場合、カメラ側がいかにマニュアルで柔軟に対応できるか、その懐の広さが大きなポイントになってくる。この点でGH1は、工夫しがいのあるカメラである。
今回は1080/24Pで撮影したが、テレビで見ることにこだわらなければ、720pのほうが扱いは楽かもしれない。また720pなら1/2のスローモーションにするなど、加工しがいもあるだろう。
GH1は、EOS D5 MarkIIのように玄人受けはしないと思われる。しかし動画撮影に関しては、これまで「そこはちょっと……」と思われてきた部分に手を入れ、デジタル一眼の動画に一つの道を付けた製品だと言える。CanonやNikonのフルサイズ一眼にこれらの機能が付いたら、もう動画業界は大変な事になる。一方Panasonicとしては、マイクロフォーサーズというフォーマットが動画関係者からどのように評価されるか、そこが一つの分水嶺となるだろう。