■ いよいよWEB動画も1080pの時代へ
先々週のことになるが、ついにYouTubeが1080pの対応を発表した。現在映画のトレーラーなどいくつかのコンテンツがすでに1080pで視聴できるようになっており、すでにアップロードされている1080p動画も、順次視聴できるように再エンコードされるようだ。
一足先にニコニコ動画も、10月から1080p対応となっている。人気の二大動画サイトが相次いで1080p対応となったことで、いよいよWEB動画も1080p当たり前の時代に突入してしまうのかもしれない。
さて、今年1月のCESでもいくつかご紹介したが、米国ではWEBへの親和性が高いビデオカメラとしてMPEG-4(MP4)カメラが人気である。特にKodak、Creative、RCA、Polaroidといったメーカーがいろいろなタイプのカメラをリリースして、米国量販店の売り場もなかなか賑やかである。
Kodak Zi8 |
今年のトレンドは、従来のVGAサイズだけではなく720pまでをサポートし、YouTubeに720pでアップロードできることだった。すでに一部のカメラは1080pをサポートしていたものの、1080pで撮っても使い道がない感じの微妙な扱いであったわけだが、今後は事情が変わってくるだろう。
さて、米国では人気だが日本では今ひとつ盛り上がっていないHD-MP4カメラだが、先日ビクターが「PICSIO」ブランドで日本での販売を始めた。これがきっかけになったのかはわからないが、Kodak製のカメラもいよいよ日本上陸が決まった。その第一弾が、今回の「Zi8」である。
オフィシャルサイトでの通販価格、19,800円で登場したZi8、さっそくその実力をテストしてみよう。
■ 大柄な「ポケットビデオカメラ」
Kodakのオフィシャルサイトによるキャッチフレーズは、「ポケットビデオカメラ」だそうである。サイズ的にはケータイに近いビクターのPICSIOより一回り大きく、iPhoneに近いサイズだ。ポケットサイズと呼ぶには若干大きいが、ボディの厚みはそれほどないので、ジャケットの内ポケットぐらいならすっぽり入るだろう。
PICSIO(右)と比較すると、一回り大きい | iPhone 3GS(右)との比較 |
操作ボタン類は非常にシンプルで、十字ジョイスティックを中心にして、左右に2つずつボタンがあるのみだ。そのほか上部には通常撮影とマクロを切り替えるスライドスイッチがある。
レンズは単焦点で、35mm換算では42mm。4倍までのデジタルズームも備える。ただし画質モードによって撮像素子の使用面積が異なり、静止画、720、1080でそれぞれ画角が違ってくる。撮像素子は1/2.5型のCMOS。
ジョイスティックはシャッターボタンも兼ねる | 上部にマクロ切り替えスイッチ | レンズはF2.8の単焦点 |
動画サンプル | |||||
動画モード | 解像度 | フレームレート | ビットレート | ワイド端 | 動画サンプル |
1080p | 1,920×1,080 | 29.97fps | 約17Mbps | 61mm | |
720p/60 | 1,280×720 | 59.94fps | 46mm | ||
720p | 29.97fps | 約15Mbps | 46mm | ||
WVGA | 848×480 | 約10Mbps | 46mm | ||
静止画 | 3,072×1,728 | - | - | 42mm | - |
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
ビットレートはVBRなので、クリップごとに幅があるようだ。1080は60pではなく、30p(29.97p)であるが、YouTubeへのアップロードを考えればこれぐらいで十分である。ただ画角が61mmとかなり狭くなってしまうのが残念だ。
液晶モニターは2.5型で、バックライトは三段階に変更できる。本体右側には、SDカードスロットとUSBコネクタが、左側にはHDMIとアナログAV出力、外部マイク入力、ACアダプタ端子がある。USBはメス側ポートではなく、オスのA型が直接生えているところがミソである。
USBのコネクタそのものが内蔵されている | 反対側の端子類。HDMIだけゴムカバーがある |
ACアダプタはワールドワイド仕様のものがそのまま付属しており、端子部を付け替えることで日本のコンセント形状になるほか、よくあるめがね型の延長ケーブルも使える。ただしめがね型ケーブルは付属しない。
本体のメニューは、文字表示がなくすべてアイコンで表示されるため、言語設定などは不要。映像管理ソフトはArcsoftのMEDIA IMPRESSIONがカメラ本体に内蔵されているが、日本語は使用できないという。
ACアダプタはコンセントの形状が取り替えられる | 設定メニューはすべてアイコン表示 |
■ 固定するとかなり綺麗
では早速撮影である。スペックとしては720pで撮るのが一番バランスが取れるところではあるが、せっかくYouTubeも1080pに対応したこともあるので、今回は1080pで撮影している。
解像度の切り替えは、ジョイステックの左右で切り替えるほか、撮影ボタンを押して選択肢から選ぶこともできる。録画開始と停止は、ジョイスティックを押し込む。
高コントラストでしゃっきりした絵 | 発色もパリッとしている | 人肌は若干青っぽい印象 |
価格からしても、CMOSは昨今の日本のハイビジョンカメラやデジカメで採用されているような、高速撮影には対応していない。そのため、ローリングシャッター歪みがかなり発生する。テストとして電車からの車窓を撮影してみたが、風景としてはかなりの解像度があるものの、手前を通り過ぎる鉄柱は激しく斜めになっている。
マクロはなかなか綺麗だ |
顔認識も搭載しているが、フォーカスはAFではなく、1m~無限遠のパンフォーカスだ。顔認識はフォーカス追従ではなく、露出補正をするために利用される。また向かってくる人物などは、その速度に顔認識が追いつかない。マクロに切り替えると、15cm前後にフォーカスが合う。逆に言えば、30cm~1mぐらいまでの間は、どうやってもフォーカスが合わない。
roll.mpg(58.6MB) | focus.mpg(57.1MB) |
CMOS特有のローリングシャッター歪みが出る | 顔認識は露出を決めている。ただし向かってくる人物には認識が追いつかない |
編集部注:Final Cut Pro 7で編集後、Compressorで平均34Mbps、最高40MbpsのMPEG-2でエンコードしました。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
1080pだと画角が狭くなるため、人物をいい具合に撮るには1~2m離れる必要がある。あまり1080pにこだわらなくていい場合は、720pで撮る方が、画角としてはいいだろう。
画質としては、三脚を立てて固定すると、びっくりするぐらい綺麗に撮れる。人肌の発色が日本人好みではない傾向はあるものの、全体的にはっきりくっきりした絵である。
ただ、これを持って歩いて撮影すると、とたんにエンコードによる圧縮ノイズが目立つようになる。ビデオカメラの割に、アクションには弱いカメラと言えるだろう。手ぶれ補正機能があるが電子補正なので、それほど効くわけではない。手持ちで静止して撮ろうというときに効果が感じられる程度で、歩きながらの撮影はしんどいものがある。音声は、比較的よく拾えるほうである。会話などを撮るには十分なレベルだ。音声の圧縮もそれほど気にならない。
sample.mpg(239MB) | walk.mpg(272.3MB) |
動画サンプル。固定して撮ると、ものすごく綺麗に撮れる | 音声はよく拾うが、ハンディで歩きながらの撮影は厳しい |
編集部注:Final Cut Pro 7で編集後、Compressorで平均34Mbps、最高40MbpsのMPEG-2でエンコードしました。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
静止画も撮れるが、画質は良くない |
静止画も撮影できるが、圧縮がきつすぎるせいか、それともこれがCMOSの素の特性なのか、若干べったりした絵になる。動画ではそこそこの解像感を出しているだけに、この出来は残念だ。
■ もう一工夫欲しい再生
再生画面は日にち別のフォルダ表示も可能 |
映像の再生は、再生ボタンを押してモードを切り替える。再生ボタンを押すたびに、サムネイル表示のモードが変わるので、使いやすいものを選択すればいい。
HDMI接続でテレビにすぱっと繋げられる機能は、昨今のビデオカメラには必須の機能である。Zi8もそのメリットは当然あるわけだが、撮影したクリップの連続再生ができず、1クリップごとの再生となるのが面倒だ。
また再生して最初の数秒は、映像の上下がマスクされ、そこにクリップ情報が載るので、映像だけを集中して楽しめない。もう少しHDMI接続時の再生に気を配って欲しいところだ。
PCに接続すると、SDカードがドライブとしてマウントされる。USBカメラとして使用する機能はないようだ。撮影ファイルはmovファイルとなっており、QuickTmeで再生ができる。ただ1080pをなめらかに再生するためにはかなりのマシンパワーが必要なのは、AVCHDと変わりない。
今回の動画編集は、Final Cut Pro 7を使用した。元がmovなので変換なしで読み込んで編集ができるが、スムーズな編集作業は若干しんどいものがある。ネイティブフォーマットのままでスマートに再生・編集を行なうためには、もう1サイクルCPUの世代が変わらないと難しいだろう。
■ 総論
これまでMP4カメラは、わりと画質は後回しというかそもそも問題にすべきではないというジャンルだったが、CMOSも次第に性能が上がり、そこそこ見られる画質にまでなってきたなというのを感じる。カメラを動かしてしまうと、ローリングシャッター歪みとエンコードの下手さが重なってとたんに画質が下がるが、安定した映像では結構いけるんじゃないかと思った方も多いのではないだろうか。
手持ちでの撮影があんまり綺麗じゃないというのが、ビデオカメラとしてどうなの、という指摘もあろうかと思うが、スタビライザーを付けるとか、ミニ三脚やゴリラポッドのようなグッズで固定するといった方法で定点観測モノを撮るなどの用途では、相当リーズナブルである。
長時間のファイルは自動的にサイズ分割されるそうだが、時間制限があるわけではない。ACアダプタを利用すれば、SDカードいっぱいまで記録できる。なにせこれで価格が2万円しないのだから、何か面白いものを作ってやろうと考えている人には、なかなか使い出のあるカメラではないだろうか。
ビデオカメラも、最終のアウトプットがテレビじゃないという事態が起こってきた。動画サイトに対する評価や存在意義も、いよいよ見直していく時期にさしかかったと言えるだろう。