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第469回:地デジを編集/BD書き出しできる「DT-H70/U2+TMPGEnc」

~ さらにワンセグ放送のiPhone/iPad書き出しも ~



■地道に進化し続けるテレビチューナ

 地上アナログ放送の停波まで、予定通りとすれば約1年と迫った。2003年に地上デジタル放送が開始して以来、デジタル放送が録画ができるPCは、長いこと一部のメーカー製に限られてきた。PC向け地デジチューナの単体発売が解禁されたのは、2008年4月のことである。

 一時期はPC向けワンセグチューナが盛り上がったりもしたが、その間にPCを使って番組を編集したり、ケータイやゲーム機などポータブルプレイヤーに書き出して見るというソリューションは、かなり滅亡の道を歩んだように思う。その辺はBDレコーダが頑張ってサポートしているが、「家でほとんど録画番組を見る時間がないので通勤時間になんとかしたい」、という人にとっては、そのためだけにレコーダを購入するというのもしんどい話である。

 しかし、先日発表されたバッファローとペガシスのコラボレーションで、PCでもフレーム単位の番組編集ができるようになるという。また、これまで完全に蚊帳の外であったApple iPhone/iPod touchにも、ワンセグ番組が書き出せる機能も付いた。

 今回はバッファローの新USBチューナ「DT-H70/U2」(16,485円)と、「TMPGEnc MPEG Editor 3」(パッケージ版7,680円)をお借りしている。これとは別に、既発売のUSB 2.0接続タイプの地デジチューナ「DT-H33/U2」と、「TMPGEnc MPEG Editor 3」をセットにした「DT-H33/U2-TM」も、3,000台限定14,280円で販売されるそうである。またバッファローの一部旧製品でも、アップデートによりこのコラボレート機能が使えるようになる。

 レコーダを買うよりもかなりお得なこのセット、その使い勝手をさっそく試してみよう。


■ほとんどカードリーダー並みの薄さ

ほぼB-CASカードリーダ並みの幅と厚み

 まずチューナの「DT-H70/U2」だが、地上波、BS、CSの三波チューナユニットとしてはかなり薄型。電源ボタンもなく、ほとんど見た目はB-CASカードリーダといった風情だ。正面にはB-CASカードスロットと、Powerランプがあるのみ。電源はUSBバスパワーで動作するため、特に接続する必要はない。元々ACアダプタも付属していない。

 背面にはRF、USB、電源端子がある。RFの接続は、付属のF型接栓に接続できる変換ケーブルを使用する。三波チューナながらRF端子が1つしかないので、個別にアンテナを立てている人が三波全部を突っ込むには、地上波とBS/CSの混合器が必要になる。ただし集合住宅の共聴設備やケーブルテレビ回線では、元々三波混合されて伝送されるので、そのまま突っ込むだけで済む人も相当あるだろう。

背面はアンテナ端子とUSB、電源端子のみ付属のアンテナ変換ケーブル

録画番組の放送中の番組が同時に見られる
 各チューナは1系統のみだが、地デジとBS、地デジとCSという組み合わせならば、ダブル録画ができる。地デジと地デジ、BSとCSという組み合わせでは、ダブル録画はできない。また視聴ソフトの「PCastTV3」は、録画番組の再生中にサブ画面で放送中の番組が見られる、「ダブル視聴」という機能もある。サッカー中継を気にしながら録画したドラマを見る、といった使い方もできるわけだ。後付けのテレビツールにしては、かなり高機能である。

 番組表は、基本は各局3チャンネルぶんの枠が全部表示される。ただこのうち、どれを表示するかをチャンネル名の右クリックで選択することはできる。現在地上波キー局ではほとんどSD番組は放送していないので、全部表示しておく必要性は感じないが、番組情報の表示枠としては広いほうが見やすいというメリットがある。もっとも、番組表のチャンネル幅と高さは設定でも変更できるので、そのあたりは必要に応じてどちらかを選ぶといいだろう。


番組表はデフォルトでは3チャンネル分が表示される番組表の幅と高さは3段階で調節できる

 番組予約は、番組枠をダブルクリックするだけだ。重複予約はダイアログで注意が出る。予約された番組は、時間のところが緑色に表示される。実際の番組録画は、PCがスリープ状態でも1分前に自動復帰して、録画を行なってくれる。

 録画アシスト機能としては、「注目番組」が面白い。スペシャル番組ほか、今の時期はワールドカップの番組が特集されている。こういったイベントに強い機能は、メインの録画ではなくサブ録画機としてPCを使いたい人や、一時的にテレビにかじりつきになる人には便利だろう。

番組予約はダブルクリックするだけのシンプル操作イベントに強い「注目番組」

 さらにレギュラー番組録画のアシスト機能として、「おまかせ」機能も便利だ。自分で自由にキーワードを設定し、番組を自動録画することができる。ただ、同時刻にいろいろ見つかってしまうようなキーワード設定では、録画されないようだ。例えば「ニュース」などをキーワードにしても、夕方あたりは各局一斉にニュースの時間になるので、録画されない。ピンポイントで見つかるキーワードを設定する必要がある。

 録画された番組は、表組みで表示される。ファイルサイズが表示されるのは、いかにもPC的である。ただサムネイル表示がないのはちょっと寂しい。

「おまかせ」機能は帯番組の録画に便利録画された番組はファイルサイズも表示される

CyberLink Media Serverでは、DTCP-IPによる再生とムーブができる
 なお製品には、「CyberLink Media Server」も付属するものの、初期ロットのCD-ROMには収録されていない。そのため別途バッファローのWEBダウンロードサービスからダウンロードする必要がある。CyberLink Media Serverを使うと、ネットワーク越しに別の機器からDTCP-IPによる再生ができるようになるが、これにはPCastTV3も最新のβ版が必要だ。現時点での最新バージョンは、1.21β1となっている。

 筆者宅の環境では、バッファローのリンクシアター「LT-H90WN」から、また東芝REZGA「37Z3500」のレグザリンクからDTCP-IPによる再生が確認できた。さらにCyberLink Media Serverでは、録画番組を対応のNAS(LS-XHLシリーズ)へムーブすることもできる。ただうちには対応NASがなかったので、ムーブの実験できなかった。


■ TMPGEnc MPEG Editor 3で地デジ編集

 そもそもTMPGEnc MPEG Editorは、アナログ放送時代に、テレビ番組を効率よく編集するという用途でブレイクしたソフトである。ハイビジョン動画の編集にも対応したが、当時はデジタル放送を編集することができなかったため、もっぱらHDVフォーマットの編集ソフトという位置づけになった。しかし今回のバッファローとのコラボレーションでついに地デジ番組の編集もできるようになり、そう言う意味では原点に戻った感じである。

 録画番組を編集するには、「新規プロジェクト」の「追加ウィザード」、「BUFFALO PCasTV3で録画したファイルから追加する」からファイルを読み込む。録画したテレビ番組を読み込むと、自動的に「デジタル放送保護モード」に切り替わる。ダイアログにもあるが、このモードでは映像のトランジションや音声フィルタ、バッチ登録、クリップ連結といった機能が使えない。

 テレビ番組の編集では、トランジションや音声フィルタは無理に使う必要もないが、バッチ処理が使えないと、1番組ずつ書き出ししなければならない。複数の番組をまとめて処理したいときには、厳しいものがある。

番組の追加は、ウィザードから行なう番組編集では、「デジタル放送保護モード」に切り替わる

TMPGEnc MPEG Editorの編集画面。レスポンスも十分
 編集のレスポンスは、それほど悪くない。テストしたのはIntel Core2 Quad Q6600/2.4GHz、メモリ2GBのWindows 7 Home 64bitという、今となってはそれほど速くはないマシンだが、ビューッと早送りするとフィルムロールや再生画面表示が追いつかないものの、多少ゆっくり目に動かしてやるぶんには十分な表示速度である。昨今のCore i7クラスであれば、かなり快調に動くだろう。ついにTMPGEnc MPEG Editorで地デジが編集できる日が来たかと思うと、なかなか感慨深いものがある。

 映像の方はスマートレンダリングにより、編集点しか再エンコードされないが、音声の方はGOPのようなものがないので、全体的に再エンコードとなる。エンコード速度は約2時間のファイルで14分程度と、かなり高速だ。

 出力ファイルを作成した時点では、まだコピー回数は減らない。BDへの書き込みは、自動的にPCasTV3のムーブツールが起動するので、それを使って書き込みを行なう。書き込みが完了すると、編集したデータは自動的に削除され、コピー回数が1回減るという仕掛けだ。

 編集して書き出した時点で1回減るのかと思ったが、そこは作業用の中間ファイルという認識になるのだろう。これならばユーザーにとっても納得いく仕組みだ。ただアナログの場合は、編集したあと別の好きなフォーマットへエンコードしてアーカイブという方法もあったわけだが、そこまではまだPCでは難しい。

出力時に注意が表示されるBDへの書き込みはPCasTV3のムーブツールで行なう

■ iPhone/iPod touchでもワンセグ視聴

 個人的に目玉だと思っている機能が、録画したワンセグ映像をiPhone/iPod touchに転送できる機能である。これまではアナログ放送を録画したものなら、エンコードしてiPhoneなどで視聴することはできた。しかしいちいちエンコードするのは手間だし、番組を転送するにもいちいちケーブルを繋いでiTunesで転送するというのも、なんだか旧態然とした感じがする。

 ストリーミングで見る方法は、以前iPadのレビューで紹介したAir Videoで可能だ。しかしWi-Fiや3Gで繋がらない場所で視聴するためには、やっぱりファイル転送は必要である。

iPhoneへの転送は、手動でムーブツールをインストールする

 iPhoneでワンセグ転送を行なうには、インストールディスクの「かんたんスタート」ではなく、「ソフトウェアの追加と削除」から個別にムーブツールをインストールする必要がある。場合によってはWindows版「Bonjour」のインストールも必要だが、その場合はダイアログが出るので、リンクをクリックしてインストールを行なう。

 その後はツールを起動して何かしなければならないわけではなく、単にインストールさえしておけばOKだ。一方iPhone側では、マキエンタープライズの「TVPlayer」をインストールしておく。

TVPlayerでは録画用PCがサーバーとして見える
 準備といえばこれだけである。iPhoneとPCはUSB接続する必要はなく、同じホームネットワーク内にあればWi-Fi接続でいい。TVPlayerを起動すると、すでにワンセグ配信用サーバーが立ち上がっている。これを選択すると、録画された番組一覧が表示される。これはあくまでもワンセグをムーブするものなので、BSやCSの番組は表示されない。

 ムーブしたい番組を選んで「ダビング開始」をタップすると、ムーブが開始される。表示では「ダビング」となっているが、実際にはムーブである。

 TVPlayerの再生画面は、標準で横向きとなる。縦方向や逆向きの横方向には対応していないようだ。見終わった動画は、TV Player上で削除できる。

見たい番組を選択して転送TVPlayerの再生画面。早送りなどもスムーズ

■総論

 米国ではPCの売り上げのうち、ノートPCがデスクトップを越えたのは2003年頃と結構早かったが、日本は意外にデスクトップが健闘した。売り上げベースでノートPCがデスクトップを上回ったのは、2008年頃だったと記憶している。

 ノートPCが主力になってくると、PC用のテレビチューナでPCIやPCI-Expressスロットを使うタイプは、なかなか気軽に導入しづらくなる。すでにデスクトップ機は家にない、という人も多い事だろう。そんな中で手軽にテレビが扱えるワンポイントリリーフとして、ワンセグチューナはブレイクしたのだろうと思われる。

 しかし昨年あたりから、フルセグチューナも非常に小型化され、ノートPCでも使いやすくなった。もっともアンテナ線は繋がないといけないので、ある程度場所が固定されるという弱点がある。その弱点とノートPCという組み合わせが、微妙にかみ合わない状況を作っている。

 バッファローとペガシスのコラボは、かつてアナログ放送全盛期にPCでやってきたことを、ようやくデジタル放送でもできるようにした。地上デジタル放送がスタートしてからここまで来るのに、実に7年ぐらいかかったわけである。それは単に技術の問題ではなく、コピーワンスからダビング10へのルール変更や、単体テレビチューナの解禁など、数多くのルール変更を経てようやく実現した。しかしこれはまだ、昔できていたことがもう一回できるようになっただけであり、アナログ時代の利便性を超えていない。越えていくのはこれからまだ先の話なのである。

 一つ越えているとしたら、それはWi-Fiを使ってワンセグが転送できるようになったことだろう。物理接続なしに、ようやくテレビ番組転送が実現した、最初の一歩である。TVPlayerを中心にメーカー間を越えて多くのチューナが対応し、いつのまにかTVPlayerワールドとも呼べる独自の利便性を生み出している。

 ここまでできただけも相当な苦労があったと思う。多くの会社が協力して、開発に当たったことだろう。頑張ってくれた各社に感謝したい。そして、ITならではのもっと我々をどきどきさせる進化を実現して欲しい。

(2010年 6月 23日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]