“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第483回:ソーシャルでテレビが変わる? ニコ実テロッパ「EN-NL1068」

~ 自宅で簡単ソーシャルビューイング ~



■ 誰もがツッコむ時代へ

 10月に入り、テレビ番組も改変のシーズンである。新番組の登場、そして特番と、この時期はテレビがなかなか忙しい。もっとも業界人のほうはすでに番組制作は9月中で終わっているので、もうこの時期はレギュラー体制に戻っている。忙しいのはテレビを観る側の人である。

 さて、テレビの視聴環境というのも、これまでのイメージとは大きく様変わりしてきている。大型テレビを売りたい家電メーカーは、リビングのソファに家族4人が並んで座ってテレビを楽しむみたいなステレオタイプを未だに描き続けているが、現実問題として家族団らんの中心がテレビであった時代は、2000年頃を境に終わったのではないか。長引く不況の影響で二親は共働きが当たり前、家族全員が集合する時間的余裕も、金銭的余裕もなくなっていった。

 そんな中、癒しを与えてくれるテレビは、どんどんパーソナルなものになっていった。音楽と同じように、選んで見る番組は個人の趣味性の高いものとなり、誰かが我慢して別の誰かの趣味に付き合うような状況は、考えにくくなった。

 しかし何事も揺り戻しというのはあるもので、一人ぼっちでテレビを見てもつまらない、もうちょっと言えば、テレビに向かってひとりでツッコンでも面白くない、さらに言えば、オレのナイスなツッコミをもっと多くの人に知らしめたい、そういう思いが多くのユーザーの間で高まっていった。かどうかは正直よく知らない。

 動画に対してコメントがオーバーレイで付けられるのは、ニコニコ動画の特徴であった。同様の趣旨でサイトにコメントが付けられるというサービスもあったがこちらはあまり流行らなかったようだ。なぜ動画だけが生き残ったのかということを考えてみると、やはり時間軸とのシンクロが面白いというところがポイントだったのだろう。この方式はニコニコ生放送にも受け継がれていった。

ニコニコ実況のPC用ツール

 そしてそれをテレビ番組にまで拡張したのが、ニコニコ実況である。2009年11月に正式サービスインしたニコニコ実況は、オンエアされるテレビ番組に対して、ニコニコ動画などと同じように、コメントが付けられる。

 もちろん、テレビ番組がそのままネットにアップロードされるわけではない。PCのTVチューナと併用して、専用ツールに表示されるコメント画面をテレビ画面の横においたり、背景を透明にして上にかぶせたりして楽しむというものだ。

 ただ放送中のテレビ番組はテレビで見る、という人が大半であることから、あまりその存在は広く知られているとは言いがたい。ネットとテレビの融合は、日本では今なお起こっておらず、ネットで見る動画はテレビとは違うもの、ということになっている。

 ではそれならそれで、テレビ側にコメントを載せられればいいのではないか。そういうことを実現する機材が、デジタルテロッパ「EN-NL1068」(以下NL1068)である。



■ デジタルテロッパとは何か

 NL1068は、デジタルチューナとテレビの間に挟んで使うという、コメントの表示機械である。HDMIの入力と出力を装備しており、チューナからの映像にコメントを乗っけて、HDMIから出すという仕掛けだ。価格はニコニコ直販で12,525円(いつもニコニコ/送料別)、である。

NL1068の本体。サイズは市販デジタルチューナ程度本体背面。HDMI入力・出力、Ether端子、電源コネクタがあるのみ

 ボディそのものは今時のデジタルチューナと同じようなサイズで、前面にはボタン類はない。すべてリモコンによる操作だ。HDMIからテレビ番組を入力してやらなければならないので、外部のチューナは必須である。ただHDMIさえ出ればいいので、レコーダやPS3+torneでもいい。逆にHDMIの入力信号がないと、コメントは流れてこない。

 現在対応しているのは、地上波デジタル放送のみ。最新のファームウェアでは、一部ラジオ放送にも対応した。リモコンにはBSボタンもあるが、まだ対応していない。

【現在対応中の放送波】
地上波ラジオ
NHK総合
NHK教育
日本テレビ
テレビ朝日
TBSテレビ
テレビ東京
フジテレビ
TOKYO MX
TBSラジオ
FM802
FM COCOLO
ラジオ大阪
毎日放送
朝日放送
J-WAVE
TOKYO FM
InterFM
ラジオNIKKEI
ニッポン放送
文化放送
FM OSAKA

付属リモコン。まだ機能が実装されていないボタンもある
 チューナ側のチャンネルとNL1068のチャンネルは自動で連動するわけではないので、チューナで見ているチャンネルに合わせてNL1068のチャンネルも切り替える必要がある。デフォルトでは、首都圏のチャンネル設定に合わせてあるようだ。

 何はともあれ、さっそくどういう状況になるのか見てみよう。画面は10月10日に日本テレビで放送された「世界の果てまでイッテQ!秋の珍獣祭り2010」でのコメントである。ご覧のように、ニコニコ実況にコメントされたものがロールテロップとして画面の上に載っている。

 コメントの表示幅は最大3行で、ニコニコ動画のようにコメントが弾幕化することはない。字幕は、白、赤、緑、水色の4色に色を変えることができる。また字幕の位置は、上、下が選べるほか、上下キーで微調整ができる。字幕スピードも10段階で調整できる。

 PCのほうでも同時にコメントを表示させてみたが、字幕の量はスクロールスピードによって変わるようだ。字幕をゆっくり流すと、PC側よりも若干遅れて同じコメントが出てくる。スピードを上げれば、差はなくなっていくが、あまり早いと読めないのでそこそこの速度にしておくべきだろう。またスピードを遅くすると全部のコメントが入らないため、適当に間引いて表示させているようである。

まさにニコニコ動画や生放送と同じ状況がテレビ画面に現れる予想通りのツッコミに見てる方も爆笑


■ 可能性が広がる仕掛けが

WEBブラウザでログインして設定を行なう

 NL1068の設定は、WEBブラウザで設定する。リモコンの「その他」を押したあと数字キーの1を押すと、現在NL1068に割り当てられているIPアドレスが表示される。このアドレスにWEBブラウザを使って本機にログインする。

 リモコンの番号とテレビ局のマッチングは、チャンネル設定で行う。現在コメントのソースはニコニコ実況にしか対応していないが、2ch実況板、Twitter、RSS、BBSなどと連携していくという。現在は「ユーザー入力」としてユーザーが任意の文字を流すことができる。

 スクリプトによってすでに2ch実況スレッドを流しこむユーザーさんも出てきており、腕に覚えがある人は現時点でも様々な放送のスレッドなりを突っ込むことができているようだ。スクリプトを書いて独自の文字を流すことができるのであれば、デジタルサイネージにも流用できそうだ。

 実際にテレビを見ながら様々なコメントを眺めていると、これは一種のパブリックビューイングのような気がしてくる。思っていることが同じだったり、あるいは意外な指摘だったりするコメントが流れてくると、番組を2倍3倍に楽しむことができる。とくにクイズ形式の番組ではみんなで正解を予想しあったりというのが、家族でテレビを見ているようで、なかなか楽しい。

 CMの間もコメントで楽しめるというのは、なかなか新鮮である。ただ地方に住んでいる人は違うCMを見ていたりするので、コメントがかみ合わない時もあるが、それもまた面白い。

PC用ツールではコメントの「勢い」がわかる

 ただ番組の方で字幕が多いものは、あっちを読んだりこっちを読んだりしないと行けないので、大変忙しくなるのが難点だ。本機では無理だろうが、PC上では音声読み上げソフトなどと連動するようになると、面白いかもしれない。

 またPCのソフト上では、どれぐらいコメントの勢いがあるかが数値で表示されるので、どの局が盛り上がっているかがわかる。本機の表示でもそれがわかるようになると、さらに面白いだろう。




■ 総論

 NL1068は、この製品を通してテレビとソーシャルメディアを接続するとどうなるのか、ということが一発で理解できる製品だ。これまで同様のことはニコニコ動画、ニコニコ生放送で実現できていたが、テレビというマスメディアに向かってのコメントが付けられるというのは、また違ったおもしろさがある。

 ネット上のCGMは、そのコンテンツに興味を持たないと、まず見ることがないが、テレビ番組はそれよりももっと接触しやすいメディアだ。視聴に参加しているという意識は薄いわけだが、コメントがあることで番組へのコミット具合がずいぶん変わってくる。テレビを点けっぱなしにしておく人も多いと思うが、ちらっと見たときにコメントによる突っ込みが入っていると、しばらく成り行きを見てしまう。

 これまでテレビ番組への接触は、「録画」というステージに昇格したものを見るという、選択型で語られることが多かった。しかしソーシャルメディアと接続することで、今現在放送中の番組を見るという行為に意味をもたらしている。すなわち、生視聴への導線として大きな力を持っているということである。テレビ局としては、自分たちの放送画面の上に何か別のものが乗ると言うことを生理的にいやがる風潮があるが、新しい接触率上昇の手法として、もっと積極的に取り入れてもいいのではないか。

 今のところニコニコ実況のコメントしか見られないが、2chやTwitterと接続すると、コメントの質や傾向がどのように変わるのか、それもまた興味あるところだ。

 かつて同様の機能を持たせたハードウェアに、「ANOBAR」というものがあった。さらに新モデルも登場するそうである。あるいは先日東芝が発表した「REGZA Apps コネクト」も、録画番組に対して同じような性格を持つのかもしれない。いずれにしても、テレビ放送に対してソーシャルストリームを接続する仕掛けは、テレビ視聴のあり方を大きく変える可能性がある。

 このスタイルは日本発の発明として、世界で戦えるソリューションに成長して欲しい。

(2010年 10月 13日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]