“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第533回:「α、始まったな。」NEX-5Nで撮るAマウントレンズの威力

~新マウントアダプタで大化けするシステム~


■動画機能大幅強化

 昨年6月に発売されたソニーの「NEX-5」は、ソニー流ミラーレス一眼の新潮流を築くEマウントの初号機であった。ボディのコンパクトさは正面から見るとレンズがはみ出して見えるほどで、まさに小さな衝撃であった。

 しかしデジタル一眼動画撮影全盛の昨今、動画性能はというと、お世辞にも満足できるものではなかった。夏には同コンセプトのカムコーダ「NEX-VG10」も発売されたが、基本的なスペックがNEX-5のままだったことから、ビデオカメラとしては若干使い辛いところもあった。

 だが、約1年を経過してリニューアルされたNEX-5Nは、動画撮影に関して昨年のカメラで感じた数々の問題点を着実にクリアしてきた。ボディ単体の店頭予想価格は75,000円前後だが、ネットではすでに6万円台前半となっている。

 本体のリニューアルも大きいが、新しいマウントアダプタにも注目だ。発売は10月14日とまだ先だが、価格は39,900円。高っけぇと思われるかもしれないが、これがすごい。NEXシリーズなのに、これを使うとトランスルーセントテクノロジーを採用した一眼αシリーズとほぼ同じ事ができてしまうのだ。

 毎度おなじみスチルカメラ相手に動画しか撮ってない、偏りのレビューをお送りしよう。



■デザインテイストは踏襲

上部のエッジを斜めに切り出した多面体スタイル

 まずボディだが、前作のリニューアルモデルという位置づけなので、基本的なフォルムはそれほど変わっていない。ただ上部のエッジが斜めに切り出されており、前モデルが割と「四角」だったのに対し、5Nのほうは角を落とした多面体という印象になっている。

 とは言ってもボディが小さいので、レンズを付けてしまうとほとんどレンズだけの印象になってしまう。できるだけ存在を消したボディ、という珍しいデザインになっている。

 ただ、中身的には全然別物だ。まずセンサーだが、前回がAPS-Cサイズで有効画素数約1,460万画素だったのに対し、今回は同サイズで1,610万画素に増えている。裏面照射ではない「Exmor APS HD CMOS」だが、高感度、低ノイズを実現している。


センサーも一新され、1,610万画素になった操作部のレイアウトはほとんど変わらず

 動画的に大きいのが、60p/24pが出せることである。前モデルは30pしか出せなかったので、1080/60i記録とは言っても、実質は30コマであった。今回はまともに60iが撮れるほか、さらに24p撮影にも対応しているため、録画モードはかなり増えている。

 

【各モードの動画サンプル】
フォーマット解像度ビットレートフレームレートサンプル
AVCHD1,920×1,08028Mbps60p
00051.MTS(37MB)
24Mbps60i
00052.MTS(34MB)
17Mbps60i
00053.MTS(28MB)
24Mbps24p
00054.MTS(36MB)
17Mbps24p
00055.MTS(30MB)
MP41,440×1,08012Mbps30p
MAH00016.MTS(22MB)
640×4803Mbps30p
MAQ00017.MTS(5MB)
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 

 AVCHDから30pが無くなっているが、これはこれで使い道もあったので、なにも無くすことはなかったんじゃないかと思う。MP4で30pが残っているが、これはこれで画質的にはなかなか健闘している。

 前モデルでの動画撮影時は、いくら絞り優先、シャッタースピード優先に設定してもフルオートでしか撮影できなかったが、今回からは動画でも絞り、シャッター速度を可変できるようになった。

 液晶モニタは上下チルト機構は健在のまま、タッチスクリーンとなった。画面内で被写体にタッチすると、そこを追いかける「追尾フォーカス」が使える。

 また今回は、有機ELビューファインダの「FDA-EV1S」が使えるようになっている。解像度XGA(1,024×768ドット)のファインダで、5N上部のアクセサリ端子に固定する。

チルト機構はそのままでタッチスクリーンとなった有機ELビューファインダ「FDA-EV1S」90度までアングルを変えられる
ビューファインダー併用専用の表示モードも用意

 アイセンサーが付いており、顔を近づけると自動的にONになる。また横のボタンを押して切り替えも可能。本体液晶モニタの表示は、ビューファインダ撮影専用モードに切り替えることもできる。

 色がシルバーしかないのでボディが黒だと合わないが、レンズの色とは合う。なおこのファインダは、旧NEX-5/NEX-3/NEX-C3には付かない。

 もう一つのアクセサリ、マウントアダプタの「LA-EA2」も新設計だ。従来の「LA-EA1」は、αレンズに対して接点はリレーするものの、レンズホールは素通しであった。今回のLA-EA2は、間に透過ミラーが入っており、レンズからの光を反射させてAFセンサーのほうへ分岐している。AFセンサーは、マウントアダプタの三脚台座部分に入っている。


トランスルーセントテクノロジー搭載のマウントアダプタ下向きに透過ミラーが入っている底部には三脚穴も

 これにより、α77、65、55で採用されているトランスルーセントテクノロジーによる高速AFが、NEXでも使えるようになる。



■良さが光るαレンズ

今回テストしたレンズ群

 では早速撮影してみよう。今回はEマウントでは標準レンズキットの「E18-55mm F3.5-5.6 OSS」と「E16mm F2.8」、さらにα用レンズとしてズームレンズ「DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM」、「Vario-Sonnar T* 24-70mm F2.8 ZA SSM」の2本、単焦点「Planar T* 85mm F1.4 ZA」をお借りしている。

 動画撮影時にも、Eマウントレンズでは絞りが動くようになったのは朗報として、次に気になるのが新マウントアダプタLA-EA2を付けてどれぐらいαレンズが動くのか、という点であろう。これに関しては、レンズによって多少挙動が変わるようだ。

 「DT 18-55mm F3.5-5.6」と「Vario-Sonnar 24-70mm F2.8」の両ズームレンズの場合、絞りをマニュアルで動かすことができなかった。具体的には、F3.5を上限とした開放に固定される。「DT 18-55mm F3.5-5.6」は元々ワイド端開放がF3.5なのでそれ以上開かないが、テレ端ではそのまま成り行きでF5.6となる。また、「Vario-Sonnar 24-70mm F2.8」は開放が全域でF2.8だが、残念ながらF3.5で固定される。なお、マニュアルフォーカスに設定した場合、レンズに関わらず絞り設定ができ、例えば単焦点の「Planar 85mm F1.4」の場合は、F1.4の開放にする事もできる。

 「LA-EA2」の説明ページによると、AE撮影の場合、「動画撮影時の絞り設定は、AF時にはF3.5、開放絞りがF3.5以上のレンズでは、開放値に制御される」という制限のようだ。

 【お詫びと訂正】
 記事初出時、AFモードでも「Planar 85mm F1.4」では「自由に絞りが動かせる」と記載しておりましたが、誤りでした。AF時の開放はF3.5になります。マニュアルフォーカスモード時のみ、レンズに関わらず絞り設定が可能です。お詫びして訂正させていただきます。(2011年10月3日)

 

Planar 85mm F1.4(開放)で撮影したところF22まで絞るとこのようになる

 

 いやさすがに単焦点の中望遠で撮影すると、ボケ足も長い。開放ではいささかボケ過ぎの感があるので、F2.2~3.5ぐらいに絞るのが妥当であろう。

同じくPlanar 85mm F1.4開放で撮影。開放では若干ボケ過ぎの感もF3.5でもこれぐらいボケるVario-Sonnar 24-70mmでテレ端F3.5だとこれぐらい

 ただ実際に絞りが動くタイミングは、動画を撮影し始めた瞬間からになる。それまではいくら本体で設定しても、開放のままだ。したがって絞り値を変えた結果、どれぐらいの被写界深度になっているかは撮影前に確認できない。

 この場合は動画を撮影する前に、プレビュー代わりに静止画を1枚撮影して確認するといい。静止画撮影時に絞りが設定値に動くので、深度の感じを掴むことができる。

 一方Eマウント用のレンズは、絞り設定を動かした時点で動的に物理絞りも動くので、撮影前に被写界深度が確認できる。今年の12月にはEマウントの単焦点レンズが2つリリースされるが、かなり明るいレンズなので楽しみだ。



■さすがはトランスルーセント

 続いて気になるのが、フォーカス性能だ。せっかくトランスルーセントテクノロジーのAFが使えるようになったところで、動画ではどのように動くのだろうか。

 いつものようにモデルさんに手前に向かって歩いて貰うシーンでは、αレンズでもAFで追従する様子が確認できる。AFでの合焦時間は非常に短いが、ビデオカメラのように常時変動し続けるのではなく、外れたとわかったら瞬間的に合わせに行くという動作になる。いくらフルタイムでAFが動くとは言っても、やはりビデオカメラ並に任せっきりというわけにはいかないようだ。

 Eマウントレンズによるフォーカス追従はそれとは違い、一見なめらかに追うようだが、全体的に曖昧であるとも言える。さらに被写体が手前のほうになると、もう追従するのをあきらめた感じになる。これでも被写体に追尾フォーカス設定をしてあるのだが、モデルさんの服が低コントラストなので、曖昧なフォーカスの合い方になるようだ。

 

【動画サンプル】
focus1.mp4(48MB)
【動画サンプル】
focus2.mp4(44MB)

Vario-Sonnar 24-70mmでのフォーカス追従EマウントレンズでのAF動作はまた違った感じに
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 

 AFの動作はシャッターボタンの半押しでも起動するが、動画撮影になるとその値は無視して、もう一度最初からAFを取り直すようだ。このためずっとAFのままでは、テイクの頭からは使えない可能性もある。AFでフォーカスを決めたあとはMFにしてフォーカスロックして撮るほうが無難だろう。

 今回は有機ELのビューファインダもお借りしている。有機ELは最近、プロ用のビューファインダやカメラモニター、マスターモニターなどで製品化が始まっており、黒がしっかり沈むモニターとして高い評価を得ている。

 今回の新ビューファインダもその傾向は同じで、輝度はそれほど高くないが、高コントラストで映像を確認することができるため、日中でも違和感のないモニタリングが可能だ。さらに90度までアングルが変わるので、ローアングル撮影にも対応できる。

 難点と言えば、カメラマイクがすぐ両脇にあるので、接眼しながら撮影すると鼻息をかなり拾う点である。特にローアングル時がヤバい。またビューファインダを付けてしまうと、外部マイクを付けることができない。本格的にやるなら別途レコーダを回すところだが、普通の撮影でそれは面倒だろう。

かなり責めたフォーカスもビューファインダがあればしっかり確認できる

 実は以前のNEX-5の時に、標準レンズではフォーカスに難があると指摘した。その傾向は今回もあまり変わっていないので、音声を多少我慢してもきちんとフォーカスが確認できるビューファインダはあったほうがいいだろう。

 一方、新マウントアダプタを使ったαレンズ撮影では、AFのスピードだけでなく精度もかなり高い。標準のEマウントレンズを使った時よりも、フォーカスの信頼性は上だ。このアダプタを使う限り、明るくて液晶が見づらいといった用途は別として、フォーカスアシストとしてのビューファインダは必要ないだろう。

 αレンズで撮る動画はすでにNEX-VG10のレビューでも確認しているが、今回のサンプルは60pモードで撮影している。液晶テレビに対してもっとも相性のいいフレームレートなので、撮影後の上映は満足度が高い。

 

【動画サンプル】
sample1.mp4(184MB)
【動画サンプル】
room.mp4(49MB)

αレンズによる撮影例低照度時のS/Nも向上している

上の動画はLoiLoScope2で編集し、MP4出力したものです

編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 

 28Mbpsとビットレートが高いこともあって、圧縮ノイズはほとんど感じられない。ディテールもかなり細かく出ており、発色もまったくのノーマル設定だが、色乗りがいい。今回はほとんどαレンズで撮っているので前回のレビューと比較するのは酷だが、全然別物のカメラと言っていいほどに絵が良くなっている。

前ボケ後ボケともに綺麗だ(レンズはVario-Sonnar T* 24-70mm F2.8 ZA SSM)このレベルの動画が難なく撮れるのはさすが(レンズはPlanar T* 85mm F1.4 ZA)

 前回気になった水面の偽色は、特に対応したという話は聞いていないが、出にくくなっているようだ。まったくのゼロではないが、よほどそこに注意していなければ気がつかないレベルになっている。

 一点他のサイトでも指摘されているが、カメラを動かして撮影すると、カチカチという音が入る。デジカメで物理動作する部分と言えば今や光学系ぐらいしかないが、どうもレンズの音ではないようだ。標準ズームだけでなく、マウントアダプタ経由のαレンズでも同じ音が出るからである。

 この問題はソニーでも認識しているということなので、近々修正ファームウェアが出ることだろう。三脚固定で撮影しているときは現象が出ない。

偽色の問題もかなりクリアされた【動画サンプル】
click.mp4(35MB)
カメラを動かして撮影するとクリック音が混入する


■総論

 一般的にNEXシリーズは、「マイクロ一眼」といった扱いになっており、小さい・軽い・簡単ということで女性の人気も高いわけだが、動画にはそれほど力が入っていなかった。何も考えずボタンを押せば撮れます、というのはある意味ユーザー層からすれば正しいのだが、動画屋さんからしてみれば「なんともったいない」というところである。

 しかし今回のNEX-5Nは、静止画部分ももちろん改良点は多いが、動画からすればかなり大きな一歩をついに踏み出したモデルだと言える。気がつけばハンディカムも、今年のCESで発表されたモデルが出たっきりで新モデルの気配がなく、いよいよデジタル一眼で十分な動画が撮れないことにはどうしようもないところに来ているのである。

 そこに来てマウントアダプタ「LA-EA2」の投入だ。このアダプタの開発には、ほとんどまるまるカメラ1個分の設計リソースがつぎ込まれたそうである。これで、NEX-5Nの価値が一気に広がった。いや本当に広がったのは、αレンズの価値だろう。αボディにしか付かないと思われていたものが、マイクロ一眼にも付いてAF性能もαボディと同じ、NEX標準より上なれば、使わない手はない。

 αレンズにNEX-5Nを付けると、ほとんどレンズしかないように見える。しかしそれが、カメラを極めた姿に近いのではないだろうか。どうしても小型にできない光学系と、極限まで小型化されたイメージャー以降のプロセスが合体した姿である。レンズが入るところなら、αボディが入らないところでも潜り込んでいける。

 だが、「レンズ一体型カムコーダでは見ることができなかった夢が、NEX-5Nにはある」と言うと、多少オーバーかもしれない。「簡単に思い通りに」という現在のカムコーダの性能から考えれば、まだ難しい部分もある。

 しかし出てくる絵を見れば、コンシューマにおいても、もう時代は変わったという思いを強く抱かざるを得ない。

(2011年 9月 28日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]