“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第547回:【CES】キヤノンの無線LAN搭載カムコーダ
~Qualcommは第4世代Snapdragonを使ったARデモ~
■ 3日にして早くも終了モード?
メイン会場のLVCC |
さて3日目の本日は、キヤノンのカムコーダとQualcommの技術デモについてまとめてみた。AV技術にIT技術、モバイル技術が溶け合って、だんだんいろんな線引きが無意味になってくる感覚を少しでもお伝えできればと思う。
■ AVCHDとMP4の2Way記録に舵をとるキヤノン
キヤノンブースは、イメージカラーの赤が天井からブース内まで統一された、印象的なカラーになっている。先日プロ映像制作業界への本格参入を果たしたEOS C300も展示してあったが、コンシューマのショーということでターゲットが違うせいか、あるいはシネマカメラということで見た目が怖いせいか、来場者の関心は薄いようだった。
赤でイメージが統一されたキヤノンブース | プロ業界では大注目だがCESではスルー扱いのEOS C300 |
ミドルレンジとしては最上位となるM52 |
さて、キヤノンのカムコーダiVISはここ米国ではVIXIAというブランドで展開している。ただし型番は世界共通なので、おそらくこれらのモデルが日本でも発表されることになるだろう。
この春のミドルレンジモデルとなるHF M52は、前作M41よりも50gの軽量化、体積比で15%減と小型化されたモデル。
レンズは43.4mmスタートの光学10倍ズームレンズで、F1.8。撮像素子は前作同様、プロ機向けに開発したHD CMOS PROを採用しているが、今回は表面のマイクロレンズとカラーフィルターの透過率を改善して、両方合わせて約20%感度をアップさせている。
液晶モニターは、表面ガラスを液晶の外側までカバーする、フルフラットタッチパネルを採用した。2~3年前にもフルフラットなパネルだったが、最近は画面が凹んだ形のモニターになっていた。これだとモニター表面の汚れが拭き取れず隅っこに溜まるだけなので、あまり評判がよくなかった。これを元に戻したということである。
メモリーカードスロットは、以前はデュアルスロットだったが今回は1スロットに戻っている。思ったほどメリットがなかったということだろうか。
今年発表のモデルはすべてAVCHDだけでなく、MP4撮影モードが付いた。狙いはiOSをはじめとするスマートフォンやタブレットで直接再生できるということのようだ。
液晶モニタはフルフラットのタッチパネル | 全モデルにMP4撮影モードが付いた |
MP4では720/30pもしくは24pでの撮影となり、フルHDでは撮れない。ビットレートは9Mbpsか4Mbpsを選択できる。
これまでカムコーダはテレビに映すためにフォーマットを合わせてきたわけだが、今後はタブレットなどをもう一つのスクリーンとして設定し、サポートしていくということだろう。
またすっかり今年のトレンドとなった無線LAN機能は、M52、M50、R32、R30というモデルに搭載されている。事実上無線LANでできる機能はMP4での記録とセットと考えていいと思うが、iOS端末とカメラをアドホックで直接接続し、映像を転送できる。転送した映像は、iOS端末からYouTubeやFacebookにアップロードする。この専用Appは無償配布を予定している。
またホームネットワークに接続して、PCに動画をバックアップしたり、DLNA対応テレビを使って直接カムコーダの映像を再生することもできる。
M52は内蔵メモリは32GBで、米国では3月発売。価格は750ドルとなっている。同様のスペックでメモリ容量8GBのHF M50は、同じく3月発売で価格は650ドル、さらに無線LANと内蔵メモリなしモデルのHF M500は550ドルとなっている。
M52のメニュー画面。無線LAN機能のセットアップ項目がある | メモリ容量違いのM50 | 内蔵メモリなしモデル、M500 |
ハードウェアとしての改良もさることながら、今回キヤノンのカムコーダは、ソフトウェア面でかなり改良されている。まずはGUIだ。以前は画面上のFUNCボタンからメインメニューに入っていく方式だったが、いわゆるクイックメニュー的なところから分け入っていく感じだったので、メインメニューにたどり着くまでのステップが多かった。
今回からはボディにホームボタンが付いており、そこからグループ分けされたメニューにアクセスするというスタイルになった。オートとマニュアルの切り換えもハードウェアスイッチではなく、ホームメニューの中に格納されている。
細かいところでは、手ぶれ補正モードがシーンを判断して、自動的に切り替わるようになっている。基本はダイナミックISだが、テレ端ではパワードISに、マクロではマクロISに自動的に切り替わる。
さらにオーディオにも新しくシーンモードが付けられている。スタンダード、音楽、スピーチといったモードを設けており、ユーザーがより目的に合ったシーンを選ぶことで集音特性が変化する。
エントリーモデルのRシリーズも、内蔵メモリ違いの3モデルが発表された。HF R32は内蔵メモリ32GBのモデル。
ホームボタンで設定メニューが表示される | 新たにオーディオにもシーンモードが | 高倍率ズームで攻めるR32 |
その他は共通仕様で、こちらも前モデルであるR21から軽くなり、重量は250g、容積では20.8%小さくなった。レンズは38.5mmスタートの光学32倍ズームレンズで、アドバンストズーム領域まで含めると51倍ズームとなる。またエントリーモデルながら、手ぶれ補正も光学式となり、シーンに応じて自動的に変える機能も付いている。
これらも3月発売で、R32が550ドル、内蔵メモリ8GBのR30が450ドル、内蔵メモリなしのR300が350ドルとなっている。
なお、ハイエンドモデルは昨年のHF G10がそのまま継続となるようだ。
メモリ容量違いのR30 | メモリなしモデルのR300 |
■ 第4世代Snapdragonで実現できる世界
モバイル関係のエリアでいいポジションにあるQualcommブース |
モバイルデバイス用の総合チップSnapdragonを開発するQualcommでは、最新チップのS4のパワーをアピールする様々なソリューションを展示した。Snapdragon S4は簡単に言うならば、CPUやGPUなどの演算機能、無線LANやBtuetoothといった通信機能、さらにオプションで3G、LTEといったキャリア通信機能までを全部一体化された、モバイルの総合商社的チップである。
すでに基調講演でもいくつかソリューションが紹介されているが、注目はWindows 8のサポートだったようなので、ここではそれ以外のソリューションを詳しくご紹介してみたい。
タブレットの機能として紹介されていたのが、4G LTEを使って複数台のタブレットを接続したデモ。タブレット画面上では720p、そこからHDMI出力は1080pでゲーム画面をリアルタイムにレンダリングする。もちろん通信まで含めて1チップの性能である。
もう一つはカメラで撮影した2D映像をリアルタイムに3Dコンバートしながら、同時に3DのARもレンダリングしてオーバーレイさせるというデモ。こちらもゲーム仕立てとなっていた。
2画面同時出力とLTE通信を1チップで実現 | 実写を2D-3D変換しつつARも3Dで乗っけるデモ |
カメラを使った認識機能としては、ジェスチャー検知がある。手を動かす動作でコンテンツのページをめくる、ズームするという動作が可能だ。
カメラに向かってのジェスチャーでページめくり |
最近筆者はiPadでレシピを見ながら料理のレパートリーを広げているわけだが、調理で汚れた手でレシピ画面をスクロールする羽目になるので、大変困る。料理しているときはあんまり気がつかないが、時間が経って画面が乾くと鶏肉の脂や小麦粉の粉などが表面の保護フィルムにこびりついて、なかなか取れない。
ちょっとしたことだが、カメラとジェスチャーを使った動作というのは、ゲームのようなエンタテイメント目的ばかりでなく、いろいろなシーンで役に立つはずである。
立体のオブジェクトを複数認識してARで表示 |
もう一つ、ARを使ったQualcommの具体的な取り組みとして、教育事業がある。これまで身近なAR技術としては、ニンテンドー3DSに搭載されているものだろうと思うが、通常はカード状のARマーカーを利用する。ソニーのPS Vitaでは特徴点が抽出できればなんでも使えるように進化している。
一方Snapdragon 4SのARは、カードではなく3次元物体を複数個認識して、ARで見ることができる。教育事業としてセサミストリートと協業し、登場するキャラクターをカメラに写すと、そのキャラクターがリアルタイムレンダリングされてしゃべり出す、といったことができる。
おままごとをものすごい規模で拡張したようなものだが、子どもにとっては高い教育的効果が見込めるのではないかと注目されている。
例えば今筆者の小学2年生の娘はかけ算九九の暗記で大変だが、21世紀になってもう10年以上経つというのに、未だに学校では短冊に式が書いてある計算カードで覚え、計算ドリルをただひたすら全問正解するまで何回もやり、最後に先生に九九を諳んじて言うというテストに合格しなければならない。
筆者も約40年前に全く同じ事をしたし、おそらくやり方は戦後から大して変わってないのではないだろうか。となればもう70年近く、九九の暗記学習は何一つ進化していない。残念ながら筆者の娘には間に合わなかったが、楽しく学べて定着率も高い方法なら、今すぐにでも教育に投下して欲しい技術である。
もう一つ興味深い技術が、音声空間のプロセッシングである。試作端末には、マイクが4つ仕込まれている。前面は左右、背面は上下の、水平キッチリではなく微妙にずれた位置にレイアウトされており、これで空間全体の音を拾う。
この拾った音から、5.1chのサラウンドサウンドをプロセッシングによって生成し、出力するというデモを聞かせて貰った。こういう簡単な装置でサラウンド記録ができるのであれば、プロ業界でも注目されるはずである。
前面に左右のマイク(赤い丸) | 背面には上下のマイク(赤い丸) | 収録した音からリアルタイムで5.1chサラウンドにプロセッシングして再生 |
この程度のマイクで左右どちらからの音声かを正確に判定する |
同じく音声空間のデモとしては、右と左に立っている人が声を上げることで解答権を得る音楽クイズというものがあった。通常スマートホン程度に実装されているマイクの左右の距離、実機ではほんの2cm程度しか離れていない状況では、右からの音と左からの音をはっきり認識するのは難しい。だが背面のマイクまで含めた空間全体の音を拾ってプロセッシングすることで、ちゃんと方向を聞き分けて判断する。
録音ということではなく、カメラと並ぶ一つのセンサーとして音声空間の解析を行なう技術は、様々なメリットをもたらすだろう。
最後にSnapdragonとの関係性は薄いが、以前からQualcommが開発を続けている反射型ディスプレイ「mirasol」(ミラソル)のカラー版がいよいよ量産に入るという。
mirasolディスプレイ搭載の電子書籍(実態はAndroid端末) |
mirasolは、蝶の鱗粉が見る角度によって様々な色に見えるという原理を利用したディスプレイで、バックライトが不要なため、現在電子書籍端末で主流のEインクと同様低消費電力で動作が可能だ。さらにEインクのようにページ書き換え時にいちいち反転しないというのも特徴だ。
昨年韓国メーカーから初めてのカラー端末が発売され、来月には中国で2種類の端末が発売される。
Qualcommでは台湾に1億ドル規模の設備投資をして、近々量産に入るという。大量生産によりコスト競争力が出れば、Eインクを凌駕することになるだろう。
まだ第一世代だという現状のパネルでも、30fpsのリフレッシュレートを実現しており、動画再生もできる。発色は今ひとつ鈍いが、ここはまだまだ改善できるという。電子書籍端末の用途からすれば、テレビのような輝度や発色は求められないことも一つ有利な点だろう。
現在タブレット端末は、今後何に使われるのかわからないため、あらゆる表示に耐えうる性能が求められている。しかし今後は、タブレット技術を使いながら、目的を絞った低価格端末も出現するだろう。mirasolも世代が進めば、そういったディスプレイとして当たり前に採用される時がくるかもしれない。