小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第612回

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

1080/60p/MP4で動画強化「PowerShot SX280 HS」

キヤノンが謳う「動画コンパクト」は本物か?

動画で差別化の時代

 デジタルカメラ業界も、ミラーレスや一眼レフに比べると、コンパクトとネオ一眼をどう位置づけていいのか苦戦しているようだ。JEITAが公開している資料によれば、2013年初頭では台数ベースでコンパクトデジカメは一眼の倍以上出荷しているにも関わらず、金額としてはほぼ同じである。

 つまり日本の工業製品には向かない、薄利多売製品ということだ。昨年度の出荷と金額の推移を見てみると、あきらかに国内メーカーはコンパクトデジカメの生産を絞っており、ターゲットを一眼に絞ってきているのがわかる。

 かといってカメラは、安ければ中国製でも韓国製でもなんでもいいというユーザーは少ない。製造は海外でも、日本メーカーのブランドでなければそもそも買わない製品なので、辞めるわけにもいかないというジレンマがある。

 そこで取れる手と言えば、単価を上げるためにどのような付加価値を付けていくかという事になる。ソニー、ペンタックスリコー、富士フイルムのように高級路線に振るという流れだが、キヤノン、パナソニック、カシオあたりはそこには乗らないように見える。

 その一方で、昨年からソニーが積極的に仕掛けているのが、低価格コンパクトでの動画対応だ。そもそもビデオカメラ市場ではシェア6割〜7割近くを抑えるトップメーカーが、デジカメで動画対応を謳い始めたら、そちらへドッと流れができてしまう。

 コンパクトでシェアが高いキヤノンはこの流れには乗る気のようで、“動画コンパクト”を前面に謳うモデル「PowerShot SX280 HS」(以下SX280)を4月25日にリリースする。公式サイトでも、特徴の1番目として動画性能を謳う力の入れようだ。

 先週の「XA25」に引き続いてキヤノン2連発の動画レビューとなるが、レベルが違うのは承知の上で、プロ向けビデオカメラと低価格コンパクトの動画性能を比較してみるのも面白いだろう。ちなみにSX280は、直販サイトでは32,980円だが、一部のネット通販サイトでは既に27,000円を切る価格で予約を受け付けるところもあるようだ。先週のXA25との価格差は、ほぼ10倍である。

 それではキヤノンが謳う「動画コンパクト」の実力を、早速テストしてみよう。

見た目はオーソドックス

 一口にPowerShotといっても、そのスタイルは幅が広い。ネオ一眼クラスもPowerShotだし、はたまたIXYのようにツルッとしたデザインのコンパクト機もありと、いわゆるPowerShotらしい形というのはないように思える。

 本機はコンパクトデジカメとしては平均的なサイズで、直方体ながらも微妙にラウンドを付けた形状で、全体をソフトに見せている。国内では黒しかないが、海外モデルでは赤や青もあるようだ。指がかりとして長い突起が付けられているのがアクセントになっている。

微妙にラウンドを付けたスタイル
指がかりが特徴的なデザイン

 レンズは35mm換算で25mm〜500mmの光学20倍ズーム。デジタルズーム併用では、40倍から80倍までとなる。動画での画角は資料がないが、静止画の上下を切って16:9にするスタイルで、左右は変わらないようだ。絞りはF3.5〜8.0だが、物理絞りが連続可変するわけではなく、実際には3段階ぐらいしかないようだ。

35mm換算で25mm〜500mmのズームレンズ
レンズは最長で右の写真の長さまで伸びる
撮影モードと画角サンプル
ワイド端 テレ端
動画
静止画
25mm

500mm
1080/60p撮影に対応

 撮像素子は1/2.3型、裏面照射CMOSで約1,280万画素、有効画素数は1,210万画素となっている。画像処理エンジンは新開発のDIGIC 6で、特に動画性能を大きく進化させたという。このエンジンで最高1080/60pの動画を、MP4/35Mbpsで記録する。

 前面のAF用LEDの両脇にステレオマイクがある。レンズ部の右下の穴はスピーカーだ。天面の突起部にGPSユニットがあり、ここだけ樹脂製のパーツがはめ込まれている。

上部にはGPSユニットを搭載
3型液晶モニタを搭載

 背面に回ってみよう。液晶モニタは3.0型TFTで、約46.1万画素。タッチパネルではない。

 モードダイヤルが背面に大きく出っ張っており、撮影モードが12もある。動画撮影専用モードもあるが、基本的にはどのモードでも背面の録画ボタンを押せば動画が撮影できるというスタイルだ。ただし1080/60pだけは動画専用モードでしか撮影できない。

記録モード 記録画素数 フレームレート ビットレート サンプル
1920/60 1,920×1,080 60p 35Mbps
MVI_0040.mp4
(56MB)
1920/30 1,920×1,080 30p 24Mbps
MVI_0043.mp4
(34MB)
1280/30 1,280×720 30p 8Mbps
MVI_0044.mp4
(12MB)
640/30 640×480 30p 3Mbps
MVI_0045.mp4
(4MB)

 無線LAN機能も備えているが、撮影時のコントロールではなく、もっぱら撮影後の画像をどこかに転送するのに使うというイメージだ。

側面にはUSB、アナログ出力兼用端子と、HDMIミニ出力
バッテリは底部から差し込むスタイル

発色や手ブレ補正は良好だが……

 ではさっそく撮影であるが、いきなりトラブルに巻き込まれた。前夜から充電して朝にバッテリを装填したのだが、カメラの通過経路のログを記録するGPSログ機能をONにしていたせいなのか、午後1時の撮影開始直後に、いきなりバッテリー不足で表示が点滅し始めた。

 確かに撮影日は小雨交じりの曇天で、4月にしては結構肌寒い日だったが、それで電圧が下がるような冷たさではない。バッテリの持続時間をマニュアルで確認すると、動画撮影時間は約25分しかない。連続時は1時間とあるが、通常撮影で25分しか保たないというのはいくらなんでも短すぎだ。DIGIC 6での動画撮影がヤケクソにバッテリを食うのだろうか。

 それでもなんとかだましだまし、およそ1時間かけてテスト撮影を完了した。バッテリ点滅状態でもそこからあと1時間動画撮影で使えるというのもどうかと思うが、バッテリの表示に関しては疑問が残る結果となった。

【編集部追記】
 キヤノンによれば、レビューに使用した貸出機はバッテリがあまり減っていないタイミングで残量警告が出るモデルだったという。撮影可能時間などに変更は無いが、製品版では適正なタイミングで残量警告が出るよう修正されているという(2013年4月26日)。

 なおバッテリは、付属の専用充電器でしか充電できず、本体充電機能はないようだ。本格的に使うなら、予備バッテリが2つ3つ必要になるかもしれない。

5軸手ぶれ補正機能

 今回の撮影は、動画モードで1080/60pで行なっている。まずオフィシャルサイトでも大々的に謳っているのが、5軸手ぶれ補正である。ビデオカメラではそれほど珍しい機能ではないが、コンパクトデジカメではウリになるポイントというわけだろう。光学手ぶれ補正だけでなく、DIGIC 6による画像処理も組み合わせて、トータルで5軸のぶれを補正する。

 手ぶれ補正モードは2つあり、「1」が強力な補正、「2」がナチュラルな補正となっている。確かに1に比べると2のほうがローテーションの補正が弱いようだ。

 AFに関しては、顔認識による追従性もほぼ現行のビデオカメラ並みと言えそうだ。動画撮影直後にはフォーカスがふらつく時もあるが、高速にフォーカスを合わせてくるので、実用上はそれほど問題にはならないだろう。

手ぶれ補正もモード比較
stab.mp4
(88.7MB)
AF動作はビデオカメラに近い
af.mp4
(53MB)

 動画を撮影して問題なのは、撮影中にホワイトバランスや露出がコロコロ変わっていく事である。今回は曇天ということでオートではなく「曇り」で固定したのだが、特に移動しながら人物を撮影していると、ワンカット内で色味が4回ぐらい変わる。

1ショットの撮影で色味がどんどん変わる

 静止画撮影の観点からすれば、その都度最適なバランスにどんどん追従していくのが正しいかもしれないが、動画の場合、条件変化に対していちいちリセットせず、そのまま受け入れてある程度成り行きで変化する状況を記録しながら、やわらかくショックのないように追従していくアルゴリズムであるほうが正しい。

 こういうノウハウは、ビデオカメラのエンジニアなら当たり前の知識なのだが、iVISチームとそういうレベルで情報共有はしていないのだろうか。同じ社内でノウハウを“都度再発明”しているとすれば、いかにも効率が悪い。

ズームは動作音がかなり大きく入る
zoom.mp4
(49.2MB)

 動画撮影中に光学ズームが使えるというのも、一つのウリになっている。確かにズームは出来るが、手ぶれ補正が入っていると、ズーム中や止まったあとに絵がぷにぷにと動くので、どうも綺麗に決まらない。またレンズ動作音もかなり入るので、音声込みのコンテンツではうるさい事になる。

 発色に関しては、今回は曇天で光量が少ないにも関わらず、これだけ色が出るのはかなり良好と言える。ただ暗部のS/Nや細かいエッジ部分では、若干細かい粒子の荒れが見える。

曇天ながらくっきりとした発色
輪郭部分に若干の荒れも
被写界深度はそれほど浅くはならない
動画撮影サンプル
sample.mp4
(243MB)

 本機にはシネマモードのような機能はないが、静止画で使えるフィルタが動画でも使えるようになっている。細かくパラメータがいじれるのは「カスタムカラー」のみだが、プリセットで10種類のフィルタが利用できる。

 さらにハイスピード撮影機能まで搭載している。撮影モードをハイスピードに変更すると、320×240の240fpsか、640×480の120fpsで撮影可能だ。8倍か4倍のスローという事になる。

OFFからカスタムカラーまで、12種類のフィルターを順にテスト
filter.mp4
(208MB)
320×240の8倍速で撮影
slow.mp4
(2.3MB)

機能豊富な無線LANとGPS

 カメラに無線LANやGPSが搭載されるのは、昨今のトレンドとなってきている。ビデオカメラの場合、撮影時に無線LANでリモート操作というものが多いが、本機の場合は撮影後のSNS連携がかなり強力だ。

 といっても本体だけではなんの機能もない。カメラ同梱のCD-ROMに収録されているCamera Windowというソフトウェアを使って、多くのSNSとの連携機能をカメラに流し込むというスタイルだ。

 USBでPCとカメラを接続したのちソフトを起動すると、まずCANON iMAGE GATEWAYのログインを求められる。これはキヤノンが提供するクラウドサービスで、ここを経由して様々なSNSに向かって画像をアップするという仕組みになっている。

 連携可能なWebサービスとしては、facebook、Twitter、Youtubeなどが揃っている。「編集」をクリックしてアカウント情報などを設定して、カメラに情報を転送すると、カメラ側で直接アップロードできるようになる。

CANON iMAGE GATEWAYでSNSの設定を行なう
facebookの設定例
設定した情報をカメラに流し込む
カメラ側にSNSの投稿メニューが出現

 このような仕掛けは一見面倒なようだが、サービス側で投稿APIが変更されたなどの変更があった場合も、CANON iMAGE GATEWAY側で対応すれば継続して使えるなど、メリットが大きい。また、新しく別のサービスに対応する場合も、カメラ本体のファームウェアをいじることなく機能追加できるだろう。

 試しにfacebookにアップしてみたが、ウォールにそのままアップするか、特定のグループにアップするかを選択できる。もちろん事前に情報を入れて、カメラ側に設定を流し込んでおく必要があるのだが、いきなり全公開ではなく特定の人だけのグループに動画も写真もアップできるので、動画投稿のハードルも下がるだろう。

iPhoneのCamera Windowでカメラの画像を転送

 またiPhone用のCamera Windowアプリを使うと、カメラ内の映像を参照して、特定の画像をiPhone側に転送する事ができる。テキストも付けてアップしたい場合は、カメラ直接ではなくスマートフォン経由でアップせよというわけである。

 ただし1080/60p動画はiPhone側で対応しないとして、保存ができなかった。それ以外のモードで撮影した動画は、iPhone側でも扱える。

 GPSは、撮影した瞬間の位置情報を記録するだけでなく、移動ルートをずっと保存し続けるモードがある。これを使うと、トレッキングなどで歩いたルートもわかるので、レジャーでは楽しいだろう。

 GPSのログはSDカード内に記録される。同梱のMap Utilityを使うと、ログデータを取り出して地図上にプロットできる。撮影情報に含まれるデータと一緒に見ることで、撮影ポイントもわかる。動画撮影でも、さらにはハイスピード撮影でもGPSデータは記録される。

 またGPSログは、Google Earthで読み込める形式に変換することもできる。誰かに走行情報を共有したいときなどには便利に使えるだろう。参考までに、今回撮影した公園のデータをアップしておくので、興味のある人はGoogle Earthで読み込ませて、遊んでみて欲しい。

専用ユーティリティでログの情報が閲覧できる
撮影ポイントもわかる
GPSログはGoogle Earthでも扱える
ログファイルはこちら

総論

 “動画コンパクト”を謳った本機だが、確かに発色はよく、手ぶれ補正も効いて1080/60pが撮れるという点では、これまでのキヤノンのコンパクトにはなかったモデルである。

 ただ、いい動画が撮れるカメラかというとそれはまた別の話。強力なDIGIC 6を使ってハードウェアをぶん回している感はあるが、動画というのはそんなに細々追従させていったら見辛くなるので、光が変わってきてるのを知りつつ、いかにそーっと盗んでいくか、そういう感性が問われる世界なのである。

 もっと上を目指せ、と言っているのではなく、頑張る方向がそっちじゃない、という事である。たぶんアルゴリズムのコツが掴めればすぐにでも良くなる問題なのだが、ファームアップなどでの改善も期待したい。

 バッテリの持ちも気になるところだ。おそらく写真だけ撮っていればそこそこ保つのだろうが、動画を撮り始めるといきなりバッテリ切れ、ということになりかねないのでは、信頼度が下がる。

 今回も例によって静止画はまったく評価していないが、静止画での評価はまた全然違うだろう。この価格でこれだけの機能が乗っていれば、デジカメとしての満足度は高いはずだ。逆に、あんまり動画ばかりを訴求すると、ユーザーの評価が下がるんじゃないかと心配している。

 機能的には、無線LANやGPS関連が良くできている。SNSのセットアップにPCが必要という点で若干ユーザーを選ぶ感じもあるが、一度設定してしまえばどこにでも投げられるというのは、コミュニケーション時代の申し子のようなカメラである。

Amazonで購入
PowerShot
SX280 HS

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。