小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第613回:BD搭載iVDRレコーダ、日立マクセル「BIV-R1021」
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第613回:BD搭載iVDRレコーダ、日立マクセル「BIV-R1021」
“4 in 1“を実現。iVDRのメリットは引き出せるか
(2013/5/8 11:00)
久々のiVDRレコーダ
iVDRは、2002年にコンソーシアムが発足したリムーバブルメディアのインターフェース規格だ。現在はリムーバブルHDDの規格のように見えるが、実際にはHDDに限らずいろんなものが繋げられるようにできている。
iVDRは出始めの頃はPC向けのリムーバブルHDDという側面が強かったが、2005年に著作権保護技術の「SAFIA」が発表され、それを搭載したiVDR-S(iVDR-Secure)が追加。それ以降はレコーダや、日立のテレビ「Wooo」向けの増設用途の方向が強まっている。
強まっているとは言っても単体レコーダに限って言えば、投入してきたのは日立マクセル、三洋電機(生産終了)、アイ・オー・データの3社しかないので、知名度としてはあまり高くないだろう。本連載では、2007年に日立の「IV-R1000」をレビューして以来だ。
さて、AV機器でのiVDR利用だが、テレビの内蔵HDDを拡張するためにiVDR-S追加したり、単体HDDレコーダにiVDR-Sを追加し、保存しておきたい番組をiVDR-Sに記録するといった、「内蔵HDDの増量や一時的な保存」というニーズを拾う物であると言ってもいいだろう。
今回、日立マクセル(以下マクセル)から4月25日に発売された「BIV-R1021」は、1TBの内蔵HDDにiVDR、さらにはSDカードスロットと、Blu-rayドライブも搭載した“4メディア対応”となっている。ニックネームの「アイヴィブルー」はiVDRとBlu-ray搭載という意味だろうか。BD搭載で長期的な保存にも対応できるのが特徴だ。
なお、マクセルは、メディアメーカーとしてiVDRのメディアを製造販売してきたが、iVDR対応プレーヤーやレコーダも製品化しており、昨年にはBDドライブは搭載していないが、内蔵HDDとiVDR-Sスロットを備え、DLNA/DTCP-IPサーバー機能や、スマートフォンへの書き出し機能などを備えた「VDR-R3000」という製品も発売している。今回の「BIV-R1021」は、DLNAのネットワーク機能などは備えていないが、新たにBDドライブを追加した、新機軸の製品となっている。
価格はマクセルのオンラインショップでは64,800円。通販サイトでは5万円台前半で売っているところもあるようだ。なお、直販サイトでは数量限定で、320GBのiVDRメディア(iV)が1本付属するという。
マクセル製のレコーダというだけですでに珍しいという気もするが、早速試してみよう。
見た目は普通?
まず外観だが、フロントパネルから天板に至るまで真っ黒な薄型筐体を採用、奥行きも短く、昨今のBDレコーダとあまり変わらない印象だ。ただフロントパネル周りの作りはかなりプラスチッキーで、高級感はあまり感じられない。
内蔵HDDは1TBで、容量が500GBの「BIV-R521」(実売55,000円前後)もある。右側にあるiVDRスロットに自動イジェクト機構はなく、動作中のLEDが点灯していなければ手で引っぱり抜くだけである。iVDRメディアは差し込むと、本体内に完全に隠れるようになっており、'07年発売のレコーダ「IV-R1000」のように、常時半分が飛び出してるようなことにはなっていない。
左側がBDドライブで、イジェクトボタンがボディの真ん中にあるのはユニークだ。中央部のSDカードスロットは、写真やAVCHD動画の取り込みに対応するもので、テレビ番組の書き出し機能はない。従ってテレビ番組が扱えるのは、内蔵HDDとiVDR、BDの3メディアという事になる。
背面に回ってみよう。入出力端子は平均的で、RFは地デジ、BS/CSの2入力。地上/BS/110度CSいずれもダブルチューナだ。アナログ系の端子は、コンポジット/アナログ音声の入出力が各1系統。デジタル系は、HDMI出力と、光デジタル音声出力を各1系統備えている。
昨今のレコーダならここにUSB 3.0端子が付くところだが、本機はiVDRで拡張するため、付いていない。
リモコンも見ておこう。中央部の十字キーが四角く配置されているせいか、全体的に角張ったイメージだ。スタートボタンが大きくフィーチャーされており、全機能はここからアクセスできる。
テレビをコントロールするためのTVボタンのみ、使用時には緑色に点灯する。チャンネルボタンが今どっち用になっているか、わかりやすくするためだろう。
録画の制限や予約機能は数年前の水準
他のBDレコーダメーカーと比べると、これまで開発してきたレコーダの数は少ないマクセルだが、GUIデザインやフォントの美しさも含め、中身の完成度は高い。さすがは日立グループ、といったところだろうか。
ホーム画面は白地にブルーも使いながら、2色刷的なイメージでまとめている。番組表はGガイドで、表示するチャンネル数と文字サイズを別々に設定できる。
番組予約は決定ボタンを押して個別に設定する方法のほか、昨今の流行である「一発予約」にも対応している。サブメニューの感じなどは、ソニー機に似た配色だ。
画質モードは、TS以下HD画質で5段階、SD画質では5段階の圧縮記録が可能だ。EPモードは、6時間モードと8時間モードの切り換え式である。
録画モード | 解像度 | 記録時間(1TB) |
TS(地上波) | HD | 約130時間 |
AF(2倍モード) | HD | 約171時間 |
AN(3倍モード) | HD | 約257時間 |
AS(4倍モード) | HD | 約367時間 |
AL(5.5倍モード) | HD | 約504時間 |
AE(12倍モード) | HD | 約1,089時間 |
XP(1時間モード) | SD | 約231時間 |
SP(2時間モード) | SD | 約461時間 |
LP(4時間モード) | SD | 約925時間 |
EP(6時間モード) | SD | 約1,363時間 |
EP(8時間モード) | SD | 約1,825時間 |
ただし、この録画モードは内蔵HDDに記録する場合で、iVDRに直接録画する場合は、TSかSD画質モードしか使えない。内蔵HDDからiVDRメディアへのダビング時は、AF~AEが利用できる。
なぜHD画質のAVC圧縮が直接記録できないのか理由は定かではないが、規格上の制限か、あるいは著作権保護に関わる制限といった、ルール上の縛りなのかもしれない。なお、以前レビューした日立の「IV-R1000」には、トランスコード録画モード(TSE)が用意されていたが、「BIV-R1021」には搭載されていない。
画質的には、さすがにAEモードはブロックノイズが目立つが、ASモードぐらいまでなら十分に常用が可能だ。だいたい3倍から4倍程度の圧縮率で利用するというのが、今のレコーダの平均ではないだろうか。
HD画質で圧縮してiVDRメディアに保存したい場合は、いったん内蔵HDDに記録したあと、高速ダビングを行なうか、画質モードを変更しながらの等速ダビングとなる。等速ダビング中は、内蔵HDDの録画番組を視聴することができない。ダビングもタイマーで実行するといった機能はないので、ダビングに関しては一昔前のレコーダと同様である。
予約録画も、キーワードによる自動録画や、スマートTV的なネットサービスへのアクセス機能もない。どちらかと言えばシンプルなW録機といった構成になっている。
iVDRのアドバンテージ
カートリッジ式リムーバブルHDDは、PCの世界でもそれほど流行ってる感じはないが、それはUSBメモリやSDカードなどが安価で大容量になってきたからだろう。
一方レコーダの世界では、Blu-rayがBDXLで4層となり、128GBまで拡張されたものの、メディア価格や対応ドライブの問題もあり、思うように普及が進んでいない。それよりも大量保存という役割としては、低価格で大容量化した外部HDDを繋ぐという方向が、明確になってきている。
これは内蔵HDDの拡張という意味合いが強く、以前のようにテレビ番組を長期保存したいというニーズが減少し、いつ見るかわからないけどとりあえず消したくない、というニーズに変質してきていると見る事ができる。
ソニー、パナソニック、東芝らはUSBによる外部HDD接続に対応し、リーズナブルな汎用HDDを使うという方向性だ。一方シャープは、独自方式のスロットインHDDを搭載した。USB HDDに対する知識がない層を狙ったものと思われる。
その点でも本機は、シャープのように汎用のUSB HDDを扱い慣れていない層には受けそうだ。ダビングの方法も簡単で、画面の左から右へと設定していくだけである。
自動チャプタ機能も搭載しており、チャプタ編集による部分削除もできる。ただ部分削除した番組は、画質モードを変更しなくても、iVDRメディアへの高速ダビングはできなくなる。
iVDRのメリットは、高いメディア互換性だ。例えば外付けUSB HDDに録画したものを、別のレコーダに繋いでも再生することができない。これは汎用HDDの暗号化が、その機体と1対1対応するように行なわれているからである。
一方iVDR-Sの場合は、メディアごとにユーザーがアクセスできない領域に暗号化情報が記録されており、レコーダと紐付けされていない。例えば、アイ・オー・データが販売するiVDRプレーヤーに挿入すれば、別のテレビで再生が可能だ。また、アダプタと対応する同梱再生ソフトを使えば、PCでも録画番組の再生が可能になる。
試しに、筆者宅にあった昔のiVDR USBアダプタを使って、録画したiVDRをPCに接続してみたところ、問題なくマウントした。録画番組の再生などはできないが、中身のファイルは見ることができる。何年も前のアダプタで未だに接続できるというのは、ドッグイヤーで進むPC/IT系の規格から見れば、驚異的な互換性だ。
また、新たにBDドライブを搭載した事で、とりあえずの大量保存先としてのiVDR-Sだけでなく、長期的に保存するためのディスク化も、手軽にできるようになった。再生したら消すという内蔵HDD、一時的な保存場所であり、他の機器でも活用しやすいiVDR-S、長期保存のBDという3通りの保存ができるのが、大きな特徴だろう。
総論
本機のポイントはなんと言ってもiVDR搭載レコーダであるという点に尽きるわけだが、メディアのアドバンテージを考えると、普通のHDD並みの大容量で、かつPCや専用プレーヤーで再生できるという、HDDとBDの特性を両方持っていると言える。
直接AVC記録できないため、内蔵HDDとまったく同等の使い方ができない点はマイナスポイントではあるが、でっかいBDみたいなもんと思えばこれも納得……できないか。
あとはメディアとしての入手性が懸念材料となる。コンビニでも売っているBDメディアとは異なり、家電量販店などに行かないと売っていないし、価格もマクセル直販サイトで1TBが1個17,808円と、一般的な2.5インチHDDと比較すると2倍ぐらい違う。3.5インチと比較すると、容量単価では3倍以上の開きがある。これは残念な点だ。
活用例としては、東京の自宅で平日に録画したものをiVDRに入れて、週末に軽井沢の別荘でゆっくり視聴……みたいな使い方が理想だが、何かが根本的に間違ってるような気がしないでもない。家族でiVDRメディアをそれぞれ持って活用するなどが多いだろうか。
この大容量と手軽さは一つの魅力で、来年あたりから4Kの映像制作が本格的にスタートすれば、データの入れ物としてiVDRが大復活する……かもしれない。可搬性と接続互換性に優れた高速大容量メディアとしては、他にちょうどいいメディアがないのも事実だ。
コンシューマでは今ひとつ盛り上がりに欠ける印象のあるiVDRだが、映像キャリング・メディアとしては結構悪くない。今、それをより活かせる、決定的なアプリケーションが欠けているだけと言えそうだ。
1TB HDD内蔵 BIV-R1021 | 500GB HDD内蔵 BIV-R521 |
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