小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第660回:新女子カメトレンド!? キヤノン「PowerShot N100」

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

第660回:新女子カメトレンド!? キヤノン「PowerShot N100」

2眼の個性派。そうかこうやって使うのか

冒険のNシリーズ再び

PowerShot N100

 昨年4月に発売を開始したキヤノン「PowerShot N」は、従来カメラの常識に捕らわれないスクエアボディ、リング状シャッターなどを装備し、大きな注目を集めた。メーカーサイトでの直販しかなかったので売れ行きなどはわからなかったが、SNSと連携するということで、アンテナ感度の高いネットユーザーによく売れていたようだ。

 このNシリーズは「ニューコンセプトシリーズ」と名付けられているが、その第2弾モデル「PowerShot N100」が今年4月17日より販売が開始された。今年1月のCESでも試作モデルが展示されており、前面と背面の両方にレンズを搭載した“2レンズ仕様”であること、親子画面のままで動画が撮れることなどが確認できた。

 前作の売れ行きで自信を付けたのか、今回のN100は一般量販店などでも買えるようで、直販サイトでの価格は37,584円(税込)のところ、ネットの通販サイトでは3万円台前半のところもあるようだ。

 2レンズカメラと言えば、奇しくもパナソニックが今年、ビデオカメラとして「HC-W850M」を発売したのも記憶に新しいところだ。ツインカメラをキヤノンはどう料理するのだろうか。さっそく試してみよう。

やや重めのボディ

角を丸めたデザインが印象的

 まずボディだが、昨年のNに引き続き光沢のある白ボディではあるものの、スクエアスタイルではなく一般的な横長のカメラとなった。角を丸めた柔らかい形状ではあるものの、レンズ部の円筒はエッジが立っており、これがアクセントとなって全体的にヌルッとした感じになるのを押さえている。

 手に持ってみると、見た目から来る印象よりも重い。サイズ感でほぼ同じと思われる同社SX600 HSが164gなのに対し、N100は252g。レンズがもう1ランク上のSX700 HSよりも、さらに重い。本体がツルツルしているのと、角がないのとで、落としやすそうな印象がある。ストラップは必須だろう。なお今回は別売アクセサリとして白のソフトケースがあるのみで、初代Nのようなオシャレジャケ&ストラップ的なものはない。

見た目の割にはずっしりした重さ
前玉はそれほど大きくない

 レンズは35mm換算で24~120mmの光学5倍ズームレンズ。ただし焦点距離は静止画のもので、動画は若干狭くなる。撮像素子は1/1.7型CMOSで、画素数は1,330万画素、有効画素数は約1,210万画素。同時期に発売の近いサイズのカメラよりも、画素数はやや少ないが、サイズはやや大きい。裏面照射でもないので、絵的には一世代前という事になるだろう。

ワイド端テレ端
静止画
24mm

120mm
動画

 上部には電源ボタンとシャッター、ズームレバー、動画の録画ボタンがある。邪魔にされがちな動画ボタンが大きくフィーチャーされているのは、このカメラのポイントを表わしているという事だろう。中央にステレオマイク、端にポップアップフラッシュがある。

やや前向きに倒れたシャッターボタン
フラッシュは手動でポップアップさせる

 背面の液晶は3.0型/約92.2万ドットのTFTで、タッチパネル。第1弾のNと同様、90度まで開くようになっている。そしてこの液晶面にセカンドカメラが内蔵されている。厚みから考えても、スマホ搭載カメラに近いものだと思われるが、カメラスペックが35mm換算で25mmという程度しか情報がないため、それ以上の詳細がわからない。

液晶部にセカンドカメラが
液晶は90度開く

 ボタン類は円形十字ボタンに真ん中が決定ボタン、メニュー、再生といったオーソドックスな物のほか、お気に入り登録ボタンやアルバムボタン、カメラ横にスマホ連携用のWi-Fi機能起動ボタンがある。対応端末であればワンタッチでペアリングできるNFCにも対応している。

ボタン類はオーソドックス
横にWi-Fi連携ボタン

 撮影モードは大きく3つに別れており、通常撮影、デュアルキャプチャー、プラスムービーオートがある。これはあとで試してみよう。

撮影モードは3つ
接続端子はカバーに隠れている

 本体脇にはUSB兼用のAV出力端子、micro HDMI端子がある。底面はバッテリとSDカードスロットだ。

簡単そうでわかりにくい撮影モード

 では早速撮影、といきたいところだが、まずは撮影モードが複雑なので、整理しておこう。

特殊撮影モードもすべて並列にならぶ

 スライドスイッチで3モードあるわけだが、通常撮影はセカンドカメラは使わないものの、一番機能が多い。ここにはプログラムAEやポートレートといった一般によく使われるモードのほか、1ショットで複数の画像を作り出す「クリエイティブショット」や「魚眼風」、「ジオラマ風」、「トイカメラ風」といったエフェクトも並列に並んでいる。その一方で絞り優先やシャッター優先といったモードはない。

 さらにプログラムAEに設定しなければ、ISO感度や画質モードなど細かい設定が決められないため、カメラに詳しい人ほど迷いが大きいのではないかと思う。

動画モードは3+1

 動画の画質設定は、この通常撮影モードにしか現われない。画質モードは1080/30p、720/30p、VGA/30pの3モードが選べるが、なぜか静止画モードのほうにiFrame動画撮影モードがあるなど、わけがわからない。いやもしかしたら以前から同社のコンパクトデジカメはこうなのかもしれないが、他社のカメラに慣れていると、その考え方に馴染むのに時間がかかる。

 デュアルキャプチャーモードは、メインカメラの映像の隅にセカンドカメラの映像が縮小して表示される。これで写真を撮れば両方の絵が合成された状態で撮影されるし、動画を撮れば2画面はめ込みの動画が撮影される。この場合の動画は、720/30pだ。子画面の位置は、画面長押しで4隅に移動できるほか、大中小のサイズ変更や子画面を消す事もできる。ただ子画面を消すぐらいなら、通常撮影モードを使うほうがフルHDで撮れるので、お得である。

シャッターを押す4秒前から、メインとセカンドの2カメラの動画が記録され、セカンドカメラはシャッターを押した後2秒間の動画も記録される

 プラスムービーオートモードでは、写真を撮れば子画面は撮影されない。その代わり、シャッターを押す4秒前から、メインとセカンドの2カメラの動画が記録されている。シャッターを押した瞬間、メインカメラでは静止画が記録されるが、セカンドカメラはあと2秒間動画が記録される。この動作を模式化したのが右の画像だ。

 このプラスムービーの動画は、内部的には1本の動画ファイルとして繋がっており、あとで撮影時にどんなやり取りがあったかを連続して見ることもできる。なおプラスムービーオートモードの時に動画を撮ると、2画面合成の動画が720/30pで撮影される。これはデュアルキャプチャーモードと同じだ。

メインはむしろサブカメラ?

 ではいよいよ撮影である。今回はすべて手持ち撮影とした。また筆者ではなくモデルさんにもこのカメラで撮影してもらい、その表情をご覧いただけるようにしてみた。

AFの追従性と手ぶれ補正性能をテスト。両方ともレベルは高い
af.mp4(23MB)

 まずはいつものように、AFと手ぶれ補正の動画特性をテストした。AFの追従性は十分だが、カメラが同じ位置にいるにもかかわらず、モードが変わってしまう瞬間がある。コンパクトデジカメの動画ではよくある状況だが、なまじカメラが定点なので目立ってしまう。

 手ぶれ補正は、かなりうまく補正できるようだ。ビデオカメラに匹敵するレベルだと言っていい。露出も自動で追いかけるが、明るい順光だと若干飛び気味なのが気になる。

 では通常撮影のうち、クリエイティブショットを試してみよう。これは第1弾のPowerShot Nから搭載されている機能である。1回のシャッター押し下げで、自動で3回ほどシャッターが切られる。

 通常の写真のほか、色や露出、トリミングなど、合計6つのバリエーションで写真が撮影できるのがポイントだ。この5枚の写真はグループ化されており、内部でバラバラになることはない。

1回のシャッターで6枚の写真が連番で撮影される

 またこのグループの写真を使ったスライドショーをムービーとしても書き出せるので、ちょっとしたプロモビデオ風の動画が一瞬で作れる。これは女性には嬉しい機能だろう。

こんなムービーが撮影後すぐに作れる
MVI_0245.mp4(9MB)

 デュアルキャプチャーモードでの動画撮影は、2画面のままで撮影されるのがポイントだ。これはパナソニック「HC-W850M」と同じだが、こちらは解像度が720/30p止まりなのが残念である。

 被写体と撮影者が同時に撮影できるということで、家族の記録で使おうという提案がなされているようだ。だが「HC-W850M」の時も感じたことだが、筆者は撮影している自分も画面内に写ることに関しては、全然いいとは思わない。プロの世界では撮影者は通常、自分が写ることはむしろNGであるし、絵的にもキモいおっさんが囲みで写っても仕方がないと思っているからである。

家族の記録として2画面の動画撮影と言われても……

 デュアルキャプチャーの動画を一つのコンテンツとして見た場合“映像撮影者も被写体として成立している必要がある”というのが筆者の結論だ。試しにモデルさんに野良猫を撮影して貰ったが、撮影の技術とはまったく関係なく、コンテンツ的にはこちらのほうが全然良いものになっている。これは、女の子に持たせるべきカメラである。

撮る人も被写体として非常に重要
cat.mp4(22MB)

 続いてプラスムービーオートで、モデルさんにいろんな花を撮影して貰った。写真の出来不出来に関係なく、撮影されたムービーはすごくいいものに仕上がっている。写真はあくまでもきっかけに過ぎず、カメラのこっち側のコミュニケーションのほうが面白い。たぶんこのカメラは、こうやって使うのが正しい。集中して撮影時間を作り、勝手に撮られる動画のほうを演出していくのだ。

写真を撮っている状況の動画が、一つのコンテンツとして成立する
still.mp4(57MB)

多彩な再生機能

右下のアイコンをタップすると、この写真を撮った時のクリップが再生される

 N100は、撮影時も機能が多いが、再生時も結構多機能だ。プラスムービーオートで撮影された静止画は、子画面は記録されていないが、画面上にある動画アイコンをタップすると、その写真を撮ったときのクリップが再生される。静止画は静止画として独立しており、そこから関連するムービーを呼び出して再生しているわけだ。ある意味この機能が、このカメラの最大のポイントだろう。

連想再生で類似した写真を探して表示

 また1つの写真を選んで「連想再生」すると、これに類似した写真4枚を選び出してくれる。メモリーカードに沢山写真が残っていた方が面白いという、これまでのセオリーとは違った機能だ。現実には撮影した写真を何かに取り込まず、入れっぱなしにしているケースは相当多いと思うので、それを逆手に取ったわけだ。

好きな写真を選んでスライドショーに

 「アルバムビュー」は、日付ごとやある期間を指定することで、自動でスライドショーを生成してくれる機能だ。トランジションやフィルターエフェクトも選ぶ事ができ、気に入ったスライドショーが出来たら動画に書き出すことができる。旅行の記録などを作ってfacebookに上げるといったことも、動画編集の知識などなくても簡単だ。いやまあ女の子なら、カメラごと持ち歩いて人に見せるといった事になるかもしれない。だがそれは、イマドキとは言えない。

アルバム機能で作成した動画
MVI_0354.mp4(36MB)
Canon Camera Windowで画像や動画をスマホに転送

 そこで、Wi-Fiを使ったネットワーク機能の出番である。カメラ内で作った動画を、専用アプリを通じてスマホ用解像度にダウンコンバートしながら転送できる。写真をいっぱい転送するよりも、ムービーになっていたほうが見せる方も見せられる方も楽しい。

 このアプリはリモート撮影やGPS情報の埋め込みといった機能もあるが、このカメラのターゲットユーザーでは、撮影時にそこまでは使いこなせないだろう。むしろあとでゆっくり何かをするという時に、スマホを使って簡単に、というところに比重を持たせるべきだ。

総論

 2レンズカメラは、自分撮りブームの流れの中で撮影者も写りたいというニーズを満たすようなものに思われがちだが、それは微妙に違うんじゃないかと思う。自分撮りが好きな人は、誰にも気兼ねなく自分の決め顔を撮りたいのであって、必死に何かを撮ろうとしている自分を撮りたいわけではない。

 そうなのだ。だいたい撮影者というのは、撮影に夢中になればなるほど、変な顔をしている。報道の現場でとくダネを狙うカメラマンを反対向いて眺めていると、全員が全員口をあけてたりする。たぶん心の中で、「よしここでグワーッと寄って!」とか思っていると、口があいてしまうのだろう。

 2レンズカメラは、そういうマヌケ面をワイプインしてしまうという、爆弾のような装置なので、これはどうなのかなと思っていたのだが、今回の撮影で使い方が見えてきた。これは、被写体になる側に持たせるカメラなのだ。そしてその子が何を撮ろうとある意味どうでもよくて、あとから写真撮影時のリアクション動画を見て楽しむという、新しい自分撮りスタイルの開拓なのである。

 その点からするとN100はしっかり全方位に作りすぎで、機能が多すぎる。3つもモードボタンはいらないし、静止画機能はクリエイティブショット以外全部なくていい。そもそも設定メニューも全部取るぐらいまで割り切るべきだ。

 そんな割り切った形で第1弾モデルのNのボディに入れたら、女子カメラとして不動の地位を築けると思うのだが、まあそこまでキヤノンに割り切れというのはどだい無理な話である。今ならこれをヒントにベンチャーが格安のガジェットを作ってブームを先導するといったことも、起きないとも限らない。

 ただ言えることは、少なくとも2レンズカメラは、むっつり黙って写真を撮るおっさんが持っていても何一つ面白くないという事である。

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PowerShot N100

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。