小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第651回:ツインカメラが新しい? パナソニックHC-W850M

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第651回:ツインカメラが新しい? パナソニックHC-W850M

ワイプ撮りできる「2カメ」は市民権を得られるか!?

「誰でもワイプ」時代到来?

 CES 2014で初めてお披露目となった、2つのレンズを搭載するパナソニック「HC-W850M」(以下W850M)。フラッグシップは3MOSにこだわっているパナソニックだが、今回は1MOSのVシリーズ系統という位置付けのようで、ビデオカメラとしては大型の1MOSの採用となった。その代わり2つのカメラ内蔵という、変わった提案である。

 これからまたXシリーズの続きが出るのかはわからないが、従来のVシリーズから、光学系、センサー、ボディデザインなども一新されており、見所の多いカメラとなっている。

 サブカメラは、メインカメラの映像の中にワイプで囲われた形で表示される。“1台で2カメ”という提案は、廉価なMP4カメラではあったが、本格的なカメラでは筆者が記憶する限り初めてだ。同スペックでサブカメラのない「HC-V750M」も同時発売される。2月20日発売で、店頭予想価格はW850Mが11万円前後、V750Mが9万円前後となっている。

 今回はサブカメラありのW850Mを試してみよう。

一新されたボディ

 さて今回のW850Mだが、3色のカラーバリエーション展開となる。ブラック、ブラウン、ホワイトの3モデルだが、今回はブラウンをお借りしている。

 まずレンズは、XシリーズではライカDC採用が大きく謳われているが、W850MはあくまでもVシリーズ相当なので、特にブランドはないようだ。その代わり、4つのレンズ群を独立したモーターで動かす「4ドライブレンズシステム」により、小型ながら高倍率の20倍ズームレンズとなっている。

Vシリーズの2カメモデル、W850M
4群が独立して動く新設計のレンズ

 画角は35mm換算で29.5~612mm、Fは1.8~3.6、フィルター径は49mm。また2.5倍のiAズームを搭載しており、トータルで50倍ズームとなっている。レンズ上部にはLEDライトも装備している。

ワイド端テレ端iAズームテレ端

29.5mm

612mm

1,475mm
マニュアル調整ダイヤルも装備

 Xシリーズのような、鏡筒部全体を使ったマニュアルリングはないが、レンズ脇に小型のマニュアル用ダイヤルがある。ダイヤルそのものを押し込んで決定ボタンとするタイプだ。この操作体系は以前ソニーが特許を持っていたが、数年前に切れたはずである。

 センサーは1/2.3型、総画素数1,276万画素の裏面照MOSで、動画の有効画素数は603万画素。パナソニックにも徐々に裏面照射の採用が拡がっている。

 一方サブカメラのスペックだが、レンズは35mm換算で37.2mm固定、F2.2となっている。レンズは液晶の左端に付いており、縦軸を中心に回転する。撮像素子は1/4型、527万画素の1MOS。

液晶モニタの端に付いたサブカメラ
使わない時は内側に向けて収納できる
ボタン類はすべて液晶格納部に

 AFも搭載しており、最短撮像距離は約30cm。AF動作はレンズの角度によって違っており、真横から液晶面側に倒している(自分撮り側)時は近くからフォーカスを合わせ、真横から前方に向けている時は遠方からフォーカスを合わせに行く。

 液晶モニタは3型、46万画素のタッチスクリーン。液晶格納部には端子類がまとまっており、マイクロUSB、HDMIミニ、アナログAV出力、マイク入力がある。なお充電用のAC入力とイヤホン端子はグリップ側にある。ボタン類もここに集められており、撮影・再生切り換えや水平補正、Wi-Fi、電源ボタンがある。

 バッテリは背面から飛び出す格好だが、ビューファインダがないので邪魔という感じでもない。またこのバッテリーはQi充電にも対応しており、充電台の上にバッテリー単体を置くだけで充電できる。もちろん本体に取り付けたまま置いても充電する。

 また以前からアクセサリーシューは別途取り付けるスタイルだったが、今回も背面から差し込むようになっている。リリースレバーが液晶格納部内にあるので、液晶を閉じていると外せない。

Qi対応のカメラバッテリー
アクセサリーシューは後ろから差し込むスタイル

 内蔵メモリは64GBで、底部にSD/SDHC/SDXCカードスロットがある。録画フォーマットとしては、AVCHDのほかにMP4でも撮影できる。1080/60p撮影するなら、MP4のほうが最高50Mbpsで撮れるというメリットがあるが、音声がサラウンドで収録できないという制限がある。5.1ch分の音声トラックを格納できるフォーマットがAVCHDしかないということなのだろう。

記録フォーマットモード解像度FPSビットレートサンプル
MP41080p(50M)1,920×1,08060p50Mbps/VBR
M1030035.MP4(54MB)
1080p(28M)28Mbps/VBR
M1030036.MP4(33MB)
720p(9M)1,280×72030p9Mbps/VBR
M1050001.MP4(11MB)
iFrame920×54030p28Mbps/VBR
M1060002.MP4(36MB)
AVCHD1080/60p1,920×1,08060p28Mbps/VBR
00004.mts(39MB)
PH60i24Mbps/VBR
HA17Mbps/VBR
HG13Mbps/VBR
HE5Mbps/VBR

 なお今回のサンプルは、上記画質モード例を除いてMP4/1080(50M)で撮影しているが、掲載動画は容量の都合で28Mbpsに再エンコードしている。

素直な発色で自由度の高い撮影機能

 では実際に撮影してみよう。パナソニックの単板機は久しぶりに扱うので、まずは通常の撮影から評価してみたい。ただ今回は現場が雪まみれで、あまりいい被写体がなかったのが残念だ。

 映像的には発色もノーマルで、紫色も変に転ぶこともなく、素直なトーンが出ている。解像感も高く、精細感のある絵づくりとなっている。

紫の発色も自然で深みがある
ディテールもよく出て、解像感は高い

 撮像素子の1/2.3型というサイズは、昨今のデジカメから比べるとそれほど広くもないが、ズーム倍率が光学で20倍もあるため、テレ端では背景はそれなりにきちんとボケる。絞りはおそらく8枚羽根だと思われるが、形が直線ではないため、ほぼ円形に近いボケを実現している。

 iAズームの50倍は、確かにデジタルズームよりはマシではあるものの、光学部分よりも甘さが目立つ。またレンズのフリンジもそのまま拡大してしまうことになるので、光学エリアでは気がつかなかったレンズ、あるいはコーティングの質が余計目立つ結果となった。

背景も綺麗にボケる
50倍のiAズーム。フリンジも拡大されるのはもったいない

 AFは画面タッチでの追尾モードがあり、追従性は高い。手ぶれ補正もなかなか強力で、ローテーションまで含めた5軸ハイブリッド手ブレ補正は、ハンディ撮影時でもしっかり構えれば三脚撮影とほぼ遜色ない撮影が可能だ。加えてカメラの水平が狂ったときに自動で水平に補正してくれる「傾き補正機能」がより強力になっており、従来の2倍の補正範囲を持つ「強」に設定できるようになった。補正が効いているときは画面の右に小さくシーソーマークが出るので、わかりやすい。

 音声に関しても、風音低減機能が自動的に強弱のレベルを調整してくれるため、屋外での集音では威力を発揮する。撮影日は公園の木の枝が折れてあちこちに散乱するほどの強風であったが、それほど耳障りな音にはなっていない。これは単に低音をカットするのではなく、風音の逆相音を当てて打ち消す、いわゆるノイズキャンセルと同じ原理になっている。またマイクの位置や構造も今回新しくなっており、集音に関してはかなり改善が見られる。

AFと手ぶれ補正をテスト
afstab.mp4(62MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
屋外撮影サンプル。強風のわりにはフカレが少ない音声にも注目
sample.mp4(181MB)
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 一番の注目である2カメ機能だが、サブカメラ側は画角が37.2mmと、それほどワイドでもない。おそらく撮影者のほうに向けたときに丁度顔が入る程度で設計したのだろう。一方でサブカメラを前方に向けたときには、メインカメラと同じような画角で撮れることにはあまり意味がない。むしろアクションカム並みの広角のカメラを載せた方が面白かったかもしれない。

 ワイプによるPinPは、液晶のタッチでフェードイン、フェードアウトが可能だ。動画を撮りながら、必要な時に入れることができる。ただサブカメラに何がどう映ってるかは画面に出してみないとわからないので、テレビ番組みたいに綺麗にいくとは限らないことは、覚悟しておくべきだろう。なお、サブカメラ単体での撮影はできず、メインカメラ部の映像とともに記録される。

ワイプによるPinPのサンプル。タッチ操作により、サブカメラのフェードイン、アウトが可能
PinP.mp4(34MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 また対面撮影では、メインの被写体が順光の時は当然逆光になるので、その補正機能がない。一応サブカメラ側にもホワイトバランスや明るさの調整機能はあるのだが、正直メインカメラだけでも結構色々忙しいのに、もう一つカメラの面倒まで見きれない。割としっかりしたカメラ機能を載せているが、逆にスマホのカメラぐらいのフルオートで動かした方がよかったかもしれない。

サブカメラ側は逆光には弱い
サブカメラにもマニュアル調整機能はある

かなり使えるスーパースロー

 特殊撮影機能としては、「クリエイティブコントロール」を搭載している。ジオラマ、8ミリムービー、サイレントムービー、インターバル撮影の4モードがあり、パラメータも変えられるようになっている。ただクリエイティブコントロールは、記録モードがAVCHDでしか使えないという制限がある。

 もう一つ面白い機能に、「スーパースロー」がある。スロー撮影は多くのカメラで実装され始めたが、その多くは最初から最後までスローで撮影するというモードだ。

 一方パナソニックのスーパースローで「区間スロー」を選択すると、最初は通常速度で撮影を開始し、特定の場所で画面上のボタンを押すとそこから1/2スローで撮影、手を離すと元の速度に戻る。車のCMなどでよく使われている、途中からスローになる映像が簡単に撮影できるわけだ。1ショットにつき、3箇所までスロー指定ができる。

 ただスーパースローを使うと、画質モードは自動的にMP4の1080(28Mbps)モードに設定される。通常再生部分は60pで、スロー部分は120pで記録するわけだ。

 さらに本体再生時には、1/2スローで撮影した部分を補間処理して、合計1/4スローにしてくれる。ただこれは再生時の処理なので、ファイルとして取り出すと、スロー撮影部分は1/2倍速ということである。

最初は単純に記録ファイルを取り出した状態。2カット目は変換して1/4スローにしたもの
slow.mp4(39MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 1/2でも十分効果的ではあるのだが、本体再生時のように1/4スローとしてファイルを取り出したい場合は、スロー区間速度変換機能を使えば、再生時の処理をレンダリングしてくれるので、1/4スローのファイルとして取り出すこともできる。

 スロー撮影できるカメラは多いが、実際にスロー部分だけがあってもしょうがないということも多い。この機能のように、撮影時にスローが欲しいところだけを指定して撮ってしまうというやり方は、撮ってすぐ完成イメージが確認出来るというメリットもあり、スロー撮影のハードルを下げる効果もある。

 Wi-Fi機能もイマドキのカメラとしては当然対応しており、NFCでの一発リンクも可能だ。さらにスマホとダイレクト接続の便宜を図るために、二次元バーコードをカメラの液晶に表示させ、それをスマホで撮影することでパスワードの入力を省く機能は、なかなか秀逸だ。

Wi-Fi機能はかなり充実
Panasonic Image Appで遠隔モニター中の画面

 コントロールアプリ「Panasonic Image App」は、カメラ自身の設定もかなり踏み込んで変更できる。また赤ちゃん監視用として、赤ちゃんが泣いたらスマホにプッシュ通知してくれるベビーモニターといった機能も備えており、スマホユーザーとなったパパママをしっかりターゲットしている。ただそういう機能があるからといって、Wi-Fiじゃないと泣き声も聞こえないような遠くに赤ちゃんを置いて行くことを推奨するつもりはないので、見守り用途の詳細はここでは取り上げない。

総論

 先週のCP+の活況ぶりを見るにつけ、デジカメに比べるとビデオカメラの世界というのは、どんどんシュリンクしているように見える。その中でどう生き残っていくかを各社とも探っており、その一つが4K化であることは明白だ。ではそうではないビデオカメラは、どうなるのか。

 パナソニックの回答は、もちろん2レンズだけではないと思うが、新しい方向性を作ろうとするトライアルは素直に評価したい。ただこれをどう使えばいいのか、果たしてこれは便利なのか、その点を考えるとなかなか難しいと言わざるを得ない。

 利用法も難しいが、撮影も難しいのだ。液晶モニタはそもそも自分が見やすい角度に回すものであり、被写体を狙うために角度が決められてしまうと、見にくくなってしまう。液晶が見えないということは、すなわち撮りにくいということであり、肝心のメインカメラの構図などに支障が出るようでは困る。

 かといって液晶のはじっこ以外にどこに付けるんだという話にもなる。いっそアクセサリーシューの先にGoProでも付ければいいんじゃないかというのでは、本末転倒なようにも思える。

 また、PinPごと記録してしまうと、あとでやっぱりオマエの顔いらないわと言われたときに、どうしようもなくなるという問題点がある。やり直しが利かない行為なだけに、本当にあったほうがいいのか? という根本的な疑問に繋がる。

 スーパースロー機能など、メインカメラ機能にも新機軸があり、使いやすくて結構なのだが、PinP機能の促進はもうちょっと作戦を練る必要があるように思う。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。