小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第732回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

コンパクトながらめっちゃ強力スイッチャー、ネット配信に最適!? ローランド「V-1HD」

本格スイッチャーがこのサイズ、この価格

 スイッチャーほど、その機能がよく理解されていないAV機器もないだろう。必要ない人には全く必要ないものには違いないが、似たような位置付けであるオーディオミキサーは、比較的何をするものかは理解されているように思う。一方スイッチャーは、必要ない人にとっては全く謎の機器であり、何をするものか知る機会もない。

11月16日に発表されたV-1HD

 スイッチャーとは、基本的には複数の映像を切り替える装置である。ある意味“入力切替器”とも言えるのだが、それ以外にも2つの映像を比較したり、ミックスしたり、画像の中にもう一つの画像をはめ込んだりと、様々な機能がある。

 スイッチャーがコンシューマの世界で一躍注目を集めたのは、2010年頃のことである。このころから、いわゆる「ネット中継」がプロモーションツールとしてビジネスで使われ始め、イベントを複数のカメラで生中継するというニーズが高まった。当時ローランドが出したAVミキサー「VR-5」は、これ1台持ってれば仕事になるというので、ネット中継で一旗揚げたいという人々にとって、伝説的なヒット商品となった。

 以降、スイッチャーとオーディオミキサーを合体させた「VRシリーズ」は後継機が次々とリリースされていくわけだが、扱いが簡単ということで、どれも人気商品となっている。一方でスイッチャー専用機である「Vシリーズ」も、ローランドでは映像にくっついてくるオーディオ入力にも対応できるようになっており、ミキサー機能はないように見えて実は内部的には扱えるという、他社のスイッチャー製品にはない独特のポジションを築いている。

 今週、11月18日〜20日まで開催される国際放送機器展「Inter BEE 2015」に合わせる格好で、11月16日に発表された「V-1HD」は、HDMI×4入力を切り替える、本体・コントロールパネル一体型スイッチャーだ。HDMI経由のオーディオもミキシングできるほか、アナログオーディオ入出力も備えている。定価は128,000円となっているが、実売ではもう少し下がるだろう。発売開始は12月中旬となっている。

 HDMI×4入力スイッチャーの定番はBlackmagic Designの「ATEM Television Studio」で、執筆時点の定価は121,800円。ただしコントロールパネルは別売で、製品単体ではソフトウェアによる操作となる。ハードウェアのコントロールパネルは609,800円もするので、フルセットで考えると結構な金額に積みあがる。

 現在HDMIソースは、カメラだけでなくPCやレコーダ、あるいはテレビに繋げるフォトストレージなども含まれる。ネット中継をやらなくても、プロジェクタで投影するプレゼンの切り替えといった用途もある。学会のように発表者が多いイベントでは、パワーポイントの差し替えだけでイライラさせられるが、大学のホールなどにもこの手の製品はうってつけだ。

 ネット中継から設備運用まで、幅広く使えるコンパクトスイッチャーを早速テストしてみよう。

片手で掴めるスイッチャー

 スイッチャーは信号の交通整理をする機器なので、できることやグレードを見るには、まず入出力を見るのがセオリーだ。HDMI入力は4系統で、出力はプレビューが1、プログラム出力が1。アナログオーディオ1系統の入力と出力がある。USBはPCなど繋いで、専用ソフトから設定変更やスイッチングの制御ができる。

コンパクトスイッチャー時代の幕開け?
入出力はHDMIとアナログ音声のみのシンプル設計

 動作モードとしては、720p、1080i、1080pの3つから選択する。解像度変換機能はないので、720pに設定した場合は、入力も720/59.94pに統一する必要がある。一方I/P変換機能はあるので、1080系モードの時は、入力はiでもPでも対応する。モード選択によって出力信号がiかPになるだけだ。もちろん各入力にはフレームシンクロナイザーが内蔵されているので、外部同期の必要はない。

 左側面にはマイク入力とヘッドホン出力、右側面にはコントロール用のMIDI端子がある。以前からローランドのスイッチャーは、MIDIを使ってオーディオミキサーや照明機器と連動したり、楽器用のMIDIパッドを使って映像の制御ができるようになっている。手前には放熱用のファンがあり、電源を入れるとかなりの速度で回る。ファンノイズは小型ボディの割には大きめで、「負荷が高まって頑張り始めたノートPC」ぐらいの音である。

左側面はマイク入力とヘッドホン出力
反対側はMIDI端子
右手前にあるのが放熱用スリット

 ボディ上面がコントロールパネルとなっている。基本的には4入力、1出力のシンプルな構成なので、ボディもコンパクトだ。しかしVRシリーズのようにソースボタンを押しただけで切り替わるだけの一列方式ではなく、本格的なM/EスイッチャーのVシリーズ同様、ABバスがあり、フェーダーの上下で入力ソースを切り替えるスタイルをとっている。

小型ながらきちんとA/Bバス仕様

 入力信号が安定すると、それに対応するボタンが白く点灯する。プログラムから出力されているところは赤に、ネクストで待機状態にあるところは緑に点灯する。

 上下間のトランジションのために小さいフェーダーも用意されている。その横には独特な「Transformerボタン」がある。フェーダーの代わりに上下のアクションにも使えるが、アサイン次第では2種類の違った機能を持つボタンとして機能する。

フェーダーと特徴的なTransformerボタン

 またABバスそれぞれに独立してエフェクトが設定できるようになっており、表現の幅が広げられるようになっている。トランジションはカット、ミックス、ワイプ、BRM SYNCの4つがある。BRM SYNCとは、一定のリズムをスイッチャーに覚えこませ、そのリズムでAB間をスイッチングする機能だ。この機能も他社にはないものの一つである。

多彩なエフェクトを実現する

 一見するとABを切り替えるのみで、キーヤー(色や明暗の違いを使って映像の一部分を切り出したりする機能)がないように見えるが、実はエフェクトの中にキーヤーが組み込まれている。この辺りは後で見てみよう。

内部に膨大な機能が

 コントロールパネルにあるボタンやつまみを使って、最低限の映像切り替えは出来る。だがそれ以上の機能を使いたい場合は、プレビュー出力にメニューを出して設定を変更する必要がある。BPMボタンを2秒以上押すと、OSDメニューが出てくる。メニューが出ている間は、Transformerボタンが項目の上下移動、フェーダーでパラメータの変更となる。

OSDメニューには膨大なパラメータが

 セットアップメニューだけで6ページもあり、機能的にはかなり細かいところまでいじれる。主な設定としては、プログラムやプレビュー出力のコントラストやサチュレーション、ブライトネスが調整できる。プレビュー設定では、画面の種類を選択できる。一般的にはマルチビューで入力信号を確認することになるのだが、エフェクトを使う場合は今どんなエフェクトでどういう効果になっているのか、状態がわからない。多くのスイッチャーのマルチビューは、入力ソースの状況だけでなく、プログラムとプレビューの映像も表示するものだが、本機にはそこまでの機能がなく、若干不便を感じる。

プレビュー出力はマルチ、プレビュー、プログラムの3切り替え

 オートスキャンは、指定した秒数で映像を自動的に切り替えていく機能だ。監視カメラなどでよく使われるが、映像が切り替わる時にカットだけでなく、トランジションをかけることもできる。テスト信号としてカラーバーを出力できるが、SMPTEタイプではなく単純なバータイプなので、モニターの調整には使えない。

 ABバスの切り替えは、フェーダーを倒した側が出力される「A/Bモード」と、上段がプログラム、下段がプレビューで固定される「PGM/PSTモード」を選ぶことができる。一般的には、小型簡易スイッチャーやライブスイッチャーではA/Bモード、複数段ある中大規模スイッチャーやポストプロダクション向けスイッチャーではPGM/PSTモードが好まれる。

 メニュー表示中にAUDIOボタンを押すと、オーディオメニューになる。1ページ目は各オーディオソースのレベルが決められる。いわゆるミキサー画面ということになるが、いちいちメニューを出していては素早い調整ができないので、ABバスの8つのボタンが8行のメニュー項目に対応するショートカットとなっている。例えば「HDMI 4」を調整したければ、2秒押しでメニューを出さずとも、AUDIOボタンを押してからAバスの4ボタンを押し、フェーダーの上げ下げでボリューム調整ができる。可変範囲は0〜127だ。

オーディオミキシングも可能

 その他各入力には3バンドのパラメトリックイコライザが付き、ディレイも内蔵している。これは映像と音声のズレを補正するためのものだ。またマイク入力にはコンプレッサーやノイズゲートも使える。さらに全入力に対して使えるリバーブがあったり、音圧を調整するエンハンサーがあったりと、ちょっとしたオーディオミキサー以上の機能がある。

各入力ごとに3バンドのパラメトリックEQが付く
マイクにはコンプレッサーやノイズゲートも
音楽中継には欠かせないリバーブも装備

 本体操作によるメニュー操作以外では、USBでPCに接続し、専用ソフト「V-HD RCS」でコントロールすることもできる。本体のコントロールパネルと同じ画面が表示されるほか、下段にはメモリーバンクの管理やセットアップメニュー、エフェクトやワイプパターンの選択などが簡単にできる。またミキサー画面も表示されるので、複数の音をミックスする際にはこちらのソフトの方が便利だろう。

コントロールソフトウェア、「V-HD RCS」

 本体とソフトウェア制御は同時に動かせるので、PCをサブコントローラとして使ったり、2人体制で操作したりと、いろいろな活用が考えられる。特に本番中の設定変更は、本体でやるとフェーダーとTransformerボタンが使えなくなってしまうので、ソフトウェアの併用は必須だろう。

エフェクトの使い方がポイント

 では実際にオペレーションしてみよう。切り替え用の入力スイッチは、硬めのシリコン素材で、押し込むとゴリゴリした手触りがする独特のもの。本格的なスイッチャーでは採用されないタイプだが、以前からローランド製品では定番となっており、業務用機では他社でも採用している。

 フェーダーは同軸ボリュームを使った半円タイプではなく、オーディオフェーダーのようなストレートタイプ。ビデオフェーダーとしては違和感があるところだが、ボディ全体を平たく作るためには仕方のないところだろう。

 フェーダーは単純なマニュアルトランジションとして使うだけでなく、ワイプを真ん中で止めて2つの映像を比較するといった用途にも使える。カメラのホワイトバランスを比較調整するといった際にも便利だろう。

2画面比較も簡単

 映像エフェクトは19種類がプリセットされているが、そのうちキーが4つ、PinPが2つ、スプリット(画面分割)が4つある。つまみを回すことで、エフェクトのパラメータを変えられるので、完全にプリセットというわけでもない。毎回使いたいエフェクトは、メモリーバンクに記録しておけば、後で呼び出すこともできる。

エフェクト名 サンプル
NEGATIVE
EMBOSS
COLORIZE
COLORPASS
POATERIZE
SLHUETTE
MONOCOLOR
FINDEDGE
FLIP
WHT-L.KEY
BLK-L.KEY
GRN-C.KEY
PinP 1/4
PinP 1/2
SPLIT-VC

 エフェクトの選択は、本体のMemoryボタンを押してメニューから選択する。ただ、エフェクトの名前には似たようなものも多く、文字だけで特定のエフェクトを選ぶのはなかなか難しい。エフェクトONボタンを押しながらつまみを回してもエフェクトの選択はできるが、この場合は選択している状況も全部プログラムに出てしまうので、本番中では使えない。

エフェクトの選択は、メモリーメニューから

 その他、入力映像をフリーズさせておく機能や、フェードイン、フェードアウト機能も付いている。番組の終わりや始まりに使える機能だ。

総論

 ローランドのVRシリーズがネットの生放送でかなり使われていることから、ネット放送のニーズが一番集まりやすいのもローランドということになるだろう。ネット放送もハイエンドになれば、もはやテレビ放送と変わらなくなってくるが、そこまでいかない状況で色々工夫しながらやっている層のニーズというのは、放送機器を専門にやっているメーカーにはなかなか届かないものである。

 そういう意味で、ローランドがここでHDMIのみの小型4入力スイッチャーを出してきた背景には、ネットの放送で使う機材も、本格的にHDMI 1本に絞られてきたという現状がある。そして過去アナログ入力やDVI入力のスイッチャーを使ってきたユーザーに対して、“簡単にHDMI入力を拡張できる機器を提供する”という意味合いもあるだろう。

 本格的なマルチソース対応スイッチャーは、すでに今年4月に「V-1200HD」を発表している。発表当初は7月発売予定とされていたが、遅れているようだ。その隙を縫って、というわけではないだろうが、V-1HDは本格的な機能を持ちながら、ポータブルスイッチャーという新しいジャンルの製品となりそうである。

 なお11月18日から3日間、幕張メッセで開催される「InterBEE」では、ローランドブースにてV-1HDの実動機を実際に触ってみることができる。18日の14時半からは、ローランドブースにて筆者自らがV-1HDを解説するイベントも開催予定である。

 ここでは書ききれなかったあれこれを、実際の操作を見ながらオペレーションが覚えらるチャンスでもある。開催初日時間のある方は、ぜひお立ち寄りいただきたい。

(山崎健太郎)