小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1171回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

今度はレンズ交換できるV。キヤノン「EOS R50 V」を試す

「EOS R50 V」とキットレンズ

動画特化で攻めるVシリーズ

カメラメーカー各社は、静止画と動画機能の両方を売りにしてはいるが、動画の方は今一つ何に使うんだという目的を見失っていた時期があった。ビデオカメラは運動会だったが、じゃあデジカメ動画は何なんだと。

2020年に業界が目をつけたのが、「Vlog」だった。米国ではとっくに火がついていたが、日本ではまだまだだった時期にソニーが「ZV-1」を、パナソニックが「LUMIX G100」を投入した。2022年にはニコンもZ30で参入している。

一方キヤノンは静観の構えだったが、2023年に「PowerShot V10」でVlogカメラに参入した。コンパクトな縦型という、デジタルカメラっぽくないカメラだった。

その後も今年、コンデジスタイルの「PowerShot V1」を投入したところだが、早くも第3弾となる「EOS R50 V」が登場する。PowerShotではなくEOSブランドなのは、レンズ交換ができるミラーレス機だからである。ボディ単体およびレンズキットは5月下旬発売予定で、価格は単体が113,300円、レンズキットは140,800円だ。レンズ単体は遅れて7月下旬発売予定で、価格は55,000円となっている。

今回はいち早く、レンズキットをお借りすることができた。キヤノンの動画専用ミラーレス機の実力を、さっそくテストしてみよう。

動画専用設計となったボディ

APSーCサイズのミラーレス機ということで、直近の競合モデルとしてはソニーの「ZV-E10」という事になるだろう。2つを比べてみると、ボディサイズはほとんど変わらない。R50 Vの方が5mmほど背が高いぐらいのことである。

ボディは5月末、レンズは7月末と時間差で発売される
背面ボタン類
ソニーZVーE10より若干高さがある
ボディ幅や厚みはだいたい同じ

設計上の見どころは多い。まず、静止画用のシャッターボタンがなく、動画用のRecボタンになっている。とはいえ静止画が撮れないわけではなく、静止画モードにすれば上部Recボタンがシャッターとなる。Recボタンの周りがズームレバーになっている。

シャッターの位置にRecボタン

前面にもRECボタンがある。シネマカメラや大型フルサイズカメラでは、リグ組みすると上部ボタンが押しづらくなる関係で前面にもボタンが搭載される例はあるが、APS-Cの小型モデルでは珍しい。

前面にもRecボタン
左肩にRecタリーがある

端子類はすべて左側で、上部にマイク、イヤフォン、レリーズ端子と、下部にUSB Type-C端子とMicroHDMI端子がある。反対の右側には、縦取り用の三脚穴がある。カメラを縦にすると、液晶内メニューも縦表示になる。

左側の端子類
グリップ側に縦撮り用の三脚穴
底部のバッテリーとSDカードスロット

センサーは総画素数2,550万画素、有効画素数2,420万画素のCMOSセンサーで、デュアルピクセルCMOS AF II対応。4K動画撮影時は6K解像度から4Kに縮小して記録するが、4K等倍エリアだけを切り出して記録する4Kクロップモードも備えている。4Kクロップモードでは画角が狭くなるが、最高60pで撮れるというメリットがある。また全域を使ったHD解像度撮影では、120pで撮れる。

デュアルピクセルCMOS AF II対応の6K CMOSセンサー
撮影モード解像度フレームレート
4K3840×216029.97/23.98p
4Kクロップ3840×216059.94p
HD1920×1080119.88/59.94/29.97/23.98p

解像度設定メニューは、V1では組み合わせ一覧がずらーっと出てそこから選ぶ方式だったが、こちらは解像度とフレームレートを個別に選ぶ方式になっている。

解像度とフレームレートを個別に選択できる

なお設定ではMPEG記録方式の選択項目もあるが、Long-GOP以外には選択できない。他のカメラのUIに合わせただけなのか、将来的にIntraでも撮れるようにするのかは不明だ。

記録モードとしては、XF-HEVC S 422、XF-HEVC S 420、XF-AVC 420の10bit記録3種類と、XF-AVC 420の8bit記録1種類が選択できる。

動画記録方式の選択画面

内蔵マイクは左肩の穴の多い方で、穴の少ない方はスピーカーだ。PowerShot V1にはアクセサリーシューにはめ込むウインドスクリーンが付属したが、R50 Vにはウィンドスクリーンは付属しないようである。その代わり外部マイク+内蔵マイク、外部マイク+シュー入力マイクを同時に使った4ch集音ができる。

前方の穴がマイク

3インチの液晶モニターは横出しのバリアングルで、タッチセンサー付き104万画素。明るさは7段階に変更できる。

横出しバリアングルの液晶モニター

キットレンズは、ソニーの方と違って沈胴しないので大きく見えるが、撮影時のサイズはそれほど変わらない。この「RF-S14-30mm F4-6.3 IS STM PZ」はR50 Vに合わせて新開発されたもので、RFレンズとしては初めてパワーズームを内蔵したレンズとなっている。

RFレンズとしては初となるパワーズームレンズ「RF-S14-30mm F4-6.3 IS STM PZ」
レンズは沈胴しないが、ズームしても全長が変わらない

リングは2つで、前側がフォーカス、後ろ側がズームリングとなっている。ズームリングはクルクル回る方式ではなく、レバーのように手を離すとセンターに戻るタイプだ。光学手ブレ補正も内蔵している。カメラにはボディ内手ブレ補正はなく、電子補正のみだ。

そつなく撮れる動画

ではさっそく撮影してみよう。まずキットレンズの画角だが、35mm換算では約22mm〜48mmで、光学ズームでは2倍ちょっとということになる。遠景を撮影する場合はあんまりズームしてる感はないが、近景から中景ぐらいではサイズをちょっと調整するにはちょうどいい。

全面を使った4K撮影と、4Kクロップモードでの電子手ブレ補正画角を比較してみる。

撮影モード 全面4K撮影電子補正なし:ワイド端
撮影モード 全面4K撮影電子補正なし:テレ端
撮影モード 全面4K撮影電子補正標準:ワイド端
撮影モード 全面4K撮影電子補正標準:テレ端
撮影モード 全面4K撮影電子補正強:ワイド端
撮影モード 全面4K撮影電子補正強:テレ端
撮影モード 4Kクロップ撮影電子補正なし:ワイド端
撮影モード 4Kクロップ撮影電子補正なし:テレ端
撮影モード 4Kクロップ撮影電子補正標準:ワイド端
撮影モード 4Kクロップ撮影電子補正標準:テレ端
撮影モード 4Kクロップ撮影電子補正強:ワイド端
撮影モード 4Kクロップ撮影電子補正強:テレ端

水平維持は、カメラの傾きを補正してくれる機能だが、補正範囲が小さくほぼ効果が感じられないのはこれまでのVシリーズと同じだ。

4Kクロップは、ワイド寄りのキットレンズでもそこそこ寄れるというメリットがあるが、如何せんフレームレートが60p固定になってしまうので、全画素4K撮影とフレームレートが合わない。4Kクロップでも24~30pで撮れるモードが欲しかった。

そのほか映画を意識した横長のシネマビューモードもある。これを選ぶとフレームレートも強制的に23.98pとなる。ただし撮影される動画の解像度としては3840×2160で、上下に黒が挿入されるだけである。

上下に黒が挿入されるだけのシネマビューモード

ズームは光学手ブレ補正の影響によるガタツキもなく、滑らかだ。またズーム動作音も収録されず、内蔵マイク収録にも使いやすい。フォーカスブリージング補正も効くので、フォーカスが動いた際の画角変化もない。ズームしてもレンズ全長が変わらないので、ジンバルに乗せてもバランスが取りやすいレンズだ。

レンズに応じてフォーカスブリージング補正が使える

電子手ブレ補正には標準、強、水平維持の3タイプがある。電子補正なしと標準、強を順にテストしてみた。さすがに走ってしまうと補正が追いつかないが、標準での補正具合は自然で、手持ちでも十分効果がある。

手ブレ補正比較

キットレンズはワイド寄りでF4スタートなので、被写界深度は深めだ。さらにデュアルピクセルCMOS AF II対応なので、フォーカスに関してはまず心配いらないのは強みだ。一方でこのレンズはかなり近接でも撮れるので、この場合は被写界深度はかなり浅くなる。いろんな画が撮れるレンズである。

全面4Kで撮影したサンプル

音声収録もテストしてみた。ウィンドカットや音声ノイズ低減は「入」で集音したが、あいにく撮影日は非常に風が強い日だったので、テストには不利な結果になった。だがそれも、ウィンドスクリーンが付属していればだいぶ違ったのではないかと思う。集音性能は悪くないのに、もったいない。遅れて別売でも検討すべきだろう。

内蔵マイクのテスト

屋外で集音するなら外部マイクを使ってくれということかもしれないが、昨今はカメラもスマートフォンもイヤホンも内蔵マイクの性能がどんどん上がってきており、前や後ろに指向性が変えられるものや、AIによる強力なNRを備えたものも出てきている。そうした内蔵マイク強化のトレンドには、ちょっと乗り遅れた感じだ。

整理されたカラー機能とHDR撮影

色味の調整に関しては、今回背面にCOLORボタンが設けられている。これを押すと、ピクチャースタイルを使うのか、カラーフィルターを使うのか、カスタムピクチャーを使うのか、選択できる。

カラー系の機能がまとめられた

これまでカラー系の機能は割と継ぎ足し継ぎ足しで拡張されてきたため、お互いの関係性がよくわからなかった。だがこうして横並びになると、最後に選んだもの優先でお互い排他機能なんだなということがわかる。なかなかいいまとめ方だ。

ピクチャースタイルは変化量が少ないので、前回のV1の結果を参照していただければ傾向はわかるだろう。今回はカラーフィルターが割と効果がわかりやすく撮れたので、こちらを掲載しておく。

フィルターなし
StoryReal&Orange
StoryMagenta
StoryBlue
PaleTeal&Orange
RetroGreen
Sepiatone
AccentRed
TastyWarm
TastyCool
BrightAmber
BrightWhite
ClearLightBlue
ClearPurple
CrearAmber

カスタムピクチャーは、全部で20種類の設定が記憶できるが、そのうちの1~5までは最初からプリセットされている。Canon709、Canon Log 3、PQ、HLG、BT.709 Standardだ。

Canon709とBT.709 StandardはどちらもSDRだが、Canon709は中間階調を深めに、BT.709 Standardはハイコントラストに設定されているようである。

Canon709
BT.709 Standard

Canon Log 3、PQ、HLGはHDR用である。今回はCanon Log 3で撮影したものをカラーグレーディングして、HDRコンテンツを作ってみた。

Canon Log 3で撮影し、カラーグレーディングしたもの

V1でもLog撮影はできたが、やはり本格的な撮影となれば、レンズが色々選べるミラーレスの方が効果が高い。今回はキットレンズのみで撮影しているので少し画角のバリエーションが足りないところだが、本格的なHDRコンテンツ制作もカバーできるという点では心強い。

総論

キヤノンはそもそもデジカメで動画撮影するというブームを生み出したメーカーで、その後のシネマ動画に大きな影響を与えた。ミラーレスのRFマウントになってからは、シネマカメラのCシリーズを展開している一方で、Vlogのようなカジュアルなシネマチック動画はコンデジでカバーするといった棲み分けがなされてきた。

今回EOS RシリーズでVlog向けカメラが出たということは、遅ればせながらミラーレスでカジュアルシネマに参入するということだろう。

ポイントは、LUTのような難しいことはやらせず、多彩な内蔵カラーフィルタで同じようなことができる点と、やはりレンズ交換ができることである。多く普及したEFレンズを持っている人なら、画角は狭くなるがマウントアダプタ経由で資産が生かせるのも大きい。またLogが同じなので、キヤノンシネマカメラの2ndカメラとしても使える点もポイントである。RFやEFレンズが付けられるなら、画質や表現の面でも遜色ないだろう。

そのほか見逃せない機能としては、動画にセルフタイマーをつけたことだ。自撮りする際に、カメラ側がキュー出ししてくれるのは心強い。またネットライブ配信も4通りの方法が提供されるなど、ライブカメラとしての機能がボタン一つで呼び出せるなど、細かいところで動画に寄せた設計がなされている。

ライブ配信ボタン1発で配信メニューにアクセスできる

他社に遅れ気味でのVlog参入ではあるが、キヤノンなりの回答を用意してから参入してきた、ということだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。