“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第461回:NAB 2010レポート その3

~ 3Dで変化するプロフェッショナル業界 ~



■ 変わり続ける世界

新しくオープンしたAreaホテルのショッピングモール

 ラスベガスというところは、常に建設中というか、その場にとどまることを知らない街である。現在も新しいホテルが次々とオープンしているが、旧来の入り口にカジノがあって天井からはシャンデリア、床は小豆色のふかふか絨毯といったイメージから脱却し、まるで未来の宇宙ステーションみたいなデザインのショッピングモールが登場したりして、まるで夢のような世界を現実化している。

 さてNABレポートの3回目は、突然降って沸いたような3Dムーブメントに対する業界の対応と、ハイエンドシステムの状況をお伝えする。

 今年のNABにテーマを付けるならば、「3D/5D」といったところである。多くのブースは製品の3D対応を全面に押し出すか、Canon EOS 5D MarkIIでの動画撮影機材やノウハウ、ワークフローを展示して人を集めている。劇的に時代が動いている瞬間を目の当たりにした思いだ。



■ 3Dワークフローも変わる

 3Dの撮影では、現在の主流はリグを使って2台の同型カメラを組み合わせるというスタイルである。3D用リグの最大手は3ALITYというメーカーだが、最上位モデルでは光軸調整をすべてモーター制御で行ない、遠隔地からのリモート調整も可能であるという。ただし値段が2,000万円ぐらいするそうで、これを何台も導入するとなると、もはやオリンピックやワールドカップクラスのイベントでなれば使えない。

 もちろん手動で調整するもっと安いリグはいくらでもある。ただし調整には3D撮影のノウハウを知らなければならないし、現場での立体感の確認をどうするのか、といった問題を解決しなければならない。

 そういう意味で2in1で自動調整するPanasonicの「AG-3DA1」は画期的なわけだが、それに至る過程として、自分でリグ調整をして3Dの原理を学習というプロセスもまた、必要なことなのである。

 3Dカメラ間のスイッチングも、マルチカメラ放送には必要だ。Panasonicでは3D対応の小型スイッチャー「AG-HMX100」を発表した。SDI入力2系統を3Dの1セットとして扱うため、2台の3Dカメラの切り替えしかできないが、ミキサーまで装備して価格が672,000円とかなり安い。さらに2台をリンクすると合計4台の3Dカメラのスイッチングができるという。

 3Dモードの時はトランジションが使えず、カットで切り替わるのみとなってしまうが、3Dのマルチカメラ収録や中継も一応これでできることになる。

 一方、レポート その2でお伝えしたローランドの「V-1600HD」は、SDI入力が8系統あるので、4台までの3Dカメラが切り替え可能である。ただしこちらはカットでの切り替えができず、いったん黒にフェードアウト、フェードインして次のカメラ、といった切り替えになる。

すでにマットボックスまで登場しているPanasonicのAG-3DA1PanasonicのAG-HMX100は3D対応

新たに3Dモードを搭載するGrassValley「KAYENNE」
 さらにハイエンドなスイッチャーも、続々と3D対応を行なっている。スイッチャーの大手GrassValleyの巨大プロダクションスイッチャー「KAYENNE」も3Dに対応した。ME、Key、DPMといったリソースを2系統リンクさせるため、入力数やこれらのリソースが半分になってしまうが、2Dでできていたことが一通りできるのは大きい。

 また2Dの文字タイトルを3D空間内の自由な位置に配置することができるため、3Dの映像に対して文字情報をどの奥行きに入れれば自然に見えるのか、といったことをリアルタイムで調整することができる。日本は特に画面中に沢山の文字情報を入れる傾向があるため、3Dの中で文字をどのように扱っていくかというノウハウの蓄積が必要となるだろう。

3G回線を2系統伝送可能な「FiDO-2T」と「FiDO-2R」
 3Dの伝送というところでは、AJAがSDIを光ファイバーに変換して長距離伝送するユニット、「FiDO」シリーズを発表した。最上位モデルの「FiDO-2T」と「FiDO-2R」の組み合わせでは、3Gbpsの回線を2系統伝送できる。

 3D映像を1本にまとめて3G伝送すれば2ライン、L-Rを独立した状態で伝送すれば1ラインが、10kmぐらい伝送できることになる。これは屋外やスタジアムイベントなどの中継で活躍するだろう。



■ 上へ上へと発展するHDCAM-SR

外見は全く変わらないが、これがSRW-5800/2
 ハイエンドの世界ではほぼ唯一生き残ったテープフォーマット「HDCAM-SR」。これも今回「SRW-5800/2」にアップグレードし、3DのRGB4:4:4記録に対応した。従来モデルにはプロセッシングボードのアップグレードで/2相当にできるし、6月以降に発売されるSRW-5800は標準で/2となる。

 /2の機能を使った大きな革命は、2Kの映像をSDIでリアルタイム伝送できるようになったことだ。これまでSDIはHD映像までにとどまっており、2Kの映像を記録するためには、ネットワーク経由で連番ファイルをデータ的に流し込む必要があった。SRをデータレコーダ的に使う、というイメージである。

Black Magic Designに買収されたカラーグレーディングシステム「Da Vinchi」
 しかし以前からBlack Magic Designが2Kの映像をSDI伝送する独自規格を作っていた。今回はその規格を汎用的に広げ、SONYが正式に対応したということである。現在のBlack Magic Design社のルータやI/Oカードの多くがこの2K SDI伝送に対応しており、カラーグレーディングシステム「Da Vinchi」で扱う2Kの映像をHDCAM-SRでリアルタイム的に記録できる。

 現在2K SDIはBlack Magic DesignとSONYの2社だけがサポートしている状況だが、オープンフォーマットなので、他社製品も対応が始まるだろう。もしスイッチャーが2K対応したら、映画をリニア編集でリアルタイム合成するという世界が実現するかもしれない。

 今度はHD解像度の話である。HDCAM-SRのコーデックはMPEG-4 SStPというオープンフォーマットだが、これまでHDCAM-SRデッキからFTPで取り出す際には、いったん非圧縮のDPX連番ファイルに展開して、転送していた。

ブラウザでHDCAM-SRデッキにアクセス
 しかし今回の/2では、MPEG-4 SStPをMXFラッパーで包み、圧縮データのままでFTPできるようになった。圧縮・解凍というプロセスを通らず、小さいファイルサイズでしかも動画フォーマットで転送できるため、ほぼリアルタイムでFTP転送ができるようになった。

 FTP転送ボードを装着したHDCAM-SRデッキにIPアドレスを割り当てておき、PCからブラウザでIPアドレスを叩くと、転送用のGUIが立ち上がる。HDCAM-SRのテープには小さなメモリが搭載されており、収録されている映像のインデックスが記録されている。昔DVテープにも、小型メモリ搭載のものが存在したが、要するにああいう仕掛けである。このインデックスを見ながら必要な映像のところまでキューアップし、映像を見ながら転送範囲を指定するという操作である。

 また従来の440Mbpsだけでなく、半分の220MbpsにトランスコードしながらFTPする機能を備えた。テープ記録上は220Mbpsのモードはないが、より低ビットレートで十分な作業の場合に対応するものだという。

来年登場するHDCAM-SR用のメモリーメディア
 またHDCAMで収録されたテープの映像も、/2デッキでFTPできるようになった。リアルタイムでSStPフォーマットに変換しながら、転送できる。これまで報道や番組では膨大な数のHDCAM素材や完パケが存在すると思われるが、それを一気にファイルアーカイブ化できるわけである。

 また来年にはテープではなく、HDCAM-SRフォーマットを記録するメモリーメディアが登場する予定だ。エンジニアリングサンプルを見せてもらったが、サイズ的にはSxSカードよりもやや大きめながら、これ1枚で1TBの容量があるという。



■ アーカイブのもう一つの考え方

FOR.Aの映像アーカイブ機「LTR-100HS」

 大手キー局では、すでにアーカイブをファイル化しているところは多い。しかし地方局や制作会社、ポストプロダクションなどでは、アーカイブをファイル化しておくよりも、テープなどの物理メディアで棚管理したほうがメリットがあると考えるところも多いはずである。

 そういうニーズを満たすものとして、FOR.Aが出展した「LTR-100HS」は面白い製品だ。データテープストレージとして使われているLTO-5を利用して、SDIからの映像信号をMPEG-2やXDCAMフォーマット、IMXフォーマットなどにリアルタイムエンコードしながら、記録していく。

 面白いのは、データストレージでありがなら、PLAYボタンを押すと映像を再生してしまうところである。これまでデータストレージを使ったアーカイブは、データをいったん全部転送してしまわないと映像を確認することができなかったが、これを使えばVTR的にデータストレージが使えることになる。

 もちろんネットワーク経由でファイル化された映像も転送できる。この時動画のファイルフォーマットがLTR-100HSで理解できるものであれば、動画キャプチャした映像と同じように再生できるという。

 用途として提案されていたのが、D-2テープのアーカイブ化である。90年代初頭からSD放送用の番組は、ほとんどこのD-2テープで納品されていた。しかしD-2は2015年にサポート終了がアナウンスされており、別フォーマットへのアーカイブの必要性が出てきた。

 LTOテープは1本あたり約50時間記録できるため、D-2のMサイズ90分テープと比較すると、体積が1/200に縮小できるという。

 製品はデータベースソフトと連動しており、LTOテープへの記録時に自動的にメタデータを収集、蓄積する。テープ背面のバーコードを読み取れば、そのテープにどの映像が収録されているかのインデックス情報を瞬時に引き出すことができるようになっている。

 映像処理の中心がPCに移ってきたため、映像のファイル化は避けられない流れではあるものの、そのやりようはいろいろあるということである。

LTO-5のテープ。背面のバーコードに注目バーコードをスキャンすると、データベースからインデックス情報を引っ張ってくる
(2010年 4月 16日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]