“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第538回:一眼がまたビデオカメラに一歩近づいた?

~一眼レンズなのにズームレバー、パナソニック「Xレンズ」~


■常に一歩先、パナソニックの一眼戦略

ボディに取り付けているのが14-42mm、右側が45-175mmのXレンズ

 ビデオを撮るという行為も、この秋からはすっかり“一眼で撮るもの”という様相を呈してきた。大口径レンズ、大型センサーで撮る動画は、これまで家庭用ビデオカメラが実現しようとしてきた「記録」という方向性から180度転換し、芸術的に撮るのだという方向に我々を連れて行こうとしている。

 そうはいっても一眼カメラのメインストリームは写真を撮るユーザーなので、動画を撮る場合には不自由な点も多い。その一番の不満点は、ズームであろう。一眼用のズームレンズは、手動でリングを回すのみで、電動では動かない。なにせボディにズームレバーがないので、外部からコントロールしようもないのである。

 そこでパナソニックは、「それではレンズ側にズームレバーを付ければいいのではないか」という戦法に出た。もしかしたら「ほなレンズ側にズームレバー付けたらええんちゃうの」と言ったのかもしれないが、そんなわけで珍しい、ズームレバーが付いたマイクロフォーサーズ用「Xレンズ」の登場である。

 まず第一弾として登場するのが、14-42mmの「LUMIX G X VARIO PZ 14-42mm/F3.5-5.6 ASPH./ POWER O.I.S.」(以下PZ 14-42)、45-175mmの「LUMIX G X VARIO PZ 45-175mm/F4.0-5.6 ASPH./ POWER O.I.S.」(以下PZ 45-175)の2本。価格はそれぞれ49,875円、56,175円。鏡筒部のカラーはボディとの組み合わせを考えて、ブラックとシルバーの2色がある。

 この焦点距離は、いわゆるダブルズームキットに付属するレンズと、カバーする範囲が似ている。広角端はどちらも14mmで、Xレンズの望遠端は175mm、キットレンズは200mmだ。今回はレンズキットと撮り比べも行なってみた。

 単にズームレバーが付いたことが珍しいわけではない。XレンズはLUMIX Gレンズシリーズの中で上位シリーズとなる。描画の方も期待できそうだ。ではさっそく撮影してみよう。




■スペック据え置き、コンパクトで軽量

 今回は撮影用のボディとして、同社「DMC-G3」をお借りした。すでに今年7月から発売されているモデルなので、今回は特にG3の機能にはフォーカスしない。動画性能としては1,920×1,080/60i記録だが、センサー出力が30pなので、実質30pで撮れるカメラである。できれば60pの実力も見てみたかったが、またチャンスはあるだろう。

 まず「PZ 14-42」だが、沈胴式のワイド寄り3倍ズームレンズとなる。フォーサーズと35mmの換算は簡単で、2倍すればいい。したがってこのレンズは35mm換算では、28mm-84mmということになる。

沈胴時にはコンパクトなPZ 14-42レンズキットの14-42mmと比べるとかなり短い

 沈胴状態での厚みは、マウント部から先端まで約27mm。持ち運び時はパンケーキ並という表現は過言ではない。電源を入れるとレンズがせり出してくるが、一番長くなっても約49mm程度で、キットレンズよりも短い。持ち運び時にはかなりコンパクトだ。そのかわりレンズフードは付属しない。

カメラに付けてもコンパクトに収まる最長でも約49mm

 絞り羽根は7枚で、開放F3.5、最小はF22だ。レンズ構成は8群9枚で、そのうち非球面レンズ4枚、EDレンズ2枚となっている。重量約95g。

 ズームレバーは左手側にあり、ストロークは短い。民生機のビデオカメラ並と考えればいいだろう。ズームリングはもちろん、フォーカスリングもないが、マニュアルフォーカス用にズームレバーと似たようなレバーが左下に設置されている。こちらも電動でフォーカスが動くわけだ。

ズーム用のレバーとフォーカスレバーを装備下から指を回して操作するのが自然

 PZ 45-175は35mm換算で90mm-350mmをカバーする3.888…倍ズームレンズ。こちらは沈胴式ではなく、ズームしても全長が固定である。全長はマウント基部から約90mmで、レンズフードが付属する。

こちらもコンパクトなPZ 45-175

左がXレンズ。レンズキットの45-200mm(右)と長さは変わらないが、だいぶ細い

レンズフードまで入れるとそれなりに長く感じる

 絞り羽根は7枚で、開放F4、最小はF22。レンズ構成は10群14枚で、非球面レンズ2枚、EDレンズ2枚となっている。重量約210g。

ズームレバーはPZ 14-42と同じ位置

 ズームレバーは同じ位置にあり、ストロークも同じだ。ただこのレンズにはマニュアルのズームリングとフォーカスリングが付いている。

 お借りしたG3はすでにXレンズ対応のファームウェアが入っており、フル機能が使える。ズームが電動と言うことは、現在のズーム値がわかるということである。対応のカメラでズームレバーを動かすと、現在何mmになっているのかが数字でわかる。

 またズーム値をメモリーする機能もあり、いったん沈胴しても電源を入れると、元のズーム値に復帰する。

 ステップズーム機能を使うと、いくつかのステップごとでズーム値が止まるようになる。PZ 14-42では14-18-25-35-42mmのところで、PZ 45-175では45-60-75-100-150-175mmのところで段階的に止まる。ただズームレバーをずっと倒し続ければ、止まらずに動く。面白いのは、PZ 45-175でズームリングを操作しても、このステップで動くところだ。このあたりは電動リングのメリットと言えるかもしれない。



■写りはキットレンズと同じ?

 では実写である。あいにくG3は動画機能がGHシリーズほどには充実しておらず、絞り優先などのモードにしても動画撮影時はカメラおまかせになってしまう。ISOは自動で、絞りは開放になる。

 同じカットをXレンズとレンズキットで撮り比べてみたが、絵の傾向としてはほぼ同じと言っていいだろう。色味もほとんど違いがない。元々のキットレンズも結構良くできているということもあるが、そもそもハイビジョン程度の解像度では、あまり違いはわからないレベルである。

 同じカットを撮影して2つの動画サンプルを作成した。レンズの口径も構造も違うが、ほとんどどちらがどちらなのか見分けが付かない。

 Xレンズキットレンズ
静止画サンプル
(※動画から
の切り出し)
動画サンプル
samplex.mp4(106MB)

sample_n.mp4(106MB)

roomx.mp4(54MB)


room_n.mp4(53.7MB)

※動画サンプルの下段、室内のXレンズ動画は、
前半がPZ 14-42、後半2カットがPZ 45-175
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。
また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ズームレバーは一応傾き角によって2段階のスピードが使えるが、ストロークが短いのでコントロールが難しい。ズームスピードそのものは3段階から選べるので、指先で細かい調整をするより、スピード設定を変えて全力で傾けた方が使いやすいかもしれない。

【動画サンプル】
zoom.mp4(71.5MB)

ズーム動作をテスト。前半がPZ 14-42、後半がPZ 45-175で撮影
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 ズーム動作そのものでは、動画を撮るということに関して問題点がある。PZ 14-42ではズームのスタート地点で、絵がガクガクっと動くのである。最初は手ぶれ補正の誤動作かと思われたが、手ぶれ補正をOFFにしても同じ動作であった。

 PZ 45-175では、ズームの途中で1箇所、必ずひっかかるところがある。このような動作は、瞬間しか撮影しない写真では問題ないが、動画では致命的とまでは言い過ぎかもしれないが、やはり問題にはしたいところである。

 ズームのワイド端とテレ端でのフォーカス差、バックフォーカス性能まで静止画レンズに求めるのは酷だということはわかっているが、一応試してみたところやはりちょっとずれるようだ。ただ常時AF動作が可能なので、ズーム中にもフォーカスが追従するため、大きな問題ではないだろう。

 手ぶれ補正に関しては、Xレンズにはコンパクトデジカメで採用していた手ブレ補正機構「POWER O.I.S.」が組み込まれている。従来の手ぶれ補正は、「MEGA O.I.S.」と表記されている。

 いつもの歩き撮りをワイドの両レンズで比較してみたところ、「POWER O.I.S.」のほうが若干利きがいいようだ。そもそも静止画撮影用の機能なので、動画撮影には特化されていないようだが、効果は感じられる。手ぶれモードとしては、流し撮りに対応するため上下方向のカメラのブレを補正するモードももう一つあるのだが、動画撮影では使えないようになっている。


【動画サンプル】
focus.mp4(28.8MB)
【動画サンプル】
stab.mp4(50.4MB)

向かってくる被写体をPZ 45-175で撮影。顔認識で追従している手ぶれ補正をテスト。前半がPZ 14-42、後半がキットレンズの14-42で撮影
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■ファームウェア非対応カメラでは?

 Xレンズで気になるのが、従来のボディとの互換性である。DMC-GF2/GF3/G3/GH2の4機種に関しては10月上旬にファームウェアのアップデートがあり、Xレンズの下記4機能が使えるようになっている。

  • 液晶画面でズーム位置を確認できる「焦点距離表示」機能
  • 決められた各焦点距離までズームする「ステップズーム」機能
  • 電源OFF時のズーム位置を覚える「ズーム位置メモリー」機能
  • 電動ズームの速度を選択できる「ズーム速度」機能

 手元にアップデート対象になっていないGF1があったので、試しに付けてみたところ、上記4機能は使えないものの、ズームレバーやフォーカスレバーなどの動作には問題ない。マニュアルフォーカス時にはちゃんと拡大フォーカスモードに移行する。ズーム速度は中速にセットされるようだ。

 ただAFの性能がボディの進化につれてだんだん良くなっているので、電動ズームによるフォーカスの自動フォローが追いつかないという欠点があるのは残念だ。またGF1はタッチスクリーンでもないので、追尾フォーカス機能も使えない。こういう点を考えると、やはり動画でもちゃんとした性能を発揮できるのはGF2以上と考えるべきだろう。



■総論

 今回は実質的にレンズのみのレビューなので、若干早めの総論である。ズームレバー付きレンズということで、一眼でも電動ズームが使えるところがポイントなわけだが、ズーム位置の記憶などはさすが電動といったところだ。

 その一方で、ビデオカメラのようにズーム中の状態を記録するという用途として電動ズームを考えると、ちょっと期待値とは違う結果になった。スタート時の絵のブレ、途中のひっかかりなどは、手持ちで適当に撮っている分にはほとんど気にならないかもしれないが、足を付けてしっかり撮影しようとすると問題になる。

 描画に関しては、毎回動画でしか使ってないのでこんなことを言うのもアレだが、筆者の見たところほとんどセットレンズと同じ、という感想を持った。ただレンズ口径やサイズ、重量がかなり小さくなったにもかかわらず、同じ性能という点は評価したい。

 個人的には、余裕があれば取材用に2本買いたいところだが、両方で10万円と考えるとうーんセットレンズでいいかー、ということになりそうだ。せっかくちょい上のレンズなら、もうちょっと個性的というか、一部分の特性がガーッと伸びたレンズにも期待したいところである。

 今後Xレンズのラインナップは増えていくだろうが、単焦点レンズが出たらズームレバーは当然ないわけで、これはもう純粋にレンズの質で勝負することになる。テレ系はマウントアダプタを使えば35mm用の良いレンズがいくらでも付くが、ワイド系の明るい単焦点が出たら、勝負レンズとして1本、という需要はあるのではないかと思われる。

 元々ミラーレス一眼はライトユーザー層なので、次期レンズはあんまり高くない方向でお願いしたいものだ。

(2011年 11月 2日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]