“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第537回:ネット生配信の最前線! 最新機材をチェック
~もう1ランク上の放送をしたい人へ~
■メディアとして定着する生放送
ニコ生、Ustreamといったネットの生放送は、2009年末ごろから次第にブレイクの兆しを見せ始めていた。テレビが報じない事業仕分けを全部中継するといった、政治報道の観点から社会に広く注目されていった経緯があるが、震災以降は特に原発や放射線の問題を中心に、重要な番組が数多く制作されている。
もちろん以前からのような娯楽的なものも数多くあるが、実際にビューを集めているのはやはり社会問題を扱ったものという傾向がある。それだけネットの生放送は、テレビが報じないシリアスな問題を扱う場所として定着し始めているということだろう。
ニコ生とUstreamは、同じような生放送メディアだと捉えている人も多いが、次第に性格が分かれてきたように思う。ニコ生は公式放送として社会問題、政治問題を取り上げた番組を主体的に制作しており、ある意味放送局的な立ち位置を確保しつつある。一方Ustreamは、企業利用やイベントの中継、個人放送など比較的小規模ながら、放送者と視聴者が近いラジオ的な利用が増えているようだ。
Ustreamは今年9月から有料会員サービスとして、有料の配信ができる「ペイパービュー配信」が可能になり、放送者側がある程度のビジネスモデルを確立できるような仕組みが整い始めている。いわゆる広く知らせるための広報的利用ではなく、今後は企業セミナーなどの少数ながらペイできる利用も増えていくだろう。
こうしたネットの生放送を行なうのに、以前は機材が大変だった。ビデオチャット用の機材を流用したり、映像制作用の古い機材をわざわざかき集めたりと、苦労が多かったものだが、最近はネットの生放送用を謳う機材が出始めている。今回はそんな機材を集めて、いろいろテストしてみたい。
■ソニーのPC用コンデンサーマイク「ECM-PCV80U」
ソニーのコンデンサーマイク「ECM-PCV80U」 |
ネットの配信となると、まずカメラをどうするかといったところから入りがちだが、実は生放送では音声のほうが重要である。マイクも以前から比べると非常に値段が下がってきており、一流メーカー品でも1万円も出せば買えるところまで来ている。
ソニーのマイクも「C-38」に始まって「ECM-23F」などコンデンサーマイクに名器と言われたものが多いが、「ECM-PCV80U」は4,305円と非常に安いコンデンサーマイクである。マイクには構造上の違いとして、ダイナミック型とエレクトレットコンデンサー型、リボン型に大別されるが、リボン型は非常に高価かつ壊れやすいので、あまり一般人が買うようなものではない。
傾向としては、ダイナミック型は電源いらずで大音量に強い、コンデンサー型は電源が必要で繊細な集音が得意、という特徴がある。またコンデンサー型は小型化しやすいという特徴もあるので、PC用として売られているヘッドセットマイクのほとんどはコンデンサー型である。
「ECM-PCV80U」は、そんなPC用コンデンサマイクだが、かなりしっかりした作りの大型マイクで、ルックス的にもかなり本格的だ。さらにUSBインターフェースも付属しており、PCに直接マイクを接続するのではなく、USBオーディオとして接続することが可能。生楽器などをいい音で集音したいという用途の入門としては、いい選択である。
サイズ感もかなり本格的 | 小型USBオーディオインターフェースが付属 | 台座までプラ製で重みはないが、マイクスタンドも付属 |
SBインターフェースはマイク入力とモニター用のイヤホン端子のみ |
またテーブルスタンドも付属しており、別途スタンドを買う必要がないというのもメリットだ。案外マイクスタンドも別で買おうとすると、4~5千円から、1万円弱ぐらいする。高さはあまりないが、とりあえずこれを買っただけですぐ使え、しかもこの価格というのはお買い得感が高い。
ただ付属のUSBインターフェースには、ほかの音源とのミックス機能(ステレオミキサー機能)がないので、本当にこのマイク1本だけで使うことになる。ほかの音と混ぜたい場合は、逆にUSBインターフェースを使わないほうがいい。
■4つの音源がミキシングできる「TASCAM US-125M」
USBオーディオインターフェースも楽器メーカー、音響メーカーなどから、色々なタイプが出ている。しかしその多くは、いくつかの入力に対応してはいるものの、それらを切り替えて使うのみで、自在にミックスできるというタイプのものは意外に少ない。DTM用のミキサーに幾つか良いものもあるが、音楽用なので16chとか24chとかあり、放送用としては多すぎるきらいがある。
TASCAMの「US-125M」(オープンプライス/実売13,000円前後)は、種類の異なる4つの音源ソースをミキシングできるUSBオーディオ機器だ。マイク入力、楽器用の標準ジャック、オーディオ機器やゲーム機を繋ぐライン入力、パソコンから再生する音を入力するUSB端子がある。電源不要で、USBバスパワーで動作する。
それぞれの端子の違いは、インピーダンス(抵抗値)の違いだ。マイク、楽器、ライン入力はそれぞれ出力の大きさが違っているので、適正な入力信号として受け止めるための抵抗値もそれに合わせて違っている。従って目的が違う端子に突っ込むと音が歪んだり出なかったりする。最悪の場合はミキサーが壊れてしまうこともあるので、目的にあった端子を使うようにしたい。
4ソースがミックスできる小型USBミキサー | 各レベルはつまみで操作できる |
マイク入力は3タイプに対応 |
マイクだけで3入力あり、電源供給可能(コンデンサーマイク対応)なミニジャック、背面に標準ジャックとXLR端子がある。これは3つが混ざるわけではなく、どれか1つの選択になる。優先順位は、ミニジャック、標準ジャック、XLRの順となっている。これがプロ機なら順序が逆になるところだが、コンシューマユースを狙っているということだろう。なおXLRからは電源供給しないので、コンデンサーマイクは直接使用できない。
マイクにはリミッターが付いているところもポイントだ。トークの収録をしたことがない人は、マイクのレベル調整は難しい。突然大笑いしたりといったことが起きると、レベルオーバーで歪むからである。こんなときリミッターが付いていると、小さい音は大きく、大きい音は抑えて集音できるので、放送用途には向いている。
特に生放送用の機能としては、Loop Mix機能があるのが便利だ。これはPCからの再生音をUSB経由でミキサーに持ってきて、他の音とミックスしたあと、またUSB経由でPCに戻すという機能である。この機能を使えば、マイクで拾ったトークにPCで再生したBGMをミックスして、同じパソコンで配信、という事ができる。
ただし放送中にPC上で番組の音声を上げてしまうと、その音がまたミキサーに戻って、またPCに戻ってまたミキサーに戻ってまたPCに戻ってまた(以下略)という具合にループが起こる。ループが起こると、音声にカラオケのエコーがかかったような感じになるので、すぐわかる。Loop Mixを使う場合は、PC上の番組再生音量は0にしておく必要がある。
■HDMIスイッチャー、ATEM Television Studio
以前低価格の本格的スイッチャーである、BlackMagicDesignの「ATEM 1M/E」をレビューしたが、それのエントリーモデルとなる「ATEM Television Studio」がいつの間にか発売開始されていた。複数のカメラとHDMI接続して、その映像を切り替えながら配信する機器で、価格は85,980円。1M/Eから機能はダウンしているものの、H.264エンコーダを備え、USBポートからH.264にエンコードされたストリーム出力が出るというのがウリである。
しかし現状のファームウェアでは、まだH.264のストリームが出せないため、単に1M/Eの機能ダウンモデルという意味合いしかないのが実情だ。スイッチャーとしてのUIや操作性などは1M/Eとほとんど一緒なので、以前の記事が参考になるだろう。
1UのHDMI/HD-SDIスイッチャー、ATEM Television Studio | Television Studioのソフトウェア画面。マウス操作でスイッチングする |
要するにここから入力数が減り、キーヤーが3つ減り、DVE機能がなくなり、オーディオのサポートがAES/EBUのみになったという感じである。合成のための機能は減ったが、そもそもHDMIがそのままスイッチングできる機器などほかにはない。
また本機にはスケーラーがないので、HD入力をSD出力にダウンコンバートすることができない。したがってHDの家庭用ビデオカメラをHDMIで繋ぐと、出力側も1080iで出てくることになる。
本機の出力はSDIとHDMIだが、SDIは業務用規格なので、PCでのキャプチャ製品はプロ用しかない。従ってHDMI出力をなんとかPCに取り込む必要がある。同じくBlackMagicDesign製のキャプチャーユニットで「Intensity Shuttle」という製品は、HDMI入力をUSB 3.0で受けることができる。
現在サポートしているのは1080iと720pのみ | USB 3.0でHDMIのキャプチャができるIntensity Shuttle |
ただこのIntensity ShuttleのUSB 3.0は、相性問題がある事で知られている。PC側のUSB 3.0コントローラチップがNEC製もしくはルネサス テクノロジー製のものでないと、キャプチャできないようだ。筆者宅のデスクトップPCはUSB 3.0搭載モデルだが、使えなかった。
なんとかTelevision Studioをネット中継に使う方法はないかと探したところ、エスケイネットからHDMI入力をUSB 2.0で受ける変換ユニット、「MonsterX Live」(SK-MVXL)が10月下旬に発売される。価格は店頭予想価格19,800円。これでなんとかなると一瞬喜んだが、このMonsterX Liveはなんと1080iが受けられない。では何が受けられるかというと、480p、720p、1080pだけだという。要するにインターレースが受けられないのだろう。
ATEM Television Studioは、今のところ720pと1080iモードが使用可能なので、720pでMonsterX Liveで繋ぐことになる。しかし民生機のビデオカメラで720p撮影ができるものはほとんどない。デジカメでは720pで撮れる物もいくつかあったが、HDMI出力の映像からメニューが消せない、そもそも撮影モードでは出力が出ないといった問題があり、これもまた使いにくい。
カメラ直結であれば、1080pモード撮影可能なビデオカメラはここ1年ぐらい出てきているので、MonsterX Liveでも使えるだろう。そうなると本当にATEM Television Studioをネットの生放送に使おうとすると、Rolandの「VC-30HD」が必要になる。こちらはマルチフォーマット対応のコンバータだが、業務用機なので価格が20万円弱である。
現状のATEM Television Studioは、ネット放送には使い辛い。ファームウェアがアップデートしてSDモードをサポートするか、H.264のストリームが出るようになってから、検討した方がいいだろう。
■PCレスでUstream配信、Cerevo Live Shell
PCレスでライブ配信を実現するCerevo Live Shell |
これまでのネット配信は、PC(あるいはMac)で行なうというのが前提であった。だからPCに映像と音声を入れやすいUSB機器を選んで使ってきたわけだ。PCにはマイク入力はあるが、HDMI入力が付いたノートPCなどはない。
では映像配信部分をPCではなく、外部機器に任せたらどうか。そういう機器が、これまで「Cerevo Cam」などを作ってきたCerevoの新製品「Live Shell」である。年内発売予定で、価格は26,800円となっている。
本体はスマートフォンより少し大きめで、正面に液晶モニタ、4つの角にボタンがある。HDMI入力のほか、アナログAV入力、マイク端子を備える。突起部分は小型のWiFiアダプタで、抜き取るとUSB端子になっている。反対側にはEthernet端子、拡張コネクタがある。単3電池3本で3時間以上駆動するほか、ミニUSB接続の外部電源(モバイルバッテリなど)も使える。底部には三脚穴があり、アクセサリーシューを経由してカメラに付けることも可能だ。
正面に液晶パネルと4つのボタン | HDMI入力ほか、アナログAV、マイク入力が使える |
ネットワークは有線・無線両方に対応 | 単3電池3本で駆動できるほか、ミニUSB経由での電源供給も可能 |
音声入力はHDMI、アナログライン入力、マイク入力の3つをミックスできるなど、結構よくできている。ただしHDMI入力は480pまでなので、HD解像度しか出せない機器は繋がらない。ハイビジョンカメラのHDMI出力は、AUTOモードにしておけば受け側の解像度に合わせて自動的に解像度を変えていくので、直接接続できるというわけだ。
配信のイメージ。ビデオカメラとLive Shellを接続する | Live Shellはコンパクトなので、ビデオカメラのアクセサリーシューにも装着できる |
配信は有線LANでも無線LANでも可能だ。無線LANの場合、SSIDやパスワードなどの設定を行なう必要があるが、PCを使うと簡単だ。Dashboardという専用サイトにアクセスして、ウィザード形式で設定を進めることができる。面白いのが設定値を本体に転送する方法で、なんとPCのイヤホン端子と本体のマイク端子を付属ケーブルで直結し、音声を使って設定を移す。昔のPCがカセットテープにセーブ・ロードしたのと同じ方法である。
本体のボタンを使って、映像と音声のディレイを調整するなどかなり細かい設定も可能だが、DashboardにはPCを使った配信コントロール機能もあり、入力切り替えやボリューム調整、映像や音声のミュートがリアルタイムで制御できる。
ウィザード形式で設定が進められるDashboard | 配信コントロールはPCからも可能 |
まだ量産品ではないが、安定して動いており、よく練られた製品であることが伺い知れる。ただしこのような外部機器で放送できるのはUstreamに限られており、ニコ生はそのような仕様がオープンになっていない。
■総論
今回の機材で組み合わせ可能なシステム例 |
本来ならば新登場の機材のみで放送システムをくみ上げるところまで行きたかったのだが、ATEM Television Studioが本来の性能を出せてないこともあり、どうにも全体的にうまく接続できなかった。ローランドVC-30HDがなんでも受け付けるので、これさえあれば放送システムが組めるが、逆に言えば現状はこれがないとどうにもならないということである。
これまでネットの生放送は、USBカメラ一つでやれるところまでは簡単だが、それ以上になると、途端にハードルがプロ機レベルまで上がってしまうことが難点であった。
だがローランドがライブ配信向けスイッチャー「VR-5」を出して以降、風向きが大きく変わってきたように思える。各社からあきらかにネット配信を意識した機器が、リリースされてきている。
まだまだ隠し球は沢山あると思うが、11月16日からは映像機材展のInterBEEが始まる。ここでお目見えするネット配信機材も多いはずだ。プロだけでなくコンシューマユースでも、映像文化の一つを担う手法としてネットの生放送が定着し、一つの産業文化を形成しつつあるということなのかもしれない。