小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第674回:空撮初心者でもOK!? DJI「Phantom2 Vision+」
第674回:空撮初心者でもOK!? DJI「Phantom2 Vision+」
自動飛行も可能なハイテクヘリ+カメラを飛ばしてみた
(2014/8/6 10:00)
クワッドコプター狂想曲始まる
昨年あたりから急激に、ラジコンヘリによる空撮映像が市民権を得つつある。実を言えばもう2~3年前から世界最大の映像機材展であるNAB Showでは、クワッドコプターによる空撮の出展も行なわれていたのだが、日本ではまだ自分の周りで使っているという話は聞いていなかったので、取材していなかった。
いわゆる2ローター式のヘリに比べると、ローターが4つのクワッドコプターは扱いやすいとして、ホビーでも多くのモデルが発売されている。一方カメラ搭載可能な大型機では、安定性を増すため、さらにはもっと重いカメラを搭載するためにローターが6つ、8つといったモデルもある。それぞれ数に合わせてヘキサコプター、オクタコプターと呼び方が変わるわけだが、2ローター以上のものを総称してマルチコプターと呼ぶ。マルチコプターの中でもっともシンプルな構造が、クワッドコプターということになる。
海外では“ドローン”という言い方のほうが定着しているようだ。ただ語源としては無人操縦機というニュアンスで、軍用をはじめとする大型機のニュアンスを感じる。さらに言えば、航空機だけでなく地上を走る自動操縦車両もドローンに入るので、幅が広い。日本では、いわゆるラジコンヘリで空撮するやつといえば、「クワッドコプター」が代名詞的に使われている。
これまで多くの空撮に使われ、クワッドコプターの「標準機」というポジションを占めるのが、DJIの「Phantom2」だ。これにGoPro用ジンバル(揺れや傾きなどを補正する機構)を取り付け、カメラをつり下げる格好で撮影する。
しかしこのセットは、ジンバルの取り付けなどを自分で行なう必要がある。配線もいじるため、一種の改造と言うこともできる。またGoProも自分で別途購入して、バランス調整なども行なう必要があるので、これまでラジコンヘリなどいじったこともないという人がいきなり買って挑むにはハードルが高い。
“もっと空撮を簡単に”ということで、Phantom2をベースに最初からジンバルとカメラまで付いた状態でこの6月より販売が開始されたのが、「Phantom2 Vision+」(以下P2V)というモデルだ。Amazonでは148,500円となっている。
カメラはオリジナルモデルで変更できないため、その画質も気になるところだ。今回は本当にキャッチフレーズ通り「誰でも簡単にフライトできる」のか、実際に機体をお借りして、自ら飛ばしてみることにした。
筆者はこれまで、いわゆるオモチャクラスのクワッドコプターなら遊びで飛ばしたことはあるので、操縦方法は理解しているが、これぐらい大型のモデルを扱うのははじめてだ。そんなレベルでも、はたしてうまく飛ばせるだろうか。さっそく試してみよう。
すでにお馴染みの機体
まずは機体のほうから見ていこう。本体は基本的にPhantom2と同じもので、ローターは中心部がグレーと黒のものが2つずつ必要だ。これは対角線でペアになっており、右回転用と左回転用である。こうして回転方向を分けることで、機体が回転してしまうのを防ぐわけだ。
モーターの軸が色分けされており、どれをどこに取り付けるかがわかるようになっている。モーターは上からコイルが覗ける構造になっているが、これは恐らく放熱のためだろう。
クワッドコプターは一見すると前後左右がないように見えるが、前はちゃんと決まっている。どちらが前かわかるようにステッカーを貼るなどして区別するほか、機体の下にLEDライトがあるので、それでも機体の向きがわかるようになっている。
本体にはmicroUSB端子があり、PCと接続して専用のキャリブレーションソフトを動かす事で、調整や設定、ファームウェアのアップデートを行なう。
バッテリはかなり大型で、重量368g、容量5,200mAh。機体重量はバッテリまで全部含めて1,242gとなっている。これで飛行時間はおよそ25分。
ボディ部の下には、ショックアブソーバを挟んで、カメラ一体となったジンバル機構が取り付けられている。機構的にはX,Y,Z軸それぞれに動かせるが、操縦者が手動でコントロールできるのは上下のチルト角だけだ。傾きと横方向は、機体の揺れや傾きを補正するために使われる。
カメラそのものはGoProよりも小型だが、レンズ部はよくあるアクションカム相当のものが付いている。レンズは単焦点で、F2.8。画角は静止画で110度、動画で85度とスペックに書いてあるが、レンズ部には140度と記載されている。周辺収差が大きいので、記録時にトリミングしているのかもしれない。カメラへの電源は、機体のバッテリから供給される。
センサーは1/2.3型、1,400万画素で、静止画の解像度は4,384×3,288ドット、動画は1,920×1,080/30p。量子化8bit/4:2:0のMPEG-4形式で、ビットレートは平均10Mbps、最大14MbpsのVBR。音声は記録されない。
ジンバルの基部にはmicroSDスロットがあり、ここにメモリーカードを差し込んで映像を記録する。後方にはUSB端子があり、PC等と接続すると、SDカードの中身を参照することができる。ただし画像の読み取りには、機体のバッテリが電源ONになっている必要がある。
コントローラ側も見ておこう。ラジコンの世界では「プロポ」と呼ぶが、これはプロポーショナルシステムの略だ。多くのラジコンでは、機体との通信に一般に広く民間利用が認められた2.4GHz帯を使用しているが、ご存じのようにここはWi-Fiから監視カメラからBluetoothから電子レンジまで多くの電波が飛び交っているため、このような大きな機体のコントロールには向かない。
そこで日本独自仕様として本機では、920MHz帯を使用している。ここはケータイ電話網でいうところの「プラチナバンド」にあたり、屋内や見通し距離の外にも伝わりやすい特性を持つため、使い勝手のいい領域だ。2012年7月より、日本国内では免許不要で民間利用ができるようになった。
一般的にラジコンヘリのプロポには、モード1とモード2がある。世界的に見ればモード4まであるが、日本で標準的に使われているのがモード1、米国で標準的に使われているのがモード2だそうである。違いは2つのコントローラによる機体動作だ。
- | - | 左レバー | 右レバー |
モード1 | 縦 | 前進後退 | 上昇下降 |
横 | 左右に旋回 | 左右移動 | |
モード2 | 縦 | 上昇下降 | 前進後退 |
横 | 左右に旋回 | 左右移動 |
表にするとレバーの縦の動きが逆になっているだけではあるのだが、実際の操作感はかなり違うため、どちらか片方に決めて練習するのが普通である。付属のプロポは、底部にmicroUSB端子があり、ここにPCを接続して設定ソフトを通じてモード1とモード2のどちらでも設定が変更できるようになっている。
レバーの上には小型のスイッチがある。機体のコンパス調整モードに入ったり、緊急帰還モードにするなど色々なモードを持つが、ここでは煩雑になるため割愛する。
また本機のプロポには、「レンジエクステンダ」が取り付けられている。これは2.4GHz帯の電波の有効通信範囲を増強する装置で、見通し距離での伝達距離は700mに達するという。これは、カメラからのライブ映像をスマートフォンで受信する際に使われる。またスマホ側からは専用ソフトを使って、カメラのチルト制御もできるが、相当な距離飛んでいてもコントロール可能になるわけだ。これはプロポからは独立しているので、microUSB端子を使って別途充電しておく必要がある。
映像のモニターは、「DVI Vision」というスマホアプリを使用するので、あらかじめインストールして、通信テストをしておくといいだろう。機体とスマホの間にレンジエクステンダが入って、通信を強化してくれるという構造だ。
GPSで超安定飛行
ではさっそくフライトである。今回テスト撮影を行なう場所として、編集部が色々探してくれたが、都内にある荒川河川敷などは、原則ラジコン飛行機は危険・迷惑行為となっている。ただ江戸川河川敷は、自由使用の範囲内ということだったので、公園などの公共施設を避けてフライトしてみた。
フライトの前に、機体とプロポをそれぞれ専用の調整ツールを使って、キャリブレーションを行なう。マニュアルによれば、絶対に必要とは記載されていないが、新しいファームウェアの適用やプロポのジョイスティックのキャリブレーションなどは、定期的に行なうべきだろう。
今回はたまたま本体の新しいファームウェアがあったので適用してみたら、モーターがスタートしなくなってしまった。P2Vの場合、モーターは、プロポの左右のスティックを逆ハの字にすることでスタートする。
これはファームウェアをアップしたことで、プロポ側のキャリブレーション値がリセットされてしまったようだ。機体用の設定ソフトでもプロポのキャリブレーションは可能だが、今回はそれでは解決できず、結局プロポ用のアプリを使ってキャリブレーションする必要があった。このあたりの問題を自力で解決するためには、設定アプリの機能もきちんと把握しておく必要がありそうだ。
電源は、まずプロポ側から入れたのち、機体の電源を入れる。機体の電源を先に入れてしまうと、プロポとの通信ロストと判断して自動帰還モードに移ってしまうことがあるからだそうだ。
現場に着いてからは、機体のコンパス調整を行なう。プロポの右上のスイッチを5往復ぐらいガチャガチャと動かすと、機体のLEDがコンパス調整モードに入ったことを知らせてくれる。あとは機体を水平回転、垂直回転することで、調整が完了する。
機体を水平な場所において1分ほど待つと、LED点滅が黄色から緑に変わり、GPSを捕捉したことを知らせてくる。この時、スマホ側で撮影用アプリを起動していると、衛星を何個捕捉したか、機体のバッテリ残量はどれぐらいかといったパラメータを確認する事ができる。
スティックを逆ハの字にするとモーターが始動するが、この時点では離陸しない。右スティックを上に上げると上昇する。手を離すと、その位置で静止する。GPSによって位置情報を常に捉えているので、風があっても一時的に流されるものの、元の位置に戻ってくる。浮いた状態で何も操縦しなければその場に静止しているので、1人でもカメラ映像を確認したり操作したりすることができる。
DVI Visionによるモニタリングは、いわゆるWi-Fiを使ってリモートできるデジカメやアクションカムと同じ使い勝手だ。ディレイは測定することができなかったが、操作に支障はない程度のレスポンスを持っている。手動で操作するのは、動画の録画スタート・ストップ、静止画のシャッタ、上下のチルトぐらいである。上下のチルトは、スマートフォンのジャイロセンサーとリンクさせて、スマホを上下に倒すことでカメラのチルトを動かす事もできる。
飛行範囲を設定する事もできる。今回はあまり無茶しないように、あらかじめ設定アプリで高度100mまで、半径100mまでと設定した。めいっぱい動かしても、この範囲を出る事はなかった。
では実際の映像をご覧頂こう。上空に静止している状態では、ほとんどカメラのブレを感じさせない。機体の姿勢制御に使うジャイロの情報を分岐してジンバルの制御を行なうため、ブレの補正はかなり精度が高い。
横方向のパンは、機体をゆっくり旋回させて撮影したものだ。三脚のように綺麗に回る。ラストは夕焼けを撮影してみたが、あいにくこのカメラ性能では空が白トビ気味で、あまり綺麗に撮影できなかった。
画質的には、広角な上にどうしても遠景が多くなるため、絵柄としてはかなり細かいものが沢山写ることになる。したがってディテールの細かい部分が大量に発生するわけだが、それに十分なほどのビットレートはない。エンコードとしての破綻はないが、もう少しシャッキリ感は欲しいところである。
15万円の空撮というコストを考えれば、まあこんなところだろうか。最近は軽量のアクションカムでも高画質のものも出てきているので、機体がPhantom2でもジンバルさえあれば、より高画質な絵が撮れるはずである。ただ、レンジエクステンダやアプリを使ったコントロールまで可能というメリットを考えれば、カメラ一体型であるP2Vの魅力も捨てがたい。
静止画撮影も試してみた。色の傾向は動画とほぼ同じだが、静止画のほうが広角なため、場合によってはローターの一部が写ってしまうこともある。若干眠い感じはするが、思ったほど色収差はなく、その点では良好だ。広角故に湾曲もあるが、「アドビ・レンズ・プロファイル」に対応しているため、Adobe LightroomやPhotoshopを使えば、補正することもできる。
最後に、GROUND STATION機能も試してみた。これは、あらかじめ飛行ルートを指定しておくことで、自動操縦する機能だ。スマホアプリのDVI Visionで設定できるため、現場の地図と照らし合わせて飛行ルートを設定する事ができる。
今回は安全のため、10数m単位で3点飛行をテストしてみた。飛行ポイントを地図上で指定、高さを決めていくと、そのポイントが線で繋がっていく。コースができたら、Goボタンをタップするだけで自動的にポイントを通過するように飛行し、元の位置に戻ってくる。ただ着陸はせず、その場でホバリングしている。Go Homeボタンをタップすると、自動的に着陸までやってくれる。
自分で操縦する腕がなくても、この機能を使えば指定ポイントを撮影しながら戻ってくるといったこともできる。ただ、見通しのいい場所であることが条件で、ビルや電線など障害物を自動的に避けてくれるわけではない。
クワッドコプターの未来像
今回は大阪にあるメーカーのDJIから機体をお借りしたが、DJIについてよく知らない人も多いだろう。そこで、同社担当者に、メールにていくつか質問させていただいたので、ご紹介したいと思う。
-DJIはどのような会社で、どういった経緯で無人航空機(UAS)の開発を行なうことになったのでしょう。
DJI:社長は 汪滔といいます。香港科技大学在籍中にシングルローターヘリの安定化装置を開発したのが始まりで、現在空撮マルチコプター、コントローラー及び周辺設備で世界トップシェアとなっています。社員は1,500人、年間の売上高は200億円、月間に1万から2万台を世界中に販売しています。
-DJIの製品がこんな場所で活用されているという事例はありますか?
DJI:CMやドラマなどで、空から撮影している映像は弊社のものが多いかと思います。最近では「世界の果てまでイッテQ!」でイモトさんがサバンナで飛ばしていました。また前回のオリンピックで使われていたヘリの制御装置は、弊社のものでした。機体は違っても、弊社の安定化装置を採用しているメーカーは数多くあります。
-Phantom2 Vision+のアピールポイントはどこになりますか?
DJI:カメラ一体型で、FPV(First Person Viewing:搭載カメラの映像を地上でモニタリングすること)が出来る点です。これまで日本国内では、合法的にFPVが出来る商品がありませんでしたので、革新と言えるかと思います。
-以前、名古屋のテレビ塔周辺で、夜景撮影をしていたラジコンヘリが墜落した事故があり、新聞でも報道されました。航空法による制限制限や、公的ルールを把握せずに飛ばしてしまうユーザーもいると思われます。これに対してメーカーからの啓蒙や、勉強会を主催するといったアクションや取り組みがあれば教えてください。
DJI:あれは非常に残念でした。
現在はFacebookを使った啓蒙活動も始めていますし、ショールームなどを作って、購入前に直接商品の楽しさと危険性を知って頂く場所も整える予定です。
-今後、ホビー用途だけでなく、産業面などマルチコプターの可能性などについてコメントをいただければ。
DJI:社会インフラとして、マルチコプターを普及させていきたいと考えております。既に環境、エネルギー、防災、計測、測量、農業といった産業面でもご活用頂いており、今後はさらに人々の生活のインフラの一部になっていくと思いますので、皆様に安心してお使いいただけるように、メーカーとして安全面の機能強化に日々努めていく方針です。
総論
今回実際にPhantom2 Vision+を飛ばしてみたが、これだけの機体なのに、あるいはこれだけの機体だからとも言えるが、想像以上に簡単に飛ばす事ができた。安定性も高く、多くの空撮で使われている理由はよくわかる。
ただし、“簡単に飛ばせる”ために、もの凄いハイテク技術がその下で動いており、ユーザーはそれを意識することなく使えてしまう。言うなれば“オートマのスーパーカー”状態である。この例えからも想像していただけるように“簡単だから無茶しても平気”ということにはならない。空を飛ぶものは何かトラブルがあれば落ちてくるわけで、安全性とは常に表裏一体として考えておかなければならない。やはり最初は小さい機体を使って、手動で操作できるようになってから、このクラスに挑むべきだろう。
ローターは薄い樹脂製でそれほどの強度はないが、高速で回っていれば鋭利な刃物と同じである。ローターガードも市販されているが、本体とは別に購入するものであり、標準で付属はしていない。DJIに限らず多くのホビーメーカーも、ローターガードを付けることには消極的だ。なぜならば、ガードを付けると風の影響を受けやすく、機体が不安定になってコントロールを失いがちになるからである。この点では、我々一般人が感じる危険性と、メーカー/ユーザー側が感じる危険性に、ズレが生じている。
また名古屋テレビ塔での墜落事件では、飛ばした男性が書類送検されている。これは電波塔の近くを飛ばしたからでもなく、繁華街に墜落したからでもなく、航空法で飛行が制限されている名古屋空港から半径9km圏内を、規定の高さ以上で飛ばしたからだ。この点も、我々が感じる危険性と、現行法のズレを感じる。
今回、テスト飛行する場所を探してみて、東京近郊では結構限られることもわかった。空港やヘリポートなどの施設の近辺などは航空法により飛行が制限されているが、河川敷や広い公園なども、「子供のオモチャ程度なら大目に見るが、本格的なのものは苦情が来る可能性もあるのでご遠慮ください」といった対応が多い。何か問題が起きたら、大小にかかわらずラジコンヘリ全体がNGとなる可能性もあるだろう。
その一方で、趣味の空撮に限らずこのようなヘリを防災用途で使えないか、というニーズもある。例えば自然災害で人が行けなくなった場所の状況確認などでは、大きな威力を発揮するだろう。先日も海外で、救援隊が3日かかっても見つけられなかった遭難者を、ドローンを使って20分で発見したというニュースもあった。単純に“上から見る”というだけで、まったく違った可能性が広がる。米国ではAmazonがドローンで荷物を運ぶといった計画もあり、本当に物理運搬インフラになる可能性も出てきている。
だがその未来を手元に引き寄せるのは、今このクラスの機体を使うユーザーのモラルにかかっている。規制で一網打尽か、未来の扉を開くかの正念場は、まさにこの1~2年でいい実績を積み上げていけるかにかかっていると言えるだろう。
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