小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第717回:Apple Music、AWA、LINE……盛り上がる定額制音楽配信、どれにする? 旬の6つを試す

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第717回:Apple Music、AWA、LINE……盛り上がる定額制音楽配信、どれにする? 旬の6つを試す

突然盛り上がった音楽配信サービス

 ここに来て、サブスクリプション(定額聞き放題)型音楽サービスが立て続けにサービスインしている。5月27日にエイベックス・デジタルとサイバーエージェントが共同で「AWA」をスタート。かと思えば6月11日はLINE MUSICも始まり、アプリのダウンロードは2日で100万件を突破したと伝えられている。

 一方で、6月8日(米国時間)のWWDCでは、Appleが新サービス「Apple Music」を6月30日から始めると発表。日本でも7月1日からサービスインした。これまでAppleのコンテンツサービスは、日本では遅れがちだったが、同時スタートは喜ばしい事である。一方でAWAやLINE MUSICのサービスインは、「Apple Musicより先に」ということで、前倒しになったと聞いている。

 さらには世界最大規模を誇るSpotifyも、長い間日本でのサービスは準備中のままだったが、6月15日付で電通デジタル・ホールディングスがSpotifyへの出資を発表(リンク先はPDF)。普通の出資だと言われるかもしれないが、日本からの資本が入ったということは……と妙に期待してしまう。

 サブスクリプション型音楽配信は、音楽ビジネス界の巨人Appleの参入でこれから熱くなるにもかかわらず、ソニーは3月末でMusic Unlimitedを終了させた。筆者は長年、Music Unlimitedを愛用していた。というのも、筆者の音楽的嗜好はすごく偏っていて、J POPなど日本の楽曲はほとんど聴かず、マニアックなレベルの洋楽ロックしか聴かないので、そのニーズに最も対応できるのがMusic Unlimitedだったのだ。

 そんなMusic Unlimitedは、海外でSpotifyと組み、「PlayStaion Music」として発展的再出発という格好になっているが、日本では後継のサービスもなく、ただただ残念な負け方に終わっている。そう言えば以前便利に使っていたNapsterも、2010年にサービス終了したのだった。筆者が喜んで使うサービスはことごとく潰れるという疫病神みたいなことになってしまっているが、こちらとしても次の移転先を探したい。

 今回はそんなつもりで、国内で展開中の音楽配信サービスを調べ、いくつか実際に使ってみた。その感想を皆さんに共有できればと思っている。

音楽配信サービスの変遷

 音楽配信サービスの歴史は、意外に長い。もう10年以上、安定的にサービスをしているところもあるほどだ。日本で最初にビジネスとして成功したのは、携帯電話向けの着信音配信サービス、いわゆる「着メロ」である。やがてそれは楽曲そのものを配信するような「着うた」となり、大きなビジネスとなった。

 一方でパソコンに対して音楽をダウンロード配信するモデルも、mora、Any Music、iTunes Store、Amazon MP3などが立ちあがった。Googleも事業に参入しているが、日本では展開していない。

 ここまでのサービスは、すべてダウンロード型である。先に触れたNapsterは、2006年に日本でサービスインしているが、当時としては珍しい、ストリーミングによるサブスクリプション型であった。しかしこれが上手くいかなかったことで、日本にはサブスクリプション型は根付かないという風説も出たようだ。

 しかしその中で2011年にはauが「LISMO unlimited」を開始、翌'12年にはドコモが現dミュージックの前身である「ドコモMUSICストア セレクション」を、ソニーが「Music unlimited」を開始している。これらはすべて、ストリーミングサービスだ。以降も「ひかりTVミュージック」、「レコチョクBest」、「dヒッツ」といったサービスが続く。2014年に日本でもサービスが始まった「iTunes Match」も、元は自分の買った曲ではあるが、クラウド上に音楽があり、定額で聞き放題という意味合いからすると、半分ぐらいはサブスクリプション型のストリーミングと言えそうだ。

 そして今年、AWA、LINE MUSIC、Apple Musicの参入に繋がる。一部のハイレゾ音源配信ではダウンロード販売が生きているが、2011年にSpotifyが米国進出、世界を席巻し始めた頃から、音楽配信ビジネス全体としては明らかにストリーミングへ舵を切った。

Apple Music

 一方事業者別に見ていくと、音楽配信サービスは携帯キャリアが自社ユーザー向けサービスとして始めた事もあり、現在もその系列が多い。まずドコモには「dミュージック」と「dヒッツ」が、auには「うたパス」や「KKBOX」が、ソフトバンク(エイベックスと合弁だが)には「UULA」がある。

 キャリアにとってかつてのダウンロードサービスは、自社に人を呼び込むためであったり、他社への流出を防ぐという意味合いの、囲い込み手段として機能してきた。一方ストリーミングでは、キャリアは通信をたくさん使ってもらって、なるべく追加料金を払って欲しいというビジネスに変化しつつある。

 一方音楽レーベル系のストリーミングは、「レコチョクBEST」が2013年から開始。元々キャリアのストリーミングサービスは、音源がレコチョクから出ているものも多いが、本家もはじめたということである。

 ネット企業系としては「ひかりTVミュージック」、「LINE MUSIC」がある。「AWA」はエイベックス・デジタルとサイバーエージェントの共同出資なので、レーベルとネット企業のハイブリッドだ。

携帯キャリア系3つを試す

 さて、そうは言ってもこれだけ沢山の音楽配信サービスがある中、多くの方はなかなかどれとは決められないだろう。同じようなサービスにいくつも加入して使い分けるというほどの事でもなく、最終的にはどれか1つに絞りたいと思っているはずだ。筆者ももちろんそのつもりである。

 そこで今回は、可能性のある新旧6社に絞って試用してみた。まずキャリア系サービスからは「dヒッツ」、「KKBOX」、「UULA」を選んでみた。とはいえ、いずれもキャリア回線に縛られずに利用できるサービスだ。

KKBOX

 実は「Music Unlimited」亡き後、すぐに契約したのがKKBOXであった。というのも、一時期Music Unlimitedも使い勝手がダメダメだった時代があり、その時にKKBOXに乗り換えた時期があったのだ。これまで言うなればMusic UnlimitedとKKBOXの間を、フラフラしていたのである。

 KKBOXは元々台湾で起業したサービスで、香港、シンガポール、マレーシアで強いサービスだったが、2010年にKDDIの子会社となった。日本ではauユーザー向けのLISMOブランドサービスだったが、2013年からマルチプラットフォーム展開となった。

 元々はアジア圏で強いサービスなので、アジアンポップスには強い。だがあちらの方は洋楽もそこそこ聴くのか、いわゆるヨーロッパ圏とアメリカ圏のラインナップも一通り揃っている。

 14日間の無料お試し期間があり、月額料金は980円(税込)。筆者は出戻りなので無料お試し期間は利用できなかったが、一度退会して再度同じアカウントで有料会員になると、以前退会する前に作っていたプレイリストがそのまま残っていた。

 機能としては、ストリーミングタイプのサービスとしてはスタンダードな形だろうと思っている。「オススメ」を眺めて良さそうなものを聞き、継続的に聴きたければ「ライブラリ」のプレイリストに登録する。「チャンネル」は専門ラジオ的な機能だ。アーティスト別になっているが、そのアーティストの楽曲だけが流れるわけではなく、同種のアーティストの曲が流れてくる。

KKBOXのホーム画面
気に入ったものはライブラリにプレイリストとして登録できる
チャンネルはアーティストラジオ的な機能
SNS的な要素もある

 「一緒に聴く」はゆるいSNS的な機能だ。ユーザー間でフォロー関係になると、同じ音楽が聴けるようになるらしいが、これまで使ったことはない。個人的にはよくわからん他人のオススメの音楽を聴くつもりは全くないし、自分がどんな音楽を聴いているのかをわざわざ人に知らせて変に思われても困る。中高生じゃあるまいし、50過ぎたオッサンはこの手の機能に全く興味がわかない。

 KKBOXの強みであり、個人的に一番気に入ってるところは、マルチプラットフォーム展開しているところだ。今SIMロックフリー端末の台頭で、iPhoneとAndroidを2台持ちしている人も多いと思うが、KKBOXは両方に対応しているので、どちらでも聴ける。さらにMacとWindows用のアプリもあるので、1アカウントあればいろんな端末で楽しむことができる。もちろんプレイリストも共通だ。

KKBOXのMac向けクライアント

 家で仕事している時などに、こちょこちょスマートフォンをいじるのは面倒なので、PC向けアプリがある点は、個人的に評価ポイントが高い。

 音質的には、高音質モードで320kbpsとなる。Wi-Fi接続時だけでなく、モバイル通信時もこのビットレートが使える。キャッシュもできるので、何度も聴く曲であればデータ通信量も抑えられるはずだ。

dヒッツ powered by レコチョク

 ドコモが提供するdヒッツは、2012年にサービスイン、現在の会員は300万人を突破しており、実は日本のストリーミングサービスではかなりメジャーな存在と言える。同じドコモが提供するサービスに「dミュージック」(月額コース)があるが、こちらのほうが一般的なサブスクリプションサービスだ。dヒッツは月額利用料を低く抑えた、ラジオ的なサービスである。

 基本はラジオなので、好きなアーティストの曲をピンポイントで探して聴くようなことはできない。いろんなシーンやジャンル、用途に合わせた「チャンネル」が1,000ぐらいあって、それを選んであとは流れるままに聴くというスタイルである。縦にズラズラ長いホーム画面は、昔のケータイサイトを彷彿とさせる。

dヒッツのホーム画面
全部のメニューが縦に延々と続く

 無料お試し期間は31日。料金は、初期は月額324円(税込)のコースしかなかったが、2014年から好きな曲を10曲まで集めて好きな時に聴ける540円(税込)のコースが新設された。

 常に新曲をおさえておきたいとか、朝スッキリ目覚める音楽をレコメンドしてほしいといった、ライトな音楽ユーザーには向くだろう。40代や50代といった年齢別のくくりもあるなど、オッサンにも優しい作りである。ただ、音楽の趣味を10年単位でざっくり区切られても、微妙にハマらない感じもあるので、もうちょっと生まれ年にビシッとフォーカスしたセグメント分けが欲しいところである。

年齢別のメニューもあるが……
美空ひばりやいしだあゆみは、筆者より4~5歳上ではないと懐かしさがわからない

 ラジオ的なサービスなので、いろんな音楽がランダムに流れてくるのかと思ったが、チャンネル内の楽曲構成はそんなに頻繁には変わらないようだ。すなわち、新鮮さが失われるのも早い。洋楽のラインナップも少なめで、残念ながら筆者のニーズには合わない。

 基本ドコモユーザーでなくても会員登録はできるのだが、決済のためにdocomo IDをわざわざ作る必要があるのは面倒だ。また対応可能機種をガッチリ決め打ちしているようで、リストにない機器では利用できない。

 昨今はSIMロックフリーの格安スマホなどもユーザーが増えているが、そういった端末では聴けない可能性が高い。また旧モデルを音楽再生専用機にしようと思っている人も、要注意だ。

 スマートフォン向けサービスのため、PCアプリはない。仕事用BGMには丁度いいサービスではあるのだが、その点は残念である。

UULA

 UULAは、映像系のストリーミングサービスではある。ただしエイベックスとの共同出資だけあって、ミュージックビデオやライブ映像が充実しており、そこが独自ジャンルとして切り出されているのが特徴だ。YouTubeで音楽を聴くという習慣が生まれた結果、音だけ流れてればいいというだけでなく、映像も込みでBGVとして楽しむ人も増えている。UULAもその点では、音楽ファンが登録してもおかしくないサービスだ。

UULAのホーム画面
映画も音楽もこれ1本という作り

 契約は特に映像と音楽で分かれているわけではなく、月額504円(税込)でどちらも見放題聞き放題となる。ソフトバンクユーザーであれば、申し込み、および決済は簡略化できるが、他キャリアユーザーでもメールアドレスとクレジットカード、あるいはYahoo! 決済が可能であれば契約できる。お試し期間は31日だ。

 ミュージックビデオはジャンル別に分類され、視聴できるクリップ数もわかる。1曲ごとに見る事もできるが、同じジャンルのクリップを連続再生できるので、手放しでずっと再生しておくこともできる。また朝BEST、サマーソングといったおすすめプレイリストもあり、映像付きの音楽サービスとして捉えれば、なかなかユニークだ。ライブビデオは1時間以上のものも多く、見応えがある。

PVも雰囲気などによって分類されている
ジャンル別の楽曲数もわかる

 ただし当然だが、楽曲だけのサービスに比べれば、映像付き楽曲のラインナップではどうしても数は少なくなる。好みのアーティストが多ければハマるサービスだが、映像付きだとそう何回も繰り返し見るわけでもない。

 オーディオ的に音楽を楽しむという用途ではうまくフィットしないが、PVだけこれだけ集めた映像配信サービスは他にない。しかもこの価格で音楽も映像も両方見放題というのは破格だ。これはこれで、別に検討してもいいサービスだろう。ただ現状はスマホしか対応せず、さらにはこちらも対応機器が決め打ちになっている。

新進気鋭サービス3種

 続いて最新事業者である「AWA」、「LINE MUSIC」、「Apple Music」を試してみる。この3社はすでに多くのメディアで比較記事が出ているため、あまり細かい説明は不要だろう。ここでは使い勝手の面から見ていこう。

AWA

 今年参入した3社の中でもっとも早くスタートしたのが、AWAだ。アプリの作りもなかなかシャレていて、国産のサービスなのにメニューや文言に英文を使うなど、ファッション雑誌的な雰囲気を醸し出している。

アプリのおしゃれ感はダントツ
国産のサービスだが、メニューは英語

 無料お試し期間は3カ月と長く、お試し終了後も自動的に有料プランに移行しないなど、ユーザーに対して優しい仕組みとなっている。スタートして3カ月経過していないので、有料コースの内容がまだ細かく出ていないが、利用時間に制限がある「Freeプラン」、オンデマンド再生は不可など一部制限機能付きの「Liteプラン」が月額360円(税込)、制限なしのPremiumプランが月額1,080円(税込)。現在のお試し期間中は、Premiumプランと同じ状態になっている。支払い方法は、今のところApp Store経由か、Google Play Store経由しか用意されていないようだ。

 ホーム画面は、ジャンルごとのヒットチャートを表示する「TRENDING」、オススメプレイリストが表示される「DISCOVERY」、ジャンル別プレイリストの「GENRE」、ムードごとのプレイリスト「MOOD」、似たような傾向の音楽を自動再生する「RADIO」に分かれている。

MOODのプレイリストが腕の見せ所
特定のアーティストにフォーカスできるRADIO

 気に入ったアーティストが見つかったら、「My Favorite」に集めることができ、そこからいつでも再生できる。また自分でプレイリストを作ることもできる。この手の機能が、いわゆる「オンデマンド再生」というもののようだ。つまりFreeプランやLiteプランは、「dヒッツ」のようなラジオ的サービスになるという事だろう。

自分専用のプレイリストも作成できる

 AWAのポイントは、自分で好きなアーティストを探すというよりも、細かくターゲッティングされたプレイリストが沢山あり、そのセレクションを楽しむという作りになっていることだ。自分でプレイリストも作れるが、そこはそれほど比重は高くはなく、イカしたプレイリストをマーキングしていつでも聴けるようにするというところに価値を見出すサービスといえるだろう。洋楽の比重も高く、個人的にはかなり趣味に合うサービスだ。

 曲やアルバムに「Favorite」を付けていくと、ホーム画面のDISCOVERYに結果が反映され、類似の曲やアーティストが表示されるようになる。その点では、マメに学習させることがより良い音楽との出会いに繋がっていく。

 再生品質は、モバイルでは最大128kbpsだが、Wi-Fi時にのみ320kbpsで聴ける。iPhone、Andorid両対応だが、WindowsやMacのクライアントはない。ただ、デスクトップアプリも準備中という噂は耳にしている。これがKKBOXのようなマルチプラットフォーム対応になっていけば、かなり強力なサービスに成長しそうだ。

LINE MUSIC
LINE MUSICのホーム画面

 AWAに続いてサービスインしたのが、LINE MUSICである。LINE公式のゲームアプリと同様、LINEのアカウントと紐付いたサービスなので、LINEが動作しているスマートフォン上でしか動かない。PCやMac向けのクライアントもないので、アカウントが1つしかない場合、現在は1つのスマートフォンでしか使えない。だが元々人気のコミュニケーションサービスからの派生なので、爆発的に加入者数を増やした。

 無料期間は2カ月間となっているが、これはサービスインした日から2カ月なので、8月9日で終わりである。それ以降無料期間を設けないのかは、まだ発表がないようだ。ビットレートは3段階で、最高320kbps。

支払いはチケット制になるようだ

 料金プランは、月に20時間再生できるベーシックプランが500円(税込)、時間無制限で再生できるプレミアムプランが1,000円(税込)。ベーシックプランは、300円(税込)を払えば追加で10時間再生延長できる。このため、支払いはチケットを買うという格好になっている。なお料金プランの確認はオンラインで行なうため、オフラインでキャッシュからの再生はできないという。

 また学割が用意されているのは、他のサービスにないユニークな特徴である。学生など子供がどうやって決済するかというと、コンビニなどで売られているLINEプリペイドカードを使うわけだ。保護者としては、むやみにゲームに課金するよりは健全だし、お小遣いの中から現金を出して買うことで、有料サービスを利用していることの意識向上にも繋がるだろう。以前のようにキャリアの利用料金から天引きでは、問題が大きかった反省が生きている。

 アプリの作りとしては、トップページの一番上にイチオシアーティストのバナー、ピックアップ曲、人気プレイリスト、ニュースリリース、おすすめプレイリスト、アーティストと、1面であらゆる要素を並べた圧縮陳列の様相を呈している。見せ方としてはオーソドックスではあるものの、AWAのような洗練さはなく、過去のサービスを参考に作られているように見える。

 「テーマ&ジャンル」では、大きなくくりがずらりと並び、さらにその下の階層に細分化されたプレイリストが並ぶというスタイル。トピックでは、季節感のあるテーマや特集的なプレイリストが提供されている。

テーマ&ジャンルに多くの大項目がある
大項目の中に、さらにプレイリストがあるという階層構造
トピックは旬のテーマを集めたもの

 「シェア」では、LINEで繋がっている友人に、これまでの再生履歴の中から好きな曲を選んでシェアできる。別アプリであるLINEの友達リストがこっちでもまるっと表示されるというのは、同じ会社のサービスではあるものの、ちょっと違和感を感じるところだ。大人になると、「友達」というよりは仕事相手と繋がっているケースも多いので、間違って変なものを送ったら困る事になる。

 音楽を送られた方は、すでにLINE MUSICに加入していればそのまま聴けるし、加入していなければ加入が促されるわけだ。LINEのコミュニケーションを使って、ユーザー数を加速度的に増やしていく仕組みができあがっている。

いきなりLINEの「ともだち」が丸出しになって面食らう
音楽を送り合うと、その状況もLINE上のメッセージとして記録されていく

 ただLINE MUSIC内からは、音楽のリンクを送ることができるだけで、メッセージを送る事ができない。いきなり曲だけ送られても相手はなんだかわからないだろうから、一言添えたいところだが、それはLINEを立ち上げて、別途文章を送らないといけない。こういうところの連携がまだ中途半端な気がする。

 個人的には、LINE MUSICはLINEアカウントと結びついて1つの端末でしか聴けないことから、あまり嬉しくないサービスだ。しかしスマホ以外にデジタル機器を持たず、すべての楽しみを1つでこなさざるを得ない中高生から20代にかけては、当たり前で特に制限とは感じられないかもしれない。

Apple Music
鳴り物入りでデビューしたApple Music

 おそらく今回とりあげた6社の中で、もっとも多くメディアで語られているのが「Apple Music」であろう。iOS 8.4のアップデートと同時に、iPhoneの標準プレイヤー「ミュージック」に組み込まれ、大々的にフィーチャーされている。

 無料お試し期間は3カ月で、月額利用料は980円(税込)。家族6人まで共有できるファミリープラン(月額1480円:税込)もある。家族で音楽好きの家庭なら、子供の分もまとめて払えるのならお得感は高い。

 音質は256kbpsと説明されているが、Wi-Fiと通信回線でビットレートが異なるなど、固定ではないようだ。他社は最高320kbpsで、通信状況に応じて自動可変するモードを備えているところが多いのに比べると、ややレートは低い。もっとも256kbpsはiTunes Matchなどでも同じだ。米国ではモバイルデータ通信でガンガンにデータを落とすような使い方はされていないので、Wi-Fiでの使用が前提で設計されているのかもしれない。

 プラットフォームはiPhone、iPad、Mac OSは当然として、WindowsのiTunesでも利用できる。またAppleTVやAndroid版もこの秋から提供される事になっている。マルチプラットフォームの面でも問題なさそうだ。

 すでに導入してみた方はご存じだろうが、iPhoneアプリでは最初に好きなアーティストやジャンルを選択するよう案内される。この結果がレコメンドである「For You」に反映される形だ。ただ現在はまだ日本で展開されている楽曲数が少ないせいか、ジャンルやアーティストがかなり限定的で、筆者的にはあんまり好みの選択肢が出てこなかった。

最初に好みのジャンルやアーティストを指定する
選択の結果はFor Youに反映される
アルバムにある+マークをタップするだけで、My Musicに登録される

 iTunesとiPhone上での見え方はほとんど同じで、タブから「For You」、「New、Radio」、「Connect」、「My Music」を切り換えるというスタイル。iTunesではここにiTunes Storeが加わるが、iPhoneではiTunes Storeは別アプリになっているので、表示されない。

 ストリーミングサービスのメニューとしては他社と似たり寄ったりだが、大きく違うのは、気に入った曲やアルバムに対して「+」マークをタップすると、それだけで「My Music」(実質的にはiTunes Matchのライブラリ)にすぐ加えられるところだ。それ以降は自分が持っている楽曲と同じ扱いになるため、特定のアルバムを選択してダウンロードでき、オフラインでも再生できる。ただしApple Music経由でダウンロードした楽曲は拡張子がm4pになっており、DRMがかかっていることがわかる。

 現時点の洋楽ラインナップは、ジャンルが若干偏っているところもあるが、新旧ともにかなり深いところまで揃えており、洋楽ファンとしては不満がない。

総論

 これだけ似たようなサービスがあって、一体何が違うのか、と思う方も多いだろう。価格や楽曲数で選ぶのは間違いで、自分がこれらのサービスに“何を期待するのか”によるのだと思う。

 今年新しく始まった3つのサービスには、共通の特徴がある。それは、ユーザーに曲を選ばせるのではなく、気分やムードに合わせたレコメンドを売るサービスだという事だ。つまり実質的に各サービスで違いが出てくるのは、音楽に対する“目利き”だ。平たく言えば、プレイリストの数と質である。

 AWAは細分化されたプレイリストがウリで、まさに音楽を「機能」させることにフォーカスした作りだ。LINE MUSICもレコメンドのプレイリストを揃えているが、恐らく期待されているのはLINEのユーザー間でオススメし合うサイクルを加速することだろう。知っている人の趣味を覗くという行為がどこまでウケるのか、注目したい。

 Apple Musicの強みは、すでにiTunes Match等のサービスを通じて、ユーザーの大量のライブラリの中身を知っているということだ。現在はまだそこまでクローリングしているような結果は出ていないが、レコメンド機能の下地となるデータを持っているのは大きい。またプレイリスト作成にしても、洋楽であれば世界中の「目利き」を集められる。国内サービスとワールドワイドサービスの規模の違いがどんどん出てくるだろう。

 今回調査した従来型のサービスも、もちろんプレイリストによるレコメンド機能には力を入れている。だがこれまでのサービス体系も捨てられないため、若干フォーカスが甘く感じられるかもしれない。総合力でバランスがとれているのはKKBOXだが、ユーザーの嗜好分析が弱い。興味のないアーティストの情報をかき分けながら好みの音楽を探すようなことになり、そうなると新しい音楽との出会い感が薄まって、結局いつものプレイリストを聞くだけになってしまいがちだ。

 dヒッツ、UULAは使用可能端末に制限があり、決済方法にしても他キャリアの人間から見れば「使わせてやってる」感が鼻につく。これはさすがに今どきないだろう。その点でもKKBOXはうまくやっていると思う。

 さて、筆者の選択ポイントとしては、洋楽ロック系のレコメンドが強いこと、マルチプラットフォーム対応の2点である。この点で期待できるのは、AWAとApple Musicだ。現時点ではまだ双方とも完全なマルチプラットフォーム対応はできていないので、結論はこの秋頃まで持ち越しだが、今後は無料お試し期間ギリギリまで、この2社を比較していきたいと思っている。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。