ミニレビュー

スムーズで快適な「AWA」は、定額音楽配信の本命に?

機能は少ないが直感的な操作性が魅力

5月にスタートした定額音楽配信サービス「AWA」

 日本国内の定額音楽配信サービスは、ここしばらく一進一退を繰り返している。海外で成功を収め、世界中で加入者を伸ばしている「Spotify」は、数年前から日本市場進出が噂されるもののいまだに展開されていないし、ソニーが満を持してスタートした「Music Unlimited」は、わずか3年足らずでサービス終了に追い込まれた。

 国内には「KKBOX」や「レコチョク Best」の他、レコチョクが音源提供する形で運営されている定額音楽配信サービスがいくつかあるが、大勢としては以前本誌で3つの定額音楽配信サービスをレビューした2013年の状況から進化がほとんどない。Music Unlimitedの終了を考えると、むしろ退行していると言ってもいいかもしれない。

 そんな中で5月27日にスタートしたのが「AWA(アワ)」。特定のテーマに沿ってまとめられた楽曲をストリーミングで聞ける、いわゆる“プレイリスト型”の音楽配信サービスだ。エイベックス・デジタルとサイバーエージェントが音頭を取り、国内有数のコンテンツホルダーが楽曲提供することから期待が大きいが、サービスの実際の中身はどうなのだろうか? さっそく試してみた。

登録なしですぐさま利用開始。モバイルなら64kbpsがおすすめ

 2015年5月のサービス開始時点で「AWA」を利用可能な環境は、Android端末とiOS端末の2種類のみ。専用アプリをインストールして、スマートフォン・タブレット上で楽しむことができる。今後はPCなどその他のOSにも対応範囲を広げていく予定とのことだが、当面は「モバイル端末+ヘッドフォン」、または「モバイル端末+外付けスピーカー」、といった感じで、カジュアルに音楽を聞くスタイルが中心となるだろう。

起動後の「START」をタップすればすぐに使い始められる

 「AWA」を使い始めるに当たって最も特徴的なところは、一切の情報登録なしにすぐ音楽を聞けるところ。一般的なサービスであればまず最初に会員登録を求められ、個人情報の送信とアカウントの取得が必須だったりするが、「AWA」ではアプリを起動すると即座に利用開始となる。アプリの起動から90日間は、全ての機能を使える有料のPremiumプランと同等の試用期間が強制的にスタートし、90日経過後に機能が限定されたFreeプランに自動で切り替わることになっている。

 Premiumプランは本来月額1,080円で、KKBOXとレコチョク Best(いずれも月額980円)のプラス100円という料金設定。オンデマンド再生が省かれ、プレイリストの再生に機能が絞られたLiteプラン(月額360円)も用意する予定としているが、今のところアプリ上では詳しいプランの説明はない。しかし、とりあえず90日間フルに体験できるのはありがたい限り。これだけ長期間試すことができれば、90日経過後も続けるかどうか判断しやすいだろう。

 音質設定については、Wi-Fi接続時に320kbpsの高音質再生が可能なほか、モバイルネットワーク接続時は64/96/128kbpsの3パターンのビットレートを選択できる。できるだけ音質の良い128kbpsを選択したくなるところだが、最低の64kbpsに設定したからといって128kbpsと比べ大幅に音質が劣化しているようには感じられない。モバイルネットワークを利用するタイミングは、だいたいが外出先か移動時であって、外部騒音も多いだろうし、昨今のスマートフォンの高速通信量の上限規制も合わせて考えれば、64kbpsを選んでおくのが賢いかもしれない。

プラン選択は“Premium”に固定。90日間フルに試用可能
デフォルトは96kbpsになっているが、64kbpsにしても問題ないだろう

スムーズで快適! 直感的に扱えるインターフェース

 アプリのインターフェースはAndroid/iOS版ともにほぼ共通。左右フリックでプレイリストのカテゴリー種別を切り替え、上下スクロールで大きめのジャケット写真で構成されたプレイリストを一覧し、タップで選択して曲を再生できる。全体的には落ち着いたトーンで、雰囲気ある背景写真が多用され、それがどのジャケット写真にもほどよくマッチした色合いで、見た目のクオリティは高く感じる。

iOS版アプリ
Android版アプリ
背景写真やジャケット写真が多用されたリッチな見た目
インターフェースは洗練され、画面遷移の流れ、操作方法を直感的に把握できる

 操作性でも、その期待は裏切らない。画像をふんだんに使っているわりには処理で待たされることはなく、画面切り替えもスクロールもスムーズ。どこをタップすればどうなるのか、前の画面に戻りたい時はどうすればいいのか、直感的に把握してその通りに動作してくれるのが、なんとも心地よい。国産アプリではこれまであまり見られなかったような動きの滑らかさ、使い勝手の良さがあり、“こなれている”と感じる。

 プレイリストのカテゴリーは5パターン。人気のある音楽ジャンルなどを集めた“TRENDING”、POPやROCK、JAZZなどのジャンル別に見ていける“GENRE”、気分やシチュエーションに合わせて選べる“MOOD”に加え、自分が“Favorite(お気に入り)”に設定した楽曲に基づいて好みに合いそうなものを提示してくれる“DISCOVERY”、似たような雰囲気の楽曲を連続的に聞いていける“RADIO”がある。

人気のある音楽ジャンルなどのプレイリストを探せる“TRENDING”
音楽ジャンルごとのプレイリストを探せる“GENRE”
気分に応じて選べる“MOOD”
“お気に入り”に基づいて好みに合いそうなプレイリストを提示する“DISCOVERY”
似たような雰囲気の楽曲を続けて聞ける“RADIO”
AWAの運営や他のユーザーが作成したプレイリストは豊富

 プレイリスト型ということで、あらかじめ運営側が用意している上記カテゴリーに分類された数千のプレイリストや、他のユーザーが作成・公開しているさまざまなプレイリストの中から選んで、決まったテーマの曲を聞き続けていくのが通常の使い方。他の定額音楽配信サービスと同様に、未知の楽曲やアーティストとの出会いを楽しめるのが魅力だろう。

 一方、自分の好きなアーティストや楽曲、アルバムなどに絞って聞くこともできる。検索機能が用意されており、入力したキーワードにマッチする楽曲やアルバムを探し出してオンデマンド的に聞くことも可能だ。検索のレスポンスは高速で、時にはカテゴリーを頻繁に切り替えながら音楽を流し、時には気になっているアーティストのアルバムだけ聞く、というように、横断的に聞いていく使い方でもストレスはない。

アーティスト名や曲名で検索して探すことも可能
1つのプレイリストには100曲まで登録できるが、他のユーザーに公開する時は最初の8曲しか見えない。8曲でどう“魅せる”かが腕の見せどころ
歌詞付きの楽曲は再生箇所に合わせて強調表示してくれる
イヤフォンのリモコン操作にもきっちり対応。再生・停止・スキップなどが可能だった

快適な操作性と機能の物足りなさ。AWAはどこまで進化する?

 最初の90日間は機能制限を気にすることなくフルに試すことができ、アプリの使い勝手も上々な「AWA」。しかし、物足りないと感じる部分もいくつかある。プレイリストはすでに豊富で、ユーザーらが独自に作成したプレイリストも徐々に増えていくだろうけれども、やはりそのベースとなる楽曲数がまだまだ十分とは言えない。2015年末には500万曲の提供を目指すと宣言してはいるものの、国産のサービスでありながら、現時点ではどちらかというと洋楽のラインアップが目立つのはさみしいところ。

 また、せっかくユーザー参加も可能なプレイリスト型のサービスであるにも関わらず、ソーシャル要素がほとんどないのも残念。今のところプレイリストを自分で作って他のユーザーに公開し、互いにプレイリストを“Favorite”(お気に入り)に登録し合う、という機能しかない。他のユーザーをフォローしたり、コメントを送り合ったり、プレイリストを共有してコンピレーションを作ったり、というような機能はなく、外部SNS連携もない。TwitterやFacebookのアカウントをひも付ける設定は用意されているが、これは機種変更時などに設定やデータを引き継ぐために使われるものとなっている。

 音楽配信サービスだから“聞く”ことに集中できるのはいいけれど、気に入った楽曲を耳にした瞬間に、「CDやハイレゾ音源で購入したい!」と思っても、楽曲購入に関わるリンクは用意されておらず、“その場で聞くだけ”に留まってしまうのも惜しい。現時点ではスマートフォン・タブレットのみ対応ということで、ライトな層への訴求を狙っているせいもあるのかもしれないけれど、BGMとして流しつつ、気になる曲がかかったら「もっとしっかり聞きたい」と思う筆者のようなユーザーにとっては、もう一歩踏み込んだ機能も欲しいと感じる。もちろん、スマホやタブレット以外の多くのデバイスでの対応も期待したい。

 ただ、少なくとも「AWA」にはKADOKAWA、JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ユニバーサルなどそうそうたるコンテンツホルダーが参加していることから、今後の提供楽曲の充実には期待できる。

 スマートでスムーズな使い勝手は、これまでの音楽配信サービス/アプリにはなかった特徴。サービスも始まったばかりで、今のところはまだ無料トライアル期間。Premiumサービスで実際に課金され始める8月以降からが本番といえる。定額音楽配信の市場が未成熟の日本国内で、AWAが“本命”サービスとして多くのユーザーから支持を得られるかどうかは、これからの2、3カ月間の動きにかかってきそうだ。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、現在は株式会社ライターズハイにて執筆・編集業を営む。PC、モバイルや、GoPro等のアクションカムをはじめとするAV分野を中心に、エンタープライズ向けサービス・ソリューション、さらには趣味が高じた二輪車関連まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「GoProスタートガイド」(インプレスジャパン)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。