小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第726回:定額+購入+ロッカーで超強力! 音楽配信の伏兵「Google Play Music」を試す

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第726回:定額+購入+ロッカーで超強力! 音楽配信の伏兵「Google Play Music」を試す

ストリーミング当たり年?

 ここのところ一体どうしちゃったのという勢いで、米国のネットサービスが次々に日本でローンチしている。7月に一度、日米の音楽系のサービスだけ集めて比較検証した事があるが、その後映像系では「Netflix」と「Amazonプライムビデオ」が、音楽系では「Google Play Music」がサービスインした。

 音楽系サービスで、あと日本に入ってきていない大手としては「Spotify」、「Pandra」、「Rhapsody」、「TIDAL」あたりだと考えられてきた。後ろ3社の動きはまったくわからないが、Spotifyは以前から参入間近と噂されており、Apple Musicとこれで市場を席巻すると言われてきた。

 そこにまったく想定外の伏兵として、Google Play Musicが9月2日にスタートした。月額980円(税込)だが、10月18日までに登録すると、月額780円(税込)で利用できるという。シルバーウィーク期間中は、お試し期間が2カ月になるキャンペーンも行なわれていたようだ。

 今我々のストリーミング生活、特にモバイルにおいては、スマートフォンを中心に展開されていることに異論は少ないだろう。その点では、AppleとGoogleに首根っこを握られていると言ってもいい。それはどちらの経済圏で生きるほうが幸せか、という議論でもある。そう考えると、ノーマークであったとはいえ、Googleの音楽サービスは無視できない。

 すでにサービスインして1カ月弱経ってしまったが、そのぶんいろいろテストすることができた。今回はGoogle Play Musicを試してみよう。

音楽の総合クラウドサービス

 Google Play Musicは、3,500万曲以上を聴き放題の定額制の音楽配信サービス、ユーザーが自分で持っている楽曲を5万曲までアップロードしてモバイルで聴く事ができる、いわゆる「デジタルロッカーサービス」、曲やアルバム単位で購入できるストアの3つを組み合わせたものだ。

Google Play Musicのログインページ

 一方でAppleが提供するApple Musicは、事業者が提供する楽曲が聞き放題の音楽ストリーミングサービスのみである。自分の持っているライブラリをモバイルでも聴くためのサービスは、iTunes Matchという別のサービス、楽曲販売はiTunes Storeという別サービスだ。

 GooglePlayMusicには、無料コースと有料コースが設定されている。無料コースでも、デジタルロッカーサービスが利用できるほか、個別の楽曲購入もできる。米国では広告入りのラジオサービスも無料で利用できるのだが、日本向けのサービスでは提供されない。

 有料サービスはこれに加えて、広告なしで自由にスキップ可能なラジオ、3,500万曲以上が聴き放題のストリーミングサービスが利用できる。無料でもデジタルロッカーサービスが利用できるのは、さすが巨大クラウドを運営するGoogleならではだ。

有料、無料サービスの違い

 まずは導入の手順から見ていこう。GooglePlayMusicは、専用サイトにGoogleアカウントでログインし、定期購入の支払い設定を先に行なう。元々Googleには、有料アプリの決済などに使うGoogle Playの決済システムがあるが、それと一本化されている。ただお試し期間が1カ月あるので、その間に定期購読を解約すれば、1カ月は無料で利用できる事になる。

すぐに課金はされないが、先に支払い情報を入力する必要がある

 続いてカスタマイズ画面に移る。自分の好きなジャンルやアーティストを選択して、サービスからのレコメンドを絞り込む作業だ。ここで出てくるアーティストの楽曲が必ずしも提供されているとは限らないが、最初に傾向を掴むために必要なわけである。サービスの利用を始めて、Facebookにおける「いいね!」ボタン的なものをクリックすると、その情報もレコメンド情報に加えられていく事になる。

ウィザード形式で好きなジャンルやアーティストを選んでいく

 対応プラットフォームは多彩で、パソコンではWebブラウザで、スマートフォンはAndoid、iOS用それぞれに専用アプリがある。Apple Musicは現時点でAndroid用のアプリがないが、Google Play Musicはその点では間口が広い。またスマートウォッチでは、Android Wear用にアプリがあるが、Apple Watch用は執筆時点ではないようだ。

無料でも本格的、デジタルロッカーサービス

 まず無料でも利用できるデジタルロッカーサービスを見てみよう。サポートされているファイル形式は多いが、1曲の最大サイズは300MBに制限されている。基本的にはMP3をベースにしたサービスのようだ。

フォーマットストリーミング
MP3(.mp3)そのまま
AAC(.m4a)同ビットレートの.mp3に変換
AAC(.m4p)DRMのうちコピーコントロールされたものは
アップロード不可アップロード可能なものは
同ビットレートの.mp3に変換
ALAC(.m4a)16bitファイルのみサポート、
320kbpsの.mp3に変換
WMA(.wma)Windows版ミュージックマネージャで
アップロード可能。Chrome版Google Play
ミュージックではアップロード不可
FLAC(.flac)320kbpsの.mp3に変換
OGG(.ogg同ビットレートの.mp3に変換
WAV(.wav)アップロード不可
AIFF(.aiff)アップロード不可
RA(.r)アップロード不可

 競合のiTunes Matchは、手持ちのファイルをそのままアップロードするのではなく、その楽曲がAppleにもあるならば、Apple側で持っている楽曲をストリーミングで提供する、「スキャン&マッチ型」といわれるサービスだ。これに対してGoogle Play Musicは、単純なロッカーサービスに加え、フォーマット変換型サービスでもあると言える。

 楽曲をアップロードするには、ブラウザがChromeの場合はブラウザへのドラッグ&ドロップで対応する。それ以外は、常駐して特定のフォルダをアップロードする「ミュージック マネージャ」をインストールする。音楽があるフォルダを指定しておけば、順次楽曲をアップロードしてくれる。

楽曲のアップロードは「ミュージックマネージャ」を利用

 ただこのやり方だと、クラウドにアップしなくていい曲を外すことができず、クラウド側の曲を個別に消すということもできない。クラウドだローカルだとあまり考えなくていいように作られており、こうして家の中と外の区別が溶けていくのだろう。

アップロードされた楽曲が並ぶ「マイライブラリ」

 アップロードした楽曲は、「マイライブラリ」から選択できる。アーティストのアイコンはサービス側が用意したもので、見つからないものはアルバムジャケットがそのまま表示される仕様のようだ。

 アーティストを選択すると、Wikipediaに登録されているアーティスト情報が表示される。すでに自分で楽曲を所有しているアーティストだが、改めて知る情報も多い。昔はレコードやCDを買うとライナーノーツが入っていたものだが、ダウンロード販売になってその手の情報が手元に残らなくなった。こういった情報連携は、より広く音楽を理解するためにも重要だ。

アーティスト情報も表示される

 アルバムや人気曲には、自分が所有していないものも表示される。これは、ストリーミングサービスから提供されているものだ。有料サービスに加入していれば、それらの楽曲も区別なく再生することができる。ただし現在は全員が漏れなくお試し期間中であり、無料利用の状態が存在しないため、無料プランを利用した場合にどういう表示になるのかはわからない。

 アーティスト解説のところにある再生ボタンをクリックすると、アーティストの楽曲がランダムに表示される。また解説文の下にある電波的なアイコンをクリックすると、アーティストラジオの再生になる。アーティストラジオは、そのアーティストの楽曲だけでなく、関連アーティストの楽曲も混じってくるため、似たような音楽を探す際にも便利だ。

 ページの一番下には関連アーティストとして、似たような傾向のアーティストや、グループであればソロ名義の作品といった情報が表示される。気に入ったアーティストをキーにして芋づる式に多くのアーティストを知ることができるので、音楽的な知識を広げる上でも役に立つ。

知見を広げるためには関連アーティスト情報も重要

ここが本業? ストリーミングサービス

おすすめ理由も表示される

 デジタルロッカーサービスの中にもすでに組み込まれているが、有料プランの真骨頂は3,500万曲以上を擁するストリーミングサービスだ。

 「今すぐ聴こう」では、季節や時間ごとのオススメのプレイリストや、「あなたへのおすすめ」として、アーティストラジオやアルバムなどがレコメンドされる。レコメンドされた理由も標示されるので、オススメされた理由が謎といった事がない。

 もちろん、レコメンドだけでは新しい音楽との出会いも限られるが、検索機能が結構強力だ。アーティスト名を入力すると、入力しているそばからどんどんアーティストが絞り込まれていく。このあたりの検索エンジンのレスポンスや網羅性は、Apple Musicの上を行く。個人的には、洋楽に非常に強いサービスなのが助かっている。ネットで知ったはいいが、これまで聴いたこともないようなアーティストでも、大抵は見つかる。

アルバムのリリース年が初版なのはありがたい

 またアルバムのリリース年が比較的正確なのがいい。これまで多くのストリーミングサービスを試してみたが、歴史の長いアーティストの場合、アルバムリリース年が、CDで再販された年だったり、配信サービス開始年になっているものが非常に多い。まあ確かにリマスターされれば売り手側としては別アルバムということになるのかもしれないが、発売順にアルバムを聴きたいといった場合、これではさっぱりわからないのだ。その点Google Play Musicは、極力初版発売年を表示し、新しい順に並べようと努力している。

 もっとも、配信サービスを利用する大半の人は、好きな曲だけ広く薄く聴ければいいというかもしれない。だが厚く濃く聴きたいという利用者にも情報が「きちんと」しているのが助かる。

 一方で、新しく出会ったアーティストや楽曲を、お気に入りとしてクリッピングするような機能が弱い。明日もこのアーティストを聴こうと思ったら、また検索して探すか、新規にプレイリストを作ってそこに登録するしかない。この点Apple Musicでは、アルバム画面の右に表示される「+」をクリックするだけで簡単に「マイミュージック」に追加され、アーティスト単位で管理できる。

スピーカーに“Cast”やスマートウオッチと連携

 一つのプラットフォームというかエコシステムに囲われるというのも、ユーザーにとってはメリットになり得る。例えばApple製品だけを使っていれば何も考えずにいろんな機器連携ができるわけで、多くの家電メーカーもそういう経済圏を作ろうとしてきたわけである。

 一方でGoogleも一つの経済圏を作り出しているが、Googleそのものがハードウェアメーカーではないので、その経済圏は幅が広い。これまでよく知られていたのは、Chromecastだ。テレビのHDMI端子に小型の機器「Chromecast」を差し込むと、Chromeブラウザの画面や映像配信サービスの動画をテレビに映す事ができた。

 これのオーディオ版がGoogle Cast for Audioで、今年のCESで発表された。対応するのはテレビではなく、スピーカーやサウンドバーである。発表段階ではソニー、デノン、LG Electronicsがサポートを表明していた。ただ日本で利用できる対応アプリがtuneIn RadioやKKBOXぐらいしかなかった。

 Google Play MusicはもちろんGoogle Cast for Audioに対応している。今回は対応機器としてソニーのBluetoothスピーカー「SRS-X99」をお借りしてみた。X99自体は今年の6月にレビューしているので、詳しくはそちらをご覧いただきたい。

ハイレゾ再生にも対応した、ソニーの「SRS-X99」

 SRS-Xシリーズのコントロールは、スマホアプリの「SongPal」を利用する。SongPalには再生ソースとして「Playミュージック」アイコンがあり、これをタップするとGoogle Play Musicアプリが起動する。画面右上にGoogle Castアイコンがあり、そこでX99を選ぶと音楽がX99から流れ出すという段取りだ。

まずはSongPalから「Playミュージック」を起動
右上のアイコンから接続したいスピーカーを選択

 いったんGoogle Castでスピーカーと繋がれば、次からはGoogle Play Musicを直接立ち上げても使えるが、スピーカーと繋がる前にGoogle Play Musicを起動するとGoogle Castアイコンが出てこないので、注意が必要である。

 Googleエコシステムの強さは、iOS用アプリでもGoogle Castが使えるところだ。iPhoneとX99という組み合わせでも再生できる。またPCからでも、ブラウザのChromeを使えばGoogle Cast/Chrome Castが使えるので、対応スピーカーで再生できる。

 Google Castを利用することは、Bluetoothワイヤレススピーカーで音を鳴らしているのとは違う。再生機器から音をスピーカーに飛ばしているのではなく、スピーカー側が直接ネットワーク経由でクラウドから音楽ストリームを受信するという技術だ。したがって再生中はスマートフォン側の負荷が少ないというメリットがある。

 もう一つの再生方法として、スマートウォッチにもアプリがある。Android WearにもGoogle Play Musicアプリがあり、スマートフォンとの組み合わせでスマートウォッチからのリモートコントロールが可能だ。

スマートウォッチにもアプリがある
携帯端末で再生すればリモコン代わりに、Waer側で再生するにはBluetoothイヤフォンが必要

 さらに楽曲をスマートウォッチ側にダウンロードしておけば、Bluetoothヘッドフォンを使ってスマホなしで音楽を楽しむこともできる。時計だけしてれば、ジョギング中に音楽を聴きながら走るということもできるわけだ。

 ただし、スマートウォッチに音楽を転送しやすくするには、いったんプレイリストを作ってスマートフォンに楽曲をダウンロードする必要がある。サーバーから直接スマートウォッチに転送できないのは残念だ。

楽曲はスマートウォッチに転送可能
小さいながらちゃんとジャケットも表示されるが必要

 最後に音質だが、Apple MusicがAAC 256kbpsなのに対し、Google Play MusicはMP3の320kbps。MP3は今となってはかなり古いコーデックとなってしまった感は否めないが、ビットレートはまあまあ高いので、普段使いのリスニングで音の悪さを感じるケースは少ない。

 ただAACと比べれば圧縮効率は悪いので、ビットレートの割には音質は「普通」である。また4G/LTE回線で聞き放題にしていると、かなりのデータ量を食う事になる。このあたりは、Wi-Fiサービスをうまく利用するなどして節約していきたいところだ。

総論

 音楽ストリーミングサービスとしては世界最大規模のSpotifyが未だ日本上陸を果たせない今、日本ではApple Musicが黒船と言われてきた。これに日本のサービスが挑むという構図だ。だがGoogle Play Musicの参入により、日本のサービスはうまく特徴を出さないと、一段と厳しくなったように思う。

 個人的には、Apple MusicよりもGoogle Play Musicのほうが洋楽ラインナップの充実度が高いこともあり、今後の有料課金はGoogle Play Music一択である。ただ、これまで筆者が気に入って課金してきたサービスはことごとく日本から撤退を余儀なくされてきたことを考えると、万人に自信を持ってお勧めできるとは言いがたい。

 とは言え、Googleのエコシステム、特に徹底したマルチプラットフォーム戦略は魅力的で、多くの人にメリットがあるだろう。今のところGoogle Cast対応スピーカーは、日本ではほぼソニー一択になってしまうが、単純なBluetoothスピーカーではもはや競争力がなくなってきたことから考えても、他社からも追従の動きがあるかもしれない。

 とりあえずお試し期間が1カ月あるので、試してみる価値はあるだろう。ただ月額料金をちょっとお得(税込780円)に利用するためには、10月18日までに決心しなければならない点は留意して欲しい。

Amazonで購入
ソニー
SRS-X99

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。