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サイズ半分、10万円以下、でも上位機の音は可能か!? ラックスマンUSB DAC「DA-150」

 32bit PCMだ、DSD 5.6MHzだと、日進月歩だったハイレゾ音楽ファイルも近頃はだいぶ落ち着いてきた。だからこそ、「そろそろ本格的なUSB DACを買おうかな」と考えている人もいるだろう。

コンパクトなUSB DAC兼ヘッドフォンアンプ「DA-150」

 だが、例えば老舗オーディオメーカーの本格的なモデルを買おうとすると、数十万円で手がでなかったり、PCやヘッドフォンと組み合わせてデスクトップで使おうとすると、筐体が大きすぎてそもそも置き場所が無いという悩みもある。

 そんな中、ラックスマンから注目のモデルが6月下旬に登場する。価格は98,000円と、10万円を切って同社製品としてはかなり低価格。さらに、筐体もB5サイズとコンパクトなUSB DAC兼ヘッドフォンアンプ「DA-150」だ。

 結論からいうとこのDA-150、2011年に発売され、低価格&コンパクトさで人気となった「DA-100」(68,000円)の手軽さを残しつつ、中身は2015年に発売された上位モデル「DA-250」(17万円)の要素を大量投入した、かなりお買い得なモデルとなっている。

DA-150

DA-100の後継か、DA-250のダウンサイジングか

 DA-150の話の前に、前モデル「DA-100」を振り返ろう。ラックスマンのオーディオコンポとしては破格と言っていい68,000円という価格で登場。コンパクトな筐体と、音の良さが話題となり、人気モデルになった。ラックスマンの開発本部本部長 長妻雅一氏は、同社にとって“特殊なモデル”だったと振り返る。

2011年に発売された「DA-100」

長妻氏(以下敬称略):DA-100の反響は凄かったです。ユーザーの方々からもそうですが、弊社の営業からも反響が凄かった(笑)。ラックスマンとして、こんなに“数が出る”製品を過去にやった事がありませんでしたので、営業はかなり驚いていました。

 普段は“何十万円のモデルが何台売れて”という形ですが、DA-100の場合、価格が一桁少ないので、同じ規模のビジネスをしようとすると、10倍くらい数を売らなければなりません。しかし、実際はそれ以上の注文をいただきました。

 普段は生産工場から製品が送られてきて、一旦倉庫に入るのですが、DA-100の場合は倉庫に入らずにそのままお店の方に出ていくような状態でした。新しいユーザーの方も増え、ラックスマンのユーザー層の若返りにも貢献したモデルになりました。

開発本部本部長 長妻雅一氏

 このDA-100、2013年にPCオーディオにおける、ラックスマンの細かな音づくりのテクニックを取材した際に、メインとして紹介したモデルだ。

 その際も、長妻氏に細かなこだわりを伺ったが、そもそも開発のキッカケは、安価で音も良いTI・バーブラウンのDACチップ「PCM5102」の登場にあったという。

長妻:我々のところにバーブラウンさんが「PCM5102」を紹介しに来てくださったのですが、デモを聴いた時に、とても良いDACだと感じ、これを使って製品を作ろうとその場で決まりました。チップの仕組み上、出力回路もシンプルに作れますし、サイズもDA-200(横幅364mm)の半分程度で作れるのではと考えました。

 試しにB5サイズで作り始めましたが、さらに小さい筐体でも作れそうでしたので、“A5”サイズを目指し、最終的に149×232×70mm(幅×奥行き×高さ)というコンパクトさを実現しました。

 ラックスマンの通常の開発では、“箱のサイズ”を決めてから設計に入る事が多いですね。ただ、実際に開発を進めていくと、B5ならB5が、A5ならA5のスペースが満杯になります。余白は残さないほど物量を投入しますので(笑)。

 そんなDA-100の後継モデルとして開発されたのが、今回のDA-150だ。DA-100は96kHz/24bitまでの対応だったが、当然DA-150では対応ハイレゾフォーマットの拡充が必須だ。さらに、DA-100のユーザーからフィードバックされた要望も、多く取り入れる事になったという。

長妻:DA-100は電源スイッチが背面にありましたが、使い勝手の面で、これを前にして欲しいという要望が多く寄せられました。さらに、ギャングエラーを改善して欲しいという声もありましたので、ラックスマン独自の電子制御アッテネーター「LECUA」(Luxman Electric Controlled Ultimate Attenuator)もDA-150には投入したいと考えました。

 ギャングエラーとは、小音量時に知覚される左右のボリュームレベル偏差の事だ。静かな環境でヘッドフォンを装着して、無音の状態から少しずつボリュームを上げると、片方のチャンネルだけ先に音が出たり、右と左で音のレベルが僅かに違ったりする事がある。スピーカー用アンプでも発生するが、耳とユニットが近く、本当に小さな音まで聴こえるヘッドフォンでは特に気になりやすい現象でもある。これを解決するのが「LECUA」だ。

 だが、最新フォーマットへの対応や、こうした要望を受けての高級パーツの投入を考えていくと、中身としては、2015年に発売した上位モデル「DA-250」(17万円)のスペックとどんどん似てくる。つまり、DA-100の後継ではあるが、DA-250から幾つか機能を省いた“コンパクト版”を作るのとあまり変わらなくなるわけだ。

 そこで、DA-250に搭載されているプリアンプ機能や、アナログライン入力とADコンバータ、デジタルアウトなどを削減。シンプルなUSB DAC兼ヘッドフォンアンプとしてDA-150の開発がスタートした。逆に、省いた機能以外のUSB DAC/ヘッドフォンアンプ、デジタル回路などは、ほとんどDA-250と同じだ。

 DACはTIの「PCM1795」で、DA-100と比べ対応フォーマットも拡充。USB入力はPCMが192kHz/32bitまで、DSDは5.6MHzまで対応した。光/同軸デジタルは192kHz/24bitまでサポート。入力信号は、DAC内部で352.8/384kHz、32bitにアップコンバートして処理。低位相雑音クロックモジュレータも44.1/48kHz系で、独立して搭載するといった部分もDA-250譲りだ。

DA-150の背面。光、同軸デジタル入力も備えている

長妻:DA-100の後継なので、サイズは同じ“A5”を、価格も営業からは“10万円は絶対に超えないでくれ”と言われ、当初は8万円台を考えていました。

 しかし、要求や音質の面で譲れない部分などを盛り込んでいくと、どうやっても入らない。何度も基板設計をしましたが、構造的に無理がありました。そこで、一回り大きいB5サイズの筐体に変更しました。しかし、物量が多いので、このサイズに入れるのも非常に苦労しました。開発の途中では、奥行きをもっと長くとか、もっと高くとか、横長の筐体にしようかという話まで出ました。

左がDA-100、右がDA-150。150の方が一回り大きくなっている。だが、どちらのモデルもギッシリ物量が投入されているのがわかる。内部のケーブルを“よじって”いないのも、素直な音を出すこだわりの1つだ

 長妻氏と共に、開発を担当した、開発本部設計一課の古木邦彦氏も、苦労を振り返る。

開発本部設計一課の古木邦彦氏

古木:最初はDA-250から機能を省いていくので、それほど苦労はしないかなと考えていました。しかし、DA-250の半分の筐体サイズに収めようとしても、中身のパーツ量は半分にはなっていませんので、大変でした。詰め込むと、内部温度が上がり過ぎてしまうので、内部電圧を下げるなどの工夫をいろいろとしています。

長妻:コストも苦労しました。特にLECUAはどうしても搭載したかった。何度も社内で喧嘩をしました(笑)。

 LECUAについては、DA-250の時に詳しく話を聞いたので、そちらを参考にして欲しいが、簡単に言えば高純度の電子制御ボリューム。ボリューム部分は音質に大きな影響があるが、LECUAは音質の低下を抑えながら、電子制御なので小音量でも左右の音量がキチッと揃って出せる。ヘッドフォンやデスクトップオーディオで、効果がより実感しやすい技術でもある。

長妻:LECUAには、回路の直近に配置できるというメリットもあります。離れた場所にボリュームがある場合、そこまで信号線が伸びて、また帰ってくる必要があります。すると伝送の過程でノイズが乗りますし、配線にも何十ピコかの容量があり、それが負荷になり、高域が落ちてしまう事もあります。LECUAを採用する事で、小音量でも音がボケず、ノイズも乗りにくくなる。音質面では圧倒的なメリットがあります。

高純度の電子制御ボリューム「LECUA」を搭載

音質において譲れないパーツを投入

 長妻氏と古木氏から話を聞きながら、筐体内部を見ていると「なるほど、ここにその技術が入っているのか」と思う一方で、そもそも「何故こんなに多くの部品が搭載されていなければならないのか?」という根本的な疑問も浮かぶ。

DA-150の内部
基板は三階建てになっている

 他社からは同じような対応スペックのUSB DACやヘッドフォンアンプが多数登場しているが、DA-150よりも小さなモデルも存在する。例えば、電源をACアダプタにして、本体は手のひらサイズのDAC兼ヘッドフォンアンプも珍しくはない。

 だが、長妻氏の返答は極めてシンプルだ。「音質において、譲れない線がある」という。

長妻:例えばACアダプタを何故採用しないかというと、今のACアダプタのほとんどはスイッチング電源です。小さく作れますが、ノイズが多いのが問題点です。もうひとつ致命的なのが、ACアダプタは大半が正電圧のみの片電源(単電源)である事です。アンプを作る際は、入力電圧を抵抗で二分割して“中点”を作り、アンプが動作できるようにする必要があります。しかし、中点がちょっとでも揺れると、全体が揺れてしまいます。負荷によって中点が変動しないようにするのが難しく、結果として、しっかりとした低音が出ないアンプになってしまいます。

 オペアンプなどで受けて、インピーダンスを低くして、そこを中点とするという方式もあります。作ってみたこともあるのですが、入力が少しでも変動すると、やはり全体が動いてしまいます。

 片電源からプラスマイナスの電源を作るというやり方も、無いわけではありませんが、そのための面積も必要ですし、ノイズも増えます。それならば、スイッチング電源を使わず、ちゃんとした電源を筐体に内蔵した方がインピーダンスも低くでき、音質には有利です。

左がDA-150。左隅の電源部を、右のDA-100のそれと比べると、かなり大きくなっているのがわかる

 DA-150の基板を見ると、大きなコンデンサが大量に使われているのがわかる。これも、長妻氏の言う“音質で譲れない線”の1つだ。

大型のコンデンサが大量に使われている

長妻:面実装の電解コンデンサは使っていません。そのタイプの5L、7Lといったサイズのコンデンサでは、音質が良いものが無いと我々は考えております。ですので、どうしても10L以上の大きなコンデンサを使わなければなりません。

 また、小さなチップにもこだわりがあります。例えば、パナソニックのECHUというシリーズを良く採用していますが、フィルムを使った積層のチップコンデンサです。これがかなり音が良い。デジタル系の部分には、全部これを使っています。

中央付近に使われている、銀色の四角いチップがパナソニックのECHUシリーズだ

 パソコンなどでは、小容量のセラミックコンデンサなどが使われますが、それも基本的には使いません。これには、基板に取り付ける際のはんだ付けの方法に理由があります。大きく分けて、溶かしておいたハンダに、基板の裏を浸してはんだ付けをする“フロー”式と、はんだペーストを塗布する表面実装の“リフロー”式があります。

 セラミックコンデンサですと、基板の裏側に取り付ける“フロー”が可能ですが、我々の使うコンデンサではそれができません。フィルムを使っているので、コンデンサに熱をかけると壊れてしまうからです。表面実装(リフロー)のみになるのも、小さく作れない理由です。セラミックコンデンサをフローで取り付けているのは、DSPの裏側あたりだけです。

 また、DACまわりには、1Aタイプのレギュレーターを使っています。容量的にはもっと小さなものでも不足はないのですが、音質的には1Aクラスのものを使うと瞬発力が良くなるので妥協できないポイントです。

 オペアンプにもこだわっています。例え型番が同じであっても、パッケージによって音が違うのです。今回使用したオペアンプは、一番音が良いのがDIPタイプだと考えておりますので、製品には基板に全てのピンを挿入するDIPタイプのものを使います。

 ヘッドフォンアンプ回路もDA-250とほぼ同じだ。ディスクリートバッファを搭載した、ハイパワーな回路で、出力もDA-250と同じ200mW×2ch(16Ω)、400mW×2ch(32Ω)、130mW×2ch(600Ω)と変わっていない。

長妻:ヘッドフォンアンプの電源まわりは一番苦労しました。安全な設計がされているかの確認をする、短絡試験をすると、電流供給能力がありすぎて熱が上がり過ぎてしまうのです。スペースの制約で、まわりの空間もとりにくいので大変でした。

ヘッドフォンアンプ回路

古木:トランスの二次側電圧を調整し、LDOタイプのレギュレータを使用したり、高さ制限のある箇所は基板のベタGNDに部品を取り付けるなど、それぞれの部品の温度が少しでも上がらないように工夫していきました。

 パーツをおごるだけではない。使いこなしの工夫にも、老舗オーディオメーカーらしい技がある。

長妻:電源まわりの整流回路には、ショットキーダイオードを使っています。これ自体、ノイズは少ないと言われていますが、出ている事は出ているので、コンデンサをパラレルに配置して、出てきたノイズを吸収させています。それでも全てのノイズがとれるわけではないので、電源を供給するラインの戻る部分に、フェライトビーズを入れて、サンドイッチしています。両側で遮断するような格好ですね。ラックスマンでは25年くらい前から採用しており、恐らく我々しかやっていない工夫だと思います。

 この部分に使っている部品も、上位モデルと同じものを採用しています。DA-150のような小さなモデルでは、スペースの制約もありますが、手は抜いていません。

 USB DACではPCから侵入してくるノイズも問題になりますが、DA-150ではパルストランスを設置。そこで一旦受け取って、コモンモードノイズをキャンセルしています。PCからのバスパワーも遮断し、使っていません。コンデンサを介して小容量で接続はしてはいますが、極力パソコン側からのノイズは取り込まないようにしています。

小さな基板がUSBコントローラー関連の基板だ
3階建ての基板だが、間にノイズを遮断するシールドも

開発時には様々なヘッドフォンを使い分ける

 DA-250の小さな筐体に落とし込んだようなDA-150。目指した音はどのようなものなのだろうか?

長妻:PCオーディオのトレンドは“細部を浮き立たせる”ところかもしれませんが、音楽を聴く際に、本当にそれでいいのかという疑問があります。細部ばかりが際立つと、全体の流れがわかりにくくなってしまいます。

 これはセパレートアンプでも同じ事ですが、我々が考える理想の音は、まず音楽全体の流れが耳に入り、“聴こうと思うと、細部も聴こえる”というものです。けれど、音楽の流れは崩れない。そういうところは大切にしようと思っています。

 必ずしも、音を“なまらせて”おだやかにはしてはいません。例えば、花火の音を思い出してみてください。イメージとしては、耳に刺さるような強い音を想像しがちですが、実際に、冷静に聴いてみると、爽やかに吹き抜けていくような音です。つまり、自然な音というのは、故意になまらせなくても心地よく聴けるのです。

 ヘッドフォンにおいては、耳がつまるような、変な圧迫感のある音は出さないように意識しています。ヘッドフォンにおいてもスピーカーと同様に、綺麗に音が抜けるのが理想だと考えています。

 開発時は、様々なヘッドフォンを使って試聴しています。音の“抜け”の部分ではAKGのヘッドフォンを、低音部分はShureなど、チェックする音に合わせて使いわけたりもしています。

実際に聴いてみる

 では実際、DA-150はどのような音になっているのか聴いてみよう。以前、DA-250を聴いたのと同じ試聴室で、まずはスピーカーで音を聴いてみる。

 DA-250の際は、一切の制約が感じられない、広大に広がる音場に驚かされた。DA-150から音が出た瞬間、その時の感覚が蘇ってくる。左右上下に広がる音の空間が、際限なく広く、体を包み込む。閉塞感とは無縁の世界で、試聴室にいる事を忘れる音だ。

 宇多田ヒカル/First Loveのような女性ヴォーカルを聴くと、音像の輪郭はシャープだが、カリカリにエッジが強調されるような事はなく、極めて自然だ。DA-250は、ゆったりとした美しい響きが印象に残っているが、DA-150はやや方向性が異なり、ハイスピードでクリアさを突き詰めたような感覚だ。

 うっとりと歌声に聴き惚れながら、口が開閉する動きのリアルさに集中すると、口の中を覗き込んでいるかのような生々しさも感じられ、ドキッとする。このリアリティというか、生っぽさは、DA-250に匹敵するというか、追い越している部分もあるように聴こえる。

 DA-250から機能が省かれているという事は、逆に言えば、よりシンプルになっているとも言えるので、そのシンプルさが、音の“ダイレクトさ”となって実感できるのかもしれない。

 音の印象はヘッドフォンでも同様だ。密閉型を使って試聴しても、音の広がる空間がとても広大なので、オーケストラのホールの広さなどが良くわかる。閉塞感や圧迫感はまったく感じられない。

 では音像も遠くに散らばってしまうのかというと、そんな事はない。前述の通り、ボーカルやギターなど、メインとなる音は生々しく、ダイレクトに届いてくるので、空間が広大ながら、ステージが目の前にあるかのような“かぶりつき”で聴いている感覚も味わえる。

 ボリュームを絞っていっても、急に音が痩せたり、トランジェントやスピード感が低下したりはしない。駆動力も高いので、例えば開放型ヘッドフォンを、周囲への音漏れを気にしながら、音量を控えめに聴くようなシーンであっても、低域から高域までバランスよく音楽の情報量が聴きとれそうだ。

 なお、DSD/PCMとも、2種類の音色を切り替えて楽しめるフィルター選択機能も用されている。ここまでの印象は「フィルタ1」のものだが、「2」に変えると、むき出しのダイレクトさがちょっと穏やかになる。フォーカスがボワッと眠くなるわけではなく、鮮度重視から、音同士の馴染みを重視したような音の変化で、悪くない。深夜など、落ち着いた楽曲を、ゆったり聴きたいという時には「2」の方がハマる事もあるだろう。高域の描写がキツ目なヘッドフォンをドライブする時にも、良いかもしれない。

フィルタの変更で音色の違いも楽しめる

音楽に入り込みやすくするために

長妻:我々は音の評価をする際に、(音が)“つまっているかどうか”、“ゆるいかどうか”に注目しています。それは、1つ1つの部品レベルから、です。

 例えば、音に力はあるのだけれど、ガッツンガッツンし過ぎていて、綺麗に音が抜けないような部品があると、他の部品の音が良くても、製品全体の音は、個性の強い部品の音に引っ張られてしまいます。

 料理でも、甘いものと、辛いものを混ぜたら、味がなくなったなんて事はありませんよね。甘辛くなります。

 オーディオも同じで、自然で、良い音を突き詰めて部品を選び、作りこんでいくと、1カ所でも音の悪い部品が入ると、そこがより目立ってしまうのです。

 つまり、音質にとことんこだわった部品選びをして開発すると、あまり音の良くない部品を投入した時に、その“アラ”がより目立ってしまうという事だ。細かいパーツまで、音質に妥協しない姿勢を貫くという事は、老舗オーディオメーカーのこだわりであると同時に、製品全体として、最終的に出力される音の良さを維持するためでもあるのだろう。

長妻:少しでも違和感があると、音楽に入り込めなくなってしまいます。逆に、そうした違和感があると、ある種の刺激や個性になって、短時間聴くのであれば、印象的な音に感じられるという事もあります。

 しかし、我々が追求している音は違います。“大人しい”とか“デモ映え”しないなんて言われる事もありますが、やはり音にこだわる方には良さがわかっていただけると思います。DA-150もヘッドフォン祭に出展させていただきましたが、「やっぱりこの音だよね」と言ってくださる方々も増えてきて、非常に嬉しかったです。

 DA-250(17万円)とDA-150(98,000円)の価格を比べると、半額とまではいかないが、7万円以上安価だ。だが、実際にDA-150の音を聴いてみると、そのクオリティは250に肉薄しており、「150の方が好み」と言う人もいると思われる。250の上位機らしい、懐の深いサウンドも魅力だが、機能をより絞り込み、コンパクトな筐体で手軽に良い音を楽しみたいという人には、150の方がマッチする事もありそうだ。いずれにせよ、10万円を切る製品の音とは思えないクオリティだ。

 長妻氏も「ボリュームノブも、当初はコストの低い海外製を予定し、何度も試作させましたが納得がいかず、最終的には国産パーツになりました。そんな事ばかりやっているので、コスト面は本当に厳しくて、高価なモデルと比べると利益率は圧倒的に少ないです」と苦笑いする。メーカーにとっては大変だが、同社のサウンドを購入しやすい価格で楽しめるのはユーザーにとってはありがたい。本格的なUSB DAC/ヘッドフォンアンプを検討している人には、気になるモデルと言えそうだ。

(協力:ラックスマン)

山崎健太郎