iPhoneアプリ形式でアニメを配信するアニメワールドの狙い

-「銀河英雄伝説」&「電脳コイル」を近日配信。iPad展開も


『電脳コイル』配信アプリの起動画面
(C) 磯 光雄/徳間書店・電脳コイル製作委員会

4月中旬~下旬配信開始

配信価格:未定

 米Appleが1月25日(現地時間)に発表した、2010年度第1四半期(10~12月)のiPhoneの販売台数は、全世界で前年比100%増の870万台。国内でも、ソフトバンクによれば2009年の同社携帯電話の中で、iPhoneはダントツの販売台数1位で、現在も右肩上がりで増加。世界で一番成長しているのが日本のiPhoneだという。

 1日に発売が開始されたドコモの「Xperia」や、3月30日にauが発表したシャープ製端末「IS01」など、Android OS採用スマートフォンも増加し、アプリが提供される「Androidマーケット」の盛り上がりも予想されるが、既に世界規模で構築されているiPhoneのApp Storeプラットフォームの存在を脅かす存在とはまだ言えない段階だ。

 一方、開始当初はゲームやビジネス、生活便利系アプリが多かったApp Storeも、規模が拡大するに伴い、これを1つの配信プラットフォームと見立てて、小説やコミックといったコンテンツ配信に活用する例も増えている。そんな中、株式会社アニメワールドが4月中旬~下旬に開始を予定しているのが、アプリケーションの形でアニメの動画配信を行なう新サービスだ。


■ App Storeを通じて動画配信

アニメフェア2010で展示された『電脳コイル』の視聴イメージ
 海外では、iTunes Store向けにテレビ番組や映画などの映像コンテンツが有料配信されているが、ご存知の通り、日本ではサービスが行なわれておらず、ミュージッククリップがメイン。そのため、ニコニコ動画やYouTubeなど、動画投稿サイトを視聴するアプリが存在する反面、映像作品のiPhone向け有料動画配信サービスは意外なことにほとんど存在しない。

 アニメワールドが予定しているサービスは、動画コンテンツをアプリケーションの形にまとめる事で、iTunes Storeを使わず、App Storeを通じて動画配信を行なうというものだ。


スタッフ/キャスト紹介画面
(C) 磯 光雄/徳間書店・電脳コイル製作委員会
 具体的には、アニメの1話を1つのアプリとしてApp Storeで販売。視聴期限を設けないセルスルーのダウンロード配信となり、視聴する時はアプリを起動させ、メニューから「MOVIE」を選べば再生がスタートするという仕組み。メニューにはストーリーやキャラクターなどの紹介コンテンツも用意するなど、付加価値要素も備えている。

 アニメワールドの千葉尚常務取締役は、アプリケーションという形で配信する利点について、「ストリーミング配信ではないため、電波状況に左右されず、安定視聴できるのが特徴です。さらに、アプリケーションであるため、DRMの面でもコンテンツを強力に保護できます利点があります。また、配信後もアップデートという形でアプリやコンテンツを更新し、新たな要素を盛り込む事ができるのも特徴です」と説明する。


複数話をパックにしたアプリも検討されている
(C) 磯 光雄/徳間書店・電脳コイル製作委員会

 映像はMPEG-4 AVC/H.264、音声はAACを採用している。なお、各話が100MB程度のサイズになるため、アプリの購入は無線LANやPC経由のダウンロードで行なうようになる。話数が増えると当然iPhoneの内蔵メモリには入りきらなくなるが、PCと同期する際に、“選択したアプリケーションのみを同期する”事が可能なため、例えば全話をPCのiTunesに購入/保存しておき、「今日の外出時に再生したい話数だけ転送する」といった使い方が想定されている。

 他にも、例えば複数話をパックにしたアプリや、3G回線を使ってダウンロードできるようにファイルサイズを抑え、外出中でも気軽にダウンロードできる“お試し版軽量アプリ”も予定しているという。なお、アプリはiPod touchにも対応している。



■ iPhoneユーザーの琴線に触れるラインナップ

 配信コンテンツは『銀河英雄伝説』と『電脳コイル』をラインナップ。いずれも長編作品だが、各話を順次配信していく予定だ。

第1弾ラインナップは『銀河英雄伝説』と『電脳コイル』
(C) 磯 光雄/徳間書店・電脳コイル製作委員会
 『銀河英雄伝説』は、田中芳樹氏の同名小説を原作としたアニメシリーズ。銀河帝国の貧乏貴族の家に生まれ、野心を胸に出世していくラインハルト、自由惑星同盟で不本意ながら軍人になるものの、数々の功績を立てていくヤンという2人の英雄を軸に、本編と外伝、長編作品を合わせて全165話の、壮大な銀河叙事詩が展開する、SFアニメの金字塔として根強いファンを持つ作品だ。

 一方、2007年にNHK教育で放送された『電脳コイル』は、ジブリ作品や『エヴァンゲリオン』、『ラーゼフォン』などに参加した磯光雄氏が原作・監督・脚本を担当した作品。ネットにアクセスでき、現実世界にデジタル情報を“重ねて”表示できる“電脳メガネ”が子供達に広まった近未来の日本を舞台に、同じ“ゆうこ”の名を持つ2人の少女と、その仲間達が、電脳空間で不思議な出来事を体験していく物語。

 『セカイカメラ』の登場よりも早く、AR(拡張現実)技術を知らしめた先見性溢れる作品であると同時に、『ネットワークと人間の関わり』や、『通信技術を介した人と人との繋がり』を、あくまでアナログな日常生活の延長として、ドラマチックかつ丁寧に描ききった名作として知られている。どちらの作品も、ターゲットとする視聴者層や扱う主題が、iPhoneユーザーの琴線に触れるラインナップと言えるだろう。

 両作品のコンテンツホルダである、徳間書店映像事業部の三ッ木早苗部長は「その作品にとって“一番良いタイミング”を見極めてリリースする事が重要」と語る。

 「新しいメディアには、定着するまでにある程度時間が必要なものですが、メディアがどういう育ち方をするのか、その時代でどういう役目をしていくのかを考えるのも、我々の使命の1つです。iPhone向け配信の場合は、作品を様々な場所で、様々なデバイスで、ライフスタイルに合わせて鑑賞できるようにする、1つの方法と考えています。また、『電脳コイル』のキーワードに“きっと、キミにつながっている─。”というものがあるのですが、人間関係が希薄になり、通信機器で繋がるようになっている現在にこそ、この作品と、色々な場所で“繋がれる”ようにする事も、コンテンツホルダの使命と言えるかもしれません」(三ッ木部長)

 なお、今回の配信は、世界的に普及しているiPhone & App Storeのプラットフォームを活かし、北米や中国市場を中心に、グローバルに展開していくという。現地のディストリビューター(販売代理店)に任せる形式ではなく、日本から直接世界に配信できるのもiPhone & App Storeの強みとなる。「音声は日本語で、各国向けの字幕を表示する形になります。各国の慣習に配慮した上で、作品世界を正しく伝えるため、各国語字幕のプロデュースができる方にお願いし、翻訳作業を進めています」(三ッ木部長)。


■ 難しい価格設定。iPadへの展開も

 気になるのは価格面だが、再生期限の無いセルスルーであるため、PC向けストリーミング配信よりは高価になると考えられる。

 「DVDやBDのようなコレクション性を、小さくて持ち歩けるiPhoneで実現するものと考えています。作品の価値をむやみに落とさないという意味でも、配信ではありますが、例えば1話1,000円など、パッケージと同程度の金額にするというのが基本的なスタンスです。しかし、やはり配信である以上、ある程度低価格化する必要もあり、価格設定が難しいところです。また、これまでにあまり例が無い形の配信ですので、今後のiPhone向けアニメ配信の価格指針になる可能性もあります。iPhone向け配信全体を盛り上げるという意味でも、他のアニメーション産業の皆さんが配信ビジネスを行なう際に、参考にされるような価格にしたいと考えています」(千葉常務)。

iPad
 さらに、iPhone向け配信ならではの展開も予定されており、作品に合わせたデザインのiPhoneケースも作り、iPhone全体を作品のコレクションとして、『銀河英雄伝説』や『電脳コイル』“仕様”にカスタマイズできるようにするといった、DVD/BDとは異なる“新しいコレクション性”を訴求する計画もある。

 機能面でも、配信後もアップデートができるというアプリの利点を活かし、「配信話数が増えたら、複数の話をまとめる“本棚”的な機能の追加も検討しています。アプリを起動すると複数のエピソードが並び、任意の話数を選ぶと再生できるようになります」(千葉常務)のこと。さらに、iPhoneよりも画面が大きく、解像度が高いiPadに向けて、より高解像度の映像を使ったバージョンの配信も予定されている。



(2010年 4月 7日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]