日本上陸した定額映像配信「Hulu」を試す

-デバイスの制限の無い“少し未来”を体験


 米国で人気のオンライン映像配信サービス「Hulu」が日本市場に参入。1日よりサービス開始した。日本版Huluは、月額1,480円のサブスクリプション型サービスとなり、テレビやポータブル機器などさまざまなデバイスでビデオを視聴できる点が特徴だ。

 日本でのサービス開始にあたり、コンテンツは、CBS、NBC、ユニバーサル、ソニーピクチャーズ、20世紀フォックス、ディズニー、ワーナーなどのコンテンツが揃えられ、「パイレーツ・オブ・カリビアン」、「アルマゲドン」、「トロイ」、「恋愛小説家」などの映画や、「24」、「BONES」、「ゴシップガール」などの海外ドラマが用意されている。

 日本には、テレビ向けやPC向け、携帯電話向けなどのさまざまなビデオ配信サービス(VOD)がある。しかし、ネットワークさえあれば、複数の機器で利用可能で、しかもハリウッドの大作映画や人気海外ドラマなどが揃ったサービスは無い。現状コンテンツが海外の大作映画とドラマに限られるとはいえ、数の上でも充実しており、今後も日本のコンテンツも含めて拡充していく予定という。サービス開始にあわせて1カ月間の無料トライアルも実施している。日本に上陸したHuluを早速試してみた。


■ PC、スマホ、テレビなどさまざまな機器でHulu視聴が可能に

PCや、ゲーム機、スマートフォンなどで対応

 対応機器は、パソコンやiPhoneやiPadなどのスマートフォン/タブレットのほか、パナソニックのVIERAなどのテレビ。また、PlayStation 3などでも順次対応を予定しており、これから冬にかけて対応機器の増加が見込まれる。

 パソコンの対応OSは、Windows XP以上、Mac OS 10.4以上、Linuxで、ブラウザはInternet Exploer 7.0以上、Firefox 2.0以上、Safari 3.0以上、Chromeで、Adobe Flash Player 10.0.32以降が必要となる。最近の一般的なパソコンであれば問題ないだろう。

 モバイル機器は、Apple製品がiOS 4以降のiPhone 4/3GSと第3/4世代iPod touch、iPad。Androidスマートフォンも国内で販売されている多くの機種が対応しているが、タブレットは後日対応予定となる。詳細は同社のヘルプページに記載されている。

 また、Huluはストリーミング型のサービスのため、利用にはネット環境が必須となる。高速なインターネット回線が望ましいが、スマートフォンなどでは3Gの通信回線でも十分にコンテンツを楽しめるとしている。


発表会場では、VIERA「TH-P55GT3」で実動デモを行なっていた

 テレビについては、ヘルプページでも対応機種が案内されていないのだが、現時点ではパナソニックVIERAの2011年モデルで、「テレビでネット」に対応した製品が対応とのこと。2010年12月発売の「TH-L26X3」は対応していなかった。なお、1日の発表会ではVIERA「TH-P55GT3」でデモを行なっていた。

 また、後日対応予定のAV機器としては、ソニーBRAVIAの2010年以降発売のインターネットテレビ機能搭載モデルと、ソニーブルーレイレコーダの2011年以降のネット機能搭載モデル。パナソニックもDIGAが対応予定としている。

 そのほか、PlayStation 3とXbox 360も対応予定。米国ではすでにHulu対応しており、これを日本向けにローカライズしている最中とのことで、近日中の対応が見込まれる。普及台数としてはこれらのゲームプラットフォームが圧倒的に多いと思われ、PS3/Xboxの対応によりHuluが視聴可能になるユーザーは大幅に増えるだろう。


1カ月間の無料トライアルを実施。登録にはクレジットカードが必要

 利用の前にユーザーアカウントを作成する必要がある。アカウント登録には、メールアドレスと、任意のパスワードの設定のほか、クレジットカードが必要となる。他の課金方法も検討中とのことだが、現時点ではクレジットカードを持っていない人は、Huluを利用できない。なお、現在1カ月間の無料トライアルを実施中だが、トライアルのためにもクレジットカード情報が必要となる。

 基本的にはWebブラウザが利用できれば、パソコン以外のデバイスでもユーザーに登録が可能。今回はパソコンから登録したが、一度、IDを作成してしまえば、他の機器ではHuluアプリをダウンロードし、アプリを立ち上げて、IDとパスワードを入力するだけで、Huluの各サービスが利用可能になる。今回はパソコンのほかiPad 2とiPhone 3GSでテストしたが、特に戸惑う部分はなかった。

 また、IDとパスワードは一度登録してしまえば、30日間は再入力の必要はないので、都度パスワードを入力する必要はない。VODサービスではその都度課金が発生し、IDやキーワード入力を強いられるものが多いが、そうした手間を省けるのも月額固定制のサービスならではのメリットといえそうだ。

1カ月間の無料トライアルを実施。登録にはクレジットカードが必要アカウント登録が完了していれば、iPadでID、パスワードを入れるだけで利用可能

■ とにかく「複数デバイスからの利用」が楽ちん

PCのトップページおすすめ番組もチェックできる

 画面はシンプルで、上部に「テレビ番組」や「映画」などのジャンルごとの選択画面を用意するほか、人気コンテンツやおすすめコンテンツを大きなサムネイルで表示してくれる。キーワード検索にも対応。また、PC版ではSPEやワーナーなどスタジオごとのコンテンツ紹介や、ジャンル検索も用意される。

 日本でのサービス開始にあたってシンプルかつ分かりやすいインターフェイスを目指したということで、階層構造も少なく、基本的には[映画]と[テレビ番組]から見たい番組を選ぶだけだ。メニュー遷移時のレスポンスが良く、キビキビと動作するので、番組検索でストレスを感じることはない。


iPadのトップページテレビドラマの各エピソード情報もチェックできるiPhone 3GSの人気順
PCの再生画面

 パソコンで、映画「ブラックホークダウン」を選んで再生してみたが、数秒のバッファ時間があるもののすぐに再生を開始。フルHDディスプレイで見ても十分な精細感で、パッと見でHD解像度であることがわかる。

 PCの場合の画質は、初期状態では[帯域に最適な画質を自動的に選択する]となっているが、ユーザーが[720p]、[480p]、[360p]、[288p]から選択できる。自動選択でも安定したブロードバンド回線であれば、720pで安定して受信できており、画質にも不満は感じない。

 番組にチャプタなどは用意されていないので、早送りする場合は、下部に表示されるタイムバーを選択し、任意の場所までスライドさせる必要がある。この場合、2秒程のバッファ時間が発生するが、一度再生したシーンに戻すときはほぼ瞬時に切り替わる。ストリーミングとは思えないレスポンスの良さだ。

全画面表示に対応PC版の画質モード
iPadの再生画面。縦位置でも再生できる

 iPad 2やiPhone 3GSで見た場合は、画質モード選択などは用意されず、帯域をHulu側で確認し、最適な画質モードを割り振っているようだ。ただし、iPad 2の8.9型液晶ではHDと見紛うほどの精細感があり、色も鮮明でコントラスト感も高い。画質は全く問題ない。強いて不満を言えば、字幕のON/OFF時に一度解像度を落とすようで、その場合は「フレームレートが少し高いワンセグ」ぐらいの画質に見えることもあった。安定したブロードバンド回線であれば、iPadやiPhoneで見ても画質は十分満足できる。なお、iOS用のHuluアプリはAirPlayには対応していない。


iPadから再生開始iPhone 3GSでも再生できる

 また、番組を途中まで視聴し、一時停止した場合、その停止ポイントを記憶し、次回再生時にその場面から再生できるレジューム機能にも対応。さらに、PCで見た番組の停止シーンを記憶し、iPadで続きを見る、といったデバイス間の連携も可能だ。これは本当に便利で、「1つのアカウントで複数のデバイスから同じようにコンテンツを利用できる」というHuluならでは。デバイスを問わない自由な視聴環境とデバイス間連携の融合がHuluの最大の魅力と感じた。

iPadで見た番組の続きをパソコンから再生iPad 2で続きを再生

 ここまでは有線/無線LAN接続での視聴だが、3G接続も試してみた。iPhone 3GS(ソフトバンクモバイル)で3G経由で「24-TWENTY FOUR-: 午前2時~午前3時」を視聴したが、無線LANの時とほとんど変わらず。映像や音声が途切れることはなかった。

 これではテストにならないので、パソコン(VAIO X:CPU ATOM  Z550)を使ってNTTドコモの3G回線で同じ「24」を見たところ、480pでもなんとかみられるが、フレームレートが落ちているように感じた。360pしても解像感が落ちるものの、ややコマ落ちしているような印象はそれほど変わらなかった。画質モード[帯域に最適な画質を自動的に選択する]にしておくと、画面上部表示は480pで、やや滑らかさに欠けるものの、音や絵が途切れることはなく再生できた。

 回線状況にもよるが、スマートフォンでは3Gでも十分、PCでもある程度しっかり見られる。ただし、基本的には高速なネット環境があるところで見たほうがストレスは少ないだろう。もちろん、飛行機の中や地下鉄などの3G回線が届かない部分においては、見られないわけで、こうしたケースでは、ダウンロード型のサービスやパッケージメディアなどを活用したい。

PCでは字幕のフォントも変更できる

 日本市場特有の機能が「字幕」。字幕の有無はコンテンツ次第となるが、現時点ではほぼすべてのコンテンツが海外の映画/ドラマなので、ほとんどの番組で字幕のON/OFFが可能だった。吹替版はほとんどない。

 iPhone 3GSなどの小型ディスプレイでも視認性は十分。ただし、時折字幕なしで英語音声だけの番組がある。また、たとえばドラマ「クーガータウン」の第1話を見てみたら、しゃべっているはずなのに、一部字幕が出ていない部分があるのも気になった。英語音声だけで日本対応というのはさすがに無理があるので、おそらく準備が間に合っていないのだと思うが、ここは早急な対応をお願いしたい。加えて、字幕ON/OFF時に一時的に画面全体の解像度が落ちるなど若干の課題は感じた。

 とはいえ、PC版では、ON/OFFだけでなくフォントも選択できるなどかなりこだわった字幕対応がなされており、Huluが日本市場参入に向けて、準備をしっかり進めてきたことがわかる。


■ “少し未来”を感じられるデジタルコンテンツ配信

 Huluを使ってみた感想は、とにかく自分が見たい番組を複数のデバイスから、シームレスに視聴できるという環境の快適さに尽きる。パッケージメディアのような「買い切り」ではなく、「視聴する権利をユーザーが有し、好きな時に行使する」という考えとなるが、多くの対応デバイスを所有している人ほど、この利便性を体験できるだろう。

 家族にテレビを占有されている場合はタブレットで見たり、出張先のホテルでHuluのライブラリから好きな映画を自由に選んだり、と、Huluの柔軟性を活かすシーンは増えそうだ。音楽でもこうしたクラウドベースのサービスが盛り上がっているが、確かにこうした柔軟なコンテンツ配信の利便性は、一度触れると離れなくなりそうだ。

 もちろん、ストリーミング型のサービスのため「ネットがなければ何もできない」という制限はある。そのため、BD/DVDなど既存のメディアのすべてを置き換えるものではないが、それでもデジタルコンテンツの少し未来の形に触れているような、圧倒的な利便性の高さがHuluにはある。

 日本におけるHuluの未来は、当たり前のことではあるが、どれだけコンテンツを集められるかという点と、どれだけの機器が対応するかにかかっている。1カ月の無料体験も可能なので、まずは多くの人にHuluの可能性に触れてほしい。


(2011年 9月 2日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]