レビュー

iBasso初デスクトップオーディオ「Kunlun」。GaNトランジスタで“音を解き放つ”ヘッドフォンアンプ

iBassoの「Kunlun」

iBasso「Kunlun」(クンルン)は本格的な据え置きヘッドフォンアンプであり、iBassoでは初めてのデスクトップヘッドフォンアンプ製品である。価格は103,950円で、すでに12月19日から発売されている。

iBassoが2007年に発売した「D1」はDAC内蔵ポータブルヘッドフォンアンプの先駆的な製品の一つであり、2012年に発売した「DX100」はAndroid搭載ハイレゾDAPの先駆けでもあった。そしてiBassoはポータブルオーディオではよく知られるブランドとなったが、Kunlunは初のデスクトップオーディオ製品である。名の由来は日本で言うところの崑崙(こんろん)山脈で、チベット高原の北側にある大山脈地帯のことだ。名称からもiBassoの本製品にかける意気込みの高さと開発思想がうかがえる。

iBassoに、Kunlun開発の理由を問い合わせてみたところ、以下のような回答を得た。

「ポータブルプレーヤーに搭載されている DAC部については、すでに十分高いレベルまで仕上がっていると考えています。しかしプレーヤー全体として見た場合、課題が残りやすいのはヘッドフォンアンプ部です。バッテリー駆動では、外部電源と同等の高電圧や、長時間にわたって安定した電力供給を実現することが難しいという制約があります。そこで私たちは、ヘッドフォンアンプに特化した据え置き型アンプの開発に取り組みました。本機はポータブルプレーヤーと組み合わせて使用することを想定すると同時に、他社製DACとの組み合わせにも対応しています。」

「ポータブル製品に搭載されるヘッドフォンアンプは、サイズや消費電力の制約から、どうしても回路構成がシンプルにならざるを得ません。これに対し、据え置き型であれば、電源設計や回路構成の自由度を大きく確保することができます。ポータブルプレーヤーでは実現が難しかったヘッドフォンアンプ回路を、据え置き機という形で製品化したというのが本開発の狙いです。」

つまりKunlunは、DAPでは実現しにくいような高性能ヘッドフォンアンプを目指したわけだが、ポータブルDAP等と組み合わせて使うことも想定されているという点がiBassoらしいポイントだ。これについては後ほど実際に試してみよう。

高性能なGaNトランジスタを搭載

ヘッドフォンアンプとしてのKunlunの特徴はGaN(窒化ガリウム)トランジスタを採用したという点にある。

GaNトランジスタとはなにかというと、一般的なトランジスタには半導体としてシリコンが使用されるが、シリコンの代わりにGaN(窒化ガリウム)を使用したトランジスタのことだ。非常に効率が高く、かつ動作速度の速い半導体だ。

GaNトランジスタのイメージ

GaNはおよそ5年ほど前から話題になり、Ankerなどの電源アクセサリーでよく聞く素子名となった。またオーディオ機器ではソニーのSA-Z1アンプでも採用されていた。ちなみに"GaN"は日本では「ガン」と読むことが多い。

iBassoではGaNトランジスタの採用により、過渡応答、ダイナミクス性能、制御性が向上するとしている。これらを音の印象に言い換えると、音の立ち上がりが速く、強弱の変化が明確で、低音から高音までドライバーを正確にコントロールできる、という意味になるだろう。

またiBassoではDX340向けの「AMP17カード」でGaNトランジスタを初めて採用しており、その拡大版が本機ということもできる。

GaNトランジスタを採用したAMPカード「AMP17」

こだわりのヘッドフォンアンプ設計

ここでいったんGaNの説明から離れてアンプ設計自体を見てみることにしよう。結論を先に言ってしまうと、Kunlunのアンプ設計は「どんなヘッドフォンでも音の輪郭が崩れず、動きが速く音が濁らない」ことを強く意識したものといえる。

Kunlunは、出力段に8個のパワートランジスタを採用、ヘッドフォンアンプの駆動段には合計32個のトランジスタを用いたディスクリート設計を採用している。ディスクリート設計ではオペアンプ設計よりも自由に設計することができるため、性能限界の高い高性能アンプに採用されることが多い。Kunlunではバランス出力時にはチャンネルあたり最大7.4W(32Ω)の大出力を実現している。

一般的にヘッドフォンアンプの場合には数Wの出力でも大出力と言えるので、Kunlunはかなりの大出力アンプと言えるだろう。またリニアトランスとレギュレータを組み合わせて強化された電源部を有している点も高性能アンプらしいところだ。

これにより、Kunlunはわずか「0.12Ω」という低出力インピーダンスを実現している。出力インピーダンスは、一般に1Ω以下が望ましいとされるが0.12Ωというのはかなり優秀な値と言える。

ここで少し補足説明をしておくと、なぜアンプの出力インピーダンスが小さいほど良いかというと、オーディオ信号とは電圧の変化であり、それを正しく歪みなく伝えるための基本原則がインピーダンスのハイ受け・ロー出しというインピーダンス・ブリッジング(マッチングではない)だからである。この原則は、DACとアンプの接続でも、アンプとヘッドフォンの接続でも本質的に同じである。そしてこれは、平面型、インピーダンスの違い、高感度IEMのいずれの場合にも共通する。つまりヘッドフォンアンプにおいて「出力インピーダンスが小さいことは正義」なのだ。

ただし注意点は平面駆動型ヘッドフォン、高インピーダンスヘッドフォン、高感度IEMのように負荷の特性が違うことによって、その影響の現れ方が異なることだ。このためヘッドフォンアンプには、負荷が変化しても電圧源として安定して動作できるだけの、十分な電流供給能力と低出力インピーダンス、ならびに安定した電力供給が求められる。その実現手段として、ディスクリート出力段や大型トランスを用いた電源設計が有効であり、Kunlunはまさにこの条件を満たしたヘッドフォンアンプなのである。

電源部には、リニアトランス電源とレギュレータを組み合わせたアーキテクチャを採用している

そして、ここにKunlunで出力段にGaNトランジスタを採用したことが効いてくる。GaNは電源回路で使われることが多い半導体だが、電流の変化に素早く追従でき、出力段の制御性を高めやすいという特性を持つ。その結果、音で言えば、アタックが鋭い打楽器や、瞬間的に立ち上がるシンセ音でも、輪郭がぼやけずスパッと止まる感覚につながる。

こうした違いは、とくにトランジェントに優れた平面型ヘッドフォンで分かりやすい。(筆者の書いたドライバー解説も併せて読んでほしい)

このようにKunlunでGaNトランジスタが採用されたのは、単なる流行として素材を選んだ結果ではない。回路設計の観点から見ても、低出力インピーダンスと高速な電流応答というKunlunの設計思想に対して音と回路の両面から合理的に説明できる、きわめて必然性の高い選択なのだ。

ハイコスパDAC、Topping「DX5II」と組み合わせる

箱から取り出した筐体は据え置きとしては思ったほど大きくはないという印象だ。重さも腰を痛めるほどではない。

金属製の筐体は飾り気が少なく質実剛健というか、古風というか、いかにもアンプ然としたデザインである。中央の大きなボリュームがその雰囲気を濃くさせている。その隣は3段階のゲイン切り替えスイッチだ。電源ボタンを投入するたびにカチリと音がするので、中ではきちんとリレーで保護回路が組まれているようだ。

ちなみに、このように縦置きする事も可能。デスクトップの空きスペースが無い時に便利だ

ボリュームを回してみると、ボリュームのトルク感が重い。ねっとりと動く感じは据え置きの高級アンプらしい感じがする。

ただしボリュームに関してはTIのボリュームICを用いているということなので、純アナログ方式のように見えるが中身はいわゆるハイブリッド方式だと推測できる。これはボリュームノブはデジタル検知のエンコーダーで、その指示によりボリュームIC内にある細かいステップアッテネーターのような抵抗回路を変更する方式のことだ。簡単に言うとLUXMANのLECUAのIC版ということもできるかもしれない。ICの型名までは書かれていないが、おそらくTI製で4ch対応(バランス対応)ということからPGA4311と思われる。

つまり見かけは古風なアナログヘッドフォンアンプだが、中身はGaNトランジスタにしろ、TIのボリュームICにしろ、最新の技術が詰め込まれているということになる。

KunlunはDACを内蔵していないアナログ・ヘッドフォンアンプなので上流にDACやプレーヤーが必要となる。Kunlunにはアナログ入力としてRCAとXLRの二通りが用意されている。今回はDACとしてTopping「DX5II」を使用するシステムと、iBassoおよびAstell&KernのDAP「PD10」を使用するシステムの二通りを試してみた。

下からiBassoの「Kunlun」、Topping「DX5II」

まずDACのDX5IIを使用するシステムから試聴した。

音楽ソースとしてMacbook Airを用いて、DX5IIにUSBで接続する。そしてDX5IIからはXLRケーブルでバランス出しをしてKunlunの背面に接続する。

KunlunとDX5IIの接続

掲載写真で確認できる赤いケーブルがXLRケーブルでベルデンの線材を使用している。Topping DX5IIはNFCAという現代的な強NFB設計を採用した測定性能の高さが特徴の高コスパDACだ。

まず平面磁界型ヘッドフォンであるSendy Audio「Peacock」を使用した。Kunlunには4.4mm端子で接続する。

Sendy Audio「Peacock」

Sendy Audio「Peacock」はSendy Audioのフラッグシップモデルで、正確な振動板の動きを担保するためにクアッドフォーマーという補助コイルを振動板の四隅に配置しているのが特徴だ。

全体的な音の印象は、iBassoらしい着色感の少ない音で鮮明なクリアさが感じられる。DX5IIとも音の相性の良さを感じられる。

ジャズヴォーカルで聴いてみると、まずウッドベースの低音が重厚感と同時に軽々と鳴ることに気がつく。鳴らしにくいヘッドフォンを駆動力のないアンプで鳴らすと暗く、だるく聴こえるが、KunlunではPeacockを軽々と鳴らしているのがわかる。

また楽器の音の立ち上がりがとても素早く、パーカッションやドラムスの打撃音の切れ味が鋭い。この点では平面型の特徴がよく出ている。中高音域では音がとても綺麗に伸び、歪み感が少ない。

基本的にはゲインはミドルでも音量が取れるが、ダイナミックレンジ重視の低レベル録音されたクラシック曲(例えば録音マニアである現代作曲家アルヴォ・ペルトの「in Principio」)では少し音量が足りない。そこでゲインをハイにして聞くと、オーケストラの全楽器が合わさるトゥッティではヘッドフォンとは思えないほどの迫力とスケール感が堪能できた。

ツェッペリンの「アキレス最後の戦い」を聴くと、とてもスピード感が高く演奏の躍動感を伝える再生に背筋がぞくぞくとしてくるほどだ。特にボンゾの叩くドラムスの小気味良さがたまらない。思わず体をゆすってしまうほどで、試聴を途中で止めることが筆者にはできなかった。これは平面型ヘッドフォンをハイスピードアンプで鳴らす醍醐味だ。

PeacockとKunlunの組み合わせはかなりレベルの高い音だが、正直このレベルになると解像力がDX5IIだと少し物足りない。DX5IIのNFCAはスピード感にも優れているアーキテクチャだが、やはりもうひとクラス高いDACがあった方が良い。

ULTRASONE「Signature Pure」

一般的なダイナミック型ヘッドフォンであるULTRASONE「Signature Pure」で使ってみてもゲインはローだとやや足りないのでミドルに設定した。全体的にゲインはやや低めのようだ。後述するが、マルチBAイヤフォンの使用も想定しているのだろう。

Signature PureはDJタイプのヘッドフォンであり、この組み合わせではハイファイ的な平面型のPeacockよりも低音が誇張されたコンシューマサウンドに近くなる。それでも低音はよく制御されていて不要な膨らみは少ない。そのためドドンという低音がよく引き締まっていてパワフルと感じられ、低音が誇張されているという点が魅力に思えてしまう。例えばさきのツェッペリンを聴き直すと、思わず体をゆすってしまうようなスピード感はないが、低音が迫力あるのでロックとしてはアリという感覚だ。

50Hz以下の低音がたっぷり入っている現代ジャズの曲では、超低域がきれいに下まで出ていることが感じられる。32Ωの通常のダイナミック型ヘッドフォンで低いところまで出ているということは電源もかなり強いということが窺える。

Campfire Audio「Fathom」

次に高感度マルチBAイヤフォンを試してみた。Campfire Audio「Fathom」だ。ゲインをローにして聴くが、ボリュームの回転に余裕があり高感度IEMでもかなり使えるのが分かる。実のところKunlunの隠れた魅力は高感度IEMを存分に使えることだと気がついた。ローゲインでは背景ノイズがほとんど感じられず、ミドルゲインでやや気になるくらいだ。間違いなくKunlunはマルチBAイヤフォンを念頭に入れて設計していると思う。その点でもDAPの延長として使うことができる。

Fathomで先のツェッペリンを聴くと体を揺らしたくなるようなスピード感がまた蘇ってくる。またしても一曲聴き通したくなる魅力がある音だ。

ジャズヴォーカルの村上ゆき「Bang Bang」を聴くと、声の明瞭感がとても高く、銃声を表すバンバンというフレーズが歯切れ良く、心地よい。鋭いギターのピッキング、深みのあるウッドベースのピチカートともシャープに再生できる。しかもやはりスピード感が高く、躍動感がある。

YOASOBI「アイドル」でもスピード感の高さを堪能できる。複雑な曲だが、声も打ち込みサウンドもくっきりと分離されていて歌詞も聴き取りやすい。

AKのDAP「PD10」と接続し、本領発揮

Astell&KernのDAP「PD10」とも接続してみた

次にDX5IIでは解像力が物足りなかったので、AKMフラッグシップクラスの高性能DACを採用したAstell&Kern「PD10」を専用ドックでKunlunと接続してみた。この専用ドックはXLR端子なのでPD10本体をXLRモードにして、DX5IIと同様にXLRケーブルで接続する。

PD10の専用ドックを使い、XLRでKunlunと接続

ヘッドフォンは再びPeacockを使ったが、この音には驚かされた。まさにKunlunの本領発揮ともいうべき高精細で情報量豊かなサウンドが洪水のように押し寄せてくる。さきほどのDX5IIで感じた解像力の物足りなさはなくなり、まるで据え置きの巨大なハイエンドDAPで聴いているかのような、クリアでシャープ、かつ迫力のあるサウンドが楽しめた。

そしてこの組み合わせならばPD10をネットワークプレーヤーとして使うことができるので、Apple Musicでストリーミングを聴くことも簡単にできる。もちろん内蔵音源をNeutron Playerなどの高音質音楽再生アプリに切り替えても楽しめる。

PD10をネットワークプレーヤーとして使うこともできる

ここまで本格的ではなくとも、Kunlunにはステレオミニ→RCAのケーブルが付属してくるので、どのDAPでもこうした使い方は可能だ。そこでiBasso「DX260」とこのケーブルで試してみたが、さきほどの「PD10+専用ドック+XLR接続」ほど本格的ではなくとも十分すぎるほど音が良い。とてもクリアに再生でき、パワフルなアンプの魅力は十分に伝わってくる。

まずは手持ちのDAPとこの組み合わせから試してみるとよいだろう。ケーブルに小さいDAPを繋いでリモコンのように使うのも面白い。これで「ポタオデの据え置きシステム」が完成できる。

iBasso「DX260」と接続

音を解き放つアンプ

Kunlunは、単なる「高出力な据え置きヘッドフォンアンプ」ではない。

低い出力インピーダンスと潤沢な電流供給能力、そしてGaNトランジスタを用いた出力段による高い制御性は、ヘッドフォンという負荷を極めて正確にドライブするための、いわば現代的な解答と言える。

とくに平面型ヘッドフォンを鳴らした際に感じられる、音の立ち上がりの速さや、不要な余韻を引きずらないキレの良さは、スペック以上にこのアンプの設計思想を雄弁に物語っている。音は力強いが粗さはなく、密度は高いが息苦しさもない。

興味深いのは、こうした特性が据え置き環境だけでなく、PD10のようなハイエンドDAPと組み合わせた場合にも、はっきりと意味を持つ点だ。DAPの音質が成熟しきった今、Kunlunは「音を変えるアンプ」ではなく、「音を解き放つアンプ」として機能する。

高性能DAPをさらに使いこなしたい、あるいは平面型ヘッドフォンの本領を引き出したいと考えているユーザーにとって、Kunlunは非常に魅力的な選択肢となるだろう。

佐々木喜洋

テクニカルライター。オーディオライター。得意ジャンルはポータブルオーディオ、ヘッドフォン、イヤフォン、PCオーディオなど。海外情報や技術的な記事を得意とする。 アメリカ居住経験があり、海外との交流が広い。IT分野ではプログラマでもあり、第一種情報処理技術者の国家資格を有する。 ポータブルオーディオやヘッドフォンオーディオの分野では早くから情報発信をしており、HeadFiのメンバーでもある。個人ブログ「Music To Go」主催。http://vaiopocket.seesaa.net