プレイバック2015

8Kモニターの衝撃と「ラズパイ・オーディオ」 by 海上忍

 新製品発表会やら内覧会やら、仕事柄世に出る前の製品を目にする機会は多い。当然、いいモノを見れば欲しくなるが、予算が無限にあるわけでなし、ましてや非売品・超高額品となると……2015年に出会った印象深い製品のうち“レア”なモデルについて、画と音の各ジャンルで1製品をピックアップしてみたい。

 まずは画のほうから。2015年はいよいよ4Kが普及フェーズに入ったことを実感させた年であり、なかでも東芝「Z20Xシリーズ」は高い完成度に圧倒されたが、自分が心底欲しいと感じたモデルは「8K」だった。シャープの85型/8K液晶モニター「LV-85001」がそれだ。

シャープの8Kモニター「LV-85001」(写真は11月に栃木工場を見学したときのもの)

 これまで8Kテレビは数年来のNHK技研公開で繰り返し見ているし、クアトロン・プロの技術で4Kパネルながら8K相当解像度を得る「AQUOS 4K NEXT」で8Kの世界観を知ったつもりではいたが、このリアル8K/85インチは予想以上に別次元。高精細ならではの立体感・奥行き感は、肉眼で見なければわからない。聞けば、パネルはIGZOで高開口、バックライトは直下型のローカルディミング、ピーク輝度は1000nitとHDR対応もしっかり。

 この画面で大好物の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を見ればさぞや……と思ったが実売価格は1千数百万円とのこと。無理に買えば「価格マックス 悲しいデス・老後」になりかねず、諦めざるをえない。東京オリンピックまでに手が届く価格帯へ降りてくることを、ただひたすら祈るばかりだ。

 音のほうは、非売品をチョイス。今年は「ラズパイ・オーディオ」と称し、シングルボードコンピュータ「Raspberry Pi」でハイレゾ再生を行なう取り組みをあちらこちらで喧伝していたのだが、そのラズパイから「DDFAリファレンスアンプ」へI2S出力して聴いた音は予想の遙か上を行っていた。そもそもDDFAは性能に優れる(内部には35bit処理のDSPが搭載されているなど)D級アンプであり、再生機たるRaspberry PiからI2Sで出力すればフルデジタルで最終出力段に到達できるのだ。

CSRのDDFAリファレンスアンプに、Raspberry PiをI2S接続したところ

 その出音は「鮮烈」のひと言。音場感、定位感、スネアのキレ、ベースの沈み込み、ストリングスの艶と余韻、どれをとっても他の入力経路で聴いたときとの印象と異なる。Raspberry Pi向けには、I2S入力に対応したDAC/ヘッドホンアンプなど拡張ボードも販売されているが、駆動力を備えたアンプを通しスピーカーで聴くほうが断然テンションは上がる。

 ちなみに、DDFAリファレンスアンプでI2S入力という話は、他媒体の連載企画で偶然出た話。そもそもI2S入力には対応していなかったが、DDFA開発元であるCSRの担当者にムリを言って改造してもらったといういわくつき(?)の品。不遜な物言いではあるが、"オレさま仕様"の特別機なのだ。

 なんとしてでもアンプを手もとに置きたくなったが、開発用の非売品でありどうにもならない。ラズパイ自体は5千円程度で、I2S出力に対応させることも容易いが、そこから先の(フルデジタル/I2S対応)アンプがない状況は続いている。これは、なんとかせねば。

 執筆からコーディング、表紙デザインまで完全自作の電子書籍を2冊も出してしまうほど情熱的に取り組んだ「ラズパイ・オーディオ」、来年は……Dragon Boardという強力なシングルボード・コンピュータも出現することだし、自分が覚えた興奮をより多くのオーディオファンに体感していただきたいと決意を新たにしている。仕掛けていくので、ぜひ応援のほどを!

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海上 忍

IT/AVコラムニスト。UNIX系OSやスマートフォンに関する連載・著作多数。テクニカルな記事を手がける一方、エントリ層向けの柔らかいコラムも好み執筆する。オーディオ&ビジュアル方面では、OSおよびWeb開発方面の情報収集力を活かした製品プラットフォームの動向分析や、BluetoothやDLNAといったワイヤレス分野の取材が得意。2012年よりAV機器アワード「VGP」審査員。