プレイバック2016
オデッセイやシン・ゴジラ、ズートピア。気に入った今年の映画をふり返る by 編集部:庄司
2016年12月22日 09:30
今年は「映画館で観たい」と思った映画作品が多く、筆者はいつになく映画館に足繁く通った。その中で特に気に入った作品を、洋画・邦画・アニメ(海外・日本)から1本ずつ振り返ってみたい。
絶体絶命!? ひとりぼっちの火星から脱出図る「オデッセイ」
火星でロケを敢行してきたのか? と見まがうほど、リアルな地表の映像が印象的だった「オデッセイ」。今年登場した新しいパッケージメディア Ultra HD Blu-ray(UHD BD)で発売されたタイトルのひとつとして記憶している読者も多いだろう。
冒頭のワトニーの治療シーンは鮮明な血の色や傷跡が痛々しく、自分の腹を押さえながら観ていたが、生き抜くための前向きな試行錯誤の数々、その手があったか! と思わせる救出劇の展開から目が離せなかった。地上スタッフとして見守っているような気持ちで、エンディングを迎えると思わず肩の荷が下りたようなため息を漏らしてしまった。
宇宙でのサバイバルや地上スタッフの懸命の支援を、科学的根拠に基づきながらドラマチックに展開させるところは、かつて観た映画「アポロ13」を思い出す。あちらの到達目標は月だったが、今回は火星。しかもすでに着陸及び探査が進んでおり、宇宙大国としての地位を着実に固めている中国の影響力が地上側での物語に大きく関わってくる。技術の進化や時代背景の変化を感じさせられた点も印象的だった。
人々を恐怖に陥れた怪獣が現代に蘇る。「シン・ゴジラ」
'17年3月にUHD BD /BD/DVDの発売が決定した「シン・ゴジラ」。以前、「個人的に今年最高のエンターテイメント作だ」と書いた筆者は、すでに購入を決めている。ゴジラに対して、国連軍による首都空襲という「力」でねじ伏せるか、活動エネルギーに着目した巨災対の「知恵」で被害拡大を食い止めるか、“この国”と“かの国”のゴジラに対する有り様が面白い。
近所の映画館で初回上映を観て圧倒されてしまった後、気づかなかった描写や細かいポイントを確認すべく、新宿TOHOのTCXや品川のIMAXシアターに何度か足を運んだが、これからは家でゆっくり見られるのが楽しみだ。音声が制作側の意向であえて3.1ch音源となっている点は、劇場では音に迫力があるのであまり気にならなかった。とはいえ自宅で鑑賞する際は大きな音が出せずヘッドフォンを使うことになるので、BDにはサラウンドバージョンの音が用意されていたら、と思わずにはいられなかった。残念ながらBDの音も3.1chのままである。
シン・ゴジラの制作の一端を担ったスタジオカラーは既に「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の制作に意欲を見せている。来年のTVアニメ「龍の歯医者」も含め、今後もカラーの作品から目が離せない。
圧倒的“もふもふ感”を高画質で。見かけによらず社会派な「ズートピア」
「ディズニー映画でこんなに社会派な作品あったっけ?」と思ってしまうほど、コミカルな物語の中で現代社会の闇を浮き彫りにしたのが驚きだった「ズートピア」。子ども向けアニメにありがちな動物キャラがいっぱい出てくるだけの作品だと思っていたら、全く趣が異なっていて、いい意味で裏切られた。
草食動物と肉食動物が手を取り合って生きる動物の楽園“ズートピア”の真の姿は、保守的な価値観や偏見が渦巻き、まるで人間社会の縮図のよう。その中でジュディは幾度も壁にぶち当たり、彼女の相棒となるニックは差別に満ちた悲しい過去の思い出を抱えて過ごしている。
キャラクターの造形は、実際に動物を観察して固有の特徴を忠実にキャラクターの挙動やスケールに落とし込むこだわりようで、ズートピアの都市構造を見てもそれぞれの生態にあわせた空間づくりになっている。細かく見ていくと初見では気づかなかった発見がたくさんある。動物の毛並みや表皮の再現がとても忠実で、特にうさぎの毛の“もふもふ感”はまるで本物のようだ。
コマ送りで見たいシーンもあり、配信ではお目にかかれない未公開映像、当初の構想などの特典映像・資料なども気になったので、久々にBlu-rayを発売日に購入した。最近はあまり買っていなかったが、こうした特典の充実ぶりはBDソフトならでは。まだ映像配信サービスにはない強みだと改めて感じた。
ポップでスピーディ、ハッピーエンド。新海誠監督の新境地「君の名は。」
シン・ゴジラを抜いて記録的な興行収入を打ち立てたアニメ映画「君の名は。」。新海誠監督といえば「秒速5センチメートル」や「雲のむこう、約束の場所」などのリアルで美しい背景美術もそうだが、文学的とも言えるストーリー構成や結ばれない男女の描き方が個人的に気に入っていた。
それと比べて今作は、飛び抜けてポップでスピーディな展開、さらに三葉と瀧が結ばれる予感を抱かせるハッピーエンドの合せ技という新境地を見せてくれた。RADWIMPSの主題歌「前前前世」を含むオリジナルサウンドトラックがハイレゾ配信などで売れ続け、長らく週間ランキングの上位にいたことも記憶に新しい。もちろん筆者も購入して、ひと頃毎日のように聴いていた。
東京・新宿や岐阜・飛騨をモデルにしたと思われる糸守町の町並み、夜空を滑るように飛んでいく彗星のシーンは何度観ても素晴らしく美しい。一方で、「秒速」や「雲のむこう」のような“ビターエンド”を少し期待していた筆者としては、素直に明るい未来を予感させつつの終劇が意外だった、というのが正直な感想だ。それでも気に入った作品であることに変わりはない。年明けにはIMAXシアターでの上映も決定しており、また劇場に足を運ぶことになるだろう。
番外編:この世界の片隅に
ここまで4作をふり返ったが、番外編としてアニメ映画「この世界の片隅に」についても触れたい。
クラウドファンディングで制作費を集めた点が今風で注目された本作だが、作中で描かれるのはまぎれもない日本の過去。絵を描くのが好きで、どこか天然な性格の主人公・すずの視点で、今は失われた広島や呉の町並みや風景、台所や畑仕事など日常の様子を淡々と描いていく。鑑賞後にこうの史代の原作コミック(電子版)を購入したが、絵本のような柔らかい線で描かれた原作がきわめて忠実に映像化されていることに驚いた。
”戦争の悲劇”をドラマチックに描く作品では無い。物語は1945年の玉音放送のあたりで終わりを迎えるが、広島中心部から離れた呉に住むすずに原爆の被害はないので悲壮な終わり方にはならない。むしろ、物語の始まりと終わりに登場する山男を始め、くすりと笑えるシーンのほうが多い。全体として明るいタッチなのだが、それだけに時折訪れる辛く悲しい場面には胸に突き刺さるものがあった。
当時呉に入港していた軍艦・青葉を始め、大和や日向、飛鷹、準鷹といった旧日本海軍の主要艦も作中でしっかり描かれ、物語では特に青葉が重要な立ち位置を占めている。マニアックな見方もできる要注目作だと思う。
終わりに
1年に5本も気に入った映画作品があるというのは、個人的には異例だ。普段はあまり映画館に行ってまで観たいと思うことは少ないのだが、今年は特に「これは映画館で観たい」と感じたタイトルが多かった。
ひとつハマると繰り返し観に行くため、気になりながら劇場では観られなかった作品も多い。その中で「デッドプール」は既にBD化したが、「ハドソン川の奇跡」は年明けに発売予定。これらは後々レンタルで見るつもりだ。来年も劇場で観たくなる映画作品と出会えることを、今から楽しみにしている。