|
|
オーディオの将来を考える「1ビットフォーラム2002」が開催
―パイオニアが1ビットファイルフォーマットや、プレーヤーを展示
|
|
|
|
|
開催日:11月5日~6日
場所:早稲田大学 国際会議場
|
1ビットデジタルオーディオ技術の発展と認知の向上を目的とした「1ビットフォーラム2002 国際シンポジウム ~オーディオと文化~」が5日と6日の2日間、東京・早稲田大学の国際会議場で開催された。主催は1ビットオーディオコンソーシアムと早稲田大学空間科学研究所。
同シンポジウムは、「高速標本化1ビット信号処理方式」によるデジタルオーディオを推進する1ビットオーディオコンソーシアムによるもの。2001年に第1回がオーディオエキスポ会場内で開催された。会場では、1ビットデジタルに関する各種研究テーマやデモシステムの発表が行なわれたほか、1ビット技術を使用した各社の関連部品、モジュール、製品なども展示された。また、会場内の井深大記念ホールでは各企業や大学教授、エンジニアなどが1ビット技術についての講演を行なった。
【展示内容】
|
「DV-S747A」を改造した1ビットプレーヤー。SACDデコーダの代わりに、1ビット用のデコーダを搭載しているという
|
パイオニアは、PC、またはDVD/CDプレーヤーなどで1ビットオーディオを再生するための共通ファイルフォーマット「WSD(ワセダ・ストリーム・デジタル)」を開発した。また、収録済みの1ビット音源をディスクに作成するためのオーサリングソフトと、作成したディスクを再生するプレーヤーの試作機も公開した。
WSDフォーマットのファイルシステムはISO9660に準拠し、現段階ではDVD-R/RWへの書き込みが可能。将来的には他のメディアもサポートするという。ファイル全体の構造は、テキストデータを含むヘッダ部分と、1ビットのデータのみとシンプルで、PackやPacket化をする必要はない。サンプリング周波数や、音声のチャンネル数を限定しないという特徴を持っており、チャンネル数を増やした場合でも1曲1ファイルで作成できるという。なお、作成されたファイルの拡張子は「WSD」となる。
|
|
|
試作されたWindows用のオーサリングツール
|
WSDファイルは、通常のDVD-R/RWに書き込み、試作機で再生することができた |
音楽ファイルにはタイトルや作曲者、演奏家などのデータを入力でき、メニュー画面で選択して再生することが可能
|
試作機の段階では、サンプリング周波数は2.8MHzと1.4MHzの2種類しか選択できないが、将来的にはHz単位でユーザーが任意に設定できるという。また、チャンネル数も限定していない。現段階では、個人が1ビットソースを作成することは困難だが、将来的には個人録音での使用も想定しているという。また、1ビットオーディオコンソーシアムのWebサイトでは、1ビットで録音した音楽データを掲載する予定もあるという。
|
|
|
シンプルなファイルの構成。サンプリング周波数やチャンネル数などのデータを書き込むこともできる
|
現時点では2種類のみだが、フォーマット的にはサンプリング周波数は限定していない
|
ファイルフォーマットと試作機の仕様の比較
|
ほかにも会場には、各社の1ビットデジタル技術を使用した製品、部品を展示していた。中でもUSBで1ビットデジタルデータを伝送するシャープのデジタルアンプや、コーン型のユニットを使用した、エッジもダンパーも無い電磁誘導型超伝導スピーカーなどが注目を集めていた。
|
|
|
シャープのブースでは、1ビット技術を使用したコンポや液晶テレビなど、既に発売済みの製品を一同に展示した
|
タイムドメインスピーカーを5台使用したマルチチャンネルシステム。アンプはシャープの「SM-SX200」を3台使用
|
シャープの別ブースでは、USBで1ビットデータを伝送するデジタルアンプを参考出品していた。USB 1.1に対応し、転送レートは2.8Mbps×2ch。また、同1ビットデータをOPi.LINKで伝送するアンプも参考出品していた。こちらは4ch以上のマルチチャンネルにも対応できるという
|
|
|
|
早稲田大学の山﨑研究室とヤマハが開発した、IEEE 1394を使用した1ビット伝送システム。専用チップの開発により、8chに対応している。長距離リピータを使用し、500mの伝送距離を実現したという
|
同じく山﨑研究室が'94年に開発した、PCカードメモリに記録する1ビットレコーダ
|
シャープの組み込み用1ビットアンプユニットの試作機。基板サイズが50×50mm(縦×横)というコンパクトサイズながら、出力は10W×2ch。主に液晶テレビなどに搭載するという
|
|
|
|
呉羽化学工業が開発した波状高分子圧電スピーカーユニット。電圧をかけると伸び縮みする性質を持つ「KFピエゾフィルム」という薄いフィルム素材を使用し、呼吸するように音を放射するという。レスポンスが早いのが特徴で、ツイータ、スコーカに加え、ウーファも制作可能。来年の発売を目指しているという。
|
エッジもダンパーも無い電磁誘導型超伝導スピーカー。ボイスコイルを超伝導の1ターンリングで構成し、給電を誘電型とすることで振動部分を独立させ、エッジ・ダンパーレスを実現。振動体は「ピン止め効果」により空中に浮いている。従来のコーン型ユニットと比べ、10倍以上の高効率を実現したという。液体窒素による冷却が必要なものの、超電動状態は10分以上継続し、音楽を聞くこともできた。「現在の一般的なスピーカーの電気音響変換効率は0.1%以下であることを考えると、日本中のスピーカーをこのシステムに変えるだけで、発電所2個分の電力を浮かすことができる」という
|
【講演内容】
|
「耳を良くするために、小学校の校舎の構造や授業カリキュラムを見直しても良いのではないか? 」など、ユニークなアイデアを織り交ぜながら語る白井早稲田大学総長
|
講演の最初に挨拶に立った白井克彦早稲田大学総長は「CDの出現により、音楽の大量生産、大量消費の時代がやって来た。しかし、音楽を文化として考えるなら、現在のこうした状況は正しいことなのだろうか?」とした上で、1ビットデジタルという新しい技術への期待を示した。
さらに、今回のフォーラムの意義について「大量生産、消費のメディアも良いが、本物の文化を継承できるテクノロジーを開発し、新しい音楽録音、再生の方向性を探る必要がある」と語った。
|
中島氏は現在「ゆらぎ」に興味を持ち、研究を進めているという
|
中島平太郎 前JAS会長は「オーディオにかける夢」と題した講演を行なった。同氏は「音楽の最も重要な“ゆらぎ”の要素が、人間の呼吸や心拍といったものと酷似しており、感動を与える要因になる」と語り、機械の持つゆらぎを排除しつつも、音楽の持つゆらぎを残さねばならないという考えを示した。
また、いつか叶えたい夢として「聞く人の体調や再生する部屋、システムの状態を察知し、再生音にフィードバックするオーディオ装置」や、「レコーディングスタジオから自分の体調や部屋、オーディオシステムに合ったデータを直接購入できるプリペイドシステム」など、多彩なアイデアを披露した。
|
|
音楽の持つゆらぎは、人間の体のゆらぎと似ており、感動につながるという
|
ピラミッドの頂点4点にマイクを設置するというアイデアも披露した
|
レッドローズミュージックCEOのマーク・レビンソン氏は、オーディオ界の現状について「沢山のスピーカー、アンプ、プレーヤー、それに繋がるケーブルの山……。そうした複雑で高度なシステムを持っている人が多くても、音楽を楽しむという一番重要な夢を実現している人はほとんどいない」とし、現在の主流となっているPCM方式に問題があると述べた。
同氏によると、これは再生音によって「心」や「ストレス」の問題が発生するためで、「突き詰めれば、日本で言うところの“気”の問題である」とのこと。素朴で自然、そして「気の入った音」を取り戻すために、1ビットは有効な技術だという。彼は今後も抽象的な問題を具体的に研究し、音楽の持つ“気”を再生できるシステムを提供していきたいと抱負を語った。
|
|
現在のオーディオの問題点をユーモアを交えて語るマーク・レビンソン氏の講演は、常に笑いが絶えなかった
|
レビンソン氏は観客をステージに招き、現在のCDが持つ問題を明らかにする実験を行なった。観客が水平にした腕を、彼が下に向かって押すという簡単なものだが、通常のCDを再生しながら行なうと、簡単に腕は下に下がってしまう。しかし、SACDを再生すると、腕は下に下がらない。これは、問題のある音楽を聞くことで体にストレスがかかり、筋肉が弱まるためだという
|
|
|
|
講演には、ストラディバリウスソサイティのチェアマン、ジェフリー・フシ氏も登場。彼のソサエティから援助を受けているバイオリニストの神尾真由子さんも生演奏を披露した。演奏にはサントリーから借用したバイオリンの名機「ストラディバリウス」が使用され、その場で1ビットでデジタル録音された。また、ジェフリー・フシ氏はその音源を使用して、高価なバイオリンと安価なものとの違いがわかるかどうか、観客にブラインドテストを実施。会場を沸かせていた
|
1ビットオーディオコンソーシアムの代表であり、早稲田大学の教授でもある山﨑芳男氏。彼は1ビット技術の研究のみならず、国内外で数々の演奏を1ビット録音しているという
|
□1ビットフォーラム2002のホームページ
http://www.acoust.rise.waseda.ac.jp/1bitcons/1bitforum2002/1bitforum2002.html
□1ビットオーディオコンソーシアムのホームページ
http://www.acoust.rise.waseda.ac.jp/1bitcons/
□関連記事
【2001年10月5日】オーディオエキスポ2001会場レポート その4
【各種フォーマット編】恒例のデモディスク配布を行なっているDTS、ほか
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011005/auex4.htm
(2002年11月6日)
[yamaza-k@impress.co.jp]
|