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【11月30日】 【11月29日】 【11月28日】 |
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全世界で5億ドルの興行収入を記録した大ヒット3DCGアニメ「ファインディング・ニモ」のDVDが、ブエナ・ビスタ・ホームエンターテイメント(ブエナ・ビスタ)から6月18日に発売される。なお、既にお伝えしたように、初回出荷が「千と千尋」と並ぶ300万枚を達成しており、注目度は非常に高い。
なお、通常版(2,940円)とコレクターズ・ボックス(15,750円)の2種類を用意するが、人気の高さを反映して、コレクターズボックスは既に予約完売の店舗が多数。購入が難しい状態になっているという。 どちらも本編と特典ディスクを収録し、豊富な特典映像を収録。ニモの声を演じたアレクサンダー・グールド君が、ピクサーのスタジオを探索しながら、映画制作の舞台裏を紹介するメイキングも収録する。 さらに、海洋科学者のジャン・ミッシェル・クストーが、劇中のキャラクターと共に海の生き物を紹介する「素晴らしきサンゴ礁」や、「エイ先生のおさかな図鑑」、魚たちの出すシルエット・クイズが楽しめるゲームコンテンツなども収めており、ニモファンには見逃せない仕様になっている。 また、ピクサーの作品は「モンスターズ・インク」など、3DCGならではの高画質も魅力。ニモ達が暮らす海の世界がどのような画質で収録されているかは、AVファンにとっても気になるところだ。
そこで、DVDの見どころについて、ピクサーの編集&ポストプロダクション シニア・マネジャーのビル・キンダー氏にお話を伺った。さらに、スタジオ・ジブリでDVD製作を担当している映像ソフト制作 チーフディレクターの川端俊之氏にも同席していただき、日米のアニメーションDVDを代表する両氏に、DVD製作の舞台裏を語って頂いた。
■ 特典コンテンツは誰が決めているのか? ―まず、おふたりがDVDの製作を担当するようになったキッカケを教えてください。
キンダー:私はもともと映画制作の中でポストプロダクションや編集関係に携わっていました。そのため、使わなかった素材も含めて、どの作品にどんな素材があるかを把握しています。その能力を生かすということで、DVD製作にも参加するようになりました。
ピクサー作品のDVDは「バグズ・ライフ」から携わっていますが、デジタルで制作した映画をデジタルでマスタリングし、劇場で見たものをそのまま家に持って帰れるということに大きな喜びを感じています。
川端:キンダーさんのお話を聞いていて、僕と似たような流れだなぁと思いました。僕も、もともとは映画本編の制作に参加していて、素材やスケジュールの管理などを行なっていました。そのため、ブエナ・ビスタさんと協力してDVDを作るという話になった時、作品ごとの素材を把握しているのでDVD担当になったんです。 ―おふたりとも、作品の制作工程や素材を把握してらっしゃることがキッカケだったのですね。素材などは特典コンテンツで使われるわけですが、特典の内容はどのように決められているのですか? キンダー:ピクサーでは、どんなことでも皆で相談して決めるというのが基本方針で、特典コンテンツについても同じです。「ファインディング・ニモ」の特典に関しては、映画に携わった700人ほどのスタッフ全員に「DVDの特典のアイデアを出して欲しい」とメールを送り、数百通の返事をもらいました。 ―その中から良いアイデアを選別したというわけですね。 キンダー:ええ。しかし、選別する基準は、そのコンテンツが映画で描こうとしている世界やキャラクターのイメージをより大きく広げるものか、作品の背景をより深く理解する手助けになるかということを念頭に選んでいます。それと、もちろん監督が持っているビジョンに沿ったものかどうかというのが最終的な判断基準になります。
川端:ジブリの場合は少し違いますね。ジブリには鈴木敏夫という総合的なプロデューサーがいて、彼の判断によるところが大きいです。宮崎監督はDVDなどのパッケージメディアにあまり頓着しないタイプですので……。特典のアイデアを出したり、DVD制作に携わるスタッフは少数なので、ピクサーの状況を伺うと羨ましいですね。 ―宮崎監督はあまりDVDに興味がない? 川端:DVDがどうと言うよりも、携帯電話やパソコンなど、新しい機械が嫌いなんです。もともと「映画は映画館で観て欲しい」という考えの人でもありますので。そういう意味でDVDの特典コンテンツなどに監督が直接関与することはほとんどありませんね。 ―ジブリDVDの特典と言えば、絵コンテと本編映像の比較が特徴的ですね。
川端:絵コンテ映像は、DVDを出す時に、ピクサーのジョン・ラセターさん(※)から「ぜひ入れて欲しい」と言われて作り始めたんです。しかし、実際にやってみると大変な作業で、撮影と編集スタッフ5、6人が、2カ月くらいかけて完成させました。
もともと彼らには映画の方の仕事もありますので、作業の合間を縫ってという感じでした。映画の方のスケジュールが忙しい時にDVDの作業をしているところを宮崎監督に見つかると「勝手にしろ」みたいなことを言われてしまったり(笑)。 ―特典のアイデアは川端さんが考えていらっしゃるのですか? 川端:そうですね。色々なアイデアを出して、上から了解をもらうと実行できるという感じです。コンテンツの選択基準としては、もちろん、お客さんに喜んでもらうものを入れるという事が第ーですが、それ以外に自分達スタッフが時折閲覧する「作品の資料」にしたいという気持ちもあります。絵コンテや予告編などは元の素材がスタジオにはありますが、DVDのほうが気軽に見れますので。 ※ピクサーの上級副社長で、「ファインディング・ニモ」エグゼクティブ・プロデューサー。スタジオ・ジブリとの交流が深く、宮崎駿監督の友人でもある。
■ ニモのDVDは、海の色に注目 ―「モンスターズ・インク」では、鮮やかな発色や、サリーのフサフサした毛の描写がAV機器の再生能力を判断するテストなどにも使われました。今回の「ファインデング・ニモ」のDVDの映像は、どんな点にこだわりましたか? キンダー:今回は海を舞台にした作品なので、海の色の再現にこだわりました。特に黒から青にかけてのグラデーションが美しいのですが、そのままMPEG-2にエンコードすると、色が上手く出ないのです。そこで、エンコードエンジニアが絶妙な調整をほどこして、淡い色も再現しました。 ―音響面はどうですか? キンダー:DVDの再生環境を意識してミックスを行なっていますが、ニモに関しては劇場用の音を、ほぼそのままDVDに使っています。ハイレベルなホームシアターで観てももちろん楽しめますし、モノラルのテレビで見てもセリフとBGMのバランスが崩れないように仕上げています。 川端:ジブリ作品でも、音響は基本的に劇場のものと同じです。大きな映画館と家庭ではやはりミックスのバランスも変えたほうが良いとは思いますが、家庭のDVD再生環境も千差万別なので難しいところです。サウンドデザインという点では、宮崎監督はアニメーター出身の人なので、マルチチャンネルのサラウンド音響に対するこだわりはそれほど強くないかもしれませんね。 ―ジブリ作品の映像へのこだわりなどはありますか? 川端:最近の作品は、元のデータは同じですが、フイルムで上映する場合とDLPで上映する場合、ソフト化する場合で条件が異なりますから、映像面は撮影監督にまかせています。ナウシカやラピュタなど、古い作品をDVD化する時は、傷やゴミを修正するのが大変ですね。今の技術ではかなりのことができてしまうので、それこそ、修正しはじめるとキリがなくなってしまうんです(笑)。 ―DVDでは、2層目への切り替え点を設けなければなりませんよね 川端:どこで切り替えるかというのは私が決めているのですが、作品によってはちょうど良い場面で切り替え点が見つからないこともあり、非常に難しい問題ですね。 キンダー:私もまったく同じ苦労をしています(笑)。切り替えポイントを最適な場所に持ってくるために、難しいパズルをやっているような気分になることもあります。 ―ブルーレイディスクやHD DVDなど、大容量の光ディスクも登場しつつありますが、現在のDVDへの不満はありますか? キンダー:容量が増えるのは良いことだとは思いますが、何らかの制約がないと作業ばかりが際限なく増えてしまい、飽和してしまうと思います。そういう意味で、現在のDVDの容量に不満はありません。容量が不足しても2枚組みにするなどして対応できますし。 川端:そうですね、制約があったほうがかえって良いかなぁと思います。むしろ、現在のDVDは規格が曖昧な部分があって、初期に発売されたDVDプレーヤーでは再生できないソフトがあることのほうが問題だと思います。
■ デジタルアニメーションの今後 ―AV機器のデジタル化も進んでいますが、ソースであるアニメーションにもデジタル化の波は押し寄せています。デジタルという技術を取り入れた今後のアニメーションは、どうなっていくとお考えですか?
川端:デジタル化自体は悪いことではないと思いますし、今のアニメはデジタルと切っても切り離せない関係にあります。そういう意味では、2Dか3Dかという話になると思います。
ジブリも参加した押井守監督の「イノセンス」では、3DCGを使って、もはや実写にしか見えないようなクオリティの映像を実現しています。個人的には、3Dになると実写の情報量にはかなわないし、少しおかしな部分があっても、それが強烈な違和感に繋がってしまう。けれど、2Dのアニメでは、あえて省略して描いても違和感なく何かを表現できる。そういう意味で、2Dならではの表現方法は、まだまだ残っていると思います。 キンダー:そうですね。ピクサーがたまたまビジネス的に成功していることで、よく「3Dが次世代のアニメになるに決まっている」という思い込みをしている人がますが、私に言わせればとんでもない話です。例えば「千と千尋」のように、2Dであっても素晴らしい作品が作れる。その作品が素晴らしければ、それが3Dである必要などないと思います。 川端:技術と表現方法の関係という意味では、ピクサーさんは3Dの技術進歩に合わせて、最初はオモチャを主人公にした映画を作り、フサフサの毛を表現できるようになると、それをサリーの体毛の表現に生かしたり……技術の進歩を作品作りの中に効果的に取り入れている。新作を観るたびに、凄いなぁと感心させられます。 キンダー:ありがとうございます。ただ、3DCG技術はあくまで要素の1つと考えています。素晴らしい映画には素晴らしい技術が必要なのではなく、それがいかにイマジネーションを喚起できる作品かどうかが問題になると思います。子供達に「2Dのアニメが見たい? 3Dが見たい? 」とは聞きませんしね。 ―DVDソフトについてはいかがですか?
キンダー:DVDソフトにも、まだ進化の余地が沢山あると思います。もっと観ている人との双方向性を生かしたコンテンツも作れるでしょう。アイデア次第といった感じですね。
例えば、ニモのDVDではメニュー画面のバックに、水槽で泳ぐ魚達の映像が入っているのですが、メニューの文字やボタンを隠すことで、あたかもテレビが水槽になったように見えるんです。 川端:これは面白いアイデアですね! キンダー:新しい技術を使っているわけではありませんが、工夫次第でDVDにはまだまだ面白い可能性が秘められていると思います。ニモのDVDで、その可能性も感じてもらえると嬉しいです。 ―両スタジオの今後の映画、DVDに期待しております。本日はどうもありがとうございました。
「ファインディング・ニモ」が世界的にヒットした理由は、3DCGのクオリティやキャラクターの可愛らしさだけではない。「それらはあくまで要素の1つ。技術は重要だが、ストーリーを含め、全体が作品として面白いかどうかがすべてだ」とキンダー氏は語る。ある意味「当然のこと」なのだが、技術に踊らされることなくその信条を実践し、成功を収めた彼の言葉には、確かな自信と迫力が感じられた。 また、川端氏も制作に携わっているスタジオ・ジブリの新作「ハウルの動く城」でも、CGの使用量は「千と千尋」よりも増えているという。「新しい機械が苦手」という宮崎監督も、それが自らの作品の完成度を上げるものであればきちんと取り入れる。現在のアニメーションと未来のアニメーションを引っ張っていく、日米2大スタジオの強みは、こうした映画の本質を見失わない姿勢にも現れているようだ。
□ブエナ・ビスタのホームページ
(2004年6月11日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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