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株式会社東芝は15日、机の上などに水平に設置した画面から立体的な映像を表示するディスプレイ技術を開発したと発表した。正面から斜め下に見下ろすと裸眼でも数cm浮き上がった映像が見られることから、アーケードゲームや教育展示、電子書籍、飲食店の電子メニューなどへの展開を想定。次世代テレビへの活用も予定しているという。 新たに開発された技術は、特殊な眼鏡などを使用せず、裸眼で立体像が見られる。具体的には液晶などのディスプレイの表面に微小なレンズを並べたフィルムを貼り、光の進行方向を制御できる表示パネルを作成。見る角度に応じた映像を作り出すソフトウェアを介して表示を行なうことで、中心から左右15度ずつ、計30度の角度で立体像が見える。
裸眼立体映像表示技術は、右目用と左目用の2種類の異なる平面映像を見せ、立体であると錯覚させる「多眼式」が主流となっているが、この方式は見ている目の位置をあらかじめ決めて、そこに仮想物体の画像を投写することから、視差数を2、4と増やしていっても、見えにくく、不自然で、頭を動かすと映像がちらつくなどの問題があった。 今回開発されたのは、目の位置にとらわれず、仮想物体からあらゆる方向に拡散される光そのものを再現するというもの。例えば缶ジュースの缶を一定間隔で並んだ複数台のカメラで多方向から撮影。そのデータを専用のミドルウェアで特殊なパターンに変換し、表示用の映像を作成。カマボコ型のレンズを多数配列した「レンチキュラフィルム」を貼ったディスプレイで表示すると、撮影した方向に基づいて12~16の視差が発生。中心から左右30度に頭を動かしても、缶が立体的に見える。 表示している映像は静止画を浮き上がらせているだけではなく、多方向から見た際の映像情報を持っているため、例えば缶の右側面の文字を見て、頭を反対側に持っていくと、右側面を見ていた時には見えなかった左側面の文字が見えるといった現象が再現可能。ただし、視点の移動は横方向のみで、上下の移動には現在の段階では対応していない。同社ではこの技術を「インテグラルイメージング方式」と名付けている。
また、視差数が増え、立体像がより自然に見えるという違いだけでなく、高画質化も実現。RGB画素配列を最適化することで、水平方向の解像度を約3倍に増やし、高精細な表示が行なえる。光線制御も輝度が数分の1に低下する従来のバリア方式と比べ、レンチキュラフィルムを使って輝度が低下しない独自技術も開発したという。
さらに、従来のテレビような縦置きではなく、平置きタイプにしたというのも新しい点。同社によれば、縦置きディスプレイでは、窓の外をイメージするため、「ディスプレイの奥に無限の空間がある」という先入観を持ちやすい。そのため、数cm浮いて見えるだけの奥行きでは、リアリティが不足していると感じるという。
反面、平置きで見下ろすと、「ディスプレイが地面」という感覚になり、箱庭やジオラマ模型を見ている感覚に近く、「別世界が机面上にある」と錯覚。飛び出す映像の高さが低くてもリアリティを感じるとしている。
■ 次世代テレビにも3D表示を デモでは、15.4インチと24インチの専用液晶ディスプレイが用意された。どちらも1,920×1,200ドットの表示が可能なパネルだが、3D表示では画素が各方向からの映像に割り当てられるため、解像度は480×300ドットになる(15.4インチは480×400ドットも可能)。映像出力にはPCを利用しており、一般的なビデオカードのセカンダリディスプレイとしてDVI-D端子を使って接続されている。 専用の映像は、多視点のカメラ撮影のほか、3DCGからも作成が可能。一般的なモデリングツールから多視差画像を作り出すプラグインを提供する。大量の多視差画像は専用フォーマットで圧縮し、各視点の映像を作るために画素を並べ替える処理を行なう。処理はPCとミドルウェアでソフトウェア的に行なえるが、非常に負荷が高いため、専用変換回路も開発しているという。こうして作られたデータは表示用のフォーマットにまとめられ、ディスプレイへと送られる。
研究開発センター、ヒューマンセントリックラボラトリーの平山雄三主任研究員は、「同システムで使用するプログラムや変換回路などは全て自社開発。また、液晶ディスプレイも製品化の際は東芝松下ディスプレイテクノロジーと開発したいと考えている。映像の作成から表示まで、トータルでサポートできるソリューションを構築したい」とした。P> 想定用途としては「見下ろす」という見方から、2006年後半にアーケードゲーム、2007年に3D絵本や図鑑などの教育分野やレストランのメニュー、2008年に家庭用ゲーム機、2009年に携帯ゲーム機などを想定。技術的には360度表示や、PCで常用できるような高解像度の3Dシステムも作成可能だという。
さらに、「今回のものと同じ基幹技術を使って開発を進めている縦置きディスプレイ用3D技術は、2010年頃の次世代テレビにも投入していきたい」としている。具体的な展開としては「試作機を6月までに、利用してみたいというメーカーに無償で提供し、ビジネス展開を話し合っていきたい」とした。
なお、システムの価格や製造コストは未定だが「各分野のディスプレイシステムと比べ、物凄く高価になるとは考えていない」という。また、ディスプレイの方式については「液晶でもプラズマでも利用できる」とのことで、レンチキュラフィルムを貼るコストについても「パネルメーカーはガラスやシートを貼る高い技術を持っているので、それほど高いコストにはならない」と語った。
市場規模としては、「2007年頃のニッチ市場では年間数億円程度、2010年のテレビなどマス市場をターゲットにすれば、1,000億円規模になるだろう」と予測。「映像の東芝を3Dが引っ張っていけるように頑張っていきたい」と抱負を語った。
研究開発センターの有信睦弘所長は、今回の研究の意義について「どちらかと言うとこれまでの技術革新は量に重点を置いていた。しかし、先進国では既に量は足りており、今後は人々の暮らしを質の面で豊かにする技術が求められる。そのためにも、3年、5年先を見据えた製品開発が重要になる」との考えを述べたた。
□東芝のホームページ
(2005年4月15日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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