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日本テキサス・インスツルメンツ株式会社(日本TI)は9日、音質や音響を大幅に改善するという2種類のアルゴリズムと、2chスピーカーでサラウンド再生を行なうバーチャルサラウンド技術を開発したと発表した。同社のDPS「Aureus」(オーリエス)シリーズでの使用を想定しており、DSPとセットで各メーカーへ供給する体制は既に整っているという。早ければ2006年春の新製品で、同機能を利用した製品がリリースされる見込み。
アルゴリズムはいずれも筑波テクノロジー・センターで、オーディオ専門の研究チームが開発。TIのDSPに最適化されており、メーカーの開発やプランに合わせた自由なチューニングも可能。シアターシステムなど、圧縮音声やサラウンド再生を行なう機器への組み込みを想定している。 新たに開発されたのは、音楽の圧縮時に失われた高域を補完する「バンド幅拡張技術」と、音を変質させずに重低音を強化する「低音域拡張技術」、そして2chスピーカーでサラウンド再生を実現する「バーチャル・サラウンド・テクノロジー」の3つ。
バンド幅拡張技術は、MP3圧縮時などに切り捨てられる16kHz以上の高音域を、デコード/再生時に倍音成分を使って補完し、原音に近い、伸びやかで自然な音を再現する実現するというもの。
なお、同様の技術はこれまでも他社が開発し、様々な製品に投入されている。しかし、TIのアルゴリズムは、高音域成分を解析する際、そこに音が存在しない理由を、圧縮によって欠落したものなのか、もともと存在しなかったのかをリアルタイムに検知するのが特徴。そのため、原音に高音が無い瞬間であっても無理やりに倍音成分を付加して不自然な音になることがないという。さらに、高域が減衰する周波数ライン(しきい値)も動的に自動変化させられる。 低音域の補完技術は、原音が出ていなくても倍音が鳴っていれば、原音が聞こえるように錯覚するという音響心理学の「ミッシング・ファンダメンタル」を利用したもの。例えば50Hzの低音が出ていなくても、その倍音である100Hz、150Hz、200Hzといった音が出ていると、50Hzの低音も聞こえているように感じる。 この原理を利用し、ローパスフィルタで特定の周波数を取り出し、独自の倍音発生器に入力。倍音を再生することで、低音が出にくい小型スピーカーでも豊かな重低音再生ができるという。倍音発生器の構成に独自性があり、音声処理の高さや低演算量で済むことなども特徴。Aureusで処理する場合、演算量は4.6MHz(Aureus処理能力の2%未満)、メモリ量は12Kバイト(Aureus内部RAMの5%未満)でまかなえる。
バーチャル・サラウンド技術の基本は、右チャンネルから放射された音が、左耳でも聞こえてしまう現象(逆も同様)「クロストーク」をキャンセルするもの。独自の「周波数領域クロストーク相殺フィルタ設計法」を新たに開発したという。 なお、この基本原理を応用したバーチャルサラウンド技術も他社から多数リリースされているが、TIの特徴は相殺フィルタを適用する周波数を、サラウンド感低下の要因となる周波数のみに限定していること。全ての周波数のクロストークをキャンセルすることで発生するダイナミックレンジの低下を防いでいる。これは「電力相補フィルタ」を呼ばれる。より自然なサラウンド感が実現できるという。 ほかにも、バーチャル・ヘッドフォン技術も開発。仮想の音場サイズをシミュレーションによって再現する「ルームモデル」に対応し、部屋の広さや壁の材質などもシミュレート可能。フィルタ係数も動的に生成できるという。
なお、これらの技術はAureus以外のDSPでも処理が可能。半導体グループ上級主任技師の伊藤裕二氏は「対応するDSPの選択幅を広げ、各メーカーの様々な要求に応えられるようにしたい。そして、様々な機器で高音質/サラウンド再生機能を実装していきたい」と語った。
■ 「Aureus」はヤマハのAVアンプ新モデルに採用
また、「Aureus」シリーズの「TMS320DA7xx」が、3月8日に発表されたヤマハのAVアンプエントリーモデル「DSP-AX759」(81,900円)、「DSP-AX559」(66,150円)、「DSP-AX459」(50,400円)に採用されたことも明らかにされた。
DTS 96/24やドルビーデジタル音声などのデコード処理を担当するほか、ヤマハのAVアンプの特徴でもあるシネマDSPの演算処理、高域成分を補完する「ミュージック・エンハンサ」機能なども実現している。しかし、これらの技術には今回発表された3つのアルゴリズムは使われておらず、Aureus DSPのみ採用されている。
□日本TIのホームページ
(2006年3月9日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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