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キヤノン、マスコミ向けにレンズ技術セミナーを開催
-HDカム用レンズにこだわりコート。「蛍石は舐めると冷たい」


6月15日開催


 キヤノンは15日、コンパクトデジタルカメラや、デジタル一眼レフカメラ、デジタルビデオカメラなどに採用されている同社のレンズ技術を解説するマスコミ向けの技術セミナーを開催。基礎的なレンズ知識とともに、同社独自技術の利点などを解説した。


■ 高画質レンズの条件

 講演を行なった光学技術統括開発センターの小山剛史氏は、「高画質なレンズの条件」として、“点が点に写る”、“歪みが少ない”、“色のにじみが無い”、“ヌケが良くゴーストが少ない”、“ブレない”の5点を挙げる。

光学技術統括開発センターの小山剛史氏 5つの「高画質の条件」

 “点が点に写る”ためには、細かい部分まで撮影できる「解像力が高く」、明暗差を豊かにとらえる「コントラストが高さ」が必要。その2点を高めるためには、レンズが集めた光がズレる、いわゆる「収差」を防ぐ必要がある。そこでキヤノンではどうしても収差が発生する球面レンズではなく、非球面のレンズを開発するなど、これまでの収差補正への取り組みを紹介した。

 なお、非球面レンズの製造法は一般的に「GMo」(ガラスモールド非球面レンズ)、「PMo」(プラスチックモールド非球面レンズ)、レプリカ非球面レンズ、研削非球面レンズの4つがあるという。GMoは量産が可能で品質の高いものが得られることからコンパクトデジタルカメラやビデオカメラ用レンズで採用。PMoは高精度化は難しいもののコストパフォーマンスが高いため携帯電話などに採用。「Lレンズ」など、一眼レフ用の高級レンズでは一枚一枚研削し、磨いて仕上げるほぼ手作りの研削非球面レンズが採用されている。

レンズが球面で構成されることから、光の集まる位置がズレる「球面収差」が必然的に発生する レンズ周辺の屈折力が球面収差の原因。そのため、周辺カーブを緩めた、非球面レンズを採用することで収差を抑えられる 非球面レンズにより、点を点に近づけて写すことができる

 コンパクトデジタルカメラや家庭用ビデオカメラなどで使用されるレンズは、性能とともにコンパクトさも求められる。それを実現するためには、屈折率の高い素材が必要。キヤノンでは独自のGMo生産技術で高屈折率で難形状の「非球面GMo」を開発。デジタルカメラの人気モデルIXYで採用し、2004年に発売した「PowerShot S60」、「IXY DIGITAL 50」ではさらに屈折率を高めた「UAレンズ」を採用。今後も採用モデルは増加するという。

UAレンズの製品展開 歴代IXY DIGITALに搭載されたレンズ。小型化が進んでいることがわかる


■ 「蛍石をレンズに使用する際の基本的な特許は切れている」

 色のにじみを抑えるためには、光の波長によって屈折率が異なるために発生する「色収差」を抑える必要がある。レンズを通って光が虹の7色に分かれる際、光の波長によって屈折率が異なるために起きる現象だが、これを抑えるためには分かれる量が少ない「低分散性」と、“青と赤を比べて赤が詰まったような別れ方になる”などの「異常分散性」が必要だという。

 こうした特長を持つ素材として、キヤノンでは鉱物の一種である蛍石(ほたるいし)を採用。純度を高めた人工結晶からレンズを作り出している。このレンズを採用したモデルは、同社の一眼レフカメラ用交換レンズの最上位シリーズ「L(Luxury)レンズ」にラインナップされている。なお、ガラスと蛍石を見分ける時の豆知識として、熱伝導率が異なるため、舐めるとガラスよりも蛍石の方が冷たいという。「実際に舐める人はいないでしょうが、人体には無害」とのこと。

光の波長によって屈折率が異なるため、色収差が起こる 中央が蛍石の人口結晶

ズームレンズ光学系に関する特許の保有率

 なお、その他のカメラメーカーも独自の素材を使ったレンズを開発しているが、現在、蛍石はキヤノンのみが使用している。これについて小山氏は「蛍石の研究は昔から行なっており、蛍石をレンズに使う際の基本的で適用範囲の広い特許の効力は既に切れている」という。ただし「レンズを作る時に、そのタイプのレンズの、どの部分に蛍石を組み込むかなど、製品化に関連する細かい特許は取得している。それが他社の足かせになっていることはあると思う」と説明した。

 同社はそれ以外にも多数の特許を取得しており、ズームレンズ光学系特許の場合、国内では32%を、米国でも19%はキヤノンの特許だという。

 小山氏は技術だけでなく、こうした蛍石や超高屈折率ガラス、UAレンズなど、素材力の高さもアピール。さらに、回折光学素子(DO)レンズという新しいレンズについても説明した。

 DOレンズは、光が海の波やラジオの電波と同じように、障害物があってもその向こう側へと回り込む、“回折する性質”を利用したもの。レンズに格子状のピッチを設けることで、RGBの色ズレが、通常の屈折光学レンズとまったく逆の回折光学素子が作成できる。これと通常の屈折光学素子を組み合わせることで、お互いの色のズレを相殺/解消する。素材としては樹脂をベースにしており、蛍石などを使った屈折光学素子のみのレンズと比べ、大幅に小型/軽量なレンズが実現できるという。

光の曲げ方には、海の波と同じ性質を利用した「回折」がある 回折光学素子ではRGBのズレが逆になっている。これを通常の屈折光学素子と組み合わせることで、ズレが補正される 400mm F4のレンズを作った場合、回折光学素子を利用すると約1kgの軽量化が実現でき、長さも84mm短くできる


■ こだわりのコーティングはHDカム用レンズにも採用

 ヌケを良くし、ゴーストを抑えるためにはレンズ表面のコーティングが重要。また、レンズを保護したり、各製品の色合いを調整し、均一化させる役目も果たしている。また、光を当てるとレンズがなんとも言えない色合いに光るため、外観品位の向上も目的としている。

 小山氏は、新開発の「SRコート」について説明。従来のマルチコートでは、緑色のコートを施しても、レンズの外周付近で色味が変化し、撮影した画像/映像に赤っぽいゴーストが発生していた。SRコートは外周部でも中心と同じ緑色とすることで、ゴーストも緑色となる。「ゴーストを完全に防ぐのは難しいが、発生した時に赤いゴーストよりも、緑色の方が目立ち難く、好ましいとされている。些細な違いではあるが、それほど細かい部分にもこだわって開発している」と語った。

 なお、SRコートはHDビデオカメラの「XL-H1」に付属する標準レンズ「XL5.4-108mm L IS II」にも使用されている。

SRコートはゴーストの色にもこだわる 「XL5.4-108mm L IS II」を搭載した「XL-H1」。写真はCATV 2006の展示


■ 大分工場建設後も、開発拠点は宇都宮

会場にはレンズ搭載製品の例としてビデオカメラやLレンズ装着のデジタル一眼レフ、コンパクトデジタルカメラが展示された

 こうした光学技術/レンズ生産技術の開発は、宇都宮にある光学部門の拠点で集中開発されているという。小山氏は開発体制について「一眼レフ、コンパクト用、ビデオカメラ用の開発においては、横のつながりが強く、様々な技術を異なる製品のレンズに使用できる環境が整っている」と解説。

 なお、同社は1月に一眼レフカメラ生産用の工場棟を大分県に増設すると発表しているが、「今後も宇都宮で光学技術/レンズ生産技術の開発を行なう事には変わりない」と説明。「今後も回折光学素子など、新技術を積極的に開発/製品展開していく。常に最高の性能/品質を目指して努力していきたい」と締めくくった。

□キヤノンのホームページ
http://canon.jp/
□一眼レフ用交換レンズのページ
http://cweb.canon.jp/ef/index.html
□関連記事
【1月6日】キヤノン、140億円の交換レンズ工場棟を大分に新設
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/lens/2006/01/06/2990.html

(2006年6月16日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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