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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第295回:x.v.Color初対応のHDV機「HDR-HC7」
~ その色空間は本物か ~


■ ソニーのコンパクトハイエンド機登場

 前回予告した通り、今回はソニーのHDV機「HDR-HC7」(以下HC7)を取り上げる。今期ソニーはAVCHDの「HDR-UX7/UX5」など複数のモデルを発売しており、どれをレビューするか迷うところではあるが、上位モデルでは光学部分が共通であること、画質、また編集時のハンドリングといった点で、HC7を選択した。大は小を兼ねるではないが、おそらくAVCHD機でも画質は同等か、HDV機を超えることはないだろうと予想している。

 さて今回のHC7は、すでにCES 2007の段階で米国向けモデルは発表されており、ある意味日本での発売も見えていたモデルでもある。既に発売は開始されており、店頭予想価格は15万円となっていたが、ネット通販では12万円弱で売るところもあるようだ。

 HDVブームを作ったHC1、HC3に続く新モデルであるが、最大の特徴は、同社が推進する新カラー空間「x.v.Color」の対応機であるという点だ。x.v.Colorは正式には「xvYCC」という規格だが、昨年「BRAVIA」の新製品発表時に、一部製品でこの新しい色空間への対応が明らかとなった。だがその段階では、まだこの新しい色空間を使ったソースが存在しなかった。

 非公式には、おそらくコンシューマのビデオカメラから対応することになるだろうとされていたが、ようやくそれが形になったわけである。ではさっそくHC7の実力をチェックしてみよう。


■ 至ってオーソドックスな外観

シルバーメタリックな外装のHC7

 まずはいつものようにデザインから見ていこう。

 どうもこの春はオーソドックスがはやりなのか、シルバーを基調としたストレートな鏡筒部にへばりつくようなモニタ部、そして周りを包むように合体したデッキ部といった構造だ。鏡筒部の仕上げは従来のヘアラインとは異なり、横方向の細かい突起状になっている。全体的にシンプルではあるが、デザインとしての面白みはHC3のほうが上だろう。

 では光学部のスペックだ。レンズはお馴染みカールツァイス「バリオ・ゾナー T*」、フィルタ径は37mmでHC1と同じである。画角は16:9の動画で40~400mm、4:3静止画で37~370mm(35mm換算)の光学10倍ズーム。HC3よりも若干ワイドよりだ。

撮影モードと画角(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画16:9
40mm

400mm
静止画4:3
37mm

370mm


ソニーのコンパクトハイビジョン機で初の光学手ブレ補正搭載

 今回手ぶれ補正は、同社コンパクトハイビジョン機では初の光学式となっている。その反面、HC3のように電子式手ぶれ補正のエリアを変えることでズーム倍率が上がるようなことはない。きっかり10倍である。

 また前回デジタルズームは20倍と80倍の切り替えだったが、今回は80倍をやめて20倍(つまりデジタルで2倍拡大)のみと、現実的な値となっている点には注目したい。今回は特にテストしていないが、デジタルズームも実用性のない倍率競争から脱却しようとする動きが今後も続くようであれば、次回からテスト項目に加える必要があるかもしれない。

 イメージセンサーは1/2.9型単板のクリアビッドCMOSセンサーで、総画素数は320万画素。静止画の最大画素数は、610万画素相当となる。動画と同時撮影の静止画は、460万画素。

 ドライブ部前方には、ポップアップ式フラッシュが内蔵されている。また外部マイク端子がその下にある。レンズ脇にはHC3同様、カメラコントロールダイヤルが付けられている。液晶モニタで撮影中に使用するには、不便な場所だ。

静止画用フラッシュはポップアップ式 レンズ脇にはカメラコントロールダイヤル。下部には逆光補正ボタン

 マニュアルボタンを押し続けると機能変更ができるのも同じだが、今回新たにシャッタースピードも割り付けできるようになっている。これを使えばシーンモードがオートでも、一時的にシャッター優先で撮れることになる。だがどうせそこまでやるなら、アイリスも割り付けられるようにして欲しかったところだ。

 液晶モニタはHC3と同様、2.7型/21.1万画素の「クリアフォト液晶プラス」。液晶内側にはバッテリインフォと、シンプルボタンがある。HC3では並んでいた逆光補正ボタンは、独立して鏡筒部下部に移動している。USB端子はカバー付きとなり、i.LINKやコンポーネント端子類は下部にまとめられている。このあたりの設計は、HC1っぽい。

ダイヤルにはシャッタースピードも割り付けできるようになった バッテリインフォとシンプルボタンは液晶内側に移動した

 背面に回ってみよう。HC3では固定であったビューファインダは、今回は引き出せるようになっている。というのもHC3と比べて内部へのえぐり込みが少ないため、大容量バッテリが本体からはみ出す可能性があるということだろう。さらに今回またバッテリタイプが変更されており、H型となっている。ちなみに、HC1はM型、HC3はP型だった。H型のバッテリはP型対応ハンディカムで使用できるが、P型のバッテリはH型対応ハンディカムには物理的に装着できなくなっている。つまり、HC7のバッテリをHC3に使用できるが、HC3のバッテリをHC7に使用することはできないことになる。買い換える場合に予備バッテリが使い回せないのは厳しいところだ。

 バッテリ脇には、HDMI端子と電源端子がある。撮影モードダイヤル、ズームレバーには変更がないようだが、フォトボタンは若干丸みを持たせた形状に変更されている。

引き出し可能なビューファインダ HDMI端子は背面

シャッターボタンには若干丸みをもたせた 底部には滑り止めのシボ加工がある



■ 若干改良された動画撮影機能

プログラムAEは「シーンセレクション」という名称になった

 では実際に撮影してみよう。今回撮像素子がほぼ同サイズで高画素化しているが、ビデオ撮影においては解像感や感度などは、従来機と遜色ない印象だ。

 絵作りの面では、以前のHC3は若干暖色傾向にあったが、本機もホワイトバランスを「屋外」に固定したときに、若干その傾向が見られる。だが「オート」時は以前のソニー機に多かった、色温度が高い清涼感のある絵作りとなっており、撮っていて気持ちがいい。

 また、今回はメニューにも若干の変更点がある。従来は「プログラムAE」という名前だったシーンモードだが、今回は「シーンセレクション」という名前になった。また以前はオートも含めて6タイプしかなかったが、今回は11種類に増えている。ビーチとスノーが別モードとして分けられたほか、暗いシーンに対して細かく対応したようだ。


【シーンモード】
HC7 HC3
オート オート
夜景 -
夜景 + 人物
キャンドル
日の出 & 夕焼け サンセット & ムーン
打ち上げ花火 -
風景 風景
ソフトポートレート ソフトポートレート
スポットライト スポットライト
ビーチ ビーチ & スノー
スノー



■ 細部の違いで分かるx.v.Colorの実力

 今回の目玉はやはりなんといってもx.v.Color対応である。x.v.Colorで撮影するかどうかは、「P.メニュー」の「X.V.COLOR」で入り切りを選択するだけだ。ところでx.v.Colorの正式な表記では、xとvが小文字なのだが、カメラ内のメニューでは全部大文字となっている。もしかしたら本体内には、小文字のフォントが無いのかもしれない。

x.v.Colorの切り替えは、メニューで選ぶだけ x.v.Colorでの撮影中は(COLOR)の表示が出る

 とりあえずいろいろなものを、x.v.Colorを切り替えながら撮影してみた。本体の液晶モニタがx.v.Color対応なのかは不明だが、被写体によっては切り替えると色味が変わるのが確認できる。またx.v.Colorが「入」の時は、画面左下に(COLOR)と表示されるので、設定状態がわかる。

 x.v.Colorは、出力側とディスプレイをHDMI経由で接続した場合に、表示することができる。そこで撮影後の色確認には、「BRAVIA X2500」を使用した。コンシューマ機としては現時点で唯一x.v.Colorに対応しているテレビである。

 なお、BRAVIA X2500で、x.v.Colorの色空間で見るためには、画質モードで「カスタム」を選択し、カラースペースを「スタンダード」としておく必要がある。同設定時に、映像入力からx.v.Colorの信号を検出すると自動的に色区間が切り替わる。

 やはり色空間の限界を広げる機能ということもあって、すべてのシーンで差がはっきりわかるというわけではない。現状のsRGBの色範囲で収まっているものに対しては、変化がないわけである。ただ何気ない緑の木々などでも、一段鮮やかになる効果が確認できた。

 また赤の表現に関しては、これまで白っぽく表現されてきた濃い部分にまで、ちゃんと色が乗ってきているのがわかる。ただ全体的に赤がそのまま濃くなるというよりは、マゼンタ方向へ引っ張られるような感じだ。

動画モード時に撮影した静止画サンプル
x.v.Color OFF x.v.Color ON











【動画サンプル】

(OFF)

(ON)
ezsm1.mov (170MB)
動画でx.v.Color比較。前のカットがOFF、続くカットがON

(OFF)

(ON)
ezsm2.mov (84MB)
室内撮影サンプル。前のカットがOFF、続くカットがON

ezsm3.mov (282MB)

ezsm4.mov (299MB)
x.v.Color OFFで撮影 同じ構図をx.v.Color ONで撮影
編集部注:全ての動画サンプルは、アップルの「Final Cut Pro」で編集し、H.264/1,920×1,080ドットで出力したものとなります。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 クリアビッド配列のCMOSは、ベイヤー配列に比べて色画素数が少ないため、発色に難点があった。それを補完する意味で、x.v.Colorはいい組み合わせの技術だと言えるだろう。ただx.v.Color対応だからといって、その分現場の色に忠実になるかと言えば、HC7の場合はちょっと違うように思う。例えば花などはかなり強烈なクロマを持っているが、それらがそのままのベクトルでクロマが伸びるわけではないという印象を受けた。

動画モード時に撮影した静止画サンプル
x.v.Color 画像 ベクトルスコープ表示
OFF


ON


 2005年に購入した筆者宅のシャープ「AQUOS LC-26AD5」は、もちろんxvYCC非対応だが、HDMIで接続してみたところ、特に問題なく表示された。

 BRAVIAほど明確ではないにしろ、色域の変化もそれなりに違いがわかる。すべてのモニタで違いが確認できるわけではないだろうが、非対応機では絵が出ないとか、表示が乱れるといったことは起こらないのではないかと思われる。

 一方これをi.LINK端子経由でPCに取り込んだり、それを編集したものまで色空間が保持されるかというのは、未だはっきりしたガイドラインがない状態だ。そもそもxvYCC対応を謳う編集ソフトもない状態ではあるが、勝手にNTSCカラーにフィルタリングしないソフトであれば、ある程度は高いクロマレベルのままで編集することはできるようだ。ちなみに今回の編集には、アップルの「Final Cut Pro」を使用している。



■ さらに写真らしさが向上した静止画機能

ディテールの表現力はそのままに610万画素になった

 次に静止画機能を見ていこう。今回は最大で610万画素となったわけだが、ワイド端37mmという広さと解像感の高さが相まって、満足感の高い静止画撮影が可能だ。また色味も写真らしい感じで、ビデオ臭さのない絵作りは、HC3の時からさらに良くなっている。

 ビデオと同時撮影の静止画は、あいかわらず1ショットにつき3枚までという制限がある。キヤノン、パナソニックが枚数制限なしの撮影を実現した今、ちょっと残念な部分だ。

 オートでは絞りはほとんどf=4.8で、シャッタースピードで露出を追いかける感じだ。一方ソフトポートレートでは、ほぼ開放まで開けて深度を浅く取るようなアルゴリズムになった。これは動画でも同じである。


オートで撮影(f=4.8) ソフトポートレートで撮影。背景がぼけて立体感が出る

 実はHC3では、ソフトポートレートは若干ディテールが柔らかくなる程度でオートの時と絞りが変わらず、f=4~4.8程度で撮られていた。しかしこれではポートレートらしい絵にならないので、設計の方にアルゴリズムの改善をお願いしておいた部分であった。

コンパクトデジカメ並みのポートレート撮影が可能

 ビデオカメラの静止画は、デジカメのようにいろんな部分がマニュアルにならないぶん、こういったシーンモードのアルゴリズムがキモとなる。今回のソフトポートレートは、開放で撮ることにより背景のボケに菱形絞りの形が見えず、他のビデオカメラの静止画よりも、よりナチュラルなポートレート撮影が楽しめることと思う。

 x.v.Colorは基本的にテレビに関する色域の話なので、静止画ではどうなるのか気になるところである。結論から言えば、x.v.Color ON/OFFで撮影した動画モードの静止画をPCモニタ上で比較しても、違いはわからない。ヒストグラムを見ても大した違いはないので、ディスプレイの性能の問題ではないと思われる。

 またそもそもHC7を静止画モードに切り替えて撮影した場合は、「P.メニュー」にx.v.Colorの切り替え項目が出てこない。動画モードでの静止画と比較しても、x.v.Colorの入り切りに関係なく、3つとも同じ色味である。どうも静止画の色空間は、x.v.Colorとは関係なく従来どおりのようだ。


静止画サンプル
(x.v.Color ON/OFF時の静止画の違い)
同時撮影(x.v.Color OFF) 同時撮影(x.v.Color ON) 静止画モードで撮影



 ただ面白いのは、テープに撮影した映像を本機の静止画キャプチャ機能で静止画にすると、ちゃんと違いが明らかになる。これらの絵を比較すると、多くのデジカメで採用されているsYCCとx.v.Colorの色空間は、かなり近い表現になるようだ。

静止画サンプル
(テープから静止画キャプチャ)
x.v.Color OFF x.v.Color ON




■ 総論

 ビデオの発色表現は、限られた範囲の中で過去いろいろなアプローチが存在した。記憶色方向へ落とし込むのも、その一つの方法だ。x.v.Colorはそれよりも、スーパーリアリズム方向へ色表現を伸ばす技術であると思われる。

 今回のHC7は、グリーン方向はよりピュアな方向へ伸びている感じはするが、自慢の赤系はクロマは破格に出ているものの、色位相はマゼンタ方向へシフトする感じだ。単純に色が深くなるわけではなく、肉眼で見た感じともまた違っている。

 これは以前から指摘していたことだが、x.v.Colorのような技術は、本当はビデオよりもデジカメの静止画をテレビに表示したときにこそ、大きく差が出るべき機能ではないかと思う。そもそも写真ならばフィルムがベースの色空間であるべきだし、さらにフィルム撮影である映画の色空間がテレビでも表示できるようにするというのは、意義のあることだ。

 x.v.Colorの技術的可能性は疑うべくもないが、ビデオカメラとしてはカラーバランスの面で、もう少し練り込みが必要かもしれない。また果たしてクリアビッド配列のCMOSで、十分その可能性が発揮できたかと言えば、そこにも疑問が残る。少ない画素数で高解像度が得られるのがクリアビッド配列だが、その先にある色表現では潤沢に色が拾えているかが大前提となる。

 やはり3板式のモデルでx.v.Color対応というのが王道だろうと思う。昨年11月に発売された「HDR-FX7」がx.v.Color対応でないのが、つくづく惜しまれる。

 ただ基本的にx.v.Colorを「入」で撮影しても、非対応のテレビでもあまり問題なく映るというのは、筋のいい技術だ。肝心のテレビが対応しないと商売としてはおいしくないソリューションではあるが、ソニーに限らず多くのイメージングデバイスで対応が進むことを期待したい。


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200701/07-0118/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/handycam/PRODUCTS/HDR-HC7/index.html
□関連記事
【1月18日】ソニー、HDカム'07年春モデル。AVCHD 2機種/HDV 1機種
-初の「x.v.Color」対応カム。320万画素CMOS
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070118/sony1.htm
【1月9日】【EZ】ソニー、米国向けビデオカメラの新製品を一気に16機種
~「x.v.Color」対応のAVCHD/HDVカムなど~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070109/zooma286.htm
【2006年12月20日】【EZ】「フルマニュアル」の贅沢、ソニー「HDR-FX7」
~ 3CMOS搭載、HDVの決定打となるか ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061220/zooma285.htm

(2007年2月14日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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