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ソニー株式会社は、6月21日、都内のホテルで、第90回定時株主総会を開催した。 ハワード・ストリンガー会長兼CEOと中鉢良治社長が共同で議長を務め、午前10時の開始約30分前には、約2,500人を収容できる第1会場が満席になり、第3会場まで使用。午前10時の開始時点では5,356人が出席し、スタートした。出席者数は7,163人。 ■ 「復活」から「利益を伴う成長へ」
冒頭の2006年度の事業報告では、中鉢社長が説明。「2005年9月に発表した中期経営方針で掲げた財務目標、事業運営、構造改革は計画通りに順調に進捗している。エレクトロニクス分野での構造改革の実施とともに、成長戦略として掲げたハイディフィニション化の推進に努め、商品力強化と収益改善に一定の成果をあげた。とくに液晶テレビ事業にはリソースを集中させ、全世界の液晶テレビの金額シェアでナンバーワンになった」などとした。 また、「ノートPC向けリチウムイオン電池の回収問題や、青紫色半導体レーザーの生産の遅れによってPLAYSTATION 3の欧州での発売が遅れた点では大変ご心配をおかけした。すでに青紫色半導体レーザーの生産の問題は解決している。品質問題をビジネスの最重要課題として位置づけ、信頼の維持に全力を尽くしていく」と語った。 一方、ハワード・ストリンガー会長兼CEOは、今年度の事業方針について説明。「2007年度は、中期経営計画の最終年度となり、ソニーにとって、極めて重要な1年になる。エレクトロニクス事業の継続的収益改善、プレイステーションのプラットフォーム拡大および収益改善、キャッシュフローと財務体質の改善、エレクトロニクス、ゲーム、エンターテイメントの3つのコア事業の拡大を図るとともに、『復活』から『利益を伴った成長』へと転換していく」とした。 また、「連結営業利益率5%、エレクトロニクス事業では営業利益率4%を目指す。2006年10月に、エレクトロニクス事業において、マネジメントの責任領域を一部再編。中鉢社長のもと、コンスーマプロダクツ全般と、半導体・コンポーネント領域を2人の副社長が担当する体制とし、さらに、エレクトロニクスCEOである中鉢社長が直接が見る形で、研究開発と新規事業開発機能を本社に集中させ、新規製品開発と品質問題に対応できるようにした。加えて、コンスーマ製品では、個々の商品の競争力に加えて、商品を『群』として、魅力を伝えていけるようにしていく」とした。 ソニーでは、「商品『群』がつながる」をコンセプトに、テレビ、DVD、デジカメなどの機器を結ぶ「機器間接続」、DLNA対応により家中のコンテンツを共有利用する「ホームネットワーキング」、VOD機能やアクトビラなどによって新たな楽しみ方を広げる「インターネット接続」の手法があるとして、これらの接続手法によって、ソニーが持つ「群」として強みを訴える考えだ。 さらに、「製品を使ってもらうためのエンタテイメントコンテンツとの組み合わせによって、新たな時代の消費者に対して、感動を届ける。革新的な製品やサービスを創出し、他社にはない強みを提供していく」とした。 一方、6月19日から新体制となったプレイステーション事業に関しては、「プレイステーションは、HD World実現の重要な製品であり、事業拡大の鍵を握るのはソフトタイトル」だとして、「すでに発売している100タイトルに加えて、今年度中に200タイトル以上が投入されること、さらに、180以上のネットワーク対応製品を投入する計画である」とした。 まとめとしてストリンガーCEOは、「事業と事業、人と人、ハードウェアとコンテンツなどによるSony Unitedを徹底する」と語った。 ■ 「ウォークマンの過ちは繰り返さない」とストリンガーCEO 会場からの質疑応答は、例年より時間を割いて対応した。 ウォークマン事業の低迷に関する質問では、オーディオ事業本部長・吉岡浩コーポレイトエグゼクティブSVPが回答。「当社は、音楽配信に関する著作権について、長年研究開発を進めてきた。著作権の問題と、製品投入とのバランスで遅れをとったのが、iPodに対して弱くなった理由。いま、ソニーは、3つの点で強みを出そうとしている。ひとつは、ソニーが作るすばらしいデザイン、2つめにはソニーにしかできない音質。3つめには、ソニーが持つ音楽関連の各製品をつないで楽しんでもらうという点。昨年後半から事業の立て直しを行なっており、春には、高音質、ビデオ再生機能を盛り込んだ製品を投入した。結果として、国内シェアは倍増している。だんだん元気になっている」とした。 また、中鉢社長は、「エンジニアにとっても、内心忸怩たる思いがあり、挽回策に取り組んでいく。シェアは、30%を超えるところまできた。ソニーの心意気を見てもらいたい」と回答。ストリンガーCEOは、「アップルは、ソフトで強い技術を持っており、この点に関して、ソニーがアップルほどうまく対応できなかった点は否めない。ソニーは、過去2年間に渡り、すべての製品に関してソフトの開発戦略を打ち出し、これまで後塵を拝していたものをキャッチアップできるようにしている。一方、多くの利用者が、携帯電話を通じて音楽をダウンロードして利用しており、そうした需要に対応したソニー・エリクソンのウォークマンケータイは大成功している。その出荷台数は、iPodに匹敵し、それを超すものになっている。ソニーは、同じ間違いを繰り返すことはない」とした。 一方、ゲーム事業において2,323億円の赤字を計上したことに対する責任問題、SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)におけるCEO人事の件については、ストリンガーCEOが回答。「ゲーム事業の損失は連結に含まれており、ソニー本体のシニアエグセクティブは、ボーナスの低下で責任を負っている。また、SCEのシニアエグゼクティブにも同様の措置が取られた。SCEのCEOを務めていた久多良木健氏は、偉大なエンジニアであり、多年に渡ってプレイステーション事業の成功を引っ張ってきた。久多良木氏はかねてから、今回の株主総会を機に退任することを考えており、後継者の育成にも取り組んでいた。退任は彼が考えていたことだが、会社との関係をすべて絶って離れていくわけではない。経営陣に対して、とくに私に対して、アドバイスをしてくれることになっている。彼自身も、きっと、今後数年で、輝かしい発明をするであろうと期待している」とした。 また、「当初は、ハード面での損失はあるが、ソフトの販売促進、あるいはハードの製造コストを削減することで回収していくという、かつての製品と同じ道を踏襲している。PLAYSTATION 3は、Blu-ray戦略にとっても鍵となる製品、HDの世界を追求し、展開する意味でも一翼を担うもの。ソニーの将来にとって重要なものであり、必ず成功させる」とコメントした。 年内に発売が予定されている有機ELテレビの取り組みについては、中鉢社長が回答。「ソニーの技術陣が開発してきた成果を、11インチのテレビセットとして仕上げた製品。薄くて、軽く、コントラストの高いきれいな映像を実現できる。製品化に向けて、生産技術的課題解決に取り組んでいる。大型化や、価格、歩留まりといういずれの点においても、アモルファスTFTを採用した液晶テレビに比べて大変難しい。しかし、先端技術を歩みたいという技術屋の夢を、なんとしても叶えていく。価格、数量、時期は明確にはいえないが、多くの人にリーズナブルな価格でお届けできるようにがんばりたい」とした。 一方、Blu-rayとHD DVDとの競合や、再生互換性への対応するについては、コーポレイト・エグゼクティブSVPの西谷清氏が回答。「HD DVDは、東芝1社から登場しているだけであり、ソニーをはじめとしてほとんどのメーカーがBlu-rayを投入している。当社も北米市場向けに普及価格帯の製品を投入しており、さらに、Blu-ray対応のコンテンツも北米では500タイトル、日本でも200タイトル弱が発売されている。当社のBlu-rayにHD DVDの機能を搭載するには、回路部品追加が必要であり、コストがあがる。将来的には、Blu-rayだけの対応でユーザーの満足を得られる」とした。 ■ 「品質を第1に考えて、全社をあげて取り組んでいる」と中鉢社長 経営陣に対しては、「ソニーらしさ」や、「ソニー・スピリット」に対する認識についての質問もあった。 ストリンガーCEOは、「ソニーは、ソニー・スピリットに対してコミットしている。それは、外国人である私も理解している。はっきりといえるのは、ソニーは、グローバルカンパニーであり、ソニースピリットが全体を結びつけ、Sony Unitedを実現していること。偉大な商品を出すという点で、ソニースピリットのもとに団結している。ソニーは、イノベーション、熱意、多様性に彩られた会社。ソニーのスピリットは、イノベーションのスピリットであり、多くの方が信じてきた偉大な会社として、これからもこの強みを推し進めていく。この精神は国籍を問わず、グローバルに息づいている」と言う。 中鉢社長は、「ソニーらしさとはなにか、という議論の結論は、ソニーらしさという枠にはめた時点で、ソニーらしくはなくなるということだ。私が30年、ソニーに勤務し、その大半をエレクトロニクス、デバイスの世界を担当してきて、自分なりに考えているのは、ソニーらしさとは、社会から尊敬されなくてはならないということ。ソニーに対しては、普通の会社でいるだけでは、多くの人が許してはくれない。では、ソニーらしさは具体的にどう実現するのか。私は4つあると考えている。商品、サービスが他社に比べて良質であること、最先端の技術を開発し、製品に盛り込むこと。また、ソニーで働く従業員が全員がいきいきしていること、社会貢献ができる企業であることだ」とした。 また、この回答のあと、ストリンガーCEOは、「いまの私の発言に間違いがあった。私自身は外国人でなく、ソニーで戦うソニー戦士である。株主のみなさんも同じくソニー戦士である」と発言。会場から拍手が沸いた。 なぜ、エレクトロニクスだけに事業を集中しないのかとの質問に対しては、ストリンガーCEOが、「ソニーの強み、あるいはブランドの強さは、事業に多様性、幅を持っているところにある。ソニーは、エレクトロニクスの会社として発足したが、いまは、アナログの時代からデジタル時代に変化し、競争相手は、単に、コンスーマ向けエレクトニクスメーカーでなく、アップル、マイクロソフト、インテルなど、そして、中国メーカーなどとも対峙しなくてはならない。ソニーが誇る、エレクトニクス、ゲーム、エンターテイメントといった事業を統合的に提供するとともに、ソフトの力でシームレスにつなぎ、総合力を発揮することが、ソニーが将来に向けて圧倒的な力を持つ最善の方法である」とした。 また、事前に文書で得た質問に関する回答では、ソニー・ピクチャーズとMGMが持つ8,000タイトルの戦略的活動について、ストリンガーCEOが回答。「ソニー・ピクチャーズは、ハリウッドでも、最もデジタル化が進んでいる会社であり、Blu-rayによるHDフォーマットの普及を主導する会社になる。これにより、ライブラリーのすべての映画に、新しい生命、息吹が吹き込まれ、より多くの利益を確保する機会が増える」とした。 PSP事業に関しては、SCEの平井一夫CEOが回答。「PSPは、家の中や、野外でゲームを楽しむだけでなく、デジタルカメラとして利用したり、GPS信号を受信して利用するポータブルデバイスとして発展する。ゴルフ場で、あと何ヤード残っているかといった使い方もできる。野外に持ち出して楽しめるソフトやアクセサリーを継続的に開発したり、PS3とPSPをネットでつないで、PS3のハードディスクのコンテンツにアクセスして、野外から楽しんでもらうという使い方も提案する」とした。 一方、一定期間で製品が壊れる「ソニータイマー」と呼ばれるようなソニー製品の信頼性に対しては、中鉢社長が答え、「ソニータイマーという言葉があることは認識している」とし、「ソニーは、メーカーとして、品質、価格、供給の3つの観点から満足してもらえるように努力している。だが、ソニーのような会社が、これを並列に並べていいのかという疑問もある。そこで、いま、ソニーでは、品質を第1に考えて、製品を供給していくことに、全社をあげて取り組んでいる。昨年、品質専任の担当役員をアサインし、オペレーション上でも、不良を入れない、作らない、出さないということに力を注いだ。また、社内にホットラインを設置し、お客様の声や不満などを製品設計にフィードバックする体制を強化した。全社をあげて、商品の最終品質の向上に取り組んでいる。ソニーの品質についても、ご支持いただきたい」とした。 なお、同株主総会は、午前10時からスタートし、12時31分に終了。取締役選任、ストップオプション付与を目的とした新株予約権の発行などの会社提案の第1号議案から第3号議案まではすべて可決。取締役報酬の個別開示に関する定款変更を求めた株主36人による提案となった第4号議案は否決された。第4号議案の賛成票は速報値で44%。取締役報酬の開示に関する株主提案は、2002年から継続的に行われており、賛成率は年々上昇。昨年度の株主総会では42%(昨年の総会時に47%だったものを修正)の支持があった。 □ソニーのホームページ ( 2007年6月21日 ) [Reported by 大河原克行]
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