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バンダイチャンネルで配信されているほか、DVDも発売中のアニメ「FLAG」(フラッグ)。そのシリーズを一本化した「FLAG Director's Edition 一千万のクフラの記録」が、8月8日にBlu-ray DiscビデオとDVDビデオの2フォーマットでアニプレックスから発売される。詳細な仕様は既報の通り。 13話構成の作品だが、今回新たに作られたのはディレクターズエディションとしてシリーズを101分にまとめたもの。その発売に先駆けた7月6日、デジタルシネマプロジェクタによる上映イベントが東京・新宿タカシマヤタイムズスクエア 12Fの「テアトルタイムズスクエア」で開催。高橋良輔総監督を招いてのトークショーが行なわれ、スペシャルゲストとして押井守氏も登場した。
「FLAG」は、ボトムズシリーズなど、多くのリアルロボットアニメを手掛ける高橋良輔氏が原作・総監督を担当した作品。中央アジアで勃発した内戦を、女性カメラマンの視点で描いた作品だ。
アジアの小国で勃発した内戦は、国連軍の介入にも関わらず拡大を続け、泥沼化していた。しかし、戦地で偶然撮影された一枚の写真によって、和平への動きが一気に加速。それは、敵同士である兵士が、戦闘中に互いに協力し、聖地に旗を掲げる姿だった。フラッグの写真は平和の象徴として、停戦の機運が高まる。 だが、妨害を謀る武装勢力にフラッグが奪われてしまう。国連は極秘裏にフラッグを奪還すべく、SDC(Special Development Command)、通称「シーダック」の投入を決定。その活動を記録するため、カメラマン・白州冴子の同行を命じる。彼女こそ、ことの発端であるフラッグの写真を撮った本人だった……。
強化装甲服HAVWC(ハーヴィック/High Agility Versatile Weapon Carrier)などが登場するロボットアニメながら、ボトムズシリーズから続く「ロボットも使い捨てられる大量生産兵器の1つ」という高橋監督独自のリアリズムが貫かれ、現実味溢れる作品に仕上がっている。作品全体がカメラマンの目(レンズ)を通して描かれる演出が特徴で、文字通りカメラのファインダーや監視カメラのレンズなど、様々なレンズ越しに映像が展開する。
■ 押井氏「久しぶりに凄い作品を観た」
「13話もあるシリーズなので、“見にくい”という声もあった。そういう意味では、1本にまとめることで、“見てもらえるかな”と思っている」と語るのは高橋監督。「1本にまとめる作業の中で、作り手としての喜びが自分の中に再びジワジワと沸いて来た。幸せな作品になりました」と喜びを語る。 ジャーナリストやカメラマンを主人公にした理由について、高橋監督は「私はもともとカメラマンやジャーナリストといった職業の人が好きで、憧れていた。その職業に就くことはできないが、私がアニメを作る際に行なってる、作品を模型的/箱庭的に作り上げる手法を用いて、戦場におけるジャーナリストを描いてみたかった」という。 そんな作品について、辛口の映画/アニメ評論で知られる押井氏は「久しぶりに凄い作品を観たという感覚。第1話を観た時に予想していた、“こうなんだろうな”という予想とほぼ同じで観やすかった。しかし、ラストは衝撃的で、ある種の感動に包まれました」と手放しで評価する。 押井氏は高橋監督との関係について、「僕は業界に友人がほとんどいない男なので、同期でも師匠でも無い人で、年上の監督さんでほとんど唯一まじめにつきあっている方」と説明。「一緒に仕事をしたことも、飲みに行った事もないのに、一年のうちで数回イベントでご一緒する。たぶんアニメの“ツボ”が似ているせいだと思う」と分析。「そういう意味でも、今回のFLAGは僕がやりたいような世界観で興味深かった。ボトムズからのストレートな流れを受けた作品で、こういう作品が作られ続けて欲しい」と語った。
だが、“戦場でのジャーナリストを描く”というコンセプトは、現在のアニメ界では異質に感じられるほど硬派で現実的なものだ。押井氏は「聞きたかったのは、なぜこの企画が通ったのかということ。敵側に妙なロボットが出て来るので、もしかしたら最初は普通のロボットアニメのフリをしてプロデューサーに企画を通したんじゃないか」と笑う。
これを受けて、「(プロデューサーを)やっぱり騙したのかな、でも、もし騙したとしても、うまく騙せたかなと思っている」と高橋監督も笑う。押井氏も「こういう作品こそ、本当は実写でやるべきもの。邦画でこういった作品が作られないのは不思議だ。現代を生きている意味や、裁定者的な視点、戦争とは何か? ということを直球で描けるのは、今現在アニメだけだと思う」とした。
■ アニメには監督の女性の好みが出る? 戦争やジャーナリズムなど、重いテーマでスタートしたトークショーだが、徐々に脱線し、女性キャラクターの話へ。押井氏によれば「女優さんに合わせる実写の監督と違って、アニメの女性主人公には監督の好みがそのまま反映される」という。「僕の場合は頭が良くて、性格がキツい女性が多い。女性に振り回されたいという気持ちがあるのかも。高橋監督の好みは、男にとって“都合の良い女”なのかも」と分析。高橋監督は「(例えそうだとしても)女性に言わなければわからないですよ」と笑った。
アニメ界の大御所と呼ばれる地位にありながらも、精力的に新作作りに打ち込む2人。押井監督は「仕事も含め、55年生きてきて、今が人生で一番楽しい。仕事が思うようにできるようになってきた。娘も結婚したし、色々なものから自由になった。そう思った途端に世の中が違って見えてきた」という。 「後は自分の体と相談して、“体が思うように生きるんだ”と決めた」という押井氏は現在、2008年公開に向けて「スカイ・クロラ」を製作中。終わりの無い戦争の中で、戦闘機を駆る、大人にならない子供達の物語。男女の恋愛をメインテーマにしていることが特徴だ。 新作について押井氏は「“そんなこと言って、いつもとどうせ同じなんだろう”と思われるかもしれないが」と前置きしつつ、「新しいことができなくなったら空母とか潜水艦とか、そういうのを作ればいい。チャレンジできるうちは、男と女の恋愛という、今までやったことのない……やるやると言い続けてやらなかったものを作りたい」と決意を語る。「高橋監督にも“絵作りもいいけど、一回だけはまじめにドラマをやれ”と言われているので」と苦笑いした。 「押井さんは僕の心境に来るのが早いよ」と笑うのは高橋監督。既報の通り、現在は「装甲騎兵ボトムズ」、13年ぶりの新作OVAシリーズに打ち込んでいる。「体力は衰えていると感じるが、まだまだ映像と関わりたいと思っている。あと数年はこんな感じでやれたらなと考えているので、作品が完成したら、覗いてみてください」と、トークショーを締めくくった。
■ 押井氏「僕は新メディアのおかげで生活できた男」 上映はハイビジョン/5.1chサラウンドで行なわれた。映像の精細感はブロードバンド配信やDVDをはるかに凌駕するもので、ファインダーを通して描かれる世界も、フォーカスがよりクッキリ合ったように感じられる。また、HAVWCの硬質な射撃音など、サウンド面のリアリティも格段に向上している。BDビデオのクオリティにも期待が高まる上映となった。 なお、アニプレックスがリリースするBDビデオ作品は、このFLAGが第1弾となる。「僕はどちらかというと、ソフトのクオリティにはそれほどこだわらない。けれど、第1弾となると素直にうれしいね」と語る高橋監督。
押井氏は既にイノセンスがBDビデオ化され、パトレイバーや攻殻機動隊など過去の作品についてもBD/HD DVDビデオ化が7月27日から順次行なわれる。自身の作品がハイクオリティソフト化することについて「一昨日もアヴァロンのBD用マスターの作業をしてきたところ。私の作品は、新メディアが登場するとなぜか真っ先にパッケージ化され、さらに買いなおしてくれるお客さんが多い。それのおかげで生活できてきた男です」と笑う。 押井氏は「アニメは映像を作り込む手段として一番優れていると感じている。特にイノセンスやアヴァロンなど、映像を鬼のように頑張り、突き詰めた作品は高解像度なメディアになってくれると純粋にうれしい。スクリーンにはかなわないけれど、私を含め、スクリーンから遠ざかっている人も多い昨今、次世代メディアで家庭での再現性が向上するのはうれしいこと」だという。
「また、僕が常々目標としている“(作った作品が)10年後に残っているかが勝負”という意味で、過去の作品が次世代メディアになるのは喜ばしいこと。もっとも、僕は現場では小さいモニターで見ながら“画面が小さいほうが、アニメは綺麗に見えるね”なんて言っちゃってるんだけど(笑)」(押井氏)。
□アニプレックスのホームページ
(2007年7月17日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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