【バックナンバーインデックス】



“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第317回:HDRECSとEDIUS NeoでAVCHD編集を試す
~ リーズナブルなマルチフォーマット編集 ~



■ AVCHD編集第2弾

 先週はAppleの「Final Cut Pro 6.0.1」で、ハイエンドのAVCHD編集環境をテストした。その後もいろいろといじっているわけだが、そこでわかったのは、「Final Cut Studio 2」というのはあくまでもブロードキャストレベルの素材を対象としたもので、コンシューマ機材のMPEG系の素材をダイレクトに編集しようとすると、かえって面倒ということである。

 例えばMPEG-4の映像やMP3の音楽を同時に合わせようとしても、タイムラインに配置してしまうと、リアルタイムでプレビューできないのだ。そういう点では、アマチュアユーザーが気張って導入してもハンドリングの面ではちっともうれしくないわけで、まさにあれは完全にプロユーザーとアマチュアを切り分けた製品と言える。

 さてカノープスの映像関連製品には、「プロシューマ」という謎の言葉を派生させた一連のハイエンドシリーズがある。古くは「DVRex」に始まり、「DVStorm」、そして「EDIUS」の登場と連なってきているわけだが、ここでまた新しいラインナップが登場した。

 「HDRECS」は、カノープスのハイエンド用コーデックであるCanopus HQ Codecでリアルタイムキャプチャが可能な、ハードウェアエンコーダカード。7月下旬からすでに発売開始しており、価格は99,750円となっている。そして、「EDIUS Neo」は、ハイビジョン編集に対応した低価格編集ソフト。以前「EDIUS 3 for HDV」という、HDVにフォーカスしたバージョンがあったが、あのレンジの後継ソフトと言っていいだろう。これも既に発売されており、31,290円。

 今回はこの両製品を組み合わせて、Canopus HQ CodecベースでAVCHD素材の編集を試してみたい。


■ さすがハードウェアエンコーダの威力


PCI Expressに装着するHDRECSカード

 まずはキャプチャカードのHDRECSから見ていこう。これはPCI Express x1スロットに装着するタイプの製品である。したがって対象としてはどうしてもデスクトップ機に限られるのが残念だ。

 入力ソースとしては、HDMI、アナログコンポーネント、Sビデオ、コンポジット、アナログRGB(DIN)に対応する。アナログコンポーネントとアナログRGBは、カード背面に集合端子があり、付属のケーブルで接続するというスタイルだ。

 また別途DVI-HDMI変換ケーブルを用意すれば、PCのDVI出力からもキャプチャできる。ただどの信号も、HDCPやマクロビジョンといったプロテクションが信号内にある場合は、キャプチャできない仕様となっている。

 キャプチャは、専用の「HQ Recorder」というソフトウェアで行なう。入力プリセットのところには、各入力コネクタごとに解像度やフレームレートの違いで、多大なプリセットが存在する。HDRECSは1,920×1,080ドットのフルHD解像度がキャプチャできるのがウリなのだが、この解像度でキャプチャできるのは、HDMIとアナログコンポーネントのみである。DVIやアナログRGBでは、最大で1,280×1,024ドットになる。

付属のキャプチャソフト「HQ Recorder」 HDMIだけでもこれだけのプリセットが

 またHDRECSには、アップコンバータやダウンコンバータが内蔵されているわけではない。基本的には入ってきた映像信号の解像度そのままで録るだけである。

 今回はAVCHDカメラのHDMI出力を、フルHDのオンライン(Fine)でキャプチャしてみることにした。使用したカメラは、Panasonicの「AG-HSC1U」である。元々記録系は1,440×1,080ピクセルなのだが、出力時には1,920×1,080ドットが出ているはずなので、これをそのまま録るわけである。

 録画方法はただ単に録画ボタンを押すだけのシンプルなもので、なんだかアナログチックな感じだ。DVやHDVの取り込みのように、カット替わりで自動分割してくれる機能もなく、全体で一つのクリップになるだけ、というシンプルさだ。ちなみに約27分の映像をオンライン(Fine)でキャプチャしたところ、ファイルサイズは35GBになった。

 他にも指定時間で自動キャプチャする機能があるが、まさかこれでテレビを録画する人もいないだろう。おそらくビデオカメラを繋いでおいて、定点観測的に使うといった用途を想定しているものと思われる。

HD Codecのプリセットは、オンライン(Fine)とオンライン(標準)のみ。カスタムでも調整できる スケジュールを指定しての取り込みにも対応



■ 生まれ変わった「EDIUS Neo」

 では続いて「EDIUS Neo」を見ていこう。以前も低価格ソフトとして「エディウスJ」をレビューしたことがある。当時はまだHDVのみの対応だったが、カノープスが既存ユーザー向けに無料配布しているソフトウェアコンバータ「Canopus AVCHD Converter」がエディウスJに対応したため、こちらも現在AVCHD対応となった。

 AVCHD編集に関しては、エディウスJも一つの選択肢だが、プロ用のEDIUS Proとほぼ同じGUIと操作性で廉価なEDIUS Neoとは、あきらかに立ち位置が違う。

 EDIUS Neoの魅力は、HDVとAVCHDをサポートした高機能ソフトという点だが、EDIUS 3 for HDVからのもっとも大きな差は、GUIの変更だろう。既報のように、すでにカノープスは放送機器部門としてGrassValleyグループの傘下となっているわけだが、画面にも「GV」のロゴがある。

バージョン情報にもプロ用ブランドGVのロゴが 最初にプロジェクト設定を選択。フルHDのプリセットがなかったので、新たに作成した

 EDIUS Neoは「EDIUS Pro 4.5」同様、GrassValleyの放送用機器GUIのセンスを取り入れている。ベースには過去のEDIUSがあるのはユーザーにはわかるだろうが、細かいところで改良が加えられている。

 例えば編集点のトリムに関しては、単純なトリム以外に、尺は同じで編集タイミングだけを変える「ロール」など、いろいろなファンクションがあるものだ。従来の編集ソフトでは、これらのファンクションを使う場合、いちいちツールバーから機能を選んで、モード変更するのが普通だ。

 だが新GUIでは、クリップの境目にあるハイライトの付け方によって、これらの編集モードを使い分けることができる。つまりどのタイプのトリムをするかを選択するときに、いちいちツールバーまで移動することなく、編集したいポイント周辺で機能を選ぶことができるわけである。

改良点が多いEDIUS NeoのGUI クリップ境目のハイライト位置で、編集モードが変わる

 またキーボードショートカットも充実しており、黄色くハイライトしている部分のトリミングは、キーボードの「,」「.」を使って1フレームずつトリミングできる。このフレーム単位の細かいトリム機能は、インタビュー素材などのシビアな音編集を行なう際には必須の機能である。

 また新GUIでは、タイムコードの数値が画面のあちこちに表示されており、ショートカットを使って細かい作業を行なっている時に、どこをどういじっているのかがタイムコードの変化を通じて把握できるようになっている。タイムライン上の棒の伸び縮み程度ではわからない微細な変更点も、これでわかるというわけだ。

 もちろん、以前から継承している機能も多い。ショートカットも主要なものはほぼそのまま残しているほか、マウスを右プレスでグリグリと円を描くとジョグになるといった機能も、そのままだ。

 HDRECSでキャプチャしたファイルは、もちろんCanopus HQ Codecになっているので、そのままEDIUS Neoに読み込み、ダイレクトに編集することができる。カットごとにクリップは分かれていないため、並び替えて構成を考えなければならないものは若干面倒だが、指定範囲で別クリップとしてBINに登録する機能がある。これを利用してBIN上での素材整理なども可能だ。


■ AVCHDはダイレクト編集可能か

 その一方でEDIUS Neoそのものも、AVCHDの編集をサポートしている。HDRECSを使わずにAVCHDのファイルを直接扱ったら、編集効率はどうなるのだろうか。

AVCHDを直接BINに読み込める

 今度はSDHCメモリーカードからファイルをHDDにコピーし、先ほどキャプチャしたものと同じ、合計27分のACVHDクリップを読み込んでみた。これはそのまま通常のクリップと同様BINに読み込まれ、サムネイルも表示された。

 だが、このままの状態では、再生がリアルタイムで行なえなかった。使用マシンはCPUにCore2 Duo 6700(2.66GHz)で、メモリは2GBを搭載した、Windows Vistaマシンである。それほど遅いマシンでもないと思うが、それでもプレイヤーウインドウ内でリアルタイム再生が難しいのであれば、編集はおぼつかない。

 もちろんこれ以上にマシンパワーを上げていけば、リアルタイム再生はできるようになるだろうが、それは非常にコストがかかる割には見返りが少ない。例えば40万円ぐらいかけてCPUにXeon Dualを搭載、といったマシンを導入して、編集ソフトが31,290円というのは、どう考えてもバランスが悪いだろう。

EDIUS NeoのBINウィンドウで変換ができる

 したがって通常は、この状態からソフトウェアエンコーダを使ってCanopus HQ Codecに変換するというスタイルを取ることになる。EDIUS NeoのBINウィンドウでクリップを選択し、右クリックで変換することができる。

 前回同様、約1分のAVCHDのクリップを変換する時間は、上記のマシン条件で2分17秒であった。MacよりもこちらのほうがCPU世代が新しいが、時間的にほとんど変わらないところをみると、ProRes 422よりもCanopus HQ Codecのほうが、若干重たい処理ということなのかもしれない。

 だがそれゆえに、HDRECSの意味もまたあると言えるだろう。というのも、このままソフトウェアで27分の素材をCanopus HQ Codecに変換すれば、1時間強の時間がかかる。それをリアルタイムキャプチャすれば、当然リアルタイムだから27分だ。取り込む素材が多ければ多いほど、ネイティブで取り込んでソフトウェアエンコードするよりも、リアルタイムキャプチャしたほうが時間的なメリットが大きいということになる。

動画サンプル

ezsm.avi (713MB)
9回ダビングの結果。再生用コーデックはカノープスのサイトで配布されている
編集部注:動画サンプルは、EDIUS Neoを利用し、HQ Codecで出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 最後に前回同様、9回ダビングを行なってみた。ProRes 422と同様、ダビングによる画質劣化はほとんど認められない。

 またProRes 422が、ダビングを繰り返すごとにレンダリングスピードが遅くなっていたのに対し、Canopus HQ Codecでは速度があまり低下しなかった。もちろん編集ソフトウェア自体が違うわけだし、一概にすべての編集作業で同じ結果になるとは言えないが、そういう事例もあるということで参考にしていただきたい。


■ 総論

 HDRECSとEDIUS Neoの組み合わせは、ハードウェアエンコーダ込みの編集システムとして機能する。合計で13万ぐらいになるので、一般のコンシューマの方からすれば高い買い物だが、業務クラス以上で考えている人にとっては、かなりリーズナブルだ。

 一方Appleの方にも同じようなソリューションがある。AJAの「IO HD」というデバイスは、ProRes 422のリアルタイムエンコーダ・デコーダを搭載したボックスだ。これは完全にプロ仕様の製品であるため、HD-SDIなどのインターフェースも充実しており、定価は585,900円となっている。

 さすがにこれとHDRECSと比較してどうこうするものではないが、逆にHDRECS程度で済む仕事の人と、棲み分けできるということでもある。

 欲を言えば、単にリアルタイムキャプチャするだけでなく、ファイルとして持ち込んだAVCHD素材を、EDIUS NeoからCanopus HQ Codecにエンコードする際に、HDRECSがハードウェアアクセラレータとして機能するようになっていると良かっただろう。アナログ入力に対応するのは必然性があるが、デジタル的にファイルからでも取り込めるものであっても、常にビデオ入力からガッチャンコでしか録画できないというのは、どう考えても21世紀のソリューションの話ではない。

 例えば最近では、USBポートに挿して使用するH.264ハードウェアエンコーダも出ているぐらいだ。ビデオ編集にも、もっとスマートな解があってしかるべきだろう。

 編集ソフトとハードウェアエンコーダ/アクセラレータの組み合わせは、なんだかトレンドを作りそうな気がしている。そしてそれが両方提供できるところもまた、少ないのだ。これが見えてきたとき、AppleとCanopus、言い換えればProRes 422とHQ Codecの次世代覇権ガチンコ勝負に、何らかの正解が見えてくると思うのだが、どうだろうか。


□カノープスのホームページ
http://www.canopus.co.jp/index_j.htm
□製品情報(EDIUS Neo)
http://www.canopus.co.jp/catalog/edius_neo/edius_neo_index.php
□製品情報(HDRECS)
http://www.canopus.co.jp/catalog/hdrecs/hdrecs_index.php
□関連記事
【6月6日】カノープス、AVCHD/HDV対応の編集ソフト「EDIUS Neo」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070606/canopus.htm
【5月23日】カノープス、1080i/720p対応のHDキャプチャカード
-HDMI/コンポーネント映像をCanopus HQでキャプチャ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070523/canopus.htm

(2007年8月1日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



00
00  AV Watchホームページ  00
00

AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
Copyright (c)2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.