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ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)は、設立20周年を記念したシンポジウム「21世紀の社会と科学・技術」を、6月4日、東京・品川のソニー本社で開催した。
シンポジウムの冒頭に挨拶したソニーCSLの所眞理雄社長は、「ソニーCSLは、コンピュータに関する応用可能な基礎技術の研究を目的にスタートした。過去には、アペリオスなどを開発し、こうした技術が、直接、間接的に製品に搭載されている。これが最初の10年間の取り組み。その後の10年間は、基礎研究が出尽くし、応用可能な技術の研究が進んだ。システム生物学、経済物理学、システム脳科学などのほか、インタラクション技術、ライフスタイルなどにも波及した。では、これからの10年はどうするか。2年ほど前から悩み始めてきたが、我々が自己変革しなくては、どこにでもある研究所になってしまう。得意な分野だけに絞り込むことなく、21世紀に解決しなくてはならない課題に挑戦する」とした。 所社長は、21世紀に解決すべき課題として、資源やエネルギーなどの環境問題への取り組みを背景にした「持続可能な社会の実現」のほか、「健康・医療・生命」、「アクセシビリティ」、「安心・安全」をあげ、「すべてに同時に取り組むわけにはいかないが、良い研究者と巡り会うことで、こうしたことに挑戦していきたい」とした。
■ 中鉢社長「今こそ科学、技術の出番」
続いて、基調講演に登場したソニー・中鉢良治社長は、「21世紀の科学と技術」をテーマに講演した。 冒頭、「社長に就任してからこんなに長い時間を話すのは初めて」と、50分間の講演時間について触れて会場を沸かしたが、学生時代の出来事などを披露しながら、講演時間の47分を経過したところで、「残り3分で、いよいよ本題に入りますが」と、最終的には、当初予定時間を10分以上超過した講演となった。 時間配分ミスか、あるいは計画通りなのかはわからないが、学生時代の体験を披露するのは、中鉢社長としては、初めてともいえる珍しい内容。聴講者のなかからは、時折、笑いが漏れる興味深い講演となった。 中鉢社長は、「研究所には、今の現業に直結する既存事業に対する差異化可能な技術の研究とともに、現業のなかには入らないが、新たなシーズを作ってもらうための研究をお願いしたいと考えている。個人的な見解だが、ソニーCSLの研究は、ソニーのビジネスに直接結びつかなくてもいいと考えている。ソニーの、ソニーによる、社会のための研究所になってもらいたいと考えている」などとした。 また、自らが尊敬する人物として必ず名前をあげる夏目漱石が、満州で講演した時の記事が先頃発見されたという朝日新聞の記事を引き合いに出して、「人間は三種の生き方がある。ひとつは、科学者のように物と物との関係を明める人、軍人や経営者などのように、物と物との関係を変化せしむる人、文芸家などの物と物との関係を味わう人。社会の進化には、こうした3つの人種のパランスが取れて存在しなくてはならない。だが、これからの社会は、三者が三様にやっているだけでは駄目。連携が必要になる」としたほか、「量的成長時代は終わった。成長に限界があるということが、かつての日本が置かれた立場とは大きく異なる。だが、成長の限界があるからこそ、科学、技術が主役となる。いまこそが科学、技術の出番である」などとした。 また、「科学技術と一言でいわれることも多いが、科学と技術はまったく別なものとして、技術者コース、研究者コースとして、2つの生き方として別々に捉えるべき。科学は大学などの高等教育において、技術は産業が主体となり、教育では初等教育から大学が、それぞれ担うことが最適」などと、持論を展開した。
なお、学生時代の体験として、東北大学資源工学科に入り、「鉱山がない時代に鉱石の掘り出し方を勉強した」などとしたほか、結婚したら5人子供を作りたいと教授に語り、「資源が枯渇する将来に向けて、自分の欲求をコントロールできないエゴイスト」と呼ばれたこと、学生運動の時の話や、ソニーから制度にない奨学金を受け取っていたことなどを披露した。 一方、中鉢社長に続いて、国際教養大学の中嶋嶺雄理事長が「21世紀の社会と教育」をテーマに講演。さらに、「ソニーCSLが考える21世紀の科学と技術」をテーマにしたパネルディスカッションでは、パネルプレゼンテーションと、所社長をモデレータにしたパネルディスカッションが行われ、中嶋理事長のほか、ソニーCSLに所属する北野宏明氏、暦本純一氏、高安秀樹氏、茂木健一郎氏が参加した。
□ソニーCSLのホームページ ( 2008年6月4日 ) [AV Watch編集部/nakaba-a@impress.co.jp]
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