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マイクロソフト株式会社は13日、Windows Vista Home Premium/Ultimateに標準搭載されているWindows Media Center(MCE)において、日本の地上デジタル放送(ISDB-T)に対応すると発表した。地デジの視聴、録画を可能にした機能強化版と位置付けられ「Windows Media Center TV Pack」と名付けられている。
ただし、PCメーカーより発売されるVista搭載PC向けに出荷する予定で、単体パッケージでの販売や、従来ユーザーに向けたWindows Updateによる拡張機能のみの提供の予定は無い。発売時期についてマイクロソフトは「2008年夏、開発完了予定。2008年の年末に搭載したPCが出荷される」と説明している。
なお、これに合わせてマイクロソフトでは、テレビ朝日、TBS、日本テレビ、NHK、フジテレビとの協力を拡大。発表会には各放送局の担当者が集まり、ガジェットを介したPCからテレビへのシームレスな視聴/録画や、テレビ視聴とWebブラウジングの両立を目指したサービスなど、開発中の新機能を紹介。新しいテレビ視聴スタイルが提案された。
■ 単品販売やアップデータが提供されない理由
4月に社団法人デジタル放送推進協会(Dpa)がガイドラインを策定したことで、メーカー製のデジタルチューナ内蔵PC以外に、デジタルチューナカード単体での販売が可能になり、5月から各社が市場投入している。従来はテレビと同じ“送受像機”であるメーカー製テレビパソコンのみにB-CASカードが発行されていたが、ガイドラインの策定によりこの規制が緩和。デジタルチューナカード単体にもB-CASカードが発行されるようになり、自作PCなどでもデジタル放送が楽しめるようになったという経緯がある。
しかし、今回発表された「Windows Media Center TV Pack」は、自作PCをターゲットとはしておらず、“メーカー製テレビパソコンの開発コスト削減”を目指したOSという位置付け。大手PCメーカーは、自社やOEMメーカーと協力しながらデジタル放送受信/録画用のソフトウェアを開発しているが、そういったコストをかけなくても、OS自体がネイティブで地上デジタルに対応し、視聴/録画機能をMedia Centerに組み込んでいるため、より低価格のテレビパソコンが開発でき、PCにおけるデジタル放送の対応を加速させる狙いがある。 マイクロソフトのデジタルエンターテイメントパートナー統括本部の笠原健司部長は、デスクトップ/ノートPCの両方で、地デジチューナ搭載モデルは、非搭載のモデルより約5万円高価だというデータを紹介。「5万円の差は消費者には大きい。OSネイティブで対応することで少しでも価格を下げ、15万円以下のいわゆるボリュームゾーンにおいても、PCの地デジ対応を拡大していきたい」と説明している。
そのため、OS単体でのパッケージ販売や、地デジ対応のアップデータ提供などは現在のところ予定されていない。だが、それでは“価格以外の面で今までのメーカー製テレビパソコンと同じ状態になるだけではないか”という批判もある。自作PCを対象としない理由について笠原部長は「マイクロソフトとして初めての地上デジタル対応であり、まずはコンテンツ保護に注力し、放送局や関連団体に取り組みを理解してもらうことが大切と考え、“受像機”としての提供になった」と説明。その上で「MCEもVistaも進化していくものなので、単体販売やアップグレード提供も将来可能になるよう、取り組みは続けていきたい」とした。
なお、パートナーメーカーとして紹介されたPCメーカーは、エプソンダイレクト、オンキヨー&ソーテック、富士通、マウスコンピューター。半導体メーカーはNECエレクトロニクス、NXP、ViXS。チューナ/リモコンメーカーはアイ・オー・データ、バッファロー、AVerMedia、SMK。
■ 現時点でダビング10、BD/DVDムーブには非対応
できることとしては、現在単品発売されている各社の地上デジタルチューナカードの付属ソフトと大きな違いは無い。ただし、基本の受信機能としては地上デジタル放送のみの対応で、BS/110度CSデジタル放送にはアップデートでの対応を予定している。EPGの表示や、そこからの予約録画なども可能。UIは従来のMCEと同じような青を基調とした10フィートUIを採用している。 録画機能はTS録画に加え、解像度やビットレートを落とす数種類の録画モードも搭載する予定。ただし、録画データのBlu-rayやDVDメディアへのムーブには非対応。後日の対応を予定しているが、「マイクロソフトが対応アップデータなどを(テレビパソコンを作っている)メーカーに提供し、そのメーカーの判断でエンドユーザーに提供するか否か判断する。提供する場合も(有償/無償含め)どのような形になるかはマイクロソフト側ではわからない」(Windows本部 コンシューママーケティング部 森洋考シニアプロダクトマネージャ)という。
また、ダビング10についても「現段階では対応していない。今後の対応を予定している」(森氏)という。CMカットなどの編集機能や、メールなどを介した遠隔予約録画にも対応していない。
対応している機能はタイムシフト、EPGのデータを使った番組検索機能、おまかせ録画など。データ放送の表示にも対応している。デモ画面を見る限り、薄型テレビやレコーダで表示するよりも“レベルが1段違う”と思える高速表示が実現しており、データ放送はボタンを押した瞬間に表示。EPG画面では横方向にスクロールするスピードが、PLAYSTAION 3のXMBメニューを彷彿とさせる超高速であり「PCのパワーを使った利点の1つ」(笠原部長)だという。 機能面では単体地デジチューナ付属のソフトウェアに劣る部分もあるが、OSネイティブ対応の強みとして、Direct3DでGUIを描画しているWindows Vistaの「Aero」と、オーバーレイ使用の地デジ対応MCEの併用が可能な点が挙げられる。サードパーティー製ソフトでは現在、両者が排他利用になってしまうが、MCEではAero表示にした状態でそのまま地上デジタルを表示できるだけでなく、タスクバーに格納したウインドウにマウスを合わせるとポップアップウインドウで映像を表示したり、タスクバーからデスクトップに戻す際、にゅ~っとウインドウが引き延ばされるアニメーション中も、しっかりと放送画面が表示される。
なお、こうしたアニメーション機能との融合は、後述する放送局が提供するガジェットツールとの連携でも積極的に活用されている。
また、このOS発表に合わせ、チューナカードのOEM供給を予定しているアイ・オー・データとバッファローが、OEM用カードの新モデルを発表している。アイ・オー・データは、PCIとPCI Express x1に対応したカードと、PCI Express Miniに対応した30×51mm(縦×横)というコンパクトモデルも用意。PCIタイプはどちらもB-CASカードスロットを別ボードで用意。PCI Express Mini用も「PC本体にB-CASカードスロットを用意する必要がある」(森氏)という。
バッファローもPCIとMiniPCI用に対応したモデルを開発。さらに、PCI用でデジタルダブルチューナを搭載したモデルもラインナップする。仕様は明らかになっていないが、いずれの製品にも「ViXS」と書かれたチップが搭載されており、同社単品カードと同様に、放送のトランスレート録画が行なえると思われる。
□ニュースリリース(アイ・オー・データ)
■ テレビ局が放送と通信の連係機能をデモ 発表会ではテレビ朝日、TBS、日本テレビ、NHK、フジテレビの担当者が登壇。「Windows Media Center TV Pack」で利用できる、様々なツールの試作版をデモし、新しいテレビ視聴スタイルを提案した。
NHKは、深夜に若者向けに放送している「EYES」枠をサンプルとし、デモ。MCEの「プログラム ライブラリ」画面からEYESをクリックすると、メディアオンラインの画面となり、通信経由で取得したデータを元に、全画面表示で「EYES」の専用UIが立ち上がる。そこには「トップランナー」や「テレ遊びパフォー!」など、同枠で放送されている番組のアイコンが表示。選択すると、短いプロモーション映像が流れ、その下部に「録画予約する」というボタンが表示されている。これをクリックすると、そのままMCEの録画予約が行なえるという流れ。
これは通常のWebサイトでも実現可能で、NHKのWebサイトにある番組紹介コーナー「インターネットテレマップ」のプロモーション映像表示ウインドウに、同じ「録画予約する」ボタンを用意。Webブラウザでネットサーフィン中でも、気軽に録画予約が行なえることがアピール。さらに、サイドバーに格納できるガジェットも作成。プロモーション映像が流れ、そこにも予約ボタンが用意。デスクトップに展開すると文字情報も表示され、より詳しく番組内容がわかるという。
日テレではプロ野球中継を例に説明。データ放送の画面をベースに、デモ用に「現時の打者」、「投球コース」、「熱闘リプレイ」、「試合ダイジェスト」といったPC向けのボタンを追加。これらをクリックすると、Webブラウザが立ち上がり、日テレのプロ野球情報ページの打者情報、投球情報などのページが表示された。テレビのデータ放送よりも詳細な情報が閲覧できるほか、既に存在しているWebの情報と連携しているため低コストで実現でき、「テレビと既存の通信用コンテンツというバラバラだったものを、上手く組み合わせて活用できる(日本テレビ編成局 デジタルコンテンツセンター デジタル事業推進部の太田正仁氏)という。
テレビ朝日はガジェットを紹介。時計表示や、ネット向けに公開されているANNニュースなどを表示できるツールだが、例えば同じANNニュースのリアルタイムの放送時間が近づくと、「まもなく14時55分から、地上デジタルの5chで最新ニュースをお送りします」といった漫画の吹き出し形状のアラートがガジェットより突出。そこに視聴予約ボタンも用意され、見逃さないようになっている。
TBSでは「王様のブランチ」を例に、通信販売との連携とMCEのプレーヤースキン的な機能を紹介。番組独自のデザインの外枠が表示され、中央に映像を表示。右側には番組のコーナーで作ったオリジナル商品販売ページへのバナーが貼られている。クリックするとPC用のTBS直販サイトへジャンプ。「普通ならば購入方法は番組の最後まで待たねばならず、かといって常時注文用の電話番号を表示したくないという事もある。バナー表示ならば欲しい時にすぐクリックできる。電話番号をメモしているうちに購入意欲が冷めることもない」(TBS コンテンツ事業局 デジタルセンターの小林成年デジタル戦略部長)という。
フジテレビの塚本幹夫デジタルビジネス推進部長は、Webとテレビのシームレスな連携を紹介。「アイドリング!!!」の番組Webページに「テレビ視聴はコチラ」というバナーを用意し、そこをクリックすることでMCEが、「アイドリング!!!」のチャンネルにチューニングされた状態で起動/視聴できる。さらに番組のデータ放送画面からPC用の動画配信サイト「フジテレビ OnDemand」へとジャンプが可能。過去の放送を購入/視聴できるなど、ネット→テレビ→ネットという新たな流れを実演した。
□マイクロソフトのホームページ http://www.microsoft.co.jp/ □ニュースリリース http://www.microsoft.com/japan/presspass/detail.aspx?newsid=3467 □関連記事 【5月19日】Vistaのデジタル放送サポートはテレパソ復活の合図となるか(PC Watch) http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0519/mobile413.htm 【2006年5月25日】2007年中にWindows Vistaで地デジ対応に 海外から見た“不思議の国”日本の「デジタルテレビ」 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060525/winhec2.htm
(2008年6月13日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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