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【新製品レビュー】
日本初上陸の「Klipsch」カナル型イヤフォンを試す
老舗メーカーが手掛ける超小型イヤフォンの音とは?


7月25日先行販売開始
 (一般販売9月末予定)

標準価格:14,800円~39,800円


 高音質なカナル型イヤフォンが人気を集める一方、カラーやデザイン性に富んだ女性向けヘッドフォンも増加。音質にとことんこだわる人や、デザインにこだわる人など、方向性は多用だが、ほとんどの人がポータブルプレーヤーに付属していた標準のインナーイヤフォンを使っていた一昔前と比べると“プレーヤーに付属のイヤフォンを他のものに買い換える”という行為自体が一般化したと言えそうだ。

 活気のある市場には、ソニー、パナソニック、オーディオテクニカ、ビクター、ケンウッドなどの国内メーカーだけでなく、ShureやAKG、Ultimate Earsなどの海外メーカーも参戦。オーディオスピーカーの代名詞であるJBLなどもカナル型イヤフォンを出している。最近では「A7」などでオーディオファンにはなじみ深いALTEC LANSINGのカナル型イヤフォン日本上陸も記憶に新しい。

現在も販売されているクリプシュホーン

 そんな中、米インディアナポリスのスピーカーメーカー“Klipsch”(クリプシュ)も日本上陸を果たした。日本での知名度は今ひとつという印象もあるが、実は創業1946年という老舗。「クリプシュ・ホーン」に代表されるホーンユニットを使ったスピーカーシリーズで米国のオーディオファンに長年支持されている。

 2004年にヤマハが日本における同社製品の販売総代理店になったことで、ホームシアター用スピーカーなどが日本でも気軽に購入できるようになった。前述のクリプシュ・ホーンも現行製品であり、ヤマハで受注生産を受け付けている(1台89万2,500円)。なお、今回紹介するイヤフォンの輸入販売代理はイーフロンティアが担当している。

 ラインナップは一気に4モデルが登場。個性的なモデルもあり、注目したいメーカーの登場と言える。しかし、お得意のホーンユニットをイヤフォンに使うわけにもいかない。イヤフォンでどんな音を出してくれるのか? 早速、第1弾ラインナップを試用した。

□関連記事
【2005年4月14日】ヤマハ、米クリプシュと商品開発・販売の業務提携に合意
-米国におけるスピーカーとAVアンプのトップ企業が協力
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050414/yamaha.htm


■ ハウジングの無いイヤフォン?

 日本上陸第1弾モデルは、「Image X10」(39,800円)、「Custom-3」(34,800円)、「Custom-2」(23,800円)、「Custom-1」(14,800円)の4モデル。いずれも1万円以上の高級モデルでカナル型だ。共通する特徴としては、ユニットにバランスド・アーマチュアユニット(以下アーマチュアユニット)を採用していることが挙げられる。

 発売は9月末からなのだが、特別先行販売としてイーフロンティアの直販サイトとビックカメラ、ソフマップにおいて、7月25日から販売が行なわれている。

「Image X10」(39,800円) 「Custom-3」(34,800円) 「Custom-2」(23,800円) 「Custom-1」(14,800円)

 4機種は型番からもわかるように、「Image」シリーズと「Custom」の2つのラインに分かれている。外観からも違いは明らかで、異彩を放つ上位モデルの「Image X10」は、イヤフォンのオモチャかと思うほど小型だ。「装着していることを忘れるほどに軽量/小型」をコンセプトにしたモデルということで、「KG926」と呼ばれる非常に小型な“バランスド・マイクロ・アーマチュアユニット”を採用している。

 その下の「Custom-3」は、アーマチュアユニットを高域用と低域用の2基搭載したマルチウェイタイプ。さらに下の「Custom-2」もマルチウェイだが、こちらは同じフルレンジユニットを2基搭載し、別の帯域を再生させているのが特徴。最後の「Custom-1」はアーマチュアユニットの「KG332」を1基のみ搭載したモデルとなる。

 やはり気になるのが「Image X10」だ。一般的なカナル型イヤフォンと比べると、その小ささに驚く。重量も10gと軽く、手のひらに乗せてもほとんど重さを感じない。イヤーピースを外すと小さいという印象はさらに高まる。ハウジングと呼べる膨らみがほとんど無く、尖端が太くなったケーブルにしか見えない。

一般的なカナル型イヤフォンと比べると、その小ささがわかる ハウジングと呼べる膨らみがほとんど無い 接続端子もイヤフォン部と同様に優美なフォルムが特徴だ

 耳穴に挿入しようとすると、形状がイヤフォンよりも“耳かき”や“綿棒”に近いため、“このままズブっと挿入していいのだろうか?”と一瞬緊張する。イヤーピースが存在する以上、“耳への挿入感覚”は普通のカナル型イヤフォンと同じなのだが、それだけ新鮮味のある筐体だ。

 イヤーピースはシリコン製の「Ear Gels」と呼ばれるものが付属する。サイズはシングルフランジの大/中/小と、ダブルフランジの大/小の全部で5種類。上から見ると完全な円形ではなく、若干横に幅広い形状が特徴だ。ダブルフランジは耳穴との密着をより高められ、低域の再生に適したピースだが、シングルよりも奥深くまで挿入されるため、装着感が苦手な人もいるだろう。自分の好みや耳穴に合ったものを選ぶのが基本であり、それゆえ、多くの種類/サイズが付属するのは嬉しいポイントだ。

「Image X10」に付属するイヤーピース。Customシリーズに付属するものはカラーリングがブラックだが、サイズや形状は全機種共通。サイズはシングルフランジの大/中/小と、ダブルフランジの大/小の全部で5種類を同梱する

 Customシリーズの形状は共通で、ハウジングから伸びたケーブルの一部に、イヤーハンガーとして使えるガイドが被せられている。これを耳の上に引っ掛けるようにして装着する。ハウジングがImage X10よりも重量があるため、合わないイヤーピースを着けると抜けてくるが、ハンガーで脱落は防げる。ピッタリのピースを選べばより強固に装着を補助してくれる。個人的にはいずれのイヤフォンでも、小型サイズのダブルフランジがピッタリだった。

Custom-3。耳穴の角度に合わせ、イヤーピースが斜めに付いている イヤーハンガーを装備 イヤーピースはブラックになっている

Customシリーズのケーブルは布巻きタイプ

 なお、Image X10にはイヤーハンガーは備えていないが、そもそもハウジングの重さが無いようなものなのでピースさえ耳穴サイズに合えば抜けることはほとんど無く、耳への負担も含め、装着感はImage X10の方が良好だった。

 ケーブルはいずれもY型で、絡まりを防ぐスライダーも備えている。表面はImage X10がゴム製に対し、Customシリーズは布巻きタイプ。見た目や質感の高級感ではCustomシリーズが勝っている。しかし、有機的なフォルムのImage X10の場合、布巻きのコードは似合わないような気もするので違和感は少ない。

 付属品は航空機用プラグアダプタや、標準プラグへの変換コネクタ、クリーニングツール、プレーヤーも一緒に収納できるキャリングケースなど、高級モデルらしい豪華なもの。Image X10にはさらに小型ポーチも付属。なお、Custom-2からは標準プラグアダプタが、Custom-1からは標準プラグアダプタと航空機用プラグアダプタが省かれている。

Image X10の同梱品一覧 Custom-3に付属するケースにプレーヤーを収納したところ


■ オールマイティーから個性派まで、多様な音質

 ○ Image X10

Image X10

 では「Image X10」から音質を比較してみよう。試聴前は、ハウジングの小ささと、シングルウェイのアーマチュアユニットということで、正直言って“高域寄りの帯域の狭い音だろう”と期待していなかった。しかし、結果的には最上位モデルだけあり、下位モデルを引き離すレンジの広い、極めてニュートラルな再生音が楽しめた。

 「この筐体のどこから?」と首を傾げたくなるほど、しっかりと低音が出る。再生周波数帯域の狭いアーマチュアユニットでは、レンジの広い再生音を実現するためにはマルチウェイ化する必要があり、ユニットが増えると価格も上がるという印象があるが、そうした常識を覆す音だ。the pillowsの「My Foot」、「ビスケットハンマー」などのロックでは、ドラムのビートが歯切れの良い低音を響かせながら、エレキギターの切り裂くような高域もアーマチュアユニットならではの解像度で聴かせてくれる。

 パイプオルガンなど、超低域のソースでマルチウェイのアーマチュアイヤフォンや、13.5mmなどの大型ユニットを搭載したダイナミック型イヤフォンの低音と比べると、そこまで低い音は出ておらず、低域の量感も薄い。しかし、Image X10はオーディオテクニカの「ATH-CK9」など、シングルのアーマチュアと比べると明らかに低音の量は勝っており、“ハイ上がり”とは言えないバランスの良さが光る。

 低域もアーマチュアユニットらしい解像度で描かれており、山下達郎「アトムの子」冒頭のドラム乱舞でも、個々のドラムの音やシンバルのはじける音、スティックの当たる音などが分析的に再生される。このあたりの描写はダイナミック型ユニットに対する大きなアドバンテージだ。また、マルチウェイのアーマチュア型と比べても、シングルユニットであるからこその“高域と低域の繋がり良さ”が好印象。マルチウェイのアーマチュアでは高域と低域のみが強調され、中央がストンと落っこちているような“上下増幅サウンド”になってしまう場合もあるが、Image X10はまとまりが良く、非常に音楽的なアプローチで聴かせてくれる。


 ○ Custom-3

Custom-3

 一聴しての感じるのは「アーマチュアっぽくない音」。分厚い中域が張り出しており、その上下に低域と高域が控えめに付随しているようなバランス。ノラ・ジョーンズ「Don't Know Why」を再生すると、彼女の低めで、艶っぽい歌声が、伴奏のアコースティックギター/ベースの響きと合わせて、良い意味で“もったり”と再生される。

 “もったり”感は“解像度が甘めの中低域”と言い換えられる。だが、ダイナミック型のユニットで得られる音であり、これがアーマチュアユニットから聴けるとは思わなかった。マルチウェイ化したモデルの場合でも、解像度が高いという特徴は維持されることが多いのだが、Custom-3の中低域は解像度が低く、“アーマチュア”らしくない音なのだ。だが、高域はアーマチュアらしい高解像度であるため、それぞれを担当しているユニットのキャラクターに違いがあるようだ。結果として、中央を境に上下の周波数で解像度が大きく違うという非常に珍しい音になっている。

 音としては面白いのだが、正直言って使い方が難しい。女性歌手を例にとると、ノラ・ジョーンズのように声が低めの歌手の場合、ベースや歌声が分厚くせり出して目立つため、総合的な印象として解像度が低く聴こえ、アーマチュアらしい清々しさが感じられない。しかし、周囲に漂うシンバルなどの高域は極めて高解像度で描写されるため、音楽がバラバラに再生されているような感覚。アイスコーヒーを放置していたら、上に氷の溶けた水、下にコーヒーだけが分離してしまったようで、聴いていて落ち着かない。

 だが、ハマればこの印象はガラリと変わる。坂本真綾のような高い声の歌手の場合、せり出す中域を乗り越えた部分で歌うため、ヴォーカルが主張し過ぎることが無く、解像度の高い高域ユニットが活躍する。ベースは前述の通り張り出し気味に再生されているため、トータルで聴くと“骨太のベースの上で、解像度の高いヴォーカルが爽やかにに歌う”という非常に理想的な再生になるのだ。

 特徴的な再生音に、楽曲側が合わせる形になるため、原音に忠実かと言われると首をかしげたくなる。しかし、個々の楽器やヴォーカルがバラバラに再生されながら、結果的に魅力的な音楽を完成させており、上手くハマるとちょっと聴いたことがないほどメリハリのある、非常に魅力的な再生音が生まれる。

 この時点で予想できたが、ロックも実にハマル。the pillowsの「My Foot」、「ビスケットハンマー」などではドラムの力強いビートが妙に分解され過ぎることなく音楽を支え、エレキギターの鳴きは気持ちよく高域まで突き抜ける。ロックは音が痩せるとシラけてしまうが、このイヤフォンにはアーマチュアらしからぬパワフルさがある。だが、やはりクラシックやジャズは納得がいかない。極端に再生する音楽を選ぶイヤフォンだ。


 ○ Custom-2

Custom-2

 「Custom-2」は、KG534と呼ばれるフルレンジのバランスド・アーマチュアドライバを片方のハウジングに2基搭載したモデル。再生周波数帯域はいずれのモデルも公開されていないが、後述するシングルウェイタイプの「Custom-1」と比べると明らかにレンジが広い。バランスも良好で、中域などにピーク/ディップは感じない。

 レンジが広いながらも、低域から高域まで解像度が一貫して高いマルチウェイアーマチュアの良いところが出ている。ノラ・ジョーンズの艶っぽさ、アコースティックベースの響きを適度に残したまま、口の開閉や弦の動きが明確にわかる解像度の高さが好印象。カーペンターズ「TOP OF THE WORLD」でも、カレンの歌声の豊潤さを残したまま、余韻が虚空に消える様が清々しい。ダイナミック型のユニットでは難しい描写だ。

 再生周波数帯域の上下を同じユニットで担当しているため、当然のことながらユニット自体のキャラクターの違いが無い。そのため低域と高域の繋がりが良く、極めて自然な再生音が楽しめる。上位モデル「Custom-3」よりも音作りは自然と言えるだろう。


 ○ Custom-1

Custom-1

 「Custom-2」と比べると低域が弱まり、高域寄りのキャラクターになる。分析的な解像度の高さは相変わらずだが、ノラ・ジョーンズの歌声から艶っぽさが消え、軽く、かさついた声に聞こえる。音場も狭く、ボーカルと楽器の隙間も狭い。1万円台のフルレンジ1発のアーマチュアユニット搭載モデルとしては、予想通りというか、価格相応の再生音と言えるだろう。

 ただ、解像度の高さは存分に味わえるので、ポップスやフュージョンは得意だ。JAZZやロック、ボサノヴァなど、中低域が重要になるジャンル以外はそれなりに楽しめるだろう。


■ 結論

 外観のインパクト、装着中の負担の少なさ、バランスの良い再生音、アーマチュアユニットの魅力をしっかり味わえること、などを考えると、やはり最上位モデルの「Image X10」が頭ひとつ抜き出ている。ただ、問題は39,800円という価格だ。アーマチュアではオーディオテクニカの最上位「ATH-CK10」(37,800円)、ダイナミック型ではソニーの最上位「MDR-EX700SL」(36,750円)などと同じような価格であり、それらのモデルと比較すると、再生音そのものにもうひとつ何か特徴が欲しいと感じる。

 しかし、マルチウェイのアーマチュアはShureの「SE530PTH」(3ウェイ/実売65,000円)や「SE420」(2ウェイ/実売50,000円)、Ultimate Earsの「Triple.fi 10 Pro」(3ウェイ/直販49,800円)などいずれも高価であり、39,800円という価格は高級モデルと超高級モデルの中間を突いたような絶妙な価格設定とも言える。低域をしっかり確保しながら、マルチウェイには無い“つながりの良さ”に価値を見出せるか否かという判断になるだろう。

 ロックなどをパワフルかつ、解像度高い音で楽しみたいというニーズには「Custom-3」(34,800円)が合う。ダイナミック型の中低域と、アーマチュアの高域というある意味“良いとこ取り”を狙った意欲的なモデルだが、それゆえ個性的な再生音に仕上がっている。“どんな音楽もニュートラルに楽しみたい”という場合は、1つ下の「Custom-2」の方がオススメだ。

 「Custom-2」も23,800円と高価なモデルだが、バランス良く仕上がっており、「Image X10」にも迫る再生音が得られている。「低価格なマルチウェイのアーマチュアイヤフォンが欲しい」という人は、候補に入れてみて欲しい。「Custom-1」(14,800円)の価格帯ではダイナミック型の人気モデルがライバルとなるため、もう少し特徴が欲しいところだ。いずれにせよ、カナル型イヤフォンという新しいジャンルで、老舗オーディオメーカーの音に再び触れる機会ができたことを喜びたい。今後もメーカー毎の特色が出た、楽しい市場になることに期待したい。

□イーフロンティアのホームページ
http://www.e-frontier.co.jp/
□製品情報
http://content3.e-frontier.co.jp/klipsch/
□Klipschのホームページ(英文)
http://www.klipsch.com/
□ニュースリリース
http://www.e-frontier.co.jp/company/press/introduction/2008/2008711klipsch.html
□関連記事
【7月11日】イーフロンティア、Klipschの超小型カナル型イヤフォン
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【カナル型イヤフォン新製品・注目製品一覧】
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/backno/npback.htm

(2008年8月1日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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