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第380回:ビデオカメラ2008年秋モデル総括
~ 「次の世界」を見せ始めたカメラたち ~



■ 注目のモデルが出そろった今秋

 今週末、多くの幼稚園、保育園は運動会のはずである。月曜日が体育の日で三連休なので、土曜日開催のところが多いことだろう。一方小学校あたりは結構早く、9月中に済ませてしまうところが多い。そのためビデオカメラの秋モデルというのは、7月から8月までにラインナップを揃えるというのが一般的である。

 春にも一度総括をやっているが、ビデオカメラをはじめ動画関係は、この秋もなかなかユニークなモデルが揃った。春の総括以降に取り上げたカメラをもう一度俯瞰してみる、いいタイミングだろう。

 今年後半の傾向として特徴的なのは、AVCHDが記録フォーマットとしてのデファクトスタンダードになったこと、撮像素子ではCCDが終焉を迎えたことが上げられる。またかつてのビデオカメラシーンは、プロ・業務用機ラインとコンシューマハイエンドが連続していたわけだが、ここにきて業務・ハイエンド機とコンシューマ機の方向性がきっぱり分かれてきたように思う。

 そんなことを踏まえながら、この秋モデルを振り返ってみよう。



■ AVCHDが本格普及

 今年春までのトレンドは、メディアチェンジの波をどう捉えるかということであった。もはやDVDはないよね、というコンセンサスはあったと思うが、メモリなのかHDDなのか、それとも複数のメディアを積んだ方がいいのかといった点である。この秋では、メモリでも容量的には十分ということがわかってきて、それプラスHDDという傾向が見えてきた。

 この秋モデルでの大きな変化は、記録フォーマットとしてAVCHDサポートが必須となってきたことである。これまでAVCHDをサポートしてきたのは、ソニー、パナソニック、キヤノンの3社で、それ以外のメーカーはそれぞれの思惑で別フォーマットを採用してきた。

 しかし今年6月に発表されたビクターの「GZ-HD40」では、従来のMPEG-2とAVCHDのハイブリッド記録となった。また唯一BDに記録する日立も、8月発売の「DZ-BD10H」では、HDDとSDカードの記録フォーマットとしてAVCHDを採用した。

MPEG-2とAVCHDのハイブリッド記録、ビクターの「GZ-HD40」 HDDとSDカードにAVCHDで記録する日立「DZ-BD10H」

 両者の動きは一見似ているようだが、コーデックという点に注目すると違って見える。GZ-HD40の場合は、MPEG-2とMPEG-4 AVC/H.264の2コーデックを切り替えるということだ。一方DZ-BD10Hは、BDに直接記録する際にはBDフォーマットだが、コーデックを複数持つわけではなく、元々AVCだけである。

24Mbpsモードを搭載したキヤノンの「iVIS HF11」

 またAVCHDフォーマットそのものも、キヤノンの「iVIS HF11」でついに規格上の上限である24Mbpsに到達した。それまで最高レートは16Mbps前後だっただけに、細かく動く水面などでも、余裕のある表現が可能になった。ただしAVCHDフォーマットのDVDにはできないため、保存は別の手段を考える必要がある。

 これまでの傾向を考えると、将来的にはファイルそのものをHDDなどにアーカイブしたり、BDに保存するという方向に落ち着くと思われる。今後は多くのデバイスがAVCHDフォーマットをサポートすることで、再生・編集環境の整備が大きく進むことだろう。特にテレビとBDレコーダの対応は、期待したいところだ。



■ CCD時代の終焉

業界初LiveMOSで三板式のパナソニック「HDC-HS100」

 今年春モデルまでは、まだパナソニックとビクターが撮像素子としてCCDを採用していた。だがビクターがGZ-HD40でCMOSを採用、続いてパナソニックが「HDC-HS100」で3板式のLiveMOSを採用したことで、ついにCCD時代は終わったと言っていいだろう。もちろんワールドワイドの低価格モデルやSDモデルではCCDの採用が続くと見られるが、ハイビジョンカメラでは今後、CMOSを使った面白い機能をいかに搭載できるかも差別化のポイントになってくる。


HDC-HS100では発色、解像度ともに不自然さが残った

 各社がこぞって単板CMOSを採用する理由は、CCDでハイビジョン解像度のセンサーでは、消費電力と発熱が高すぎるからである。一方ビクターとパナソニックがCCDでハイビジョンカメラができたのは、低解像度のセンサー×3という使い方をしたからだ。過去3板式にこだわってきたパナソニックが3MOSを採用したのは、ある意味順当な流れである。ただ、今のところ絵を見る限り、解像感の面でもカラーバランスの面でも、パナソニックは3MOSのメリットを出せていない。

 CMOSで今回がんばったのが、日立DZ-BD10Hである。ビデオカメラにはオーバースペックとも言える700万画素オーバーのCMOSを使い、2,880×1,620ドットという縦横1.5倍で撮像、それをダウンスケーリングして解像度を稼ぐという、贅沢な手法を取った。たしかに解像感には目を見張るものがあり、過去のモデルの弱点を克服した。しかしラティチュードのチューニングにやや難があり、逆光で盛大なパープルフリンジが出てしまうのは残念だった。

日立DZ-BD10HではフルHD以上で撮像、高い解像感を出した 一方逆光ではフリンジに弱いところを見せた

 ソニーは以前から独自配列のクリアビッドCMOSを採用し続けているが、こちらもすでにフルHD解像度以上の画素数を持っている。画素補間によって多画素化しながら、それをまたダウンスケーリングするので、結構複雑な処理である。今後CMOSが高画素化していくのであれば、フルHDの整数倍比で撮影し、ダウンスケーリングするという方向性に進むだろう。

総画素数566万画素のクリアビッドCMOS搭載、ソニー「HDR-CX12」 解像感だけでなく、発色のチューニングも上手い



■ 新たな可能性を示した高速度撮影

 CMOSを使ったもう一つの可能性に、高速度撮影がある。ビデオカメラとしてこれにもっとも早くから取り組んだのはソニーであったが、ビデオではそのフォロワーは多くない。むしろ静止画カメラからのアプローチが積極的で、面白いことになってきている。

高速度撮影機能を搭載したカシオ「EX-F1」

 最初にこの部分に切り込んできたのは、カシオの「EX-F1」であった。デジタル一眼が好調の中、レンズ交換ができないいわゆる「ネオ一眼」が苦戦しているわけだが、そのテコ入れとしてハイビジョン撮影+高速度撮影機能を搭載してきた。

 高速度撮影では、フレームレートが3段階選択でき、時間無制限で脅威の映像が撮れる。これまで子供ぐらいしか撮るものがないと言われた動画に、まったく新しい世界を持ち込んだと言えるだろう。


300fpsのみだが高速度撮影を搭載した三洋「DMX-HD1010」

 もう一つこの機能に挑んできたのが、三洋「DMX-HD1010」だ。元々ビデオカメラとデジカメの中間のようなスペックで走ってきたXactiだが、HDになった若干ビデオカメラ寄りのコンサバティブな方向になってきていた。

 しかしDMX-HD1010では新たに300fpsでの高速度撮影機能を追加したことで、元々Xactiが持っていた面白さが復活した。同フレームレートではEX-F1が512×384に対して448×336とやや小さいが、S/NはDMX-HD1010のほうがいい。またハイビジョン動画も、高コントラストでかっちりした解像感が楽しめる。ベタな子供撮りよりも、芸術的要素を強めた絵作りだと言えるだろう。


ez600.mov (1.6MB)

slow2.mov (12.1MB)
カシオ「EX-F1」。600fpsで撮影。時間制限なしで撮影できるのが魅力 三洋「DMX-HD1010」。パリッとした絵柄のままで高速度撮影が可能
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ ビデオカメラとデジカメの境界

 SD時代には、ビデオカメラが高解像度静止画機能を搭載し、デジカメが動画撮影機能を搭載したことで、境界線が曖昧になった時期があった。ハイビジョン時代になって動画側のスペックが大幅にアップしたことで、また境界が現われたわけだが、今度はデジカメがハイビジョン撮影機能を搭載することで、またその境目が曖昧になろうとしている。

 ビデオカメラと静止画カメラの違いはいろいろあるが、決定的な違いは、絞りを動的に動かす必要があるかどうかである。静止画は一瞬だけ適正な露出であればいいので、絞りは瞬間的に設定値になればいい。しかし動画は、シーンの状況が刻々と変わる様を撮影し続けるので、露出を常になめらかに変動させなければならない。

菱形絞りの影響で背後のボケが不自然なのがビデオカメラの難点

 そのためほとんどのビデオカメラでは、構造が簡単でバリアブルに露出が変えられる、2枚羽根のガルバノメータ式絞りを採用している。2枚羽根の特徴は、絞りの形が菱形になることだ。この絞りの形が、背後のボケに形として現われ、不自然なイメージとなる。

 SD時代は昔のハーフカメラのように、ほとんどパンフォーカス状態でどこでもフォーカスが合いまくる絵作りで十分だった。動画を撮る主な目的が、記録だったからである。記録は、隅々まで鮮明に写っていた方が望ましい。背景がボケなければ、絞りの形は問題にならない。

 しかしハイビジョン時代になって、動画も鑑賞するという領域に入ってきた。同時に撮像面積が大きくなることで、被写界深度が浅くなるという構造的な宿命と向き合わざるを得ない。AFに関しては、顔検知技術や外測センサーなどを使って性能を上げてきたが、絞りの構造はSD時代のまま、もっと言えば昭和30年頃のコンパクトカメラ時代のままなのである。

 この点で言えば、元々デジカメであるカシオ「EX-F1」やニコン「D90」で撮影した動画は、絞りが動的に動かないという弱点はあるものの、レンズそのものの力や深度表現の美しさを見せてくれた。それまで40万円以上の高級機でもなかなか難しかった絵が10万円程度で撮れるとなれば、動画もデジカメでいいやと思う層が出てきてもおかしくない。

720/24pながらハイビジョン撮影に対応したニコンD90 ボケの美しさはビデオカメラでは無理な領域



■ 総論

 国内のビデオカメラのセールスというのは、2003年あたりをピークに微減を続けている。少子化の影響はもちろんのこと、携帯のカメラの高画素化、コンパクトデジカメの低価格化なども影響しているだろう。その一方でデジタル一眼レフが好調なのは、子供を撮るという限定された目的ではなく、「趣味で撮る」という固定領域を上手く捕まえているからである。

 ビデオカメラのマーケットは、ハイビジョン需要で一時的に買い換えが喚起されている状況ではあるが、今後も子供撮り用のコンパクト機ばかりを作っていては、市場のシュリンクは止まらないだろう。これまで一眼レフにしか存在しなかった「趣味で撮る」層を作るなり、一眼レフのそれを取り込むなりする必要がある。それにはハイエンドとは違う、廉価ながら趣味性の高い方向へシフトしたモデルの登場が望まれる。

 なぜハイエンドではダメかというと、業務クラスと被る現状のハイエンドは、キヤノンの「XL H1S」にしても、ソニーの「HDR-FX1000」にしても、主流はHDVになるからだ。地上デジタルの放送が1,440×1,080iであることを考えると、フルHDに対応するメリットがなく、ランニングコストが安いテープ式に人気が集まる。フルHD化、H.264化が強烈に進行したコンシューマとは、完全に流れが分断されているというのが現状だ。

 デジタル一眼の収益モデルの特徴は、レンズでも儲けるという、アクセサリビジネスでもあるところだ。構造としてはプリンタのビジネスモデルに近いともいえる。それに対してビデオカメラは売り切りビジネスであるがゆえに、単価が下げられないという構造を持っている。したがって買い換えサイクルも長くなる。

 今後ビデオカメラが今のビジネスモデルから変化するとしたら、コンパクトデジカメのように低価格で買い換えサイクルを短くする方向に進みがちだ。現状のように春と秋で2回新製品を出すような季節商品としてのサイクルでは、そうならざるを得ないだろう。ただそれは現状のコンパクトデジカメ市場がそうであるように、行き着く先は消耗戦である。

 筆者としては、デジタル一眼のように趣味性の高い道も模索した方が建設的だと思うのだが、今存在しない市場に向けて製品を投入する余裕は、どこのメーカーにもないだろう。もしかしたらその市場を作るのは、実はデジタル一眼自身なのではないかという気もしてくる。


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【3月26日】ビデオカメラ2008年春モデル総括
-確実に浸透するメディアチェンジと高画質化
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080326/zooma351.htm

(2008年10月8日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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