|
International CESが開幕した8日(現地時間)、ソニーのハワード・ストリンガー会長兼CEOによるキーノートスピーチが行なわれた。 世界経済の後退で家電業界が逆境にある中で注目された今回のスピーチ。単純にスペックの高さだけを求めるのではなく、個々の製品がネットワーク化されることで、ユーザー価値を向上させるといった、普及価格帯製品の魅力を高めることの重要性を強調した。 特に、ハードに合わせたソフト(コンテンツ)の充実を印象付ける内容となっており、オープニングにはSony Picturesの最新映画に出演するトム・ハンクスが登場。NYヤンキースの往年の名選手であるレジー・ジャクソンも訪れたほか、クロージングはSMEのアーティストであるUSHERのライブで締めくくるという豪華なゲストに会場は盛り上がった。
■ 身近な製品でユーザー価値向上を
トム・ハンクスは、5月に世界一斉公開される映画「Angels & Demons」(天使と悪魔)の紹介とともに登場。なお、2006年のキーノートでもゲストとして登場している。ところが今回は登場するなり「今日来たのは、映画の宣伝ではない。シンプルに、ベータマックスではなくVHSを選んだことを後悔しているから」とジョークで会場を笑わせる。その後は“改心”し、初めて買ったソニー製品というポータブルオープンリールテープレコーダや、トリニトロンテレビなどのソニー製品を振り返りながら、今では「家にはソニー製品ばかり」と同社への愛を語った。 続いてストリンガー氏が登壇すると、現在開発中というメガネ型ディスプレイを2人で紹介。メガネは、周囲の視界を保ちながら、中央部に映像が表示される構造となっており、「(隣にいる)トム・ハンクスを見ながら映画が観られる」と先進性をアピール。トム・ハンクスも「これをもらえたら映画のギャラの支払いを止めてもいい」と気に入った様子だった。
ストリンガー氏は、優れたユーザー体験をもたらす要素として7項目を挙げた。それは、「業界間の融合」、「サービス強化型への転換」、「マルチファンクション」、「オープンな技術のサポート」、「先進的な共有体験」、「新しいバリューチェーン」、「グリーン化」で、これらが「Total Sony Experience」を実現する要素であると述べる。 身近な製品の価値向上の一例として、「次世代クロックラジオ」を紹介。無線LAN対応で、音楽/ビデオ/インターネットラジオなどのコンテンツで目覚めるといったことができるほか、ニュース/天気などの情報端末としても利用できるという。コンテンツの一例として、「(ロンドンの)ビッグ・ベンの音で目覚めてみたいとは思いませんか?」とした。なお、紹介された試作機は、キーノートでのデモ用として米Chumbyの協力により作られたという。
さらに、有機EL技術の進化として、曲がるディスプレイを初めてライブでデモ。ディスプレイを手に取り、ストリンガー氏は「(画面に映っている)ビヨンセをこうやって抱きしめることができる人はどれだけいるでしょうか?」と笑わせた。
■ Blu-ray、PLAYSTATIONの現状と戦略
Blu-ray市場の現状にも触れ、米国で1,000万台以上のプレーヤーがこれまで販売されており、2007年7月以来、ソニーのプレーヤーがトップを維持、BDプレーヤー市場の半分を占めるとアピール。ソフトは2008年が前年比約4倍となる2,800万枚以上になったという。
また、ネットワーク機能では欠かすことができないPLAYSTATION 3の現状と今後の戦略については、SCEの平井一夫CEOが登壇して説明。「“play”だけでなく、“listen”、“watch”、“learn”、“discover”、“communicate”、“create”、“share”の要素がコンシューマにとって有益なユーザー体験をもたらすとし、PS3とPSPでそれらを実現している」と自信を見せる。 具体的には、PlayStation Networkへの登録アカウントが2008年12月時点で1,700万人を超え、3億3,000万のコンテンツがダウンロードされていること(DVDに換算すると1層メディア3,300万枚に相当するという)、直近の1カ月で210万アカウント増加し、PSNでの累計販売額が150億円を超えたことを紹介した。 また、夏より開始されたPSNでの動画ダウンロードサービスでは、7月以来ダウンロード可能な映画が約1,200タイトル、テレビ番組が3,000話以上まで増加。8日からは新たにMTV Networksがパートナーに加わり、当初は2,000時間以上の動画が提供されることも発表された。 平井氏は「ハードウェアの商品企画に対する考え方を既に転換している。コンシューマが求めるコンテンツやユーザー体験などにフォーカスし、その体験に合ったハードをデザインする。どんなに技術的に進んだハードでも圧倒的な魅力を持つコンテンツがなくては成功は保証されない。ソニー以上に、このようなことができる立場にある会社はない」と主張した。
続いて、デジタルシネマ事業については、3D技術の進歩を中心に紹介。DreamWorksの新作アニメーションや、大学フットボールの映像を3Dで上映し、来場者は渡されたメガネで視聴。その迫力に圧倒されて声を上げる人も多かった。 ゲストにはDreamWorks Animationのジェフリー・カッツェンバーグCEOが登場。映画の歴史を振り返り「3Dは、無声映画からトーキーへ、モノクロからカラーへの変化に続く3番目の変化」とし、「“良い映画”は、良い映像、音だけでなく“観客に体験してもらうこと”も今後の要素になる」と語る。「テクノロジーは、ストーリーテリングにとって必要なもの。単に説明するだけではなく、エモーショナルな部分も重要になった」とした。
音楽事業では、ソニー・エリクソンの携帯電話「Walkman Phone」にソニーミュージックのアーティスト楽曲をプリインストールして提供している。先月より導入したという、携帯電話とPCの両方で利用できる音楽ダウンロードサービス「PlayNow Plus」も紹介した。
■ ソニーは、想像する力を信じる
最後に、ストリンガー氏は「大人は“imagine”という言葉を使わなくなってしまった。私たちは子供の頃、自分が海賊であるとか、兵士であるといった想像をしたものだ。私の場合は“円卓の騎士”だった。夢や冒険、可能性など想像したことが実現できるという感覚は、一体どこへいってしまったのか」と疑問を投げかける。 「ソニーは“不可能”という言葉を信じない。いつも想像する力を信じる」とし、景気後退が深刻化しているが「デジタルネットワークの進化に伴い、想像力を現実化する可能性がこれほど高まっている時代はない。経済が悪くても、家電業界が最も革新的な産業である事実は変わらない。私たちが帆を上げ続ければ、3年前には想像もできなかった場所へ到達できるだろう」と語り、「If you can imagine it, we can help you make it real.それがTotal Sony Experience」と締めくくった。
□2009 International CESのホームページ(英文) ( 2009年1月9日 ) [AV Watch編集部/nakaba-a@impress.co.jp]
Copyright (c)2009 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|