ニュース

ウォークマンZX300と、ヘッドフォン1000Xシリーズ登場。気になる点を聞いた

 「IFA 2017」でソニーが発表したオーディオ製品の中で、注目はウォークマン「NW-ZX300」と「NW-A40シリーズ」、そしてBluetooth+ノイズキャンセリングヘッドフォンのラインナップ一新。これらの製品の開発者に、現地で話を聞くことができた。

NW-ZX300

 まずはウォークマンの設計を担当する大庭亮氏に、それぞれの位置づけについて改めて確認するとともに、進化点や、開発でこだわった点などを聞いた。

 ZX300の特徴は、上位シリーズであるWM1シリーズ(NW-WM1A/WM1Z)に迫る高音質化を追求している点だ。「ハイエンドモデルのプラットフォームを使って、高いビットレートの再生が可能になっています。音質に関してはWM1を継承しており、ほぼ同じパーツも使用しています」(大庭氏)。

ウォークマンの設計を担当する大庭亮氏

 筆者が最初にZX300の音を聴いたときは、ZXでは初となる4.4mmバランス出力を利用したため、従来モデルZX100との違いはかなり大きく、押し出しの強さと同時に、雄大な音場空間の表現力を感じた。バランス出力対応も、開発の重要なポイントだったようだ。大庭氏は「ZX100にバランス端子が付いたというよりは、(バランス接続ができる)WM1が小さくなったといってもいいかもしれません」としている。

4.4mmバランス接続に対応

 このモデルのターゲットはWM1シリーズとAシリーズの中間を想定しているようで、「値段的にもですが、(WM1が)大きくて重いので、よりスマートに高音質を持ち歩きたい人向け」だという。コンセプトはZX100から大きくは変わっていないが、“高音質”という言葉が、従来よりも格段に高いレベルを指しているようだ。

 高音質でも、本体を小さくする持ち運びやすくするには、どんな方法をとったのだろうか?

 「WM1Aで使っている高音質部品が、全体が大きなサイズとなる要因でしたが、それをなるべく使えるようにぎっしり詰め込みました。さらに、同じ部品ながら小さなものを採用することで、小さくなっています。そのため、音質は(WM1と)全く同等ということではありません」。

 「ただ部品に関していえば、WM1Zから進化した部分もあります。S-Master HXのデバイス自体はWM1と全く同じものを使っています。今年の特徴として、S-Masterの脚の部分に、高音質はんだを使ったことが大きいですね。これが絶大に効いていて、部品を小さくすることで音質が変わっても、この高音質はんだにすることで、上に迫るものができたと思っています。オーディオ信号も、電源もこの部分を通るので、これら両方に効果があります」(大庭氏)。

 もう一つ、大きな進化点は、ZX300とA40はUSB DAC機能がついていること。パソコンやスマートフォンとUSB接続すれば、ウォークマンをポータブルDAC/アンプとして使えて、より高音質に楽しめる。

 「我々はポータブルアンプ/DACも作っており、ZX1と組み合わせた使い方もできますが、少し持ち歩きにくいです。ZX300は“ポータブルアンプを内蔵したウォークマン”のような位置づけでもあり“ポータブルアンプがいらない”理想形としてもとらえています。(WM1と比べた時の)弱点としては、ストリーミング音楽配信サービスには対応していませんが、スマホでストリーミングして、これで高音質に聴いていただく、という使い方ができます」(大庭氏)

 さらに、Bluetooth接続時にはaptX HDに対応したこともポイントだ。「LDACは他社さんにも広めていますし、CSR製のチップセットを使ってaptXやaptX HDに対応したヘッドフォンも多いです。今までよりもさらに広く楽しんでいただけるようになっています」(大庭氏)。

 一方で、従来のZX100から、デジタルノイズキャンセリング機能を省いているが、大庭氏は「ノイズキャンセル部分は、オーディオ信号にそのままかぶってきます。マイクを入力しなければならないので、音質を重視するとノイズ機能はないほうがいいというのが正直なところ」と述べている。

 同じく新モデルであるエントリー機のNW-A40シリーズはNCを引き続き搭載している。Aシリーズはオールインワンとしての良さを持ちつつ、ZXは音質に磨きをかけるという、ポジションの明確な違いが出た形となった。

NW-A40シリーズと、同カラーのヘッドフォン新h.earシリーズ

 A40シリーズの注目ポイントについては、「A30シリーズの後継として、あまりデザインは変える必要はないのではということで、外観は大きく変わっていません。ただ、後継機主として出すからには進化させたかったので、MQA再生や、aptX HD、USB DAC対応も実現しています。基板の大きさは変わっていませんが、部品のレイアウトを変えることで音質は向上しています。音楽を聴きながら周囲の音も聞こえる「外音取り込み機能」にも新たに対応しました」(同)。

 外音取り込み機能は、同社のNCヘッドフォンなどが持っている便利な機能だが、それをウォークマンにもとり入れている。

ZX300はバランス接続普及のカギになる?

 ZX300を手に取ってみると、使い続ける上で、細かいながらも重要だと思えた進化点が、タッチパネル表面のマットな仕上げの質感と、指がサラサラとスムーズに滑る感触。

 「マットにすることで実は光の透過率が下がり、液晶が輝度が低くなるとの懸念もあったが、文字のコントラストなども変えて、問題なく見えるようになっています」とのこと。「ZX100も筐体こだわっていたのですが、ZX300はさらに、持った時の質感は圧倒的に向上しました」(大庭氏)。

 こうした点からも、ZX300は“ZX100の後継”というよりも、上位機であるWM1の音質を維持しながら、小型化を実現したモデルと考えたほうが正しそうだ。

 ZX300は、欧州では10月以降に発売し、価格は700ユーロ。展示モデルはシルバーとブラックがあったが、欧州ではカラーがシルバーのみ販売されるという。日本での発売も待ち遠しい。

 ブース内のZX300の展示では、ヘッドフォンのMDR-1Aと組み合わせて聴けるようになっていた。このヘッドフォンは、日本のソニーストア価格は27,750円で、別売ケーブルで4.4mmバランスが可能になる。ZX300と合わせても、約10万円のため、今までよりもバランス接続を身近にする組み合わせになりそうだ。

MDR-1Aとバランス接続

Bluetooth/NCヘッドフォン1000Xが一新

 ヘッドフォンに関して大きなトピックは、Bluetoothとノイズキャンセリング(NC)搭載の「1000Xシリーズ」のラインナップ一新。アラウンドイヤーの「WH-1000XM2」、ネックバンド型の「WI-1000X」、左右完全分離型の「WF-1000X」を用意し、欧州では9月以降に順次発売される。これらの機種について、ヘッドフォンの商品企画を担当する大庭寛氏に話を聞いた。

ヘッドフォンの商品企画を担当する大庭寛氏

 ネックバンド型のイヤフォン部には、既存モデルの「XBA-N1/N3」と同等のハイブリッド型ドライバを搭載したところも大きな進化。「これに加え、さらに2つマイクも搭載するということが必要で、最適なNC機能を実現する配置と、装着性を損なわない配置。これを両立させることが必要だった」という。

ネックバンド型の「WI-1000X」

 新たに加わった、左右完全分離型の「WF-1000X」。これまで参考展示されていたものが、ついに製品となった。コーデックがSBCとAACのみで、WH-1000XM2やWI-1000Xとは異なるが、「左右分離型で業界最高クラスのNC」を特徴とする。

 「aptXやLDACをのせることも検討しましたが、実用的な再生時間を実現するためには電池容量を大きくしなければいけなくなります。優先度として、小型感、手軽に使えるところを重要視していたので、それと電池寿命のバランスを考えたとき、aptXやLDACといった高音質コーデックは電池を使うため、AAC/SBCに割り切りました」(大庭氏)。

 左右のイヤフォン間の接続は、接続安定性が高いとされる近距離磁気誘導(NFMI)ではなくBluetooth。「NCとの連動と、小型化を両立するためにBluetoothとしました。つながりやすさには気をつかっていて、アンテナ配置などの工夫で、NFMI同等の性能を目指しています。つながりやすさについては、今までのBluetoothヘッドフォンでも研究していたので、その配置を応用して、本体のデザインと両立する形で搭載しています(大庭氏)。

左右完全分離型の「WF-1000X」

 アラウンドイヤー型の「WH-1000XM2」について、従来のMDR-1000Xのユーザーとして気になるのは、1000XM2で対応したスマホアプリによるNCの自由なカスタマイズ機能。歩いている時、走っている時、止まっている時、電車に乗っている時に、それぞれ違ったNCの効き具合のレベルを、アプリであらかじめ設定できる。ユーザーの状況に応じてそれらのモードを自動で切り替えてくれる、至れり尽くせりの機能だ。

WH-1000XM2

 ただ残念ながら「従来モデル1000Xをアップデートすることで、アプリ連携に対応する」ということにはならないそうだ。「かなり内部検討は行ないました。アプリ対応は、ただ通信だけができてもダメで、内部のメモリの最適化も必要となります。PCなどを介してファームウェアを適用するのはハードルが上がってしまうことと、対応しても、EQやDSP処理についてはメモリが最適化されていないため、サポートする観点からのわかりづらさということでも、今回は採用を見送りました(大庭氏)」とのこと。1000Xも非常に使い勝手と性能の高いヘッドフォンとして気に入っているが、それをさらに上回る利便性で登場した1000XM2などは、従来ユーザーからみてもかなり“うらやましい”機能だ。

 1000Xを装着して、実際に走る代わりに、スマホを素早く振ったりしてモードの切り替えを試してみた。急いでいる時は、機能を細かく調整するのは煩わしいため、最初からヘッドフォンを使わないか、機能をオフにしてしまうということになりがちだが、1000XM2などで対応した自動切換えを有効にしておけば、ユーザーが意識しなくても、状況に応じたNCの効き方が選択されるので、あまり細かいところを意識する必要がない。

 NC機能は、飛行機や長距離の電車など特別の場所だけの利用ではなく、騒音の多い街中や、空調が強い室内などでも便利だが、今回の自動切換えにより、NCがもっと普段から活用しやすい身近な存在になりそうだ。