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演劇を8Kで撮影して鑑賞。世界初“8K映像演劇祭”開催に向け上映会

 愛媛県東温市の「坊ちゃん劇場」は、東温市による「アート・ヴィレッジとうおん」構想に基づいて「8Kスーパーハイヴィジョンの常設シアター設置に向けた調査・検討」事業を推進。2020年に8K映像による「世界映像演劇祭」実現を目指し、その先行プレミア上映会を東京・六本木のTOHOシネマズ六本木ヒルズで招待者向けに行なった。

左から、坊ちゃん劇場を展開するジョイ・アートの越智陽一社長、上映作品「よろこびのうた」脚本の羽原大介氏、「ポストマン」出演の海宝直人氏、東温市総務部企画財政課 地域振興係長の田井秀一氏、

 舞台などの劇場に足を運べなかった人や、チケットが人気で買えなかった人なども、高精細で臨場感のある8K映像でその作品を鑑賞できるようにすることを目指した取り組み。東温市に8K常設シアターを開設し、8K映像化された世界の舞台芸術を集めて映像演劇祭を開催予定で、これを段階的に拡大し 2020年に「第一回世界映像演劇祭」の開催を目標としている。さらに、これらの事業を通して「映像演劇」を新たな産業とし、世界に舞台芸術を流通させる仕組み作りを事業の目的としている。

 東温市で年間250~260の舞台作品公演を行なっている坊ちゃん劇場は、'15年に「8K鶴姫伝説」を制作し、'16年2月にNHK放送技術研究所で試験上映会を実施。これまで通算4作品を8K映像化してきた。映像の特徴は、通常の映画やドラマなどのようなカット割りではなく、1台の8Kカメラを使って1アングル定点でワンショットの「8KOSS(8K OneShot the Stage)」で撮影すること。「スクリーンに舞台そのままが映し出される」という。8Kでワンショット撮影された演劇作品の上映会は今回が世界初という。

 今回の取り組みは、坊っちゃん劇場が、同劇場を核とした“芸術村構想”を東温市の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の中核テーマとして提案したことから始まったもの。東温市がその提案をもとに「アート・ヴィレッジとうおん」構想を策定。'17年末に内閣府の地方創生交付金事業に認定された。今後、東温市に8K/220型規模のシアターを開設し、映像と演劇の両方を楽しめる場にすることを目指す。

「アート・ヴィレッジとうおん」のロゴ

 演劇祭開催に先駆けた上映会は、愛媛、東京、モスクワの3カ所で実施。上映作品は、ロシアの作品「理性の睡眠(ゆめ)」、坊ちゃん劇場にて公演中で東京でも今秋公演予定のミュージカル「よろこびのうた」、'17年12月に公演されたミュージカル「ポストマン」の映像。

ロシアの作品「理性の睡眠(ゆめ)」
東京の上映会場はTOHOシネマズ六本木ヒルズ

 東京での上演に際し、坊ちゃん劇場を展開するジョイ・アートの越智陽一社長と、東温市総務部企画財政課 地域振興係長の田井秀一氏、「よろこびのうた」脚本の羽原大介氏、「ポストマン」に出演した海宝直人氏が来場。舞台8K映像の新たな可能性にそれぞれ期待を寄せた。

ジョイ・アートの越智陽一社長

 越智社長は8Kワンショットの利点について「ハイビジョンでは再現できなかったリアリティを、まさにその場に舞台があるようにできる。本来の舞台のように、自分で好きなところを観られる」と紹介。

 東温市の田井氏は、「クオリティの高い本物を、人口3万4,000人の町から世界に売っていくという坊ちゃん劇場の熱い思いを応援するため、アート・ヴィレッジとうおん構想を始めた」とした。

東温市総務部企画財政課 地域振興係長の田井秀一氏

 生の舞台と映像の両方を手掛けることについて、越智社長は「スポーツなども基本は生がいいとされるが、映像にもファン層ができて産業になっており、舞台はどちらかというと遅れている。舞台を映像化することで、ブロードウェイ(ニューヨーク)、ウエストエンド(ロンドン)など現地に行かないと観られないものが多いが、それを自分の町で観られることで興味が感化され、ファンが広がっていくことにつながれば」と述べた。

 上映に使われたのはデルタ電子と英Digital Projection、アストロデザインによるレーザーDLPプロジェクタ。現時点では試作機だが、8月の発売が予定されている。上映作品の撮影にもアストロデザインの8Kカメラを使用し、ロシアの「理性の睡眠(ゆめ)」公演にも同社らが撮影スタッフを務めた。

デルタ電子と英Digital Projection、アストロデザインによる8Kレーザープロジェクタで上映された

ロシアや日本の舞台3作品を上映

 19世紀の作家ゴーゴリの「狂人日記」を元にした「理性の睡眠」は、2016年に制作。ロシアを代表するアーティストで、この作品の脚本、演出も務めた主役のセルゲイ・ベズルコフ氏は、この作品でスタニスラフスキー賞と劇場スター賞を受賞した

「理性の睡眠(ゆめ)」
セルゲイ・ベズルコフ氏のビデオメッセージも上映された

 ミュージカル「よろこびのうた」は、第1世界大戦中に中国・青島で投降して俘虜になったドイツ人が、連れてこられた徳島県で、徳島から出たことがない旅館の箱入り娘と恋に落ちるという内容。1919年に徳島県で初めてベートーベンの第9「歓喜の歌」が歌われた史実を元に描いた作品となっている。脚本の羽原大介氏は、「100年前の青島、ドイツ、徳島を描いたラブストーリーが 8Kという最先端の技術で撮影され上映されることを楽しみにしてます」とコメントした。

「よろこびのうた」脚本の羽原大介氏

 「ポストマン」に出演した俳優・歌手の海宝直人氏は、「ディズニー作品などにも出演しますが、そういった大作とは違って4人しか出ない作品でセットもシンプル。役者が動くことでシーンを展開し、観ている人の想像力をかきたてる演出の作品です。楽曲も素晴らしいので注目していただければ」とした。

「ポストマン」に出演した海宝直人氏